EP.01 プロローグ
とある国の第一王女は、メハラハクラ王国に使者として訪れていた。
「ご無沙汰しております。メハラハクラ国王陛下に王妃殿下」
ドレスのスカートの端を摘まみ綺麗な所作でカーテシーを行う。
「久しいのぉ」
「お久しぶりです」
「サフィーネ様、ご機嫌よう」
「アクージョ王女殿下もご機嫌麗し」
「嫌ですね。前みたいにアクージョと呼んでくださいまし」
オホホホ……と笑うアクージョと呼ばれた王女。
しかしサフィーネ第一王女は、簡単にそう呼べないと思っていた。何故ならこの国は機嫌を損ねると何をするか分からないと周辺諸国で有名だからだ。
事実隣国のクルワーゾ騎馬王国と何年も小競り合いを続けている。まぁクルワーゾ騎馬王国に問題があるのかもしれないが、周辺諸国はそうは思っていないのだ。
「本日お伺いしたのは先日、英雄召喚を行う事を認めた文を頂いたからです」
「おお、それならつい昨日、行ったぞ」
メハラハクラ国王が答える。
「そうでしたか……出来れば我が国と友好をと。我が国でも魔族の動きは気掛かりでございますので」
「ふむ。召喚はしたが、それが英雄となりうるかは分からぬものだ。それは其方も知るとこであろう?」
「はい」
「人数は二十五人呼べたが、此処から一体何人が英雄になれるか余にも分からぬ」
「……はい」
「じゃが、英雄が何人も育ち余裕があるようなら、其方の国を支援する事を考えよう」
「ありがとうございます」
鷹揚に答えるメハラハクラ国王だが、『支援する』とは一言も言っていない。こう言う会談では言質を取られぬように立ち回るのが基本。いや、同じ王国内でも貴族同士の牽制があり言質を取られないようにしている。
それをサフィーネにも分かってはいるのだが、こうして王族自ら足を運んだと言うだけで心証が変わり、いざと言う時に助けて貰える可能性が上がる。それに期待しての使者としての訪問だった。
その後、メハラハクラ国王の計らいで数日王都ザックスに滞在し、自分の国へ帰る為に発つ事となった。
第一王女と言う事で、万全な護衛にお世話をする侍女達。大所帯である。何台も引き連れた馬車の一つに乗り込み王都ザックスを発とうとしていた。
「は~。やっと帰れます」
馬車の中で大きく溜息を付くサフィーネ。正直城での滞在は疲れるとしか言いようがなかった。言質を取られないように逆に言質を取れるように化かし合いの毎日だった。
しかも不況を買うと何をするか分からないと噂されるメハラハクラ王国なのだから尚更だ。
しかし、一息付いたのも束の間。王都を出て直ぐに馬車が止められれ、そしてサフィーネが乗る馬車の扉が開かれた。
「サフィーネ王女殿下、失礼致します」
「何事ですか?」
「英雄殿が一人お会いしたいと」
正確には『英雄の素養を持つ者』、もしくは『英雄候補』なのだが、他国のその者を『まだ英雄じゃない』なんて言おうものなら、問題なる。故に対外的には『英雄殿』と呼んでいる。
「分かりました。通してください」
そうして通されたのは、げっそりやせ細っていて目の下に隈が出来ている。髪は天然パーマのボサボサ頭でなんとも不気味な少年だった。
「どうも。田中 一と申します」
「えぇ。初めまして」
「宜しければ英雄である僕が王女殿下を国まで護衛致しましょう」
正直要らない。まだ召喚されたばかりで鍛錬もほとんどしていないだろうに。しかもまだ正確な意味で英雄になっていないのに英雄と自分で言うような者など、本当に要らない。
サフィーネはそう思ったが、噯にも出さず……いや出してるが、おっとり微笑む。
「えぇ。それは何とも頼もしい事です。是非宜しくお願い致しますわ」
不況を買わないようにその提案を受けいるしかなかった。
そうして一はサフィーネの対面に座るのではなく真隣に座る。
「サフィーネちゃんは、もう婚約者とかいるの? そう言う歳だよね?」
「……いいえ。残念な事にまだなのです」
言い淀んだのは、いきなりのちゃん付けに面食らったからだ。内心ちょっとイラっと来ていた。
真隣に座るのもどうかと思うし、いきなり王女をちゃん付け。完全にサフィーネに取って警戒対象となった。
しかもだ、話してる途中から足をナデナデし始めている始末。スカートの上からとは言え、気持ち悪いにも程がある。
気付くとスカートを捲り上げ、直に触ろうとしだす。
「あの……流石にお戯れが過ぎます」
流石にこれにはサフィーネは口を挟んだ。他に馬車に一緒に乗っている侍女もキレたいのを必死に堪えていた。王女であるサフィーネが堪えて笑顔で対応してるのに自分がキレるわけにはいかないと。
まぁそれでもサフィーネの顔が先程からずっと引き攣ってるのだけど。
「そうかな? サフィーネちゃん、可愛いからついね」
そうして再びスカートの上からナデナデしながら反対の手でズボンの上から股間を触り始める。サフィーネも気持ち悪いと思い目を反らす。
実は一に取ってサフィーネはタイプど真ん中だった。サフィーネの歳は十三でメハラハクラ王女と同じなのだが、見た目は童顔で胸もあまりない。が、それでも聡明で可愛らしい。
ひらたく言えば一はロリコンだった。しかも連れている侍女達も若く見目麗しい者ばかりなので、サフィーネの国に行けば、もっと若く可愛い娘がいると期待し尚更無理矢理乗り込んで来た。
「はぁはぁ……サフィーネちゃんは、婚約者いないんだったら、はぁはぁ……英雄である僕が立候補しちゃおうかな?」
「……ご冗談を」
気持ち悪いから止めてください! とはっきり言いたいの堪える。
やがて……、
「うっ!」
一が呻きビクンビクンしだす。
(もういや~~~~~~~!!! この人消えて~~~~~~~~!!!)
サフィーネは心の中で絶叫しまくっていた。
しかもだ。護衛と言いつつ何もしていない。度々魔獣が出ただの盗賊が出ただので、馬車が停車しているのに、その間ずっとサフィーネと話してばかりなのだ。
サフィーネに取って安息は、度々寄る町や村での一夜だけだった……。
それでも必死に堪えて堪えて堪えて堪えて堪えてようやく国境を越えた。
「もう我が国です。一様の護衛はもう大丈夫ですよ」
これでやっと解放されると思いそう声を掛けた。
ちなみにだが、最初は『田中様』と呼んでいたのだが、何度も『一』で良いよと言われ渋々今の呼び方になった。
サフィーネなりの抵抗で意地でも田中のままでいようと思ったのだが、結局折れてしまったのだ。
「そう言わず城まで送るよ。サフィちゃんも、まだ英雄である僕と一緒にいたいでしょう?」
遂には一もサフィーネの親兄弟しか言わない愛称で呼びだす。
「いたくねーよ! ボケぇっ!! いい加減帰ってください! 気持ち悪いと思ってるのが分からないのですか!?」
此処まで約二週間。サフィーネも良く頑張ったと褒めても良いだろう。だがしかし、自国に入った事で気が緩み本音が爆発してしまった。
「なん……だと!? 僕と楽しそうに話していたよね? あれは何だったの?」
「そうしないと自国の不利になると思ったからです。本当に、ほんっとぉぉぉに気持ち悪くかったです!!」
もうぶっちゃけた後だけに堰を切ったように叫ぶ。
「あっそ」
そう言うと一は、馬車の扉を開けサフィーネを突き落とした。
「きゃぁぁぁ!!」
幸いサフィーネは、護衛達に状況によっては突き飛ばされる事もあると受け身の練習を日頃から行っていた。
お陰で、多少の擦り傷程度で済んだ。ただ美しいドレスはボロボロになってしまう。
一はサフィーネを突き落とすと同時に自分も降りた。
サフィーネがキレた以上、侍女も黙ってはいない。勿論ただの侍女ではない。それなりの訓練を受けている。はっきり言って呼び出されたばかりの英雄候補より遥かに強い。
その侍女達がメイド服のスカートの中から短剣を抜き馬車から飛び降りる。
「動くな! サフィちゃんがどうなっても良いのか?」
一はナイフを抜きサフィーネの首に当てる。それにより侍女達の動きが止まる。
他の馬車に乗っていた護衛達も異変に気付き降りて来るが、サフィーネが人質に取られている以上何も出来ないでいた。
「サフィちゃん。せっかくの綺麗なドレスがボロボロだねぇ」
一は厭らしい目付きで下から上まで眺める。
「……貴方が突き落としたからでしょう!?」
睨み付けるサフィーネ。
「そもそもドレスなんていらないよね? 邪魔だし楽しめないよね?」
そう言って胸元から切り裂き乳房が丸見えになる。
「……好きにすれば良いです。でも、貴方もただではすみませんよ?」
内心ではいや~~~~~~~~~~~~~!!! 止めて~~~~~~~~~~~~!!! と絶叫の嵐なのだが、王女の矜持からか、動じた態度は見せない。
「あっそ」
続けてスカートを切り裂き、下着も切り裂く。
「色々楽しんでからと思ったけど、さっさとハメるか」
増々厭らしい目付きになり、下をガン見しだす。
「……や、めて。お願いします。止めてください」
これには流石にサフィーネも泣いて懇願するしかなくなった。
「それ以上するなら我等が許さぬぞ!」
様子を見守っていた護衛達が動き出そうとする。が……、
「そうそう。僕のスキルなんだけどね。魔獣誘導ってのなんだ。この意味分かる?」
ニヤニヤ笑い周りを見渡す。
嫌な響きのスキルにたじろぎたじろぎ出す護衛や侍女達。そして次の瞬間、ゴゴゴゴゴゴ……と地響きが鳴り出した。
「今、此処に魔獣達を呼び寄せちゃった」
そうして起きてしまう集団暴走。それに巻き込まれる護衛や侍女達。
そして魔獣達は、サフィーネと一を避けるように走り続ける。
「これで二人っきりだね。サフィちゃん」
そう言ってズボンを脱ぎサフィーネに取って凶器にしか思えないモノを取り出す。
「……ぃや」
もう声にならない呟きを発しながら泣き続ける。
「サフィちゃんの処女頂きまーーーーす!!」
しかし、それは叶わなかった。
「何だ!?」
魔獣達が倒されてる音が聞こえたのだ……いや、断末魔の声と言うべきか。それと誰かが戦っている声が……。
一は直感でまずいと感じた。この魔獣達はやがて駆逐される。そうなれば捕まってしまうと。
なので一はサフィーネの右腕をナイフで斬り落とす。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
「僕が食い逃す女を他の奴に食われてたまるか」
なんとも自分本位な言い分だ。万が一にも此処から逃げられたら、他の男のものになる。それがどうしても我慢ならなかったのだ。
よって逃げ出せないように腕一本落とした。戦闘訓練も受けていない王女がこの痛みに耐えて動ける筈がない。動けても周りは魔獣だらけだ。と、一は考えた訳だ。
そして自分は牛型の魔獣レッドブルに跨り、その場を後にする。残されたサフィーネは、全てを諦めた絶望した表情になり、腕の痛みからなのか意識を失った……。