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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第十章 月光の世界へ (第二部 開始)
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EP.27 幕間 逃れる者達

 ここ月光世界(ルナ・ワールド)では、大きな大陸が三つある――――。


 ルナリーナ北部大陸、ルナリーナ中央大陸、ルナリーナ南部大陸の三つだ。

 北部大陸には二つの国がある。一つは今は関係無いので置いておこう。もう一つはバイアーラ魔王国だ。

 名前から分かる通り魔王がいる国であり、魔族達が中心に住んでいる。

 中央大陸の最北部にはメハラハクラ王国と言う国があり、海を挟んで向こう側がバイアーラ魔王国な訳だが、魔族の侵攻があった際に真っ先に狙われるのではないかと危惧した王族は英雄召喚を行った。


 それに呼ばれた一人がケンケンこと御剣 剣だ――――。


 このメハラハクラ王国の王都ザックスでは、英雄の素養のある者達を丁寧に育てていた。しかし、その素養というのは偏見が混ざっている。

 何故なら鑑定士による鑑定で発現したスキルだけを見て『使える』だの『使えない』だの判断しているからだ。

 どんなに使えないように見えるスキルでも、使い方次第もしくは本人の努力次第でいくらでも覆せると言うのに……。そもそも称号に転移者が付いてる時点で十分強くなる素質があると言うのに。

 結果、既に半数が王都にいない。


 勿論一部は、戦いを忌避し自ら城にはいたくないと出て行った者もいる。そう言う者には贅沢しなければ一、二ヶ月は暮らしていける端金を渡すという、勝手に呼び出しておいて余りにも酷い扱いを受けていた。

 また城を出て行きたくても鑑定により『使える』と判断された者は、あの手この手で説得し残って貰う等をしている。

 具体的には王女がすりより胸を腕に押し当てたり……それだけで大抵の男共はズボンにテントが張る。

 女達には最高の美容を提供したりと、ぶっちゃけやり方が汚いメハラハクラ王国だ。


「貴方のスキルは今後の戦いが厳しい(・・・・・・)でしょう。良ければ十分(・・)なお金をお渡ししますので、それを元値に商売等しては如何ですか? 貴方スキルなら商人向きかもしれません」


 今もこうして使えない者を追い出そうとしている。十分とか偽ってまで……金額は自ら出て行った者と同じ。

 それでも城にしがみつく者には強くは言えない。外聞が良くなく周辺諸国から何かを言われるのを危惧してるからだ。

 しかし、今回の場合は少し事情が違う。戦いが厳しいのではない。此処にいられたら不都合な者なのだ。


 その者の名は、目闇 眼也(もくや がんや)。この世界に来てスキルだけでなく転移者以外の称号も手にした男だ――――。


 その称号が国に取って不都合。その称号は『真眼』と言い、物の本質を見抜く、動体視力が良くなる、視力が良くなる、そして鑑定を行える、と言うものだ。

 国に取って鑑定をされるのはまずいと考えており、鑑定されたくない者は、眼也の前には絶対に出ないようにしている。

 そして、はっきり言って厄介払いしたいのだ。


「考えておきますね」


 柔和な笑みを浮かべる眼也。目は優しげで黒い髪は少し長く後ろで縛っている。

 まあ眼也はいられると不都合だが、他にもスキル的に使えない、いやスキルの本質が分からず使えないと判断された者がいた。

 本質が分からないのは、スキルと言うものがな無かった世界から来た故に本人も同じ。実は超希少な強力スキルだが、それ単体では真価を発揮出来ないものなので気付かないのも無理ない。


 それを持つ者の名は、夢々井 静(むむい しずか)。通称静々(しずしず)――。


 ……な~んて呼ばれておらず、()、むい ()ずかで、虫。

 顔付きは覇気がなく常に目尻が下がっており、生れ付き髪が紅赤色で短髪にしている女子だ。

 ここまで語ればわかるだろう。虐められっ子だ。

 顔立ちは、覇気さえあれば悪くない。顔の左右が全く同じというお人形のような感じで整っている。スタイルも決して悪くない。胸も十六歳だと考えるとDカップと十分にあった。


「ほんと使えない虫だな」

「スキルも名前だけは立派なのに使えない無能も良いとこね」

「マジでそれな」

「お前何の為に生きてるの?」

「それに、その髪は何様なんだよ。虫のくせに染めてるなよ」

「マジでなー。ぎゃはははははは……」


 毎日この有様。見た目良し、スタイル良し、髪の色も目立つ事もまた虐めに拍車が掛かっていた。

 しかも城の者も追い出そうとしてるので、食事の味付けをさり気なく酷いものしたりと踏んだり蹴ったりとはこの事だろうな。

 それでも静が城にしがみ付くのは、知らない世界で生きて行くのが怖いからだ。例え食事は不味く城の者に陰口を叩かれても衣食住は確りしてるので、城に居座っていた。

 そして今日も酷い食事を出される。見た目は他の人と変わらないと言うのに……。

 やがて食事が酷いと気付いた剣は、パンを持ち静が座る席の脇を通り、態と静が使っているテーブルにパンを落とす。


「……あ、あの……お、落とし……ました」


 普段から虐められているのでオドオドしている。


「あ、良いよ。そんなとこに落ちたんだから、もういらね」


 はたから聞けば()()()()()()()()()()()()()()()と思える発言なのだが、毎日似たような事をして台詞は違うにしても、まともな食事を静にあげようとしていると静にも少しずつ分かって来た。

 心の中で感謝をし、剣の残した食事を食べた。

 そんなある日、静の傍に食べ物と一緒に紙切れを落とした。紙切れには『今晩、俺の部屋に来てくれ。話がある』とそう書かれていた。


 静としては、少し怖かった。自分が綺麗とも可愛いとも思っていない。それどころか虐められてるくらいだし醜いとさえ思っている。それでも一応女だし、男の部屋に行くと言う事はそう言う事だろうと思った。

 それでも普段何気なく食事を分けてくれる。それなのに行かないのは不義理と感じ、怖い気持ちを抑え夜に剣の部屋を訪ねた。


「やぁ、いらっしゃい」

「……は、い」


 対面して、抑えていた恐怖が膨らんだ。何故なら剣の目付きが鋭いからだ。目だけで射殺されるんではないかと足が竦んだ。


「中に入って」

「……」

「どうしたの?」


 逃げ出したいけど、ここで逃げだしたら何をされるか分からない。なので意を決して剣が使用している部屋に入った。


「まあ椅子にでも座って」


 剣に促され恐る恐る椅子に腰掛ける。画鋲のようなものが仕掛けられていないか確かめながら。そう静は画鋲を椅子に靴にと仕込まれた事が何度もあったのだ。

 だが、その心配は杞憂で普通に座れた。剣は対面の椅子に座る。


「あ、あの……み、御剣……君、な、何か、用?」

「ごめんね。女の子が男の部屋に来るとなると怖いよね? 何もしないから安心して。鍵も開けておくから怖かったら逃げても良いから」

「い、いえ……大丈夫で、です。あ、あり、あり……がとう」


 剣の気遣いに感謝しつつ頭を下げる。


「さて、夢々井さん。何故城に残っているの?」

「えっ!?」


 思わぬ事を言われて固まってしまう。つまりそれって『邪魔だからいなくなれ』と御剣君も、そう思っているの? っと。


「あ、いや、そうじゃなくて夢々井さん虐められているよね? 城の人も快く思っていないよね? それなのに城にいるから」


 静の気持ちを察し気遣うような声音で理由を話した。


「ぅうう……」


 そこで静は泣き出してしまった。


「あ! ああ……えっと、何か気に障る事言っちゃったかな?」

「ちが、違うの……」


 剣には食事を分けて貰い気遣って貰い優しい言葉を掛けて貰いと、今までして貰った事のない優しさに堰を切ったように泣き出してしまったのだ。

 それを拙く言葉にする。正直今まで上手く人付き合いが出来ていなかったので、本当に言葉が拙い。


「ねぇ、夢々井さん。俺はこの城を出る」

「えっ!?」


 まさに青天の霹靂と言うべきか。初めて優しくしてくれた人がいなくなってしまう。それが心に突き刺さった。

 そしてもう一つ気になる事があった。それは……、


「み、御剣君……必要と……され、てるよ……ね?」


 そう剣はスキルだけで判断した場合、有用だと城の者から思われている。なのであの手この手で剣に残るように促していた。

 詳しいとこまでは分からないが、ある程度なら静に察せられた。

 最初に目撃したのは、他の者により王女のスキンシップが激しい事。何かと腕に絡んで来ていた。

 静は知らないが、剣はそれを快く思わなかったのを王女は察し、自分の貞操を捧げるわけには行かないので、顔の良い侍女達を剣の部屋に向かせたりした。

 しかし、剣はその全員に手を出さなかった。


「気に入らないんだよ。使えそうな人間には擦り寄り、そうじゃないって判断された者は追い出す。その落差が」

「そう……だね」


 それしか言えない。まさか自分のわがままで剣の決断に水を差すわけには行かない。剣だけが自分を心配してくれていたのに……。忸怩たる思いが込み上げるがどうしようも出来ない。

 だから顔を見られないように俯く事しか出来なかった。


「それでね。夢々井さんも一緒に来ないかなって。あ、他に眼也もいるんだけどね」


 ちなみに剣と眼也は親友なのだ。


「えっ!?」


 思わず顔を上げてしまう。


「嫌かい?」

「わ、私……足手、まといだし……迷、惑掛……ける」

「ちゃんと守るつもりだよ。迷惑だと思っていたら連れて行くなて言わないよ」

「そ、それ……に私、可愛、く……ない」


 って、私何言ってるのよー!! と、心の中で絶叫する静。正直今の話に関係無い。


「え?」


 事実剣も目を丸くしだす。


「いや、夢々井さんは顔立ち良いし、もっと自信持てば可愛いと思うよ?」

「えっ!?」


 可愛いなんて言われたの初めてで、耳まで真っ赤にし再び俯いてしまう。


「それと足手纏いって言ってるけど、きっと夢々井さんにも出来る事あるんじゃないかな? 最初はなくても良い。いずれ見付けてくれれば良いよ」


 目付きは怖いが優しく呼び掛ける。


「……分かっ、た。わ、私なん……かで、良け……れば、一緒に、行っても……良い?」

「勿論。ただし最初に条件を付けておく」

「……何?」

「『なんか』って言うのは無し。自分で自分を卑下しちゃったら、可能性を潰す事になるよ」


 そう言って微笑み掛ける。


「うん……気を、付け……る」


 こうして静は、剣と一緒に行く事になった。

 そして、次の日の早朝。剣と眼也と静は城を抜け出し王都を出た。


「ぶっちゃけ最初は眼也の金に期待なんだけど……まあ何とかなるだろ」

「僕の金も端金だから基盤を早く確りさせよう」


 眼也は元々出て行くように勧められていたので、金を貰っていた。

 それに合わし剣は計画を立てたのだ。残念ながら静は来るかどうか分からなかったので、眼也に合わせて端金を貰う算段を付けていなかった。

 正確には眼也と静だけなら簡単に城を出られただろう。しかし剣は何としてでも引き留めようとする者がいるので、逃げる形にするしかなかったのだ。


「あ、あの……御剣、君……」

「あ、今から苗字呼び無しね」

「えっ!?」

「この世界では、苗字……家名があるのは貴族だけだ。暫く転移者という事も伏せる予定だし、名前呼びで行こう。俺も静って呼ぶから」

「……うん。えっと……け、剣、君」


 耳まで真っ赤にし俯く静。初めて誰かの下の名前を呼んだからだ。

 くしくもアークの予想……いや、ゲームとかラノベによる知識によるテンプレ通りだったのだ。だから、ギルド登録で家名を書くなと三人に指示していた。


「で、何? 何か言おうとしてたでしょう?」

「ありが、とう。……え、っと、私に……何がで……きるか、分から、ない……けど……何で、もする……から」

「何でも?」

「……うん」

「本当に?」


 下から上まで舐めるように見ながら厭らしい笑みを浮かべる剣。それで静は剣の意図を察し、再び耳まで真っ赤にしだす。


「でき、れば……体は待って、欲し、い。心の……準備が……」

「いいや。落ち着いたら美味しく頂く。嫌ならさっきの発言を撤回しな」


 もう一度言おう。別に剣は性欲がなかったり、男に興味があるというわけではない。人並の性欲はある。それなのに顔立ちの良い侍女達が部屋に押し掛けるもので、余計に欲求不満が溜まっていた。

 それでも撤回して良いとチャンスを与える。


「……ちゃん、と守って、く、くれるな……、えっと、て、撤回、なんて……しな、い」


 言い切り、あまりの恥ずかしさに顔を反らす。


「ああ、ちゃんと守るよ。で、撤回しないのね。なら落ち着いた抱くからな」

「…………」


 恥ずかしさのあまり何も言えなくなってしまう。


「おーおーケンケンは良いなー。僕もシズシズ(・・・・)を抱きたいな」

「お前はダメだ。俺に対して言った言葉だしな」

「……シズ、シズ?」


 剣とは別の反応をする静。


「夢()井の『々』と静で、シズシズだ。渾名で呼ぼうと思ったんだけど、嫌だったか?」

「嫌……じゃな、い」


 そうして泣き始める静。


「え? え? 何で嫌じゃなくて泣くの?」

「ごめ゛んざい~……まとも、な渾名、なんて……初めて……だったか、ら……」

「そっか」


 剣と眼也は優しく静を見詰める。


「で、ケンケン。何処に向かうんだ?」

「さっさと国境を越えて別の国に行きたいから、近くのブリテント騎士王国が良いんだけど……」

「何か問題があるのか?」

「国境が近過ぎる。もし俺を追い掛けて来ていたら……」

「あ~」


 それで眼也は得心が行く。国境が近いし、まずそっちに兵を回す可能性が高いと剣は判断した。


「だから、距離があるけどジパーング聖王国に向かう」

「あの如何にも日本人が関わりましたって国ね」

「……分か……った、わ」


 そうして歩き始め日が暮れる頃、ドークの村に到着する。そこでとりあえず眼也のお金で宿を取る事にした。


「部屋は二部屋で」


 そう言って部屋を二つ取る。当然此処は男と女で分けるのだが……、


「静は俺と同じ部屋な?」

「えっ!?」

「自分で言った事を忘れたの?」

「…………」


 顔を赤くし俯く。そう部屋は眼也一人になってしまったのだ。

 部屋に入ると静の手を引きベッドまで連れて行く。


「あ、あの……本当に……?」

「嫌?」

「……嫌って訳、じゃ……ただ汗……搔い、たし……」


 しどろもどろし俯く。


「それは俺も同じだし、手を出して良いって言われて我慢できる男はいないと思うよ。でも本当に嫌なら眼也と部屋変わって貰うけど、どうする?」

「……道中、ほんと、うに……助けて、貰ったし……良い。剣君になら、言った……通り何で、もする……ぅんっ!?」


 最後まで言い切ると唇を塞がれた。

 静の言った通り、此処までの道中魔獣に何度も襲われた。その度に剣は静を守る立ち回りをしていた。勿論眼也も同じだが。


「あの……慣れて……ない?」

「そりゃ……初めてじゃないし」

「そこ、は……嘘でも……初めて、と……」

「君には何となく嘘付きたくないし」

「わ、私は……初、めて……だから……」

「分かった」


 そうして二つの影が重なった……。

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