EP.26 エーコ達が帰還しました
グ~~とお腹の音が鳴り響く。
鳴らした者は、恥ずかしくなり頬を赤らめ俯く。ネルとロッテなのだが、それに気付かないフリをし……、
「お腹空いたわよ。何か食べましょうよ」
沙耶がそう提案した。沙耶本人は気付いてないが出来る良い女だ。まあこんな事を本人に言ったらナターシャに伝わり、地獄を見る事になるので言わないが。
「そうだねー。ハンスさん、行商人なら何か食べ物あるー? ちゃんと買うよー」
「あるにはあるのですが……どれも調理しないといけないものばかりです」
エーコに言われ、ハンスはシートを広げ食材を出し始める。生肉、生野菜、香辛料……そのまま食べるとしたら、一部の生野菜だけだろう。
「それならわたしが調理するねー」
「ですが、竈も、着火するものも持っておりませんよ?」
「大丈夫だよー。<上位大地魔法>、<上位大地魔法>」
上位大地魔法を二度唱えて竈と鍋を作り上げる。今日、何度上位魔法を使っただろう? それも普通の使い方ではなく――普通は大地に干渉し地震を起こす――別の使い方だ。
別の使い方となれば繊細な魔力コントロールが必要で、その分MP消費も激しい。エーコだからこそできる芸当だろう。
それも最初に使った光源魔法と光の結界をずっと展開しっぱなしで。更に……、
「<下位火炎魔法>」
竈の下に手を入れ下位火炎魔法を放つ。燃やせる資源があれば良いがそんなものはないので、ずっと放出しっぱなしになる。下位とは言え、ずっと放出しっぱなしでは負担になる。
だと言うのにエーコは汗一つかかず余裕綽々とこなしていた。
「<下位水流魔法>」
続けて上位大地魔法で作った鍋に水を張る。
「サヤさんも手伝ってー」
「何をすれば良いのよ?」
「食材を一口サイズに切って欲しいのー」
「なら、私もやりましょう。丁度ナイフが二本ありますし」
そう言って一本を沙耶に渡す。
その後、二人で食材を切り分け、それが終わる頃には鍋の水がグツグツ煮えていた。
そこに生肉から順番に入れる。火の通りが遅いからな。エーコはナターシャに叩き込まれて料理の腕もそれなりにある。
ある程度火が通ると、火が通り辛い順番に野菜を入れて行き、最後に香辛料で味を調えていった。
しかし、ここで困った。味見はどうしよう……。
「エーコさん、こちらをどうぞ」
それを察しハンスがスプーンを差し出す。
「ありがとー」
スプーンで掬い味を確かめ、香辛料を再び入れて味を調整した。
その後、ハンスは人数分の食器を出し始める。エーコは、それに出来上がったスープを盛ると皆に配った。
「これは美味しいですね」
「……美味しい」
「……うん」
「流石エーコちゃんね」
四人は舌鼓を打つ。
「ありがとー」
エーコは照れたように笑う。
「あ! ハンスさーん。食材のお金払うよー。いくらー?」
「いえいえ。ご馳走になったので、頂けませんよ」
「え? そんなの悪いよー」
「では、物品で申し訳ありませんが護衛料って事でどうでしょう? サヤさんやエーコさんのお陰で命拾いしていますしね」
そう言って柔和に笑う。
「分かったー。ありがとー」
その後、もう休もうと言う話になりエーコは上位大地魔法で二つの蔵を作り出す。形はかまくらのように半円球だ。しかし、片方は大きいが、もう片方は小さい。
「ハンスさんは、男性だから一人ねー」
そう言って小さい方の蔵を示す。
「分かりました。では、私は此方で休ませて頂きます」
「見張りはどうするのよ?」
沙耶がエーコにそう尋ねる。
「順番だねー」
「お二人は色々助けられましたので、どうぞ先にお休みください。最初の見張りは私がしますので、ある程度時間が経ちましたら、サヤさんを起こします」
「分かったー」
「分かりました」
「それと魔獣が迫って来たら、申し訳ございませんがサヤさんを叩き起こしますね。残念ながら私ではお役に立てないと今日痛感しましたので」
そう申し訳なさそうに肩を落とすハンス。
うん。分を弁えているな。ハンスには俺も好感を持てるぜ。
そして翌日、通路をまた進む。前を行くのは沙耶、後ろにハンスと続き、その後ろを手を硬く握ったネルとロッテ。そして殿はエーコだ。
沙耶も実戦経験に慣れて来たのか魔獣相手に遅れを取らなくなった。
所々休憩を挟み、やがて夜になり休み始める。次もハンスが最初に見張りをすると言い出す。
ところで今更だが、何故俺が四人の様子を知っているかだが……エーコの肩に付いた草だ。
風忍になり忍術というスキルを習得した。しかし最初は役に立たないのばかり。足が速くなるとか、高く飛べるとか。闘気で出来るやろ、と。
ぶっちゃけ使わなかったのだが、闘気を使って素早く動いたり高く跳ねたりしたお陰で、忍術を使ったと判定されたのだろう。忍術のスキルレベルが上がった。
スキルレベルを上げるには単純に二通り。一つはレベルを上げステータスを上げればスキルレベルも上がる。もう一つは反復で繰り返し使う事でスキルレベルが上がると言うものだ。
にしても忍術以外で忍術と似た事をして、忍術を使ったと判定されるとか、この世界は緩いよな~。
そうして忍術スキルレベルが気付けば四になり、そこで実用的なのを二つ覚えた。
その一つが草だ。って、草と書いてファミリアとかダッセーとか思ったんだけどね。
確かに密偵の任をする忍を草と呼ぶけどファミリアとかないわー。マジないわー。
それなら密偵と書いてファミリアとしろよ。まあ密偵は密偵で職業にあるから、そんな名前に出来なかったのだろうけど。
と言うか、そもそもファミリアって家族とか親戚とか、国によっては家の使用人って意味だったけど何故に草が家族とか、そんな言葉になったのだろうか?
まあともかく俺が作った草をエーコの肩にくっ付けて見ていた訳だな。ちなみにハイボークとの決闘で、目を瞑ったのは別に挑発したわけではない。あんなのを相手するより、エーコ達の状況を見る方を優先しただけだ。
ちなみに草は消費が激しい。一つ作るのにMP200消費する。俺の全MPの1/3だな。まあそれでも一度作り出せば壊されない限り持続するのは良き点だ。
更に草と気配完知に合わせ技で、エーコ達がどこにいるか分かった。俺の気配完知は人それぞれの気配が分かる訳ではない。気配を補足しそれを追う事は可能だが、その気配の持ち主が誰なのかはっきり分からないのだ。
まあ気配の強さは人それぞれなので、強い・弱い程度なら把握できるが……。
そして草だが、自分で作り出したものなので、その気配がはっきりと分かる。よってエーコの居場所が町の地下だと見抜いた訳だ。
三日目にしてやっと出口に到着した。登り階段があり、石の扉らしきものが真上でぎっちり絞められている。
エーコは重力魔法を使い扉を軽くすると、少し扉を開けて顔を出した。
其処は広い庭らしき場所だった……。ただ見張りの兵らしき者達が巡回しており、完全に外に出れば問題なると判断し、エーコは顔を引っ込め石とも蓋とも呼べる扉を閉めた。
「どうしたのよ? エーコちゃん」
「うーん。たぶん何処かのお屋敷のお庭みたーい。衛兵みたいな人が巡回してるしー、出て行くのはまずいと思うなー」
沙耶の問いに推測を混じえながら話した。
そう言う訳で四人は夜で待ち、暗がりに紛れ一気に出ようという事になった。
そして、夜を迎えた……。
「じゃあまずネルちゃんと、ロッテちゃんねー」
エーコはそう言って二人を抱え重力魔法で飛び上がり庭を飛び出て、そのまま城壁を越える。
「いやぁぁぁぁぁ……」
「ぎゃぁぁぁぁぁ……」
二人は空中に飛び上がり泣き叫ぶが、エーコはそれも予想していたのだろう。巫の恩恵により習得した沈黙結界で音が漏れないようにした。
そうして城壁を越えて着地した。
「よ! お帰り」
「大変だったねぇ」
そこで待ち構えていた俺とナターシャが労う。
「やっぱり来てたんだねー」
そう言いながらネルとロッテから手を離す。
「じゃあ残りの二人も連れて来るからー」
エーコは来た道を戻り――飛んで戻るというべきか――沙耶とハンスを連れて来た。
「いや~サヤさんとエーコさんにはお世話になりました」
ハンスは何度もエーコ達にお礼を言い去って行く。
ネルとロッテは、まだ小さいので家まで送り届けて事情説明をした。誘拐犯扱いで聞いちゃくれなかったけどな!
まったくふざけやがって。まあ最後は納得してくれたけど。
こうしてエーコと沙耶の冒険は終了した訳だ。