EP.21 幕間 呼ばれる者達
この世界には魔王がいる――。
唐突に魔王がいると言われても何のこっちゃと思うのが世の常だろう。
魔王と言えばアークにとって星々の世界で勇者召喚させられた時が記憶に新しいだろう……。
強制的に呼び出したのは、デビルスという国だった。そして魔王は魔王でも偽りの魔王だった。
あの国は勇者召喚と称し召喚された者達をおだて舞い上がらせ戦争の道具にした。
そして、その国の法王と呼ばれる者が、古代に封じられた邪悪な宝玉で偽りの魔王に変貌したのだ。
魔王討伐の為に力を貸して欲しいとか言いつつ自分が魔王になっているのだから、なんともお笑い種である。
しかし、それに巻き込まれた方は堪ったもんじゃない。沙耶もその一人だ。故に地球に帰れないと知って絶望した時もあった。
さて、その偽りの魔王ではなく月光世界では魔族や本物の魔王がいるのだ。
その理由は創世神話にまで遡る。
ただそれを語る前に世界は無数にあるという話をしておこう。
例えばアークの治時代もしくは沙耶の故郷である地球。二人が転移させられた星々の世界。そして、月光世界だ。
他にも無数に世界は存在し、独自の発展をしてきた。
ただどの世界にも共通するのは人間が誕生すると必ず争いが起きる。それによりどれ程の血が流れただろうか……。どれ程の命が失われただろうか……。
神々の一部をそれを嘆いた。そこで月光世界では、それが起きない、もしくは起き辛くしようと考えたのだ。
そう月光世界は比較的新しい世界という訳だ。
では、創世神話に話を戻そう。
この世界を創った神は、争いが起き辛い理を創った。
それが魔族達と魔王だ。人類共通の敵がいれば人類一丸となり争ってる場合ではないと考えたのだ。
その魔王は500年周期で誕生し、人族の英雄と呼ばれる存在に倒されるというのを何千年もの間、繰り返された。
しかし、魔王を倒すというのは、そう簡単なものではない。否、簡単にしてしまうと結局人類で争ってしまう。なのでそう易々と倒せないようにした。
では、どうやって倒すのか……。
それは英雄召喚だ。先程語ったデビルスは最初から勇者召喚だと語りおだてていたが、同じ事をしているのだ。
尤もこの世界では、そんな露骨ではないのだが。それでも英雄になれる素質があると話すのだ。
その英雄なれる素養のある者と人類が一丸となって魔族達と戦う事で、争いを極力減らした。
そう素質。地球の日本は争いがなく魂が疲弊しておらず、召喚の際に魂が力を獲得するのだ。この世界ではスキルと言っても良いかもしれない。
ただ争いがなかった為に戦う事を忌避しており、力を付けて行くのはほんの一握り。
それをこの世界の者は重々承知しており、戦いを強要しないし、戦っても良いという者は丁寧に育てると言う事をしている。
余談だが、デビルスの場合は勇者だとおだてて、戦に狩り出し、忌避するなら肉壁にしてやろう。そして生き残って素養のある者は隷属してコキ使ってやろうという反吐の出る考えをしていた。
故に根本的に考えが違うのだ。
さて月光世界では、英雄の素質を持ってる者を召喚する事は是としている。しかし、肉壁とか隷属等を考えようものなら周辺諸国に爪弾きにされしまうので、前述の通り丁寧に育てようとしてる訳だ。
そして、召喚され育った者が大きな活躍をすれば英雄とされ――称号にも英雄が追加される――やがては勇者となり魔王を倒す。
それが500年のサイクルで繰り返されているのが、この世界の理だ。
ただ、この召喚には二つのパターンが存在する。
一つは古代より伝わっている召喚魔法による儀式。召喚魔術師数人で大規模な召喚をするというものだ。
これにより時折国によっては何人かを召喚する。
二つ目は、一つ目の召喚が何千年もの間繰り返して来たせいで、世界と世界を隔ててる次元の壁が緩くなり、この世界に放り出されるものだ。迷い人とも呼ばれる。
余談だが、次元の壁を超えるのは人だけではなく魂もだ。つまりは、この世界には転生者と呼ばれる存在が他の世界より多くいたりする。
星々の世界にも里内 聡が次元の壁を越えて偶々迷い込んだが、あんな事は滅多に無い。この世界では、それが多いのだ。
そして、アーク達がこの世界にやって来る暫く前に、とある国で英雄召喚が行われていた。
人数は二十五人。全員黒髪黒目している。いや、染めている者もいるので赤髪や金髪なども混ざっている。
地球の某高校の某クラス全員が学生服で召喚されたようだ。
「ようこそ我が国へ。英雄の素養を持つ者達よ」
最初に口を開いたのは一番豪華な服を纏い王冠を頭に乗せた、この国の王だ。
デップリ太っており派手な装飾品を身に付けている。
その隣に王妃と思われる女性がおり、こちらは太ってはいないが王より更に派手に着飾っていた。
その王達は英雄召喚について語って聞かせた。当然デビルスと違い勇者だなんだとおだてたりはしない。
「おいおいおい。これって誘拐じゃないのか」
「家に返せ」
「そうだそうだ」
反感が言葉に出るのは当然だろう。
「申し訳ございません。手前どもの勝手で呼び出し……。帰還の方法もお調べしますので……」
憂いにみちた声を響きかせたのは、この国の王女だ。
歳は十三歳と若いが、それでも美しく見惚れてしまう程、顔が整っていた。胸も歳の割には豊満で巨乳と言っても差し支えない。
金色の髪を揺らし頭を下げる。その所作は洗練されており、一瞬呆けてしまう程だ。
しかし男性陣が見ているのはそこではない。胸元が開いたドレスを着ており、頭を下げる事により豊満な胸が見えそうで見えないのだ。
それがそそり鼻の下を伸ばしていた。ある者は前かがみになっていたり、堂々と制服のズボンの上からイジってる者もいる。
その男共を冷ややかで見る女性陣。
ぶっちゃけあざとい。
中には狙ってやってるだろうと邪推する男もいた。
別に性欲がなかったり男に興味があるという訳ではない。人一倍こう言うのに敏感なだけだ。
国の為に無理強いはしないが、戦って欲しいとか言ってる王や王妃にしても、着飾ってる事に眉をひそめる。
(国が大変なのに、何故お前らは贅沢三昧なんだ?)
胸中呟き表情にも苦々しさが出ている少年。
耳まで隠れる長さの髪で6:4分けにしている。目は鋭く目付きだけで人を殺せるだろう過去に何度も言われた事がある眼光をしていた。
その名は、御剣 剣。通称ケンケン――――。