EP.19 魔法スキルについて知りました
「それが月光の世界だとないんだよねー」
「あ、それ私も感じていたよ」
沙耶もエーコと同じ感覚だったのだろう。
「エーコも沙耶も精霊と慣れ親しんでいたからな。この世界では精霊との契約で魔法を使う訳じゃないようだし」
「それが良く分からなかったんだよねー」
まあ今まで身近に感じていた精霊がいなければ不思議に思うだろう。俺はそう言う感覚がなかったので、気にもしていなかったけど。
「それで?」
続けてナターシャが問い掛ける。
「不思議に思ってー、試しに魔法名破棄で魔法使ったんだー」
「あ~、今までは精霊に魔力を取られている感覚があったから、その感覚がないこの世界では、どうなのか試したんだねぇ?」
「そー」
「なるほど。で、結果は?」
今度は俺が先を促す。
「魔力……この世界ではMPだねー。MPを多めに取られたよー。でも、体力まで持って行かれなかったかなー」
あー。星々の世界じゃ、魔法名破棄をしてしまうと、体力を奪われるからな。俺みたいな下位の魔法使う者だと、マジで動けなくなる程にしんどくなる。エーコでも、それになり奪われるので、魔法名破棄を嫌う。
「それメラ君から聞いたよ」
沙耶が言う。メラ君とは沙耶が契約した炎の精霊の名だ。
「何でも魔法名を口にすると言うって事は、精霊に敬意を表しているって事なんだって」
「「「はぁ!?」」」
俺、ナターシャ、エーコは首を傾げてしまう。
詳しく聞くと精霊からすれば、魔法を使うのに魔法名を言わないのは、精霊をないがしろにしている行為で、言語道断なんだとか。
まあ精霊と契約して魔法を行使してるのにないがしろにされるのは、精霊も面白くないみたいだ。よって魔力を多めに更に体力も奪っていたらしい。
そんなの初めて聞いたな。エーコも知らなかったようだ。
「つまり、この世界では魔法名破棄でガンガン使えるって事か?」
それはおいしいな。
「わたしもそうなのかな? って思ってー、魔法スキルを調べに行ったんだー」
ここで最初の話に戻る訳か。ギルドの資料室で魔法スキルを調べた訳だな。
「魔法スキルを習得するとー、自然に魔法名と魔法の内容が頭に浮かぶじゃん。まぁわたし達は魔法スキルを習得してたからー、レベルが上がったタイミングだったりしたけどー」
「ああ」
「そうだねぇ」
「そうね」
俺も風刃魔法を使ったけど、あれは自然と頭に浮かんだものだ。が、俺達は既に魔法スキルを習得しているので、レベルが上がったタイミングで頭に浮かんだ。または、反復で練習した時とかにだな。
「実は、魔法名と魔法内容は、密接に紐付けされてるんだってー。だから魔法名が引き金になり、瞬時に魔法内容が頭に浮かび発動出来るんだってー。つまり魔法名を言わないと発動までに時間が掛かったりー、MPを多く消費するみたいー」
なるほど。闘気と同じだな。闘気技名を付けて、その闘気技名をトリガーに瞬時に闘気を収束させ発動させられる。が、闘気技名を言わないと闘気を収束させるのに時間が掛かったとかして無駄に闘気を消費してしまう。
この世界の魔法も同じようだ。魔法名をトリガーに魔力を収束させ瞬時に魔法を発動している訳だな。ただそうなると……、
「MPは多く消費するが、体力は奪われない。それだけじゃなく瞬時に魔力を収束出来れば魔法を瞬時に発動出来てMP消費も抑えられる訳だな」
「理論的にはそうだねー」
こっちの世界の魔法は便利だな。
「あたいも世界によっては時間の流れが違うと言われて、少し調べたさぁ」
いや、調べてもそんな事は、詳しく分からないと思うがな。異世界間交流がある世界でもなければ。
「この世界は、毎月30日まである1年360日の世界だったさぁ。つまり5日ズレているさぁ」
星々の世界では、うるう年はないものの、月によって31日まであったり28日までだったりする地球と同じ1年365日の世界だったが、こっちでは全ての月が30日だったのか。
ただね、たった5日で時間の流れが違うとか、そんな単純な話ではないんだけど。時間の進みが遅いとか速いとかの問題なんだが、言ってもややこしいかな。
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休みを取ってから四日目、仕事を再開させようとギルドに向かった。
にしてもオリハルコンが再び取れるようになったせいか町に活気が出てきたな。ギルドもなんか人が多いし。てか狭い。
そう思っていたらエーコが人にぶつかってしまう。
「あ! すみませーん」
「ん? 何だガキ? ここはガキの遊び場じゃないぞ」
まあ八歳だしね。相手は三十代くらいのオッサンだ。
「これでも冒険者なんだけどねー」
「はっ! 冒険者? おい皆聞いたか? こんなガキが冒険者だってよ。このギルドはランクが低い奴ばかりか、ガキまでいんのかよ」
そう言うとそいつのパーティメンバーらしき連中が笑い出す。
と言うか、こいつらこの町を拠点に活動してる連中じゃないな。
俺達は短期間で、飛び級昇格に、集団暴走を止め、巨大魔獣討伐。そしてオリハルコンの発見で一目置かれている。その俺達を知らないようだしな。
「で、ガキ。ランクは? どうせHとかだろ?」
「Dだよー」
そう言って赤いギルドカードを見せる。
「おいおいおい……どんな不正をしたんだ?」
「してないよー」
「まあ良い。俺はエンスタークの町を拠点に活動しているランクCの冒険者でハイボークだ。今回鍛冶師達の護衛でやって来た」
「ふーん」
そう言って青いギルドカードを見せて来るが、エーコは興味無しという態度だ。俺も興味無いな。
「おい! 俺はランクC冒険者だぞ?」
「それは聞いたよー」
「冒険者のルールが判っていないようだな? 流石はガキだな。良いか? ランクの上の冒険者に逆らうじゃねぇ」
いや、一つしか違わないじゃんか。それにランクが高いと偉いとかギルド規約にないしな。
討伐隊を組んだ時等にギルドランクが高いのがリーダーになったりする話ならあると思うけど。
なんか段々ウザくなって来たな。状況に応じてランクが高い者が上に立つってのを拡大解釈してるし。
「エスタークの町を拠点にねぇ~」
なので俺も口を挟んでしまう。
「あ? 何だ? お前とは話してねぇよ」
「あ! ガキにしかイキれない人だったの? そいつは悪かったな」
「あ~あ。アークの悪い癖が出たさぁ」
「だねー」
ナターシャとエーコがクスクス笑い出す。そう悪い癖です……って悪い癖か?
ウザい奴を煽るのがそんなに悪いかな? いや、昔は引き籠りのコミュ症だった頃は、ネット上でイキってたせいで、ディスる時はちょーーっとボロクソに言う程度だよ?
「んだとぉぉぉ! 貴様良いどきょ……」
「ジャイアント・ヤモリ」
「っ!?」
喋らせるのはウザいので遮ってやる。
「包囲網を展開に失敗して集団暴走まで起きて迷惑被ったんだけどな~。なのにCだからって威張り散らすのか?」
「……失敗じゃねぇ。ただちょっと手古摺っただけだ」
うん。言い訳がましい。声小さくなってるし。
しかもエスタークの町って聞いたので、もしかしたらと思ったら当たりだった。コイツらが失敗したようだ。
「まあ集団暴走程度、俺等で楽々潰したけどな」
「何? 貴様らが?」
「てか、ジャイアント・ヤモリなんて一撃で倒せるだろ? 包囲網? 何無駄な事やってるの? アホなの? 死ぬの?」
「いちげき……だと?」
「あ~名前はハイボークとか言ってたな。正に敗北しそうな名前だな」
「うるせー。名前は関係ないだろ!?」
「あ、ちなみにお前がさっき絡んでたガキも一撃で倒せるぞ」
「わたしは良いよー」
「はっ! ランクDのくせに嘘ぶっこいってんじゃねー!」
あからさまにビビってるのは気のせいかな? 気のせいかな?
「まあ信じないならそれでも良いよ。だが、そう喚くと此処を拠点にしてる連中に笑われるぞ」
「…………………」
おーおーめっちゃ苦々しい顔してるな。じゃあトドメを刺すか。
「そもそも相手の実力も測れないで喚いてるだけとか、形だけのCランクなんだな。じゃあ形だけの奴には用はないから」
そう言って通り過ぎる。
「今日は何の仕事しようっか?」
「ちょ! アーク、さっきあんな煽ってたのに何平然としてるのよ?」
沙羅さんや。あんな口だけの奴もう忘れましたが?
「アークだしねぇ」
「だねー」
二人とも良く分かってらっしゃる。
そんな訳で適当な討伐クエストをやって宿屋に帰還した。ただこの辺の魔獣は雑魚だと分かってるので、四人で行わず二手に別れた。
俺とナターシャ、エーコと沙耶。絵面酷いな……片方ガキ二人だぞ。まあグッパーで別れた結果なのだけど。
ただ俺とナターシャは帰還したが、二人はまだ戻っていないようだ。
なので二人でお茶を啜りながら待つ事暫くして、部屋の扉の下の隙間から手紙が差し込まれる。
「何だ?」
とりあえず手紙を読んだ。
『連れのガキ二人は預かった。返して欲しければ明日の早朝、北地区の三番倉庫に来られたし』
どうやら死にたいらしい。