EP.16 魔獣を殲滅しました
ナターシャが弓、沙耶は薙刀を構える。魔法主体のエーコは腰を少し落とし前を見据える。
俺? ただのボー立ちです。俺は様々な状況に対応できるように基本自然体だ。勿論強敵相手だったりしたら、小刀を抜き構えるけどね。
「アーク、今回もあまり傷付けないのかい?」
「いや……数が数だけにさっさと片付けよう。それと地形変動はあまりさせたくないから、中位魔法は、なるべく控えるように」
俺はかぶりを振りナターシャの問いに答える。
「わかったさぁ」
「わかったー」
「わかったよ」
三人が頷き、前を見据え数秒待つと、まず冒険者が数人走って来た。
「うわああああああ……」
「助けてーーーー」
「死にたくない……」
死屍累々を目にしたかのような必死な形相。泣きながら走ってる奴もいる。やがて一人が俺達に気付く。
「お、お前達逃げろ! スタンピ……」
「知ってる」
「えっ!?」
遮り冒険者Aの言葉を切って捨てる。
「お前達は逃げてギルドに報告しろ」
「あ、ああ」
それ以上何も言わず冒険者Aが逃げて行く、それに続く数人の冒険者達。彼らがいなくなると続けて魔獣の集団がやって来た。
見た目からゴブリンとオークが中心だな。中にはハイ・オークっぽいのもいるな。こっちの世界では名が違うかもしれないが、まあどうでも良い事だ。
「エレメント・ランス」
最初に口火を切ったのはナターシャだ。彼女の持つエレメントアローと飛ばれる弓は魔力で矢を精製し放つ事ができる。それも魔力を籠める量で、数や威力の調整も効く。
今回放ったのは三射。しかしその三本の矢は途中で分裂し五本になり、計十五本。
それが別々の魔獣にそれぞれヒットする事はなかったが、それでも一気に八体は沈めたのではないだろうか……。
「<下位火炎魔法>、<下位氷結魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位大地魔法>」
続けてエーコが掌を右・左・右・左と前に出しつつ下位魔法を唱える。何故かエーコは一度の戦闘で色んな属性を使うのを好む。今回も四属性だ。
右手から炎が飛び出し焼き払い、左手から冷気が飛び出し顔面を凍らせ、次の右手から雷が飛び出し感電し、次の左手から岩石が飛び出し心臓を突き破り、一気に四体の魔獣を屠った。
今更だが、数の単位は『体』で良いのだろうか? ウルフとかタイガーウルフは動物っぽいから『頭』で数えていたけど。
ちなみに星々の世界では、魔物は一貫して『体』で数えていた。でも魔獣だと、どうなるのかな?
と、どうでも良い事を考えていたら、沙耶が飛び出した。
「はっ!」
正面のコブリンを上段から叩きる。スッパーンっと綺麗に斬ったな。って言うか、あれ風を纏っていない?
魔法剣ならぬ魔法薙刀か。精霊の力を借りずにできるようになっていたのか。それも風を……。
風の魔法剣は難しい。ただ纏わせただけだと、斬ろうとした相手を風の力で弾き飛ばしてしまう。
沙耶は最初難儀していた。俺も最初苦労したしな。他の属性は例外はあるが、ただ纏わせるだけで効果はある。尤も繊細に魔力コントロールすれば威力が格段に違うのだが。
風は特に魔力コントロールが繊細だ。しかし、確り操れば斬撃の速度が増し切れ味も格段に上がる。
沙耶は続けて薙刀を閃かせて……、
「笹山流薙刀術・風車の乱」
グルンと周囲を薙ぎ払った。周りにいた四体が屠られる。
薙刀は詳しくないが、大車の乱とか小車の乱とか言う型があるらしい。沙耶は恐らく魔法薙刀を笹山流とやらに落とし込み発展させたのだろう。
「ヒュー……やる~」
「……アンタも倒しなさいよ」
沙耶が眉を吊り上げ睨んで来た。おー怖い怖い。
俺は懐から投擲用のナイフを三本取り出し人差し指と中指の間に、中指と薬指の間に、薬指と小指の間に、それぞれ挟み投擲した。
楽々三体の魔獣にヒット。それどころか闘気を纏わせたので、貫通しその後ろにいる二体も屠り計五体。つまり沙耶と同じ数だ。
「何か言った?」
ニヒっと笑い沙耶に向かって首を傾げた。
「アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよ」
さいですか。
投擲用武器を消費するのも勿体ないし真面目にやるか。
「ふんっ!」
ってわけでの目の前にいたオークに掌打を入れる。はい真面目にとか言いつつ徒手格闘です。
いや、だって格闘レベル上げたいし。
「はっ!」
回し蹴りで二体吹き飛ばす。その二体は別の魔獣に当たりもれなく身動きが取れなくなる。
「<風刃魔法>」
そして、魔法でまとめて切り裂く。本来俺の魔力じゃまとめて切り裂くなんてできないが、この世界で習得した魔法ならそれが容易だった。星々の世界の下位突風魔法だと、エーコクラスじゃなきゃ切り裂くとか出来なかっただろうな。
まあそんな感じで、あっという間に全員で三十体の魔獣を始末した……。
あとはボスだな。もう間近まで迫ってるのが気配で分かる。