EP.15 獣人賊に絡まれました
「おい!」
「とりあえず最初は初歩の薬草採取とかがあったらやろうか」
「Fランクになったんだから、Dまで受けられるし討伐系でも良いんじゃないかい?」
「だねー」
「聞いてるのか!?」
「まずは、ナターシャの称号の効果を試したい」
「なるほどねぇ」
「それに初歩からやるのも悪くないかもねー」
「無視してるんじゃね!?」
「……何で素通りしてるのよ?」
俺とナターシャとエーコは、何か喚いてる奴を無視し、そのままクエストボードを目指していた。
沙耶だけは、そちらに視線を送り、俺の服を引っ張る。
「え? なんでいちいち害虫を相手にしないといけない?」
「だねぇ」
「そうだよー」
「……………………」
害虫呼ばわりで流石に沙耶はドン引きだ。
「が、害虫だと貴様!」
「ふざけやがって!」
「そうだ! 何様だ?」
「そうだそうだ」
獣人族に絡まれました。犬獣人が三人にリーダーっぽい猫獣人ね。
テンプレありがとうございます。ぶっちゃけうざい。
「で、何?」
冷たく足らうように言う。
「いきなり二ランク上からとか裏金出したのだろ? てめぇらみたいののがいるから冒険者の品性が下がるだ!」
「僻み?」
「んだとぉぉ!!」
そう言って獣人達がそれぞれの獲物を抜く。
「獣人賊?」
「アーク、つまらないさぁ」
「そうだよー」
二人にダメ出しされた。ちなみに沙耶をどうして良いのかオロオロしている。
「あのさ、冒険者同士の殺し合いはご法度では?」
先程の規約説明でそう言っていた。
「決闘は別だ。表出ろ!」
「武器チラつかせながら言う事かなー?」
エーコ、ナイスツッコミ。
「うるせー! 来い。ガキだからって調子に乗るなよ」
ちなみに鑑定するまでもなく雑魚だと分かります。何故なら……、
「「「「っ!?」」」」
四人とも速攻硬直したからな。
「て、てめぇ、何をした!?」
猫獣人が脂汗を流しながら、多少は抗っている。他の連中は、膝を付いて倒れないように必死に耐えていた。
「ただの威圧。この程度の威圧で硬直するようじゃ話にならない。それじゃ」
そう言って俺達は獣人達の脇をすり抜けた。
そう、俺がやったのは、ただの威圧。殺気に闘気を乗せたのを相手に放つ技法。
それで死ぬ事はないが、胆力やそれなりに闘気を扱えないと動きが鈍くなる。この獣人達は、それどころか完全に動けなくなってるけどな。よって鑑定するまでもなく雑魚だと分かった。
討伐クエストもチラホラあるが、初回なので採取を選んだ。まずは実績を積む事を考える。
何より沙耶がいない。レベルは、沙耶と同時に上げたいと言うのが一番の理由だ。
俺達三人は、きっとレベルを上げてもほとんどステータスが上がらないだろう。しかし、沙耶だけはある程度上がりそうだ……元が低いので。
「じゃあ沙耶、ここで。昼ぐらいには戻って来るから、此処で昼食を食べよう」
「分かったよ」
まずは小さくなった体を動かすのに慣れて貰う為に沙耶と別れる。
「採取クエストですね。こちらは東の森の中に入って直ぐの場所に生えています……」
その後、採取のクエストの紙を剥がし受付に持って行く。初回と言う事もあり説明を聞き、どんな薬草なのか確り確認した。
主に……ナターシャが。一応弟子のエーコもだけど。俺? はい専門外です。
「最後にエンスタークの町から回って来た情報です。あ、エンスタークの町と言うのは、このメンサボの町の東の森を抜けた先にある町です」
東の森の奥は魔獣が多く普通は通り抜けないが、魔獣を相手にせず真っ直ぐ歩いて五時間くらいの場所にエンスタークの町があるとか。
基本的には北周りで馬車で半日掛けて行くらしい。
「そのエンスタークの町でジャイアント・ヤモリの魔獣が発生したらしいです」
名前から言って巨大なヤモリね。
「現在包囲作戦が展開されてるらしいので安心ですが、念の為にお気を付けください」
はい、フラグですね。これ絶対討伐しないといけない流れだろ……。
いや、もしかしてエーコのフラグが回収される? 何せ巨大なヤモリが暴れれば集団暴走が発生してもおかしくないしな。
まあそんなこんなで東の森に入り薬草採取開始。
俺は二人に魔獣を近付けないように護衛だな……いや、それしかできないし。
「不思議だねぇ。この世界だと薬草が何処にあるか直ぐ分かるさぁ」
と、ナターシャが言い出す。
それ称号エクセレントコンパウンドの効果の一つじゃね?
そうして三時間くらい採取を続け、その間に魔獣を三頭屠った。一頭は昨日と同じタイガーウルフ。あと二頭は知らん。この世界の生態系なんて調べてないしな。見た目からただの狼っぽい。
ちなみにレベルが1上がったが、当然ステータスは上がっていない。
「こんなものかねぇ」
「…………………………………………は?」
ナターシャの呟きが聞こえたので様子を伺ったが何これ?
いやだってさ、薬草が山積みされているんだよ? 指定の量の十倍はある。どんだけ取ってるんだよ。ちなみに指定の量は両手で抱えて楽々と持てるくらいの量。
「これどうやって持って帰るんだ? 魔獣の分も考えると持ちきれないぞ」
「大丈夫さぁ……<収納魔法>」
そう唱えると空間に穴が空きそこに薬草を入れて行く。
「……いつ覚えたんだ?」
「アークが魔獣倒した時さぁ。レベルが上がって覚えたのさぁ」
まあこの世界は経験値と言うのがあり、パーティで共有と言う理だ。なので俺が倒せば他のメンバーもレベルが上がるだろうけどさ。
……早くない? 空間師なら覚えそうと思ったよ。思ったけどこうもあっさり?
とか言う俺も一応一つ魔法を覚えた。身体強化だ。が、いらない。
魔法で身体強化するものだが、闘気でやった方が効率が良い。ただどうもこの世界では、魔法で身体強化をするのが一般的っぽいな。
「どれだけ入るんだ? それ」
「この薬草ギリギリだねぇ」
巨大なリュック三つ分くらいかね。
「にしてもこの魔法があれば、旅が楽そうだねぇ」
「空間師なら覚えてくれると思ったが、こうもあっさり覚えたのはビックリだな」
「アークに言われた通りにして良かったさぁ」
流石、俺 英断!
「それにそれ覚えるのが目的だったけど、思ったより早かったな」
「だねぇ。帰る時に持ち帰りたいものを大量詰め込めば良いだったかい?」
「そうそう」
時の精霊が、今回の依頼の礼として収納魔法の中身をそのままにし、無条件で星々の世界でも、収納魔法を使えるようにしてくれると言っていた。
報酬は報酬であるが、この礼と比べたら霞むようなものだ。
「ちなみにエーコは?」
「この世界の下位回復魔法だよー」
「いらんな」
「だねー」
そんなわけでギルドに報告に向かった。
当然薬草の量にビックリされた。ついでに怒られた。他の冒険者の稼ぎがなくなるとか。
し・る・か・よ!!!
「他には魔獣タイガーウルフに魔獣ウルフが二頭ですね」
やっぱり狼か。てか、魔獣なのね。動物ではなく。
「合計20.000ギルになります」
そう言って中銀貨二枚渡された。ふむ、宿屋分には微妙に届かないか。まあ討伐系のクエストなら簡単に稼げるかもしれないが。尤ももっと良い宿に泊まるとそうはいかないだろう。
時間は正午。沙耶は、冒険者ギルド併設の酒場にいた。合流しそのまま昼食を摂る。
「しゃや、しょれじゃむしゃどうや」
「食べながら喋るじゃないさぁ」
「アーク、下品だよー」
それは失礼。
「ゴクン…………それで沙耶、体は慣れたか」
「……アークが言うと厭らしいよ」
「だねぇ」
「アークだしー」
なんでやねん。
なんか沙耶はドン引きしたように言うし、ナターシャとエーコはクスクス笑ってるし。解せん。
「で、どうなんだ」
「良い感じだよ」
「そう感じてるのか」
「だからエロいよ。うわ……目も厭らしいし」
「だねぇ」
「アークだしー」
目も厭らしいとか言われたし。確かに態と『感じて』の部分を強調して言ってみたけどさ酷くない?
「もうそれ良いから、とりあえず明日から沙耶も参加だな」
「分かったよ」
その後、夜まで三手に別れて情報収集を行った。まずはこの町の事、この国の事等々。沙耶は体慣らしの続きだ。
夜、宿屋の部屋でお茶を啜る。ちなみに宿泊日数を一日延長し料金を払った。お金が無いのでは、残念ながら一日しか延長出来ない。さっさと安定させないとな。
そんな事を考えてるとナターシャが俺に問い掛けて来た。
「アークは、鑑定で全部見えたんだよねぇ?」
「ん? 名前、能力、スキル、称号、装備はな」
「どう言う事だい?」
「え?」
「ギルドマスターの叔父ちゃんは全部見えないと言ってたよー」」
「あ、それ私も思ったよ」
エーコと沙耶も話に加わる。
「たぶん闘気レベルの差じゃね? 闘気レベルが高いと鑑定を遮断するらしいけど、逆に見る力も上がるのかもな」
どうやら、この世界では闘気は、かなり万能のようだ。
次の日も冒険者ギルドへ向かう。今日は沙耶もいるし討伐系だ。が、ない。
まあDランク以上ならあるんだけど。俺ら四人いるので、最大ランクの1つ上の依頼を受けられる。つまりパーティランクEって感じだな。が、Dランク以上だと受けられない。
「何でー?」
「わたしの真似しないでー」
はい、すみません。
アメリアに聞いてみるか。
「エンスタークの町のジャイアント・ヤモリの包囲が難航しているようです。よって念の為に下位の冒険者は制限が入りました」
うわ! めんどくさ。仕方無いので昨日と同じ薬草採取だな。
って訳でまたまたやって参りました。東の森の入って直ぐの場所……薬草採取地点。
そこで、俺と沙耶が周辺を警戒し、ナターシャとエーコが採取を開始した。余談だが、取り過ぎるなと釘を刺されている。
そうして採取開始して暫くして……、
「何だ?」
「どうしたんだい?」
「どうしたのー?」
「どうしたのよ?」
「俺の気配完知に強力なのが引っ掛かった」
そう言った瞬間、森が騒がしくなる。
「薬草採取中止。全員戦闘準備!」
エーコが立てたフラグ通りになったよ。そうです集団暴走です。とは言え数は大した事ない。
気配を探ると、こちらに向かって来てるのはせいぜい三十頭の魔獣と冒険者数人。まあ冒険者は逃げているのだろうけど。
三十くらいなら四人いれば問題ない。それより気になるのが、その三十頭の後ろにいる強力な気配だ。
これジャイアント・ヤモリじゃね? フラグ二つ同時に回収かよ。めんくせぇな。