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EP.11 雪だるまのユキ (三)

 雪だるま一族と言われる魔物達がいる。

 この魔物のルーツは、はっきりわかっていない。わかっているのはサバンナで、発生した魔物の中に寒さに強い毛皮に覆われた魔物が中心に北を目指した事。

 北にあるエルドリアの炭鉱に住み着いた魔物が、進化して行き雪だるまになった。その過程は諸説ある。イエティが進化しただの、ホワイトドックが進化しただの、と。根拠は、全くない。

 ただわかっているのは、魔物は狂暴化しており人を襲い、やがてサバンナに帰って行く、そう言った本能にようなものがあるが、雪だるまにはないのだ。


 あるのは、人間と共栄したいが、人間の情勢に関わる程、近付きたくないという事だけだ。

 しかし、その為の弊害がある。人間は魔物を恐れ出会えば襲い掛かて来るか逃げ出す。

 逃げ出す者は良いが、襲い掛かって来る者は、どう対処して良いか迷ってしまう。雪だるまには、人間に含むとこはないし、それ故に共栄したいのだから。

 其処で、当時の雪だるま一族の頭目だった四歳であるユキは、人間の言葉を覚えようと考えた。理解は出来るが介する事が出来なかったからだ。

 手始めに遠くから炭鉱で発掘作業している人間通しの会話に聞き耳立てて覚える事。しかし、効率が悪過ぎた。


 そんな時、当時十四歳だったフィックスの王子であるエドワードがやって来た。エドワードは、人間を襲うどころか、人間が怪我をすれば助けたりする変わった魔物がいると噂を聞き付けてやって来たのだ。

 エドワードに出会ったユキは、身振り手振りでや地面に落書きを書いたりして、思い付く限りの事をして、コミュニケーションを取ろうとした。

 その甲斐あってエドワードに伝わり、炭鉱の者に雪だるまは味方だと話を付けてくれた。


 そして、エドワードの計らいで人間の言葉を話せるようになるまで、フィックス城で教えてくれると言い出したのだ。

 ユキはフィックス城に行き、人間の言葉を学ぶ。元々人間の言葉を理解していたので、喋れるようになるのに、そう時間は掛からなかった。

 他にも槍の使い方等もエドワードから、直接教わった。

 雪だるま一族は、下位の魔物を飼い慣らす力を持っているので、その魔物に跨り戦うなら、長物の槍が良いと判断したからだ。


 やがてユキは、人間の情勢に関わる気はなかったのだが、大陸の破壊や混沌を望むラフラカがいる限り、エルドリアの炭鉱も無事ではない。

 自分達にも被害が出ると危惧し、自らも戦いの身を投じたのは、また別の話だ。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 時は進みユキが、十六歳になると精霊大戦の末期も末期。ラフラカの破壊により、エルドリアで、資源がほとんど取れなくなっていた。更に一年進み精霊大戦終結。

 そして、更に一年進みユキが十八歳になると、エルドリアの炭鉱の奥に怪しい文様の扉が現れた。下手に触る物ではないと判断し、扉の前に同族の雪だるまを待機させ、ロクームに調べて欲しいと手紙を出していた。


挿絵(By みてみん)


「るまるまるまー」


 その待機させていた雪だるまが慌ててユキの下にやって来た。

 えっ!? 扉からブラックウルフを中心とした魔物の群れがルマー!? と、目を剥くユキ。


「大変だルマ。早く逃げるマー」


 ユキ達は急いで町の方へ向かった。

 ただユキ達は飼い慣らした愛獣の魔物は連れて行かなかった。ユキはダークネスウルフ、他の雪だるま達は戦いを不得手としているのが大半なので、シャドーウルフやブラックウルフが中心だ。つまり、今回現れた魔物と同じ種類なので町民を脅かしてしますとユキは判断した。

 またユキは、もっと上位の魔物を飼い慣らしていたのだが、食料不足により死なせてしまった。尤も、そんなものを連れて行けば更に町民を戦慄させていただろうから、仮に生きていても連れて行かなかっただろう……。


「「「「るまるまるまー」」」」

「何だ? 何だ?」

「どうしたんだ?」

「雪だるま一族!?」


 騒いでいると町民達が、顔を出し集まって来た。


「大変だルマー! 魔物が来るマ……逃げるマー」


 集まった町民達にユキが説明。


「何!? それは大変だ! 女、子供は家の中に! 男達は戦いの準備だーっ!! 向かい討つぞっ!!」


 町民達は逃げるどころか、戦いの準備を始めて出した事にユキは目を剥く。


「危険だルマー。逃げるマー!!」


 ユキはそれを止める。


「俺達が生まれ育った町だ! 捨てられっかっ!!」


 それは同じ気持ちだ。と、その言葉にユキは瞠目した。

 やっぱり此処は戦うべきかもしれない。それにロクームに手紙を出したから、きっと来てくれると、思い直す。


「わかったルマ。ユキ達も戦うルマー」


 こうして町民達と戦える雪だるま一族は、炭鉱から現れる魔物を待ち構えた。でも、この戦いは非常に厳しい。まとも戦える雪だるま一族は少ない。精霊大戦で戦える者の多くは散って行った。

 資源不足、食料不足の中、繫殖しようと言う考えはなかったのだ。とことん野生の魔物、ひいてはその前の動物とも違う突然変異しか良いようのない種族だ。

 それでも雪だるま一族は、この炭鉱を、ひいてはこの町を守りたいと考えていた。

 待ち構えて数分後、遂に魔物の群れが炭鉱から現れた。ブラックウルフに、その上位個体のシャドーウルフ、そして最上位個体のダークネスウルフだ。


「吹雪ルマー!!」


 ユキは、戦える雪だるま一族に指示を出す。

 雪だるま固有の能力で吹雪を起こせる。雪だるま一族は一斉に動き出す。

 そうして、魔物を凍らせたいのだが……寒さに強い種族の魔物なので、そう簡単には行かない。

 それでも動きは鈍った。


「今だルマー!!」

「「「「「おおーっ!!」」」」」」


 ユキの言葉に町民達も動き出す。そうして連携しつつ何とか数体倒すと……、


「何だ? 騒がしいでガンスな」


 絶好のタイミングでロクーム達がやって来た。ユキは、嬉しさに微笑む。


「るまるまるまー!」


 だからユキ以外だと通じないルマー。と、嘆息するユキ。


「ロクーム、来てくれたのかルマー」

「ユキ、何があった?」

「魔物達が攻め来たルマー!」

「……なら、行くぞ!」


 と真っ先に見知らぬ灰色髪の男が魔物に斬り掛かる。


 プシュプシュプシュプシューンっ!


 凄い速いと、目を見張るユキ。

 目にも止まら動きで次々に魔物を斬り裂いて行く。この男は一体何者なんだと、首を傾げた……って雪だるまに首ないんだけど!!


「ユキ! この魔物達は一体どっからでガンス?」


 その問いにユキが答えると……、


「ダーク、待つでガンス!」

「……ん? 何だ?」


 真っ先に飛び出た男を止める。でも今、ダークって言ったか? ダークって、あのダークなのかと、驚き目を丸くするユキ。


「この魔物を相手しててもキリがなでガンス! 元を叩きに行くでガンスっ!!」


「……元? ……わかった」

「じゃあエリス。雪だるま一族と此処で魔物を抑えててくれでガンスっ!」

「わかった、ロクーム」


 こうしてユキの案内の元、ロクームとダークと怪しい紋様の扉に向かう事になった。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「此所だルマー」

「いかにも怪しい扉でガンス!」

「……乗り込むぞ!」


 ロクームは扉が、いかにも怪しいと調べようとするが、まともやダークが一気に乗り込んでしまう。

 中に入ると怪しいカプセルが立ち並ぶ。。


「この光景は……」


 ロクームにも見覚えがあった。当然にもあるユキにも。

 此処はラフラカの精霊のエネルギーを抽出しに他の者に流し込む研究所にそっくりなのだ。

 そして、制御装置と思われる機械の側に白衣を着たコブリンシャーマンが三体いる。


「ナ・ニ・ヤ・ツ・ダ? 研究ノ邪魔ヲスル奴ハ排除!」


 コブリンシャーマンは、賢い方だが、喋れるわけではない。しかし、このコブリンシャーマンは、聞き取り辛いが一応言葉を介していた。

 そのコブリンシャーマンは、一斉に掌を前に突き出して来た。


「「「<中位火炎魔法(ギガ・ファイヤー)>」」」


 ゴォォォォォ……ッッ!!


「何? ま、ほう、でガンスか!?」


 驚きの声をあげるロクーム。

 驚いているのはロクームだけではない。ユキもダークも驚きで目を剥いていた。

 咄嗟にロクームとダークは避けるが……、


「あちち……熱いぃぃルマー」


 ユキは避けきれずお尻に火が付く。中位だったせいで巨大な炎だったからだ。しかも雪だるまだけに火は苦手なのだ。


「大丈夫かでガンスか、ユキ?」


 ロクームがお尻を叩いて、火を消す。

 そして第二撃目が来ようとしていたが……、


「<ギガ・ブリザ……>」


 プスッ! プスッ! プスッ!


 魔法を唱える前にダークの投擲による短剣やナイフが刺さり、魔法が不発に終わる。


「ふっ……」


 ダークが薄く笑う。


「さっきの……魔法…でガンスよな?」


 と、ロクーム。まだ信じられないと言う感じで目を瞬かせる。


「ユキにもそう見えたルマー」

「でも何故? ……精霊王は、いないでガンス」

「……考えても仕方ない! 戻るぞ!!」


 ダークがそう言うと踵を返す。

 やっぱりこの人は……。

 この冷静差に、さっきの投擲技術。あの時は鉄仮面で素顔を見れなかったけど、間違いない。正しくダークだと確信するユキ。


「大丈夫でガンスか? エリス!」


 戻って来ると安否の声を掛けるロクーム。


「ああ」

「そうか良かった! それで大変だ……」

「魔物が……」

「「魔法を……」」


 ロクーム達の言葉がハモる。


「そっちもでガンスか!?」

「あ、ああ!!」

「確かにあの時、俺様達はラフラカを倒したでガンスよな?」

「ああ!」


 そう確かにユキ達はラフラカを倒した……筈。と、考えるユキ。


「……倒し……きれてなかった……?」


 と、ダークが会話に入って来た。


「それはない! あの時、貴方も魔導の力で支えられていたラフラカの城が崩れるとこを見た筈だ」

「それに……ダークは知らないかもしれないでガンスが、俺様達の目の前でルティナの精霊の力が消えたんでガンス」


 エリスとロクームが否定の言葉をダークに向ける。


「……じゃあ何故!?」

「「「………」」」


 二人と一体は、沈黙した。


「また戦うことになるのかルマー?」


 その中で、ユキが最初に口を開く。


「ああ……そうなるでガンスな。もしかしたら俺様らの不始末のせいかもしれないでガンス」


 と、答えるロクームの面持ちは重い。

 たぶんユキも同じだろう。ラフラカは倒した……筈なのに。と、そう感じずにはいられないユキ。


「……そうなる」


 エリスは、冷静に言葉を繋げた。


「ダーク、お前も協力するでガンス! 報酬云々無しで今度こそケリをつけるでガンスっ!!」

「……そのつもりだ!」

「これからどうするマー?」

「そうでガンスな……まずはフィックス城に向うでガンス」

「そうだな」

「……ああ」


 ロクームの言葉にエリスとダークも同意する。


「わかったルマー……それじゃあロクーム達は先に行っててくれルマー」

「ん? どうしたんでガンス? 来ないでガンスか?」

「違うルマー。暫く住処を後にするマー……同胞達がユキがいなくてもやって行けるようにするマー」

「そうか、わかったでガンス。フィックス城で待ってるでガンス」



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 こうしてロクーム達は道中野宿を挟みフィックス城に到着した。


「エドいるでガンスか?」


 フィックス城に到着するなり、ロクームが最初に謁見の間に向かった。それにエリスとダークが続く。

 ロクーム達が会おうとしているのは、この城の主、エドワード=フィックスだ。なかなかの美形で二枚目だと思う。ただ黙って(・・・)いればの話だ。と、内心エリスは思っていた。

 何故なら、彼は年齢問わず、全ての女性を口説くという癖があるからだ。本人曰くそれがレディに対する礼儀らしいが、エリスは実に不愉快だと思っている。


 そんなエドワードだが、いや精霊大戦初期になるので彼の父で、当時の王だったラインバレルと言うべきか。

 そのラインバレルは、ラフラカと同盟していた。一口に同盟って言ってしまうと、強い者に尻尾を振る弱者に思えるが、彼は違った。自国の民を守る為に同盟の道を選んだのだ。

 誰かの為なら、ヘコヘコ頭を下げる事も厭わない、潔い王としては素晴らしい人だった。その意思を現国王エドワードも継いでいる。その点だけは評価に値するとエリスは思っていた。


 そんな王だからこそなのか、ロクームやエリスは城門に立つ衛兵に顔パスで通してくれる。その連れって事でダークも素通りだ。

 仮に王が不在でも城に通してくれては、衛兵が付き纏う事なく、城の中を自由に歩ける。人の見る目が良いのか、ただの馬鹿なのか、他の城では考えられないものだ。

 実際それにより被害がないのは前者だからだろう……。


 そして、ラインバレルと当時王子だったエドワードは、そのラフラカと同盟している裏では、反乱軍組織に、この国から援助金やラフラカの情報を流していた。

 更に攻撃に転ずるチャンスが来たら、一気にラフラカに反旗を翻した。状況によって一気に行動を変えられる大胆差を持つ。

 また技師としても優秀で機械による武器等を発明し、自ら使いこなす事が可能な男だ。この開発した機械があったからこそ、反乱軍がラフラカ帝国に挑めるようになった。


 謁見の間ではエドが王座に腰掛け、此方に視線を向けてきた。


「ロクームか……ん? アークも一緒か」


 えっ!? アークって誰? と、首を傾げるロクームとエリス。


「ああ」


 答えたのはダークだ。

 何故?


「アーク? 何言ってるんだ? 彼はダークだ!!」


 すかさずエリスは声を張り上げた。


「……俺は、自分がダークだとは一言も言ってない」


「「えっ!?」」


 ロクームとエリスが目を剥く。

 確かにロクームとエリスは彼と再会して、彼は一言もダークだとは言ってない。でも何故? と、更に困惑するロクームとエリス。

 それでもエリスだけは、ずっと違和感は感じていた。度々ダークらしからぬ行動を取っていた。

 じゃあ本当に別人? でも、戦い方も覇気も完全にダークだ。わからない。と、エリスは其処まで思考する。


「ダークは、あの大戦後、死を選んだ……そして、此処にいるのはアークだ! それで良いじゃないか」


 エドは疑問に答えるかのような言葉を放ちウインクした。


「「……」」


 ロクームもエリスも言葉に詰まる。


「ふっ……」


 ただダークだけが薄く笑っていた。確かに今の彼をダークと見るのは違和感がある。

 とりあえずアークだと言うならアークで良いか。ダークだろうがアークだろうが、私にとっては、仲間だからそれ十分だ。と、エリスの方、悩むのを止めたようだ。


「それにしてもエリス。また一段と美しくな……ごふっ!」


 ぼふっ!っと、最後まで言い終わらないうちにエリスのボディーブローが綺麗に決まる。

 こういうとこが私は嫌だ。と、エリスは辟易していた。

 しかし、実はダークの話を誤魔化したのだ。そういう気遣いができる男である。尤も普段の口説き癖でそうは見られないが。


「まあな」


 エリスは最後まで聞いてもいないので、微笑を浮かべ軽くあしらう。

 まあ良いわ。


「それより大変でガンスっ!!」


 ロクームが本題を切り出す。


「魔法だろ?」


 何でも無いかのように言い放ち、お見通しのエド。


「「えっ!?」」

「……何故それを!?」


 ロクームとエリスが驚いて目を丸くしてると、アークが冷静に聞き返した。


「実はルティナが……」


 と、エドが何か言いかけるが……、


「お~い。大変だじゃ」


 老人の声によって遮られた。その老人の声が謁見の間に響く。どうやら新たな来客が来たようだ。

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