EP.10 やはりロクームとは反りが合いませんでした
さて現在位置は……? 地図もないし別世界と言う事あり分からんな。分かっているのは木々が生い茂る森の中と言う事だけ。
そこに俺、ナターシャ、エーコ、沙耶、ロクーム、エリスが放り出された。しかも暗い。月明かりしか光がない。
星々の世界で、夕方前に転移して貰ったのに、こっちでは夜だ。世界が違うと時間の流れも違うのだな。あー前にそんな感じの事を武が言ってた。
それにしてもエーコは、少し小さくなった程度で大きく違わない。大きく変わったのはBかCは有った胸がツルペタになかった事だな。
問題は沙耶だ。十六歳が八歳になった事で、一番身長が違う。あまり歳を変えすぎると本来の自分の体との齟齬が大きくなるからオススメしないと時の精霊に言われたのに。
事実、沙耶が一番動くのに苦労してるようだ。転びそうになりながら薙刀で体を支えていた。
「ところで沙耶、何でそんな小さくなったんだ?」
「私は精霊と契約で力を発揮するからね。魔力を上げたかったのよ」
「それなら十二歳とかその辺りで良くなかった?」
「……それはプライドかな?」
少し言い辛そうに語りエーコに視線を向ける。視線を向けられたエーコは首を傾げた。
「プライド?」
「エーコちゃんは八歳にしたのよ」
「それに合わせたと」
「そうよ」
「何でー?」
エーコに問われる。そりゃ聞きたくなるよな。
「エーコちゃんのが全然強いし、こんな事言われても気分良くないかもしれないけど、私のが年上なのよ」
「そうだねー」
「だから戦いとか無理でも、精神的な面で守りたかったのよ。例えば同じ歳になれば、同じ場所に二人でいけたりするかもしれないし、そこで私が表立って行動したりとかよ」
「なるほどな」
「サヤお姉ちゃん、ありがとー」
エーコが純真無垢な笑みを向ける。
「って言いながら魔力をガンガン上げたい。でも、弱いからエーコに守って貰おうとした沙耶でした」
「そうなっちゃうけど、違うわよっ!!」
俺が揶揄うと顔を真っ赤にし反論して来た。
「それで、これからどうするんだい?」
「近くの町に向かうぞ」
ナターシャに尋ねられ俺は即答する。
「何でお前が仕切ってるんでガンスか?」
なんか煩いの一人いるな。
「じゃあお前一人野宿すれば?」
俺のその言葉に皆はクスクス笑い出し、ロクームは顔を真っ赤にし出した。
「だねぇ。一人野宿すれば良いさぁ」
「そうだよー。ロクーム叔父ちゃんはそうしたいみたいだしー」
「だな。ロクームはそうしろ」
エリスまで揃って言い出した。
「てめぇ」
ロクームは八つ当たりすかのようにグラディウス二振りを抜き俺に斬り掛かって来た。
「前からてめぇが気にくわなかったでガンス」
「あっそ」
それに対し小刀一振りを抜き応戦。
ガキィィィィィィィィィィィンっ!!
甲高い音が響き、グラディウス二振りが弾き飛ばさる。
「鍛錬をサボってるからだ」
なんか野菜の王子様みたいな事を言ってしまった。
「クソ!」
その間、沙耶がオロオロしていたのが笑えた。
「それで町は何処にあるのよ?」
やがて落ち着き俺にそう問い掛けて来る。
俺はそれに答えず、森の木々の一番高そうな木に跳躍して登る。ふむ、近くに町は……。
木々から下り、俺はとある方角を指差す。
「あっちにあるな。距離的には二時間くらい歩いたとこだ」
「じゃあ行くさねぇ」
「しゅっぱーつ」
「流石はアークよ。じゃあ行きましょう」
「うむ。では、行こう」
そうして皆で町を目指す。一人を除いて……。
「あ、待つでガンス」
俺に負けて悪態を付きそのまま固まっていたロクームが慌てて弾き飛ばされたグラディウスを二振り拾い追い掛けて来た。
「皆して、そんな奴の言う通りにして文句ないんでガンスか!?」
まだ突っ掛かるか。ほんと前から、この二股クソ野郎とは反りが合わない。
「お前は自分の女に野宿しろと言うのか? そうしないといけない時もあるが、まずは拠点を見つけベッドで寝て貰いたいとは思わないのか?」
「ちっ! 町までだからでガンスな。町に行ったら好きにさせて貰うでガンス」
「勝手にしろ。と言う最初から好きにしろ。俺は別にお前と行動しようはどうしうが心底どうでも良い」
何故舌打ちまでされんといけんのかね。
「エリスもそれで良いでガンスか?」
「私は最初から、アークの指示に従ってるがな」
エリスは肩を竦める。ザマァァーー!!!
「…………んだよでガンス」
なんかぶつくさ言ってるな。
そうして町へ行く道中、八頭の狼っぽい群れに遭遇する。これは何だ? 動物か? それとも魔物?
魔物なら灰に変わるが動物なら倒しても死体が残る。故にあまり傷つけたくな。
そこまで考えると真っ先に俺は前に出る。
「グルゥゥガァァァ!」
八頭のうち一頭が俺に襲い掛かって来る。狼っぽい奴は、軽く飛び重力に従い落ちて来る時の力を利用し爪での攻撃の威力を上げようと言う腹積もりだな。
俺は、素早く数歩前に出ると同時に腰を低くし飛びあがった狼の真下を陣取った。
「ふんっ!」
小刀で心臓の辺りを一突き。前の世界と同じなら、ここが急所の心臓もしくは核の位置だろう。
突き刺すと小刀を素早く抜き更に前に出て返り血を浴びないようにした。
狼は重力に従いそのまま落ちると動かなくなった。灰にならないしやはり動物か。それならこいつらは使えるかも。
「皆、出来るだけ損傷を与えず倒してくれ」
俺の言葉に全員頷いてくれる。一人を除いて……。
「何でまたお前が仕切ってるでガンスか?」
「うん? 自信ないなら、そこで見てろ。って言うか好きにしろ。さっきも言っただろ? 耳無いのか?」
「んだとぉぉ!!」
ロクームは怒りに任せ走り出した。
「「<中位水流魔法>」」
エーコとエリスは水系魔法のウォーターボールを使い、その中に閉じ込め溺死させる気だ。
これなら傷一つ付かないな。しかも、エーコは二頭まとめてだ。やるな。
「<中位氷結魔法>」
水系魔法が使えないナターシャは中位氷結魔法を使い狼っぽい動物を凍らせる。
沙耶は、薙刀を上段で構え突っ込もうとしたが、転びそうになり下段に構え直し、待ちの姿勢に入ると……、
「はっ!」
一閃。首が落ちた。まあ一撃で仕留めているし十分だ。
さて、見ていないでもう一頭やるか。
「おーら!」
俺に牙を立てようとした狼の顎に一撃蹴りを入れると狼が浮き上がる。
「しっ!」
そうしてお腹が見えた瞬間、心臓もしくは核の辺りを小刀で一突きにして、はい終了っと。
≪レベルが上がりました。レベルが上がり。レベルが。レベレベレベ……≫
一回の戦闘でレベルが八もレベルが上がったな。だけどステータスは一も伸びない。
で、ロクームはっと……、
「は~」
思わず溜息が出てしまった。一体何回斬ったんだよ。損傷が酷いぞ。
「何か文句でもあるのでガンスか? この個体だけしぶとかったのでガンスよ!!」
言い訳が酷い。
「いや、別に」
いちいち突っ込んでも仕方ない。
「何でガンスか? その態度は……」
どないしろって言うねん。めんどくさい奴。
「じゃあこの狼っぽいのを持って町に向かって再び出発しようか」
もう無視して先に進む事にした。
「また仕切ってるでガンス」
「何度も言わせるな。お前は好きにしろ。マジで耳あるのか? いや、耳があってもそれを処理する頭が無いのか?」
「アークの悪い癖が出たさぁ」
「だねー」
「何でこんな仲悪いのよ?」
ナターシャとエーコがなんか呆れている。沙耶は首を傾げていた。
「ふざけんな! でガンス。何でお前にそこまで……」
「まあまあ。町までの間だろ?」
まだブツブツ言ってるがエリスが抑えているようだ。
そんな訳で町に付いた。そこは高い壁……外壁に囲まれており、入口には見張りの兵士みたいのが立っていた。
やはり星々の世界とは違うな。あっちの世界では見張りが立っていても素通りできた。しかし、此方はそうささせないと身構えている。
「なんか物々しいねー」
エーコがポツリ呟く。
「まずは俺が行くから待っててくれ」
そう言って俺は門番に近寄った。
「此処を通りたければ身分証明書を提示してください」
ゲームの王道にありそうな台詞だな。ない場合は金か?
「無い場合は?」
「2000ギル払って頂きます」
やっぱり。しかもギル? お金の単位も違うのだな。これだと手持ちの金では払えない。だが、これも想定していた。
「物で交換は可能ですか?」
そう言って荷物にしていた狼を一頭を降ろした。
「それは魔獣タイガーウルフ……」
タイガーウルフ? 虎なの? 狼なの? まあそれはともかく魔獣ね。魔物とは違うのかね。
「安く買い叩く形になりますが、構いませんか?」
「はい」
「町に入るのは六人で? 出来れば全員此方に来て頂けますか?」
「おーい全員来てくれ」
そう俺が叫ぶと全員近寄って来た。
「では六人ですと……そうですね。核が貫かれたタイガーウルフと首が離れたタイガーウルフの二頭でお通しできます」
俺と沙耶が仕留めたタイガーウルフね。俺は言われた通り二頭渡した。
「では、お通りください。メンサボの町にようこそ」
「ちなみに適切な場所に売りに行ったら、このタイガーウルフいくらになってたのです?」
「そうですね……この首の離れたタイガーウルフ一頭で10.000ギルくらいは行ってたかと」
六人で通行料12000ギルだったから、ほとんど一頭で通れたって事か。本当に安く買い叩かれたな。まあ良いけど。無事に町に入れた事だし。
「じゃあ最初に言った通りで俺達は此処ででガンス」
「好きにしろ」
ロクームが俺達と別れるようだ。どうでも良いけど。
「タイガーウルフってのを半分よこせでガンス」
「は?」
「二手に別れるから当然でガンス」
「運ぶのにケチ付けていたのに、よく抜け抜けと言えるね」
しかも半分とかがめつい。
「う、煩いでガンス。運んだんだから文句ないだろでガンス」
「しかも本来なら一頭で十分、妥協して一人頭一頭にすべきを半分ね。流石は自称冒険家のコソ泥」
「んだとぉぉぉ!! でガンス」
ロクームが激高し出す。
「まず、俺がタイガーウルフを持って行くべきだと判断した。そのお陰で町にも入れた。それに対する礼とかないの? そんな恥知らずは、コソ泥とどう違うの?」
「うぐっ!」
「そうだな。アークの言う通りだ。すまない。私から感謝する」
エリスの確りしてるな。ちゃんと頭下げて来たし。
「まあそれは半分以上どうでも良い事だけど、一番肝心な事を決めていないのに自分の分け前だけよこせとか、お前はクズだな」
「どう言う意味でガンスか」
「沙耶だよ」
「えっ!? 私?」
鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしているな。
「沙耶をどうするか話したか? 俺達と一緒に行くのか、お前達と一緒に行くのか、それともソロプレイするのか」
「「「「ソロプレイ? (でガンス)」」」」
沙耶以外が首を傾げる。おっとまた言葉が通じなかったか。
「一人行動だ。それを決めてないで、半分よこせとかお前は自分の事しか考えていないな。これじゃ娘を心配するエリスの気持ちも分かる。どうせ自分の事ばかりで、まともに娘の事なんて考えていないのだろ?」
「考えているでガンス」
「じゃあ沙耶は?」
「……たまたま失念していたでガンス」
良い訳が酷い。
「たまたまね。じゃ俺に指摘されて気付いただろ? なら真っ先に沙耶に謝るべきでは? それすら出来ないお前は口だけだ」
「だから何でテメェにそこまで言わないと行けないのでガンスか!?」
「俺、言ってる事間違ってるかな? 間違ってるならエリスから指摘受けると思うけど? お前みたいなクズと違うし」
「そうだな。言い方に問題はあるが、道理だ。全て筋が通っている」
「エリスまで、でガンスか!?」
「事実だ」
「って訳でお前達に渡すのは二頭だ」
「ちっ!」
「それで良い」
この後も一悶着。自分が仕留めたタイガーウルフを避けたりしていた。なので、『コイツだけしぶとかったんだろ? じゃあ上質なタイガーウルフかもな? それともまさかまさかアレは口だけだったのか? まあお前の実力ってそんなもんか』と馬鹿にしたように言い押し付けてやった。
それとエーコが自分が仕留めた一頭をあげていた。後で変な逆恨みをされたくないとかで。もう手遅れだと思うけど。
結局分け前半分になってしまったな。まあロクームがあんなふざけた態度じゃなきゃ俺も半分やっても良いとは思ってたけど。




