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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第十章 月光の世界へ (第二部 開始)
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EP.08 時の精霊から依頼をされました

「何だ、アークも来たのでガンスか」


 吐き捨てるようにロクームが言う。顔を会せて早々悪態か。変わらないな。

 まあ俺もこいつ嫌いだから良いんだけど。何せ女と見れば見境がないからな。

 エドもそうだが、エドの場合は口説きまくってるが紳士的過ぎるってだけだけどコイツは違う。

 それに比べコイツは、最初はルティナを口説きつつエリスも口説き、エリスが落ちたからエリスと一緒にいる二股クソ野郎だ。


「ロクーム、止めないか!」

「ちっ!」


 エリスが鋭い目付きで一喝すると舌打ちして黙ってしまう。


「揃ったな。では、サヤ頼む」


挿絵(By みてみん)


 エドがそう言って沙耶に促す。


「えっと、時の精霊を通じて星々から依頼が来たのだけど……」


 やっぱり時の精霊の件か。

 沙耶はこの世界の成り立ちから話し始めた。

 俺は星々とは、この星々の(スターライト)世界の神のような存在と俺は認識していた。

 だが、それはある意味で間違っていて、ある意味で正しかったようだ。尤も事前に星々の上に神々がいると時の精霊に聞いていたので、さほど驚かなかったけど。

 まず神は世界を創り、星々を創り、星々に世界を管理させた。そして星々は精霊を生み出し、厳密には精霊が世界を形作っている。

 まあ創世になると神が出て来てもおかしくないかもな。でも、創世の神って一柱じゃね? 時の精霊は『神々』って言葉を使っていた。複数いると思われるんだけど……まあ人間の俺にはどうでも良い事か。

 で、その神が創った世界がいくつかあり、その一つに異変が起きていると。このままでだと神が出張って滅ぼさないと収集付かなくなるとか。

 異変を放置すると他の世界にも影響が出るらしい。かといってなるべくなら滅ぼしたくないので、事態を納めて欲しいという依頼だ。


「面白そうでガンスね」

「ダメに決まっているだろ」


 ロクームは乗り気だったが、エリスがケツキックを入れて止める。


「どうしてでガンスか?」

「エスメルダはどうする?」


 エスメルダとは二人の子供の名前だ。今は二歳だったかな。


「そんなもんちょちょいと行って帰ってくれば良いでガンス」

「世界の異変がちょちょいとで済むか!」


 まさにそれだよな。ロクームは子供がいるとは思えない発言や行動が目立つんだよな。女しか頭にないのじゃないかと言いたくなる。だから尚更うざい。


《それは大丈夫だよ~》


 と、頭の中に直接声が響いた。この声は……。


「誰でガンス!?」


 ロクーム、エリス、エーコは辺りを見回すが誰もいない。前に俺はこの声の主と話した事があるが、姿を見せなかったので今回も声だけだろうと見回すなんて無駄な事をしなかった。たぶん同じく話した事のあるナターシャと沙耶も同じ考えだろう。エドも、もしかしたら沙耶と一緒に話したのかもしれない。

 ただ、今回は予想に反した。エドの左側で光が収束して行く。眩しくて目が眩む。

 やがて光が納まると、そこに10時10分差したアナログの丸時計。時針・分針がまるで眉毛のように、その下に点となってある目がある。

 それに手と足がにょきっと生えた不思議生物がいた。な~~んか顔無しドラ〇もんみたいのだが、これが……、


《やぁ。ボクは時の精霊だよ》


 やはり。


「で、何が大丈夫と言うのだ?」


 エリスがその鋭い目を細め、時の精霊を問いただす。


《簡単だよ~。此方に帰還する際にボクの力で、この世界の時間で帰還を明日辺りにするからさ~》

「どう言う意味だ?」


 エリスが睨み付けるように目が更に鋭くなった。しかし、時の精霊は気にした様子もなく続ける。


《つまり、あっちの世界で何年何十年過そうが、こっちの世界では一日しか経たないようにするって事さ~》

「そんな事、出来るのか?」

《ボクは時を司る精霊だよ~。さっきサヤが説明していたけど、精霊は世界を形作る。ボクの役目は、この世界の時を正常に進める事だよ~》

「この世界の時を進めるとは、どう言う事でガンスか? 止めたからって何があるのでガンスか?」


 相変わらずロクームはアホな事を言ってるな。そもそも話の趣旨を反らすなよ。


「時が進まないと言う事は、自然が育たず、そのままと言う事だ。我が大陸では貴重な天然の鉱石も育たなくなると言う事になる」


 察しの良いエドが答える。

 ぶっちゃけこの程度、理解して欲しいものだ。別の世界に行くとなると、世界の理がこの世界と違って来る。柔軟に物事を考えられないとやっていけないと思えるがな。


《そう言う事さ~》


 時の精霊がエドの言葉を肯定する。


「なるほど。なら、別の世界に行っても問題ないな」


 エリスは納得したようだ。


「ところで、報酬は何でガンス?」

《此方に帰還の際に持っていたものどうかな?》


 お~それってかなり凄いんじゃね? いや、相当美味しい。と、普通に考えればそう思う。だが、俺らからすれば大した事はないのだけど。

 何せ事前に時の精霊が礼としてくれると言ってくれた物のが美味しいからだ。収納魔法に入れた物全てだし。まあ収納魔法を習得出来るかまだ分からないので、保険にはなる報酬だな。


「は? その程度でガンスか?」


 ロクームが呆れたように嘆息する。馬鹿が! それがどれだけ凄いのか理解出来ないのか?

 仮にも大陸一の冒険家を名乗ってるのだろ? もっと柔軟な思考をするば、どれだけ美味しいか分かるだろ?


《その程度と言うけど~、この大陸では貴重な資源とかも持って帰れるんだよ~。例えばミスリルとかオリハルコンとかね。他にもこの大陸、しいてはこの世界にないものとかもね~》


 うんうん。そうだと思った。


「この大陸で資源不足だと言うのに他の世界で手に入るのでガンスか!?」


 ダメだ。頭硬すぎる。


「この大陸は、ラフラカが暴れたせいで資源不足んだよー。同じように誰かが暴れて荒廃していなければ問題無いって事じゃないのー?」


 エーコも口を挟む。エーコのがよっぽど頭柔らかいな。


「だな。で、どうするんだ? さっきは乗り気だったが行くのか? 報酬が気に入らないなら止めても良いんだぞ」


 エリスがロクームに問い掛ける。


「報酬は期待できないが、面白そうだしな。行ってみたいでガンス。エリスは、それで良いでガンスか?」

「私の心配はエスメルダだけだ。だが、それもこっちでは一日しか経っていないようにするなら悪くない」


 ダメだ。ロクームの奴、やっぱり理解していない。こんなんで大丈夫なのか?


《じゃあ別世界での注意点を説明して行くね~。まず死んだらどうしようもない》


 まあそうだな。それは全員理解してるようだし頷いている。


《今回の場合、三パターンだね~。一つ、死んで終わる。一つ、世界の異変を止められず、後味悪くその時に持っていたものを持って帰還。一つ、異変を止めて、数日の猶予期間内に持ち帰りたいものを手に入れ堂々と凱旋というとこかな~》


 なるほど。失敗しても報酬は貰えるのだ。悪くない。


《死ぬ可能性もあるけど行くかい?》


 時の精霊がもう一度確認するように皆を見渡す。


「俺様は死ぬつもりはないし、行くでガンス」

「ロクームが行くなら私も付き合おう」


 どうやらロクーム達は行くようだ。


「アークはどうするんだい?」


 ナターシャが問い掛けて来た。エーコもジーっとこちらを見て来る。何も死ぬ可能性があるから、俺に確認してる訳ではない。

 その可能性については、時の精霊に四ヶ月前に声を掛けられてから、そう言う事もあるだろうとも話し合っていた。

 で、話し合って最終的に依頼内容や条件等で決めようと先送りにしたのだが、時の精霊はそれを四ヶ月前と違い確りそれらを語った。

 ならば答えを出すべきだろう。


「資源不足を考えると行くべきだろうな」


 今後、資源不足がどう響くか分からない。とは言え、我が家で扱う資源は薬の材料くらいなものだろう。なんせナターシャは薬師、エーコはその弟子だしな。

 だが、今後どうなるか分からない。二人が作った薬以外でも稼げるようにしていても問題はないだろう。


「決まりだねー」

「だねぇ」


 二人も問題無いようだ。


「私も行くよ。元々私のとこに来た依頼だしね。それにもしかしたら地球に帰れる方法が見つかるかもしれない」


 どうやら沙耶も行くようだ。

 沙耶は精霊に好かれる体質をしているので、何体かの精霊と契約している。最近では土の精霊とも契約したと手紙に書いてあった。

 俺とか普通の者は精霊と契約すると魔法を使えるようになるだけだ。しかし、沙耶は精霊を顕現させられ、魔法をより遥かに強力で、応用力のある現象を起こせる。

 だが、精霊は世界の壁は越えられない。となると沙耶の本領は発揮出来ない。


《前も言ったけど、向こうの世界で新たなに精霊を見つけ契約しないとサヤの能力は十全に発揮できないよ~》

「分かってるよ」

《それと精霊の概念がこの世界と違うから気を付けてね~》

「分かったよ」


 なるほど事前に聞いていたのか。それに概念が違うか。やはり他の世界なら理が違うから、精霊の在り方も違うのだな。


「エドはどうするんだ?」


 俺はエドの動向が気になり水を向けた。


「私も行きたかったのだがな。命の危険もあると言う事で家臣に止められしまった」


 肩を竦ませ、大きく溜息を吐く。

 だろうな。王で尚且つ跡継ぎもいないなら止められるだろう。と言うか、さっさと妃を見付けろよ。

 だが、大体の流れはわかった。沙耶の下に依頼が来て、真っ先にエドに相談したのだろう。

 そしてエドは自分はいけない、かと言って沙耶一人では危険だと思い俺達を呼んだと言うわけだな。


《他にも注意点を説明していくね~。基本的には今とほとんど同じ力を発揮できるけど、あちらにはレベルという概念がある》

「レベルとは?」


 エリスが訝しげに聞き返す。


《強さを表す一つの概念だね~。これが上昇するとステータス……つまり、身体能力や魔力が上がる》

「なるほど」

《ただ此方の世界にはレベルという概念はない。よってレベル1からスタートする事になるけど、サヤ以外は、暫くステータスは上がり辛いと思ってた方が良いよ~》


 それはそうだろ。

 このダークの体は少なくても四年前までレベル100だった。――勿論MMMORPG FFOでの話だが――それがレベル1からになるとは言え、ステータスが普通に上がればチート過ぎる。


「何故でガンスか!?」


 ロクームが食って掛かるように言う。てか、精霊相手に良くこんな態度ばかり取るなこいつは。ロクームも精霊との契約で魔法という恩恵を受けてるだろうに……。

 時の精霊は、その態度を気にも留めず説明しだす。


《既に強過ぎる力を持ってるからだよ~》


 しかし、簡素に説明した為か納得出来ないでいた。だからと言ってレベルの概念を知らないロクーム、いや、他の全員にいくら説明しても分からないだろう。

 時の精霊も実際にあっちの世界に行ってから、自分で体験してくれと投げやりだ。そうしていくつか他にも注意点を説明して行った。


《じゃあ最後にボクの力で若返らせる事も出来るけどどうする? 個人差はあるけど幼少から十五歳に掛けて魔力が上がり易く、力とかは十五歳以降のが上がり易いよ~。それに若くないと潜入出来ない場所もあるしね~》


 力は分からないが、魔力が尤も上がる時期は幼少から十五歳辺りまでだと、MMMORPG FFOの公式には未発表だが考察廚の見解にあった。やはりそれは事実だったのか。時の精霊の発言により、それは確定した訳だな。

 潜入というのは学校とかの事かな? 教師として潜入する事もできるが教員免許とかめんどくさいのがありそうだし。

 俺も前に召喚させられた大陸で教師をやったけど、自らなろうとしたわけではなく、たまたまそうなっただけだしな。


「面白そうでガンスね。じゃあ俺様を若くしてくれでガンス」

「や、止めろ! わ、私達はそのままで良い」


 ロクームは乗り気だったが、エリスが泡を食ったように止めた。


「何故でガンスかぁ!?」

「余計な体力が付くだろ!」

「それの何が悪いのでガンスか!?」

「他のおん……いや、余計な体力が付けば無茶をするだろ?」

「ぅんん……確かに命の危険もあるでガンスからな」


 ロクームは低く唸り納得した。

 エリスは、今誤魔化しただろ? たぶん『余計な体力が付けば他の女に手を出しまくる』と思ったのだろうな。なんせ二股クソ野郎だしな。


 結果的に若返るのは俺、ナターシャ、エーコ、沙耶の四人となった。

 ちなみに俺とナターシャは十一歳若返り、俺は十九歳。この世界で自由に動けるようになった精神の年齢だ――十八の時にこの世界に来たが治療中で動けなかった――。よって思い入れがあるしな。

 ナターシャは十六歳だ。俺の肉体年齢より二歳若いので俺に合わせたのだろう。

 エーコと沙耶は、八歳となった。エーコはともかく沙耶は何故に八歳? まあどうでも良いけど。

 あまり若返り過ぎると齟齬が大きくなり過ぎて自分の体を上手く扱えなくなると言われたので、この年齢に留めたがエーコは、もっと若くしようか悩んでいた。

 まあ例えば五歳くらいになれば、今の年齢に戻った時にヤバいくらいに魔力が高まっただろうけど。エーコも、それを狙って年齢を下げたようだ。


 年齢を下げる組はそれぞれフィックス城の客室に向かう。何せ服が合わなくなったら、大変だしな。よってあっちの世界に行くのは、三時間後に決定した。

 全員準備が整ったら応接室に来るようにって事で解散した。ロクームとエリスは客室に行かず、そのまま応接室へ。

 俺も一応客室に行ったが体系が大きく変わるような年齢を下げ方ではないので、即座に応接室へ。ナターシャも同じだ。エーコが少し遅れてやって来た。

 大きく変わってないが、ミニスカートが膝上くらいになっている。太ももまでだったスパッツも膝まで来ていた。

 少し遅れて来たのは、スカートのゴムをきつめにしてたのかね……尤もスカートの構造なんて知らんけど。それとジャツが少しダボタボだ。大して気にしてる様子はない。


挿絵(By みてみん)


 そして最後に沙耶が時間ギリギリにやって来た。俺は目を丸くしてしまう。


「あれ? 着物変えたの? よく小さいのあったね」


 何せ沙耶が一番、今の年齢と下げた年齢にギャップがあるしな。かなり縮んでいた。身長160cmくらいあったのに、今は120cmくらいだ。なので、同じ柄の着物だが小さい。

 それと襷掛けをしており、背中に薙刀を背負っていた。まあ他の世界に行くのだし、武器を携行して来るのは当然だけど。


「縫い上げたのよ」

「え? って事は、糸を切れば大きくなっても着れるって事?」

「そうよ」


 俺はマジマジと見てしまう。縫い跡とかが特に目立たない。


「沙耶って器用なんだな。裁縫上手過ぎない?」

「そう? ありがとう。ミシンが無くて大変だったよ」


 そりゃそうだ。

 ってな訳で準備も終わったし他の世界に行く事になった。

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