EP.01 沙耶が塞ぎ込んでいました
ブクマありがとうございます
お待たせ致しました
第二部開始です
ユピテル大陸に帰って来るのに約二ヶ月、帰って来てから約四ヶ月半、季節二月になっていた。
今回はナターシャとエーコの誕生日を祝えて良かったと思う。尤もナターシャの誕生日の8月8日は、ルシファー大陸で迎えたので、デビルス国の復興の合間にあっちで祝った。
そんなある日、俺はフィックス城に訪れていた。と言うか、最近はなるべくフィックス領に向かう事になる仕事を選んでいる。そうして帰り、もしくは仕事前に寄るようにしていた。
城では、当然俺の顔を覚えられ、顔パスで通して貰える。なにせ此処は、エドの知り合いだと分かれば素通りさせてくれる変わった城だしな。
城の中をとある客室を目指して歩いているとエドに出くわす。
「やぁ、アーク。また来たのだね」
「相変わらずか?」
「そうだね」
エドは憂いを帯びる。残念な事に主語がなくても通じてしまう。
「最近は、たまに機械開発を手伝ってくれるんだがね」
「それはまた少しは前に進んでいるようだな」
「このまま機械開発をやってくれると助かるんだがね。彼女がいてくれると開発が進む」
「つまり、利用したいと?」
「いや、そうまで言わないさ。勿論そうなってくれたら此方も助かるが、やり甲斐を見付けて欲しいって事だ」
確かにそうだな。いつまでも引き籠っても腐って行くだけだ。元引き籠りが言うんだから間違い無い。
「ところで、まだアルは帰って来ないのか?」
「そうだね。アンナ嬢の修行の為に山に引き籠ったままだ」
こっちも引き籠りか。まあこっちは健全な引き籠りかもしれないが。
「女をいつまでも山に置いておくのもどうなんだろうな? 風呂とかたまには入りたいだろうに」
「私もそう思うよ。レディなんだから気を使えと言ったのだがね。川で水浴びをすれば良いと一蹴されてしまったよ」
苦笑を浮かべる。それはまたアルらしい事で。
俺は嫌らしく笑いエドを揶揄うように口を開く。
「って言いながら、弟が女と一緒にいるのに焼いてるんじゃね?」
「ははは……これでもそこまで裁量は小さくないつもりだがね」
揶揄ったのに朗らかに笑いやがって。
「そんな事を言ってると弟の方が先に嫁が出来るぞ」
「それは言わないでくれ」
再び苦笑を浮かべる。
「このままだとアルの子供が時期王かもな」
「それならそれで構わないさ」
構わないのかい!
「そういやアンナに王族体験させてやったのか? あいつ王族に憧れていたし」
「ああ、それなら此処に来て数日は、そうさせていた。まったく一部では、私の王妃候補だと騒ぎ立ててたのは参ったがね」
「楽しんでいたか?」
「直ぐに飽きてアルと修行に行ってしまった」
「なんだそれ」
俺まで苦笑してしまう。
「それじゃあ私は執務に戻る。アークもゆっくりして行くと良い」
「ああ」
エドと別れた俺は目的の客室に辿り着きノックした。
「……はい」
「入るぞ」
一言告げて客室に入る。
そこに壁の方をボーっと見詰める椅子に腰掛けた沙耶がいた。沙耶はチラっと俺を見るとまた壁の方を見る。
「……また来たのね」
「悪いか?」
「……別に」
前に会った時よりも更にやつれたな。
何でこんな状態なのかと言うと、ユピテル大陸に来て時の精霊と会ったのは良いが……、
《無理だね~。そもそも異世界転移とか出来るのは星々だから~》
って言われてしまったからだ。
沙耶は地球の日本に帰りたいとずっと思っていた。そして、一縷の望みに賭けてユピテル大陸にまで来て、ユピテル大陸の時の精霊にまで会った。
なのにその望みが絶たれてしまい塞ぎ込んでしまう。俺は放って置けなく、こうして度々足を運んでいる。エドも放って置けなくて城にいさせていた。
俺も椅子に腰掛け……、
「今回の仕事なんだけどさ……」
いつものように適当な話を振る。
「……………………」
「最近エーコがさ……」
次の話題を振る。
「でさ、こないだエドと会った時なんて……」
「……………………」
来る度にこんな感じだ。ズゲズゲ来る感じはどこに行ってしまったのやら。
俺もここまでスルーされ続けると少し頭に来るな。皆、心配してるのにこの調子だしな。
そう思い沙耶を抱きかかえた。
「え?」
沙耶は目を丸くするが、それも一瞬の事。
俺はベッドに放り投げると、上に跨った。
「今のお前、簡単に犯せそうだな」
俺から目を逸らし、やはり壁の方をジーっと見る。
「本当にヤっちまうぞ」
「……好きにすれば良いよ」
マジで言ってるのか?
「こう言う話題になるとギャースカ言っていたお前が、ずいぶん大人しくなったな」
「……………………」
「おーい。聞いてるか?」
「……だから、好きにすれば良いよ。もうどうでも良いよ」
ムギュと頬を掴み俺の方を見させる。
「人と話す時は相手を見ろよ」
「……………………」
虚ろな目で俺を見ている。いや、見てないな。視界には入ってるが脳に確り刻まれていない。
「お前いい加減にしろよ! どれだけの人を心配にさせれば良いんだ?」
「……………………」
「おいブス! 何か言えよ」
「……私なんか放って置けば良いじゃないのよ」
「放って置けるなら、エドもいつまでも客室を与えていないだろ」
「……………………」
「胡春は新しい生き方を見付けたってのに情けない奴だな」
沙耶の黒い瞳が一瞬揺らぐ。
「お前、薙刀を……武術を嗜んでいたって事は心身共に鍛えていたんじゃないのか? それともお前のアレは見せ掛けだったのか」
「……さ……よ」
何かボソボソ言ってるな。
「え? 何だって!?」
「……煩いよ!」
多少は目に生気が宿り俺を睨み付けて来た。
「実際お前の薙刀の腕なんて大した事なかったな。心が伴ってなかったんだな。おだてれば少しはマシになるかと思ったけど見込み違いだったか」
「だから煩いよっ!!」
「事実だろ? 今、醜態を晒してるじゃんか」
沙耶の瞳から涙が零れる。
「……だって帰れないのよ」
「そうだな」
俺が頬から手を離してやると、俺の下から這い出て上半身を起こす。
「……もうお父さんにもお母さんにもお祖母ちゃんにも会えないのよ」
一度涙腺が決壊したら止まらない。次々に溢れてた。
俺はそっと沙耶の頭を抱き締め胸元に引き寄せる。
「そうだな」
「ぅぅぅ……あっちに……残して、来た、友達も……いたんだよ」
「そうだな」
そうして暫く俺の胸の中で泣き続けた。




