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EP.42 エピローグ

 ハルファスを倒してから二月が過ぎる。戦後処理や復興等に時間を費やしたのだ。まだまだやる事があるのだが、今日はそろそろ式典をやらないとクロセリスは、判断した。

 今は、デビルス国王城のクロセリスの部屋にアークと二人っきりでいる。次の日、アークはユピテル大陸に帰ると知り、この日に時間を作った。


「アーク、今までありがとうございます」

「成り行きだ」


 そう言うアークは、クロセリスの胸元に視線が集中していた。

 なにせ式典なので、ドレスを着込でいる。ピンクを基調としたドレスで水色髪に良く映える美しいドレスだ。しかし問題はそこではない。胸元が開いており、クロセリスの大きな谷間がくっきり見えていた。


「………………どこを見ていらっしゃるのですか?」

「胸元ですが?」

「ふふふ……相変わらずですね」


 ニコやかに微笑む。目が笑っていないなんて事はなく本当にニコやかにだ。しかし、直ぐにスネた顔になり、不満を漏らす。


「でも、大きくなりませんね」

「………………前からだろ?」


 目を逸らすアーク。


「相手する女性が迎えに来た瞬間にそれですか?」

「ソ、ソンナコトナイヨー」

「最後に触りますか? なんならベッドもありますから抱いて頂いても構いませんよ? それがアークに対するお礼になるのでしたら喜んで」


 再びニコやかに笑う。いや、若干揶揄い混りだ。


「はい?」

「今、想像しましたね?」


 口元を抑えクスクス笑う。


「そ、そんな事あるか!? 俺にはナターシャがいるんだぞ」

「でも、大きくなりましたよ?」

「うっ!」


 アークが顔を赤くする。さっきまで大人しくしていた息子が、少しだけ期待し覚醒してしまったのだから。


「良かったですわ。もうわたくしなんか興味無いのかと思いました」

「それはない! ナターシャに及ばないが良い乳だ。ナターシャに及ばないが」


 実際ナターシャよりワンサイズ小さい。

 尤もまだ十六歳なので、今後はどうなるか分からないし、ナターシャもアークが散々揉んだのでワンサイズ上がっただけの事なのだが。


「それは良かったですわ。ナターシャさん及ばないとか二度も言わないで欲しかったですが」

「事実だからな」

「それでは最後に触りますか?」


 そう言って態と胸元を下ろし完全に見せる。なんだかんだ言ってアークに初めて見せるので、クロセリスとしても恥ずかしくて顔を真っ赤にしたいとこだが、感情抑制をして耐えていた。


「誘ってるのか?」


 丸見えになった胸をガン見しながら、少し底冷えするような声音で言う。前の事があったので少しイラっと来ているのだ。


「えぇ。誘っております。これしかお礼が思い浮かばないので。なんなら、あの時の台詞をもう一度申し上げましょうか?」

「そしてまた俺をキレさすのか?」

「それはないでしょう。あの時とは、この胸にある想いは違いますから」


 そう言って両手を胸元に添える。


「は~~~~。クロセリス、変わったな」


 溜息と共に体を弛緩させ、底冷えする声音から脱力したものに変わる。尤も息子は硬いままだが。


「お陰様で」

「ついでだから下も見せてよ」

「良いですわよ。後ろのファスナーを下ろしてください。これ自分じゃ脱げませんわ」


 そう言って背中を見せる。一人で脱げないと言うのは事実だが、それよりも顔を見られたくなかった。

 いくら感情抑制出来ると言っても限度がある。下を見せて欲しいご言われて平然と出来る筈もなく、顔をほんのり赤くしていた。


「そんなのスカート捲った方が速いだろ? いや、どうせなら一人でシてるとこを見せてくれよ」


 その言葉で、素面に戻りアークを睨み付ける。


「揶揄っておられるのですね? 前々から思ってたのですが、アークって自分から何も出来ない小心者なのではないのですか? 口説いた事もないビビりだと自分で仰っていましたし。どうせナターシャさんから最初させてたのでしょう? 殿方として甲斐が無いにも程があります」


 全部図星だ。図星を付かれアークはイラっと来てクロセリスをベッドに押し倒す。


「キャっ!」


 可愛らしい悲鳴を上げるが、ベッドに倒れた後、腕をアークの首に回す。


「どうぞお好きにしてください」


 流石にクロセリスも観念し真っ赤になった顔を見せアークを見据える。


「なーーんてな」


 クロセリスの腕を払い、クロセリスから離れる。


「やはり小心者ですね」

「そうだね。それもあるしガキには興味無い」

「の割には硬いままですよ? 押し倒した際に、わたくしの足に当たりビクンとなっておられましたよ?」

「う、煩い!」


 顔を真っ赤にさせるアーク。


「ふふふ……」


 そんなアークを見て再び微笑む。


「ただ、まぁ一つだけクロセリスを褒めてやるとするなら……」

「何です?」

「先がナターシャより綺麗だな。若いのもあるし、誰にもイジられていなからだろうな」


 そう言われた瞬間ボンっと更に顔を赤くし、耳や首筋まで赤くなった。


「そ、それは……ありがとうございます?」


 褒められているのかな? 揶揄われているのかな? と、疑問に思いつつ礼を言う。

 それに褒められて嬉しいやら、恥ずかしいやらで感情がぐちゃぐちゃになりそうだった。


「それより、ドレス直せ。いつまで俺を誘っている? お前自身ヤりたいなら、考えてやるけど、礼とかくだらない事だったら、さっさとしまえ」

「分かりましたわ。ちなみにもしアークと本気で伽をしたいと申し上げたらどうなさいました?」


 そう言いながら、下ろしたドレスを元に戻し丸見えだった乳房を隠す。


「日を改めさせ、もっと俺が気に入る服装にして貰う。それとナターシャを説得して貰う。そしたら一日中、その胸をイジり倒す」

「魅力的な話ですが、ナターシャさんの説得は無理そうですね」

「で、結局何で俺を呼んだ? 式典前だってのに俺を誘うだけか?」

「いえ、こんなのでお礼になるなら、好きにしてくださっても良かったのですが、本題はこれからですね」


 そう言ってクロセリスは、スっと顔を素面に戻す。そう言うとこは目を見張るなとアークは思う。


「何だ?」

「アークは、明日お帰りになるのですよね?」

「ああ」


 クロセリスは深呼吸し、今までにない程の真剣な顔で、黄色の双眸にアークを収めながら……、


「では、このクロセリス=リリム=デビルス。王女としての最後のお役目を見届けてください」

「それは……」


 クロセリスは、自分の人差し指をスっとアークの唇に当て黙らせる。


「仰りたい事は分かります。またフローラに戻り、アークに着いて行くなんて言いだすんじゃないか、ですよね? 答えは否です」


 そう言うと人差し指を離す。


「なら、何だ?」

「何も聞かず、最後まで見届けて欲しいのですわ。お願い致します」


 真剣な顔のまま続け頭を下げる。


「……分かった」


 アークが答えると頭を上げふんわり笑う。


「良かったですわ。アークには見届けて欲しいと思っておりました。それとこれが正真正銘最後に致しますので、その胸をお貸しして頂けますか?」

「ああ」


 そう言うとクロセリスは、アークの胸に飛び込み泣き始める。


「ぅぅぅ……」

「やれやれ。最後まで泣き虫だな」


 飽きれながらも頭を撫でる。


「アークがボクをそうさせたんだからねぇ」

「またボクっ娘かよ! 結局ボクっ娘に戻ってるじゃねぇか」

「ボクっ娘にはなるけどぉ、アークには着いて行かないから安心して」

「自分で、完全に認めちゃったよ」

「もうボクっ娘でも良いよぉ。ぅぅぅ……」


 再び泣き始める。


「ボク……、ボク……、」

「ボクボクって、またサメのトロ軟骨でも食いたいのか?」

「アークなら食べても良いかもとは思ってるかなぁ」

「ルドリスでも食ってろ」


 ペッシーンっ! と強烈なビンタが炸裂し再びアークの胸に顔を埋める。あまりにも早業でアークは目を白黒させた。なにせアークの胸から顔を離し、ビンタをし再び胸に埋める一連に行動が一瞬だったのだから。


「そこで他の男の人の名前出すとか、いくらなんでも最低だよぉ」

「最低はどっちだ?」

「そうだねぇ。ボクはアークを好きじゃなかった」

「そうだな」


 そう言って優しくクロセリスの頭を撫でる。


「むしろ嫌いだった。大っっっ嫌いだった!!」

「おい!」

「最初は嫌いだったよ。だって胸ばかり見て来て気持ち悪かったんだもん」

「生乳見せ付けて誘って来た奴が良く言うぜ」

「うっ!」


 クロセリスは耳まで真っ赤にさせた。ボクっ娘モードの時は感情抑制なんて滅多にしないからだ。


「ともかく、好きじゃなかったんだ」

「あ、誤魔化した」

「良いから聞いてよぉ」

「はいはい」

「好きなんかじゃかった」

「分かってる」


 クロセリスは顔を上げ、下からアークの顔を覗き込む。


「でも、やっぱり好きなんだぁ。親愛と言う意味だったけど」

「俺もそうだな。家政婦にした最初の頃は、汚い部屋だしメシは吐きそうな程に不味いし」

「それ今言う? ボク、頑張ったんだよぉ?」


 クロセリスは、頬を膨らます。


「だけど、一生懸命で少しずつ出来るようなって行った。それがとても愛おしかった」

「そうだったのぉ?」

「だから、子供がいたらこんな感じなのかなって、娘のように可愛がり出した。そう言う意味では好きだったぞ」

「うん」

「エーコには負けるけど」

「だから余計な一言を言うなぁぁぁ!!!!!!」

「ははは……」


 久々にクロセリスの絶叫を聞きアークは笑ってしまう。

 そうして暫くアークの胸の中にいたクロセリスは、アークから離れる。


「ありがとうございました。わたくしの中で一区切り付ける式典前に勇気を頂けました」


 そこにはもうフローラの顔はない。クロセリスの顔に完全に戻っていた。そんなクロセリスを見てアークは揶揄うように笑う。


「本当は抱かれて勇気を貰いたかったんじゃない?」

「それは考えておりませんでしたが、それも悪くありませんわね」

「と言うか、そもそもお前さ、ふざけんなよ!」

「えっ!? 突然なんです?」


 アークがいきなり怒り始めてクロセリスが目をパチクリさせる。


「何でナターシャに先に根回ししてないんだ?」

「え? え?」

「でもって、式典一時間前とかに誘って来るんだ? 一日中時間がある時に誘って来いよ」

「ナターシャさんを説得するのは難しいと思いますけど?」

「それでもやれるだけやれよ。そしたら心置きなく手を出せたのに。あ~あ、生乳だけ見せて生殺しするとか、どこまでも残念女だ! お礼じゃなくて、完全に恩を仇で返してるよな」

「あ~~申し訳ございません。そこまで頭が回っておりませんでした」


 慌てて必至に頭を下げる。 


「この悪女が!」

「はい、それは十分承知しております。ですが、更に罪を犯してしまいました。アーク、本当に申し訳ございません」

「まあクロセリスが、どっか抜けてるとこがあるのは分かっていたけどな」

「返す言葉もありません」

「デビルスから逃げる馬車で食料がなかったりとかさ」

「えっ!? そんな古い話を持ち出さないでくださいよ」

「あれ? 返す言葉も無いんじゃないの? 返してるじゃん」

「アーク、最後まで酷いのではありませんか?」

「家政婦やっても話にならない程に、ダメダメだし」

「ですから、わたくしなりに頑張らせて頂いたと……」

「魔法は使えても、動きが悪くて戦闘ではお話にならないし」

「そうでしたが、アークに言われたメニューをこなしたでしょう?」

「好きだとか言いながら、全然そんな事ないし」

「ですから、何度もお詫びしたでしょう?」

「やっぱお前は乳しか価値がないな」

「どこまでも失礼ですね」

「実際そうだろ? 顔だけで言えばスーリヤやアンナに劣る。ぶっちゃけ胡春と良い勝負だ」

「それはそれでコハルさんに失礼じゃないですか?」

「あっちは別の面で、お前より上だから良いんだよ。だが、お前は胸だけだろ?」

「本当にそればかりですね!」

「そんなに誰にも触られた事のない、穢れを知らない乳だって自慢したかったのか?」

「その胸をじっとり見詰めていたのは誰ですか?」

「俺だけど文句ある?」

「文句しかございません。そもそもアークは、破廉恥な事が頭の八割は締めているんですよ」

「八割とか失礼だな。淫魔が」

「淫魔とは何です!? なら、アークは女性を胸だけでしか判断しない困ったお方じゃないですか!!」

「は~? は~? 他でも判断してます~~。胸だけならお前より胡春のが上とか言いません~~」


 と、気付けば罵詈雑言の言い合いをしていた。

 ちなみにだが、アークの中の身勝手な格付けでは、顔だけを見た場合スーリヤが一番に来る。次にアイナと沙耶、そして一番下がクロセリスと胡春だ。

 と、勝手なCクラスの格付けをしているアークだが、胸だけはクロセリスが文句無しで一番なので、視線はそこばかりに行ってたのも事実だ。もしクロセリスがいなかったらアンナが餌食になっていただろうが。

 尚、この罵詈雑言の言い合いは、この後も暫く続く。


「一体わたくし達は何をしているのでございましょう」


 途中で我に返り、げんなりと呟くクロセリス。


「それは大っっっ嫌いな俺への侮辱だろ?」

「ですから、それは最初だけで……ってもう止めませんか?」

「そうだな。こんな生殺しをするような、最低最悪の女を相手にするだけ時間の無駄だな」

「それはお詫びしようもないですが、いつまでもわたくしをイジめて楽しいのでしょうか?」

「うん」

「は~~~。式典前に疲れましたわ」


 クロセリスが大きな溜息を付く。


「だが、肩の力が抜けたようだ」

「抜き方が相変わらず最悪ですわ」

「それだけクロセリスを可愛がってんだろ?」

「……そう言われて、わたくしが喜ぶと思っているのですか?」

「実際喜んでるだろ?」

「えぇ。そうですわね。喜びますよ。わたくしもアークとのこういうやり取り嫌いじゃありませんでしたから」

「さっきも生き生きとしていたし」

「何でもお見通しですね」

「そうでもないけどな」


 アークは肩を竦める。


「残りは三十分もありませんね。ここまでにしましょう。式典の為に気を静めたいですわ。このままですと式典でのお言葉を忘れてしまいそうです」

「ちゃんと見届けるからな」

「はい。お願い致します。アークには是非見ていて欲しいので」

「ああ」


 そう言ってアークはクロセリスの部屋を出て行った。


「あははははは……………ボクは何をやってるんだろう」


 一人残った部屋で、先程の事を思い出し大笑いした。それこそアークに見せた事のないような大笑いだ。そして笑いながら、泣いていた。


「アーク、バイバイ。これでお別れだね」


 やがて式典が開始される。式典の内容は極一部しか知らない。当然アークもそれは知らなかった。

 クロセリスは、城の中庭が見渡せるバルコニーに立つ。城の中庭には多くの住民が押し寄せて来ていた。

 デビルス国の住民もクロセリスから大事な話があるとしか聞かされていない。

 クロセリスは、そんな民達一人一人を見るかのように見渡すと深呼吸をし……、


「皆様、こんにちわ。クロセリス=リリム=デビルスですわ。本日はお集まり頂きありがとうございます」


 そう言ってスカートの端を掴み頭を下げる。

 その声は、魔道具の拡声器を使い町中に届いていた。

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