EP.40 最強の牙を繰り出しました
『さあ羽虫よ、第三ラウ……』
「うっさいわ!」
言わせないよ?
何、人の真似してるんだよ、フリ〇ザさんもどきが!
クソ虫魔王がパっと消える。ちっ! またかよ。あいつ気配を感じないから、対処に困るんだよな。
「くっ!」
突然、横から現れのが視界の端に映り下がる。が、右腕を振られ、躱しきれず右腕を斬られた。鮮血が飛ぶ。
そして、また消える。
「ぐっ!」
再び現れ右腕を振られ左脇腹から鮮血を散らす。
気配を感じないと避けようがない。両方掠り傷程度だが、確実に出血多量に陥っていく。
それにいつ致命傷になる傷を負うか分からない。
《何やってるのさ~。あんな単純な攻撃を避けなよ~》
横でメラがやれやれと天を仰いでいる。
「気配を感じないんだよ!」
《気配じゃなく魔力を感じるんだよ~》
魔力……だと? そんなのエーコじゃなきゃ無理だ。
《君の考えている事は分かるよ~。魔力を探るには卓越した魔導士にしか無理だって良いたいんだろ~?》
その通りだ。
《でも、それは探る《・・》だよ~。魔力の……右だ!》
話の途中で、急に鋭く声を発する。瞬間、反射的に両小刀を突き出した。
カーンっ!
ギリギリでクソ虫魔王の攻撃を防ぐ。
「ほ~。今度は防いだか」
そう呟き再び消える。いや、違う。今、気付いたがあれは消えているのではない。高速で動いているのだ。
少しの間だけだが、目で追えた。
《続きだけど~、魔力を探るのは卓越した魔導士にしか難しいだろうね~。でも魔力の揺らぎを感じるのはキミにもできるよ~。闘気の揺らぎ感じる気配察知と同じようにね~》
簡単に言ってくれる。
《これは卓越した魔導士じゃなくても魔法をかじっていれば可能だよ~。次、後ろ!》
またもや話してる途中で声が鋭くなる。
「ぐはっ!」
咄嗟に避けようとするが。間に合わず背中をバッサリ斬られる。
「ちぃぃぃ!」
振り向きざまに斬り掛かる。
スッパーンっ!
クソ虫魔王の右腕が飛ぶ。
『羽虫めが!』
左手を振るい俺を凍らせる。それを足先から始まり、下半身、上半身と凍結が進む。
って言うかやっと炎系以外使ったな。
「炎!」
《はいよ~》
それをメラが溶かしてくれる。しかし、その隙にクソ虫魔王の腕が再生していた。
『貴様のそれはなんなのだ? 魔力は封じた筈』
クソ虫が吠えているな。だが無視。教えてやる程、こちらには余裕はない。
無言で間合いを詰め斬り掛かる。
『鬱陶しいわ!』
「ぎゃぁぁぁぁ!」
次は雷系かよ。全身が痺れる。
「うっ……い、やし」
麻痺して痺れていたが、なんとか声を発する。
《分かったんやけん》
即座にティカルが応えてくれて雷によるダメージを回復してくれた。
ついでに右腕、左脇腹、背中の傷も癒える。
《下!》
メラの声が鋭く響く。まだ少し痺れているが、なんとか体を動かし咄嗟に後方に回避。
目の前で上昇するクソ虫魔王が視界に入る。
《ボクがアシストするから~、魔力の揺らぎを感じるコツをさっさと掴みなよ~》
簡単に言ってくれる。
《上!》
俺はメラの言葉に従い。クソ虫魔王の攻撃を躱す。
しかし、完全に躱せない時もあり、腕、足、腰など鮮血を散らしていく。掠り傷なのでティカルに回復して貰う程度ではないが。
魔力の揺らぎを感じるスキル……魔力察知とで呼ぼうか。それを早くモノにしないとな。
《良いかい? 闘気と魔力を置き換えただけなんだよ~。多かれ少なかれ生物は魔力を持つ。生物が動けば必ず魔力に揺らぎが空間に生じる。闘気の揺らぎが生じるようにね~》
メラがこうしてレクチャーしてくれながら、クソ虫魔王の居場所を教えてくれる。
正直言葉だけじゃ分からない。だが度々攻撃を受ける事で、徐々に分かってきた。体で覚えて行ってるのだろうな。
《右!》
『羽虫が~』
クソ虫魔王が雷系魔法を発してくる。ちっ! 面倒な。
雷だと炎で相殺出来ない。かといってアネモイの風で散らすなんてもの無理だ。
沙耶が雷の精霊に嫌われたのが痛いな。まあここで文句を言っても仕方ないか。
なら、自分で対処するしかない。俺には武から貰った小刀があるしな。
「はっ!」
左手に持つ、柄も鍔も刀身も白い光陽ノ影を突き出す。
本当は勝ち筋が見えるまで闘気を温存させておきたかったが、そうも言ってられない。
シュインっ!
光陽ノ影は、守りに特化した小刀。闘気を籠めればバリアを張ってくれる。
それにより雷を防いだ。
《まずいよ~。恐らくだけど、そろそろ今の魔力に馴染む頃合いだよ~》
いや、全然まずそうに聞こえないんだけど気のせいかな? 気のせいだよね?
って馴染む? 第三形態になるのかよ。エーリアン型ですか? まあエーリアン型とは限らないけど。
やっと魔力察知のコツを掴めて来たのに、またパワーアップなんてされたら堪ったもんじゃない。
そろそろ蹴りを付けないとな……。
『小癪な武器を使いおってー』
クソ虫魔王がそう叫び右から迫る。魔力察知のコツを掴んだので、それは直ぐに分かるのだが……それ以前の問題で叫ぶか?
バレバレだろうが。何で俺は、ヒョイと躱す。
『な、何っ!?』
驚きに目を見開く。自分で居場所教えておいて何驚いてるのかな? このクソ虫魔王は馬鹿なのか?
やはり元々力がなかった奴が急に強大な力を手に入れて振り回されているだけだな。
右、下、右、上と迫り来るが、もう完全に魔力察知を掴んだ俺は全て攻撃を躱す。
「癒し! 全回復してくれ」
《分かったんやけん》
ティカルが今まで傷付いた体を全回復してくれる。掠り傷程度だが、ここから攻勢に出るのだ。万全にしないとな。
次は左から来る。
『な、何っ!? どこに行った?』
もう俺はそこにいない。逆に奴の後ろを取った。アネモイの風の力で空を飛ぶのにも慣れたしな。
プッシューンっ!
『ぐはっ!』
背中を両小刀でザックリ斬ってやる。
『その程度無駄だと分からぬか』
再びクソ虫魔王が消える。と言うより超スピードで、その場からいなくなった。
と言うか、超スピードって俺の十八番なんだけどな。それ取られているとか、かなりイラっと来るわ~。
「しぃっ!」
はい右。避けると同時に斬り咲く。
『おのれぇぇぇ羽虫がーっ!』
後ろからクソ虫魔王が禍々しい特大なメラ型炎を飛ばす。また炎かよ。
気配察知も出来ないくせに懲りずに巨大な炎。怒りで攻撃が単純化して来てるな。
せっかく氷やら雷やらを使うようになったのに馬鹿な奴。
「風!」
《任せろ!》
アネモイが突風を起こし跳ね返してくれる。
『同じ手が通用するかー』
クソ虫魔王は跳ね返した炎を上昇して躱す。
巨大なメラ型炎を囮に後ろに回り込んでいたので、クソ虫魔王が上昇すると同時にヒョイっと後ろに周り俺も上昇した。
「おらおらおらおら……」
そして再び後ろから滅多切り。やがてクソ虫魔王が闇色に輝き出す。
「おーらぁ!」
今度は突風で吹き飛ばされないように蹴り飛ばし距離を空ける。
闇色に輝きが増して行く。遂に来たか。第三形態への移行……。
『ふはははは……再び馴染んで来たわ!』
クソ虫魔王の高笑いが響く。ここは変身完了まで待つのがお約束。
それはヒーロー、悪役に限らずだ。
だが、そんな事は知るかーーーー!!
俺はフラグクラッシャーだぁぁあああアアッッ!!!!!
「炎っ!」
《ちゃんと制御しなよ~》
「ぐぉぉぉぉ……っ!」
メラが全力の炎を両小刀に乗せてくれるが、精霊の全力だけはあり御しきれない。
だが、完全に御している余裕はない。これを残り全ての闘気を乗せてぶっ放す。
「< 双 竜 の 牙 ッ ッ !! >」
御しきれず両腕が燃えようがぶっ放した。
右小刀からは黒い竜が、左の小刀から白い竜が飛び出す。その双竜は巻き付きながらクソ虫魔王に迫る。
『な、何だぁぁぁぁーっ!!』
双竜はクソ虫魔王に喰らい付き焼き尽くして行く。
『ま、まさか……この我がぁぁぁぁっ!!』
断末魔の叫びと共に消し炭となった。
「……終わった」
メラに全力の炎を要求した為に沙耶の魔力が尽きたのだろう。精霊達は一斉に消えてしまう。
加えて全闘気を吐き出してしまったのだ。意識を失いながら、俺は落下して行った……。




