EP.38 エーコの付与防御魔法が貫かれました
エーコ達に任せて来たが大丈夫だろうか? 元の世界でグリフォンって呼ばれていた幻獣だろ。
この世界ではただの合成魔物って事にされている。見掛け倒しなら良いけど。いや、気配から言ってそれはないだろう。
それに上位魔法を使い過ぎて魔力も残っているのか? まぁ本来ならムサシと切り込む予定だったけど、ムサシは二人の傍にいる。それなら深く考える必要はないのか?
それよりもこっちだな。ルティナが向かった異形の化物の本体とやらがいる。それを俺が一人で倒さないといけないんだから。
って言うか、歴史改変の時もゾウの時も、何故俺一人になるかな? 今回も死にそうになるんだろうな。
城の中を謁見の間に向かって走りながら、げんなりしてしまう。
『来たか……我が自ら……』
問答無用!
「<下位稲妻魔法>……<サンダー・クロス・ファングぅぅぅっ!>」
謁見の間に到着早々魔法剣を放つ。
事前に小刀に下位稲妻魔法を纏わせ、初手で俺の最強のX字で飛ばす闘気剣との合わせ技を繰り出した。
雷を帯びたX字の斬撃は、吸い込まれるようにハルファスに向かって行く。
『ぐはっ!』
X字に腹部が斬れる。そこで俺は奴の姿を見た。宙に浮いている。顔が青い。
角も生えている。20度くらいの角度で真っ直ぐ伸びた30cmくらいの角だ。これが魔王か。
こんなキモくなるのによくなる気になったな。服は全身を覆うマントだ。
腹部の部分はX字に斬れたが中が見えない。どこまでも闇だ。これでは、ダメージを与えたのか分からないな。
『いきなり攻撃するとは、どこまでもふざけた奴だな』
「ふざけた奴? 勝手に召喚したクソ虫には、言われたくないな」
深手を負った様子はない。なら会話しながら、相手の弱点を探るか。
それにしてもこいつの言葉はエコーがかかってるな。魔王としての威厳とかで、そんな事してるのか?
ちょっと聞き取り辛いから止めて欲しい。
『クソ虫だと? 我は魔王であるぞ』
「お前馬鹿なの? 魔王だろうが大王だろうが、勝手に呼ばれた者からすればクソ虫だ。そんな事も分からんのか? 魔の王が聞いて呆れる」
ここまで挑発したのだから、激昂して突っ込んで来て欲しいな。そうすれば思うツボなのに。
怒りで我を忘れた者は、動きが単調になる。それに弱点が露見し易い。
『魔王の配下として世界を自分の者になるのだぞ! むしろ召喚された事に感謝しろ』
こいつ、キレるどころか開き直ってるぞ。ちっ! こりゃ面倒だ。
「それが迷惑なんだよ、クソ虫。誰がそんな事を頼んだ?」
『こちらに呼べば頼むのは貴様らの方だった』
マジで言ってるの? んな訳ないじゃん。
『現にレンジ達は、意のままだった。だが、貴様のせいで全て狂った』
人のせいにするなよ。
『貴様何なのだ? 力を隠し我が国を潰す計画立てていたのか?』
は? なんか見当違いの事を言ってるな。
「何言ってるの? 力なんて隠してないぞ」
『なら今までの事は何だ?』
「何か勘違いしていない? 実際に召喚された時に俺は能力を得られなかった。今も得ていない。それは最初に自己申告したぞ。隠してないだろ?」
『なら、その力はどう説明を付ける?』
こいつも他の勇者連中と一緒で、常識外は全て能力と思ってるのか? アホ過ぎる。
「元々持っていたものだけど? ただやる気がなかったから適当にやっていただけだ」
『何故報告しない?』
「はぁ!? マジで言ってるのかクソ虫。既に持っている力を申告しろって言ったか?」
『ぐぬぅぅ』
「それに見る人が見れば俺が手を抜いてるのはバレバレだったぞ。中坊でも見抜けるのにデビルスの連中は節穴揃いって事だろ?」
実際沙耶には速攻見破られた。
『なんとも鬱陶しい羽虫が! どうせ隠していたのもデビルスに反旗を翻す為だろうが?』
またその話を繰り返すのか? めんどくさいやっちゃな。
それにクソ虫に対抗して羽虫とか言っていない?
「はぁぁ!? どこまでも馬鹿なの? デビルスの命令には従っていただろ? ゼフィラク国を攻めるのも迷宮探索も。なのに牢屋に入れたのは、どこの馬鹿だ?」
『……前国王だ。我ではない』
「同じデビルスだ。腕輪も怪しいと思ったが付けてやっただろ。言われた通りの事をやって来たのに不当な扱いをされればデビルスを潰しに掛かるのは当然だろ。その程度も考える頭はないのか? 魔王が聞いて呆れる。これじゃ魔抜王だな」
無駄だと思いつつ煽ってみる。これで我を忘れる程、キレてくれれば儲け物。
『腕輪が怪しい? 町では好き勝手出来ただろ?』
ちっ! 冷静だ。
「いきなり不本意に呼び出されて差し出された腕輪を見て怪しいと思うのは普通だと思うがな。中坊でも半分そう思ってただろうぜ。しかも好き勝手? 食い物と服にしか使ってねぇーよ。必要最低限だ。無理矢理呼び出したんだから、それくらい保証されるのは普通だろ?」
腕輪が怪しいと思ったに付けた。付けないと何をされるか分からないからとビビった者。
皆が付けているからじゃあ私も、みたいな者。理由は様々だろうけど。
『まぁ良い。先程の攻撃のダメージが癒えるまでの時間稼ぎにはなった。では始めようか。貴様さえ倒せばあとは有象無象』
時間稼ぎしていたのは奴の方だったか。実際X字に斬れたマントも元通りだ。
あれは魔力か何かで作ったマントか?なら破れても魔力で直せるって訳だ。
『下位火炎魔法』
俺は下位火炎魔法を唱え小刀に纏わせる。
『まずは邪魔なそれだー!』
ハルファスが掌をこちらに突き出す。咄嗟に身構えるが、何も来ない。何だ?
そう思っていたら小刀に纏ったいた炎が消えた。
『貴様の魔力を封じた。どんな力を秘めていたのか知らんが魔力がなければ何もできまい?』
魔法を封じる力を持ってるのは厄介だな。エーコだったら、ほぼ無力になってたとこだ。
だが、俺からすれば何言ってるの? って感じだな。この世界の力の源は魔力だけと思ってるのか?
それで良く法王なんてやってたな。確かに魔法系は魔力が必要だ。が、物理系は違う。
この大陸でも優秀な兵が、それが分かっており、それなりに使いこなしている。勇者や魔王研究ばかりしてたのか?
「あっそ。……<スラッシュ・ファングっ!> <クロス・ファングっ!>」
それ即ち闘気。
両小刀を逆手持ちに持ち右手のは右下から左上へ。
左手のは左下から左上へ、X字を描くようにダークが得意とするスラッシュ・ファングを繰り出した。
しかし左手のスラッシュ・ファングは、普段やっていないから闘気の乗りが悪いせいで、斬撃速度が遅く、X字になっていない。
そして、スラッシュ・ファングを放つと即座に順手に持ち替えつつ交差した腕を戻しながら、丸でバンザイをするかのようにポーズをして俺の最も得意とするクロス・ファング放った。俺の得意とするクロス・ファングが、その後ろを追尾する。
当然俺が得意としてる方が闘気の乗りが良く、左手で出したスラッシュ・ファングを追い越し、右手で出したスラッシュ・ファングに追い付き、ハルファスに当たる瞬間、完全に重なった。
『うぬぅぅ……なんなのだ? これは』
苦悶らしき声を漏らし左手で遅れてやって来た、左のスラッシュ・ファングを掻き消す。
また、腹を狙ってみたが、マントが斬れるだけ。中は闇。ダメージが入ったのか目では確認出来ない。
だが、苦悶の声を漏らしてって事はダメージが通ったのかもしれない。
『おのれぇぇ!』
ハルファスが右手を振るう。それだけで中位火炎クラスの炎が発せられた。
魔法名破棄かよ。厄介だな。が、そこに俺はもうないない。
『クソ! どこ行った?』
炎が目標がいた場所を素通りした事でハルファスが焦り辺りを見回す。
「こっちだ」
俺は後ろに周り首元に小刀を当てていた。
『くっ! い、いつの間にっ!?』
そのままスッパーンっと首を斬り落とした。
どんなに化物の力を得ようが、それを人間が使いこなすのには時間が掛かる。勇者が能力を持て余していたようにな。
危険度はこっちのが上だったかもしれないが。この分身である炎を纏った化物は理性がなく、リックロア国王都で暴れたい放題暴れていた。本能で動く分あっちのが厄介度は上だったようだな。
さて、終わったし帰りたいな。でも、すんなり帰れるかな? 学園長にはなんて言おうか迷む簡単に教師って辞められるのかな?
俺は、これからの事に思いを馳せながら謁見の間の出入口に向かって歩き始めた……。
グサっ!
「ごふっ!」
な、に? 何が起きた? 口の中は鉄の味が広がる。地面には今、吐き出した血が。それだけじゃない。
腹から垂れた血もある。その腹に目を向けると……、
「っ!?」
手が突き出ていた。気配を感じなかったぞ。ダークの肉体を持つ、この俺が後ろからやられるとは……。
『首をおとしたくらいで我が死ぬと思ったか?』
後ろを見ると首が繋がったクソ虫がいた。首を落としたと言うのに再生するとか反則だろ。
スッ!
『何ッ!?』
クソ虫の横っ腹に風穴が空き一歩、二歩、三歩と後退り、手が俺の腹から抜ける。
影に攻撃するとダメージを与える特性を持った光陽ノ影を奴の影があった真下に投擲したのだ。
そして左手を風穴が空いた自分の腹を止血にはならないが抑え、即座に振り返り右手で抜いた闇夜ノ灯を突き刺す……。
だが、既にハルファスはいない。後方5mくらいのとこに下がっていた。いつの間にっ!?
『小癪な……これで灰燼に帰せ!』
奴から魔法名破棄で特大の炎が解き放たれる。人型だ。足から髪まで炎で目の口の部分だけ風穴が空いている。
どこかで見た事あるような……? ああ、沙耶の顕現した炎の精霊メラ君だ。
ただメラ君よりでかい。メラ君は普通の人間サイズだが、あれはその五倍はある。それに何より禍々しい。闇色の炎。それが迫って来た。
俺は闇夜ノ灯を真っ直ぐ上に振り上げる。
「しっ」
それを一気に引き下ろした。
闇夜に灯をともしたかのような明滅する斬撃が炎を斬り咲きハルファスに突き進む。
たぶんあれは上位かそれ以上。前にダームエルと戦った時に中位火炎魔法を斬ろうして出来なかった。
しかし今回は確り斬れた。武の小刀のお陰だな。決して俺の実力じゃない。
現に……、
「ごふっ!」
また吐血してしまった。
無意識に腹に闘気を集めて出血と痛みを抑えていた。
しかし今の一撃を放つ為に意識的に小刀に闘気を集め、結果として貫通した腹に回して闘気を使ってしまった。
これは厳しいな。
『き、貴様はなんのだーっ!!』
尚も突き進む俺の斬撃は、闇色の炎を斬り咲いても衰えず、ハルファスを半分にした。
右半身と左半身に分けたのに俺を睨み続ける。お前こそなんなのだ? それで何故死なない?
このままではまずい。せめて腹を回復させたい。
「クッソーっ!」
毒づきながら俺は、一年以上愛用していた小太刀二振りを投擲した。
『小賢しい』
右手に闇色の炎を纏わせて、俺の小太刀を払う。
そして次の瞬間には右半身と左半身がくっつき元に戻っていた。
「はっ!」
小太刀を目眩ましに後ろに回った俺は闇夜ノ灯を振るう。
腹に今度は意識的に再び闘気を集中させる事で、出血と痛みを抑える。だがその分、速く動けないし攻撃力も低下してしまう。
それでもやるしかない。
カーンっ!
胴体目掛けて振るった闇夜ノ灯が弾かれる。攻撃力低下が原因か。
『ちょこまかと羽虫めが……だが、我を斬れる力は残っていないようだな』
俺が右、左、正面と素早く動き斬り掛かる。もっと速く、速く。加速しろ。
そう思うが腹のダメージでそうは行かない。逆に衰えて行く。
あまり攻撃に闘気を回すと直ぐに使い切ってしまう。使い切ってしまえば意識が保てなくなり、この貫通した腹では完全に助からないだろう……。
どうする? くっそー! どうすれば良いんだ?
『鬱陶しいわっ!』
「ぐはっ!」
闇色の炎を纏った右手を振るわれ吹き飛ばされてしまい地面に転がる。ここまでか……。
『これで終わりだ』
再び禍々しい特大のメラ君のような姿をした闇色の炎を解き放たれる。終わったな。
ピッキーンっ!
しかし、俺の前に大地系の防御魔法が張られた。岩のゴツゴツした感じの四角い壁だな。エーコの指輪に付与されたピンチの条件付きで発動されるものだ。
またエーコに助けられ……、
ピキピキ……。
いや、持たない。
パリーンっ!
なんて奴だ。あれは上位魔法を防ぐシールドだぞ。あいつのは、やはり上位以上だったか。
シールドが破壊され余剰分ダメージが襲って来た。
「ぐぁぁぁ……!」
『今何かをしたような気がしたが……魔法は使える筈がないし。うーむ』
ハルファスが考え込む。こいつ自分が出した炎が特大過ぎて俺の方が見えてなかったのか。
マークの大剣と同じだな。扱いきれていない。だが、それが分かったところでどうする?
もう動けない。闘気を完全に守りに回して立ち上がっても数分で闘気が枯渇する。
『まぁ良い。どうせ虫の息だ。我はクロセリスを始末するとしよう』
ドッゴーンっ!
天井に手を掲げただけで、天井を全て吹っ飛ばしやがった。空が開ける。
『残り僅かな命、後悔しながら死ぬが良い』
そう言ってハルファスは空に向かって飛び発ってしまった。
「クソが! 魔法も封じられ、あいつは空に逃げやがって……。さて、ここからどうしたものか。このままだとエーコとクロセリスがヤバいな」
それは分かっているが、立ち上がる為に闘気を回しても数分しか動けない。くそ! せめて魔法さえ封じられていなかったらな。
回復出来なくなったは痛すぎるわ……二重の意味で。
ヤバいなぁ。闘気で止血にも限界がある。多少は、血を止められ痛みも抑えられる。
だが、所詮は多少だ。このまま血を流し続けたら、間違いなく死ぬな。
せめてエーコとクロセリスを助けに行きたい。




