EP.35 ダブル・ミーティアを放ちしました
俺はとりあえずエーコとお茶をし始める。
「いや~エーコが淹れてくれたお茶は格別だな~」
「セリスお姉ちゃんにも淹れて貰ってたんでしょー?」
「それでもエーコとナターシャだけは特別」
「はいはい」
あっさり流すなよ。
「約一年と三ヶ月ぶりに淹れて貰えて幸せだな~」
「大袈裟だよ~」
「って言いながら顔赤くしてそっぽ向いてるエーコ可愛い~」
「もー、そう言う事は言わなくて良いのー」
「エーコ」
俺は真っ直ぐエーコを見据える。
「なーに? 急に改まって」
「ちったー綺麗になったな」
この一年と三ヶ月で、少しは綺麗になった気がする。会えなかったからこそ、そう思えるのかも。
しかし、正直な感想を言ったのに可哀想な人を見るような目を向けられた。
「……頭打ったー?」
「約束しただろ?」
「何をー?」
「綺麗になったと思ったなら、そう言うって」
あれはエーコが十一歳の時だったかな?
「覚えていたんだねー」
「当然だよ。まだあどけなさがあるけど確実に綺麗になったよ」
「……ありがとー」
顔を赤くし俯きながら、小さく言った。俺はそっとエーコを抱きしめる。
「ちょっとー」
「そこはありがとう、アークお兄様だろ?」
「はいはい。ありがとーアークお兄様ー」
ボー読みだけど言って貰え、抱きしめる腕を強め頭を撫でてしまう。
あ~。それにしてもええ匂いだな~。久々過ぎて頭がクラクラするぜ。
これがナターシャなら、即座にビッグマグナムが覚醒するだろうな。
「いつまで抱きしめてるのー?」
「あと五時間はこうしたい」
「長いってばー」
ガバっと突き放される。それでも再びエーコを抱きしめた。
「どうしたのー?」
「ずっと会いたかった」
「それナターシャお姉ちゃんに言って上げなよー」
「ナターシャにはベッドの上でたっぷり言うさ」
「ベッドは余計。わたしにそれを言わないでよー」
「ははは……」
「アーク」
エーコの力が抜け俺に身を委ねてくれる。
「ん?」
「わたしも会いたかったよー」
「エーコこそ大丈夫か?」
「今はー、素直になっておけって言ったのアークだよー?」
「なら普段どれくらい慰め……」
ドフっ!
腹にパンチが来た。
「そう言うえっちな事で素直になる訳ないでしょー」
声音的におかんむりだ。でも、それでも顔を俺の胸に預けてくれている。
「愛してるぞ、エーコ」
「……わたしもー」
「そこはちゃんと言ってよー」
「わたしもアークが大好きだよー」
お! マジで言ってくれた。
って言うかエーコが泣き始めてちゃった。
「アーク、アーク、アーク……」
「どうした? エーコ」
「会いたかったよー。会いたかったよー」
「泣くほど、そう思って貰えて嬉しいぞ」
「だってーナターシャお姉ちゃんが不安定だからー、弱音吐けなかったんだもーん」
そっか。ナターシャを支えていてくれたんだな。
「ありがとうな。ナターシャを支えてくれて」
「ぅううう……当然だよー」
「ご褒美に一緒に寝てあげるよ」
「それ寝たいのアークでしょー?」
ピタっと涙が止まり俺から離れる。調子に乗ってしまったな。
「ああ、寝たい。めっちゃ寝たい。つか寝る。嫌がろうが何をしようが寝る! 縛ってでも寝る!!」
「変わらないなーアークはー」
そう言ってエーコが笑いながら涙を拭う。
「笑っていた方が可愛いぞ」
そう言いながら拭いきれていなかった涙を拭き取る。
「さっきは綺麗って言ってくれたのにー?」
「『ちったー綺麗になった』て言ったんだぞ。所詮は少しだ」
「そー。まぁ言ってくれただけいっかー」
「それにこの一年ちょっとで大きくなったな」
視線を下にズラす。
去年はBくらいだったが、今はCくらいありそう。
「もー、どこ見てるのー?」
「おっぱいだけど?」
「ほんとえっちだねー」
「娘の成長を見るのは当然だろ?」
「だから娘じゃ……ま、いっかー。今は娘でもー」
「そうそう。今はだけは甘えておけ」
「でもー、変なとこ見ないでー」
俺は再び抱きしめる。
「これで見えないだろ?」
「は~……だからってベタベタしないでよー」
「嫌?」
「……嫌じゃないー」
「今日は一緒に寝たい?」
「………」
あ、黙ちゃった。黙秘ですか。
「素直になるんだろ?」
「寝たーい。わたしもずっとアークに会えなくて寂しかったよー」
再び泣き出したのか涙声だ。
「よしよし。じゃベッドで胸を揉んで成長記録を……」
「やっぱ止めるー」
遮られた。でも、大人しく俺に抱かれている。
「ごめんごめん。久々に会えた娘が可愛く思えてな」
「ちゃんとナターシャお姉ちゃんにも言ってあげなよー」
「当然。俺がナターシャを泣かせた事あるか?」
「いっぱいあるよー。勝手に召喚されてこの大陸に来たのもそうでしょー?」
「うっ!」
確かに。俺のせいで相当心配させていたのかもしれない。
「それにわたしを優先させ過ぎなんだよー」
「そうだね」
「でも、わたしは嬉しかったよー」
そう言って微笑む。
「今だけだ」
「うん。でも早く結婚してあげなよー」
「エーコ次第だ」
「またそれー?」
「じゃあ寝るか」
「分かったよー」
そうして二人でベッドに入る。
「ねぇ、アーク?」
「何だ?」
「一緒に寝るのは良いけどー、何で抱っこしたままなのー?」
「寂しかったから以外にある?」
ベッドの中でもエーコを強く抱きしめた。
まぁ寂しかったのは本当だが、それ以上に明日が不安だからもある。
何故なら出現しただけで押し潰されそうな圧迫感のあった異形の化物の本体とやらがデビルスにいるのだから。
振り分け失敗したかなと、少し後悔していた。アルがいれば楽勝だろうが、デビルスに怒り心頭で俺が潰すとしか考えてなかった。
冷静になって失敗したなと思ってしまっている。それにエーコを巻き込んでしまうのだ。つい不安になり、抱きしめてしまう。
「は~……しょうがないなー」
渋々だが納得してくれた。
「クンカクンカ……」
「何してるのー?」
「エーコ成分を摂取」
「やっぱ、他の部屋で寝てよー」
「今日だけはこのままで。クンカクンカ……」
「なら匂いを嗅がないでー」
文句を言いつつもエーコは大人しく俺に抱かれて寝息を立て出した。
エーコも寂しかったと思ってくれて嬉しいねぇ。俺だけじゃなくて。
それだけ今まで無理をして来たのかもしれない。何せ前は、俺がこんな変態的に匂いを嗅いでいたら、エーコはまともに寝られなかったのだから。
そうして次の日の夕刻、飛び発った。
「まずは北東に向かってください。ルシファー山脈に入ったら北上をお願い致します」
ブリッジの中でクロセリスに言い、ストラトスが北東にに針路取った。にしても速い。速過ぎる。
10分程でルシファー山脈とやらが見えた。
ちなみにだが、クロセリスの服装は制服ではない。ドレスを着ていた。ただあまり派手ではなく、質素なドレスで、動き易く軽い素材なんだとか。まあ今から自分の城に帰るのだから、それなりの恰好をするのは当然だな。
「ストーーーーップ」
俺は止まれの合図を掛ける。
「んだぁ? どうしたってんだ?」
粗暴な言葉でストラトスに聞かれる。
「一瞬でルシファー山脈に到着したな。クロセリス、ここから北上してデビルスにどれくらいで到着する?」
「確かにあっと言う間でしたね。恐らく30分もあれば到着します」
魔改造し過ぎだっつーの。まぁお陰で、この大陸までこれたんだけど。
にしてもこの脅威のスピードで一ヶ月以上掛かってこの大陸に到着したって、どんだけ離れていたんだよ。
まあそれは今は良いや。
「ストラトス、日が沈んだら全速力で北上してくれ」
「わーったよ」
「それと山脈を抜けたら様子を見ながら進みたい」
「注文多いな! わーったよ。言われた通りにしてやる」
そんな訳で暫く休む事になった。
「あ! アーク、忘れていたー」
「どうした? エーコ」
「これ」
そう言って差し出されたのは、俺の愛刀の闇夜ノ灯と光陽ノ影だ。
「甲板で受け取るよ。試し斬りしたい」
そう言って俺は甲板に向かう。それにエーコが着いて来るのは分かるが、何故かクロセリスとムサシまで着いて来た。まあ良いけど。
「クロセリス、持っていて」
俺は腰に携えている二振りの小太刀を渡す。
「それが本来のアークの武器なのですね」
「ああ」
クロセリスに答え、まず柄も鞘も黒い闇夜ノ灯を受け取る。
そして、抜く。刀身も黒い。
「はっ!」
上段から垂直に振り下ろす。
闇夜に灯が付いたかのような明滅した白っぽい斬撃が飛ぶ。
スッパーン!
山がスッパリと縦に割れた。
「見事にてござる」
「素晴らしいですわ」
ムサシとクロセリスが称賛してくれるが、これは武がくれた特殊な小刀だ。
俺の力ではない。まあ闘気は結構食うが。
闇夜ノ灯を鞘に納めると腰の後部に携え、次に柄も鞘も白い光陽ノ影をエーコから受け取るり抜く。刀身も白い。
「はっ!」
光陽ノ影に闘気を流すとバリアが展開された。
「これもまた見事にてござる」
「これは……結界ですか? 大変素晴らしい武器をお持ちですね」
「ああ。二刀一対の小刀だ」
そう言いながら光陽ノ影も腰の後部に携えた。
そして両小刀を抜く。それを丸で演舞をするかの如く振り回す。バク宙しながら振るったり、高くジャンプしながら振るったりと。
「やはり小刀のがしっくり来るな」
小太刀以上に軽くて扱いやすい。
「小太刀でも見るのが困難なのに小刀ですと完全に見えませんでした」
クロセリスが称賛してくれる。まあこっちのが素早く振れるし、素早く動けるからな。
俺はクロセリスに嫌らしい笑みを向ける。
「惚れた?」
「えぇ。多少ならそう考えなくもないですね」
呆れ混りに返される。
「エーコはどうよ? 久々に見る俺ってば恰好良いだろ?」
「…………………………馬鹿なのー?」
「クロセリスはマジでどうでも良いが、エーコにそう言われるのは悲しい。クロセリスはどうでも良いが」
「二度も言わないください。失礼ですよ。それにそう思うなら、戯れた事を聞かないで欲しいですわ」
「って言いながら多少って答えていただろ?」
「お次は嘲笑混りでお答えしましょうか?」
ニッコリ笑うクロセリス。が、目が笑っていない。
「ほんといつまでも馬鹿なんだからー」
「クロセリスはマジでどうでも良いが、エーコにそう言われるのは悲しい。クロセリスはどうでも良いが」
「ですから、何ども同じ事を言わないで欲しいです。わたくしだって悲しくなりますわ」
あからさまに悲観した顔になる。
エーコは仕方無いなーって表情で……、
「はいはーい。格好良いー、格好良いねー」
「ボー読みだし」
「当然の処置だと思いますわ」
「……ムサシ叔父ちゃんがー」
「そっちかよ!」
「拙者にて……ござるか? それはかたじけないにてござる。エーコ殿」
「じゃあ俺に多少惚れたって言ってるクロセリスよ、小太刀頂戴」
「……四度も貶める言葉を口にされておいて、抜け抜けと言えますね」
睨み付けて来るクロセリスから、小太刀を受け取り抜き身の状態にして腰ベルトの左右それぞれに通す。投擲用にするので、もう鞘はいらない。
「よし! 準備万端だ」
やがて日が沈み北上し始める。そうして山脈を抜け見えて来たのは……、
「何でござる?」
ムサシが訝しがる。
テントが無数にあり、武装した者達が見張りをしているのだ。
「ストラトス、状況を知りたい。高度を下げてくれ」
「わーったよ」
そうして高度を徐々に下げると武装した人達が此方に気付いた。俺達も甲板に出る。
「何だあれは?」
「追手か?」
「クソ! 逃げきれないのか?」
武装した連中が騒ぎ出す。
「皆さん落ち着いてください!」
クロセリスが甲板から下に向かって叫び出す。
「人か?」
「だが、何で空を飛んでいる?」
「追手じゃないなら何だ?」
「わたくしは、第二王女クロセリス=リリム=デビルス。間違った道に進むデビルスを止める為に帰って参りました」
「王女殿下だって?」
「攫われたんじゃないのか?」
「それに髪の色が違うぞ」
あ、失敗したな。元の色に染めておけば良かったかも。一日余裕があったんだし。
「わたくしは攫われておりません。身の危険を感じ逃げ出しただけございます。しかし、このままデビルスを捨て置く事も出来ず、協力してくださる方を連れて帰って参りました」
「じゃあ本物?」
「クロセリス王女殿下」
「事情を聞かせてください。皆さん何をしていらっしゃるのですか?」
そうして聞かされた。デビルスの現状を。悪魔が沢山現れ王都に住まう住民を襲い始めたので逃げて来たと……。
沢山の悪魔ねぇ~。嫌な予感しかしないな。
「ストラトス、頼む」
「おーよ!」
再びファルコンを発進させた。
ちなみに甲板からでもブリッジに声が届くし、ブリッジから甲板に声を飛ばせる。一体どんな改造したのやら。
そうして数分でデビルス国王都に見えて来た。
「民の言った通り何かいるにてござるな」
「あれ下位悪魔じゃないか?」
ムサシに俺が答える。あんな魔物どこから沸いて来たんだ?
顔より長い角に全身紺色で、眼球結膜――人間で言えば目の白い部分――が黄色でギョロ目をしている。そして背中から羽根が生えている気色悪い魔物だ。
「確かに下位悪魔にてござるな。しかし何故?」
「考えても仕方ないよー。全部倒さないとー」
エーコが早く倒すべきだと促す。
「だな。ストラトス、突入だ!」
「おーよ!」
そうしてデビルス国王都に突入した。
数が多い。
「「<集え! 天空の岩石よ。大地に引かれ押し潰せ、灰塵と帰せ! 我が前に立ち塞がりし障害を等しく滅びを与えん事を願わん!!>」」
えっ!? エーコとクロセリスが同じ詠唱始めたぞ。それも聞き覚えのある詠唱だ。
確かこれはファースト・ファンタジー・オンラインのゲーム中に聞いた事ある詠唱。
って事はユピテル大陸の魔法だ。なのにクロセリスも!?
「「<二重隕石>」」
はぁ~!? クロセリスとエーコが同時に大地系最強の隕石魔法を使ったぞ。
フースー爺と『いいですとも!』のあの人じゃあるまいし。
ともかく通りで聞き覚えのある詠唱だ。ルティナやエーコが習得後の初期に唱えていた。ちなみにエリスも使えるが、シナリオイベントで使ったのを一度も見ていない。そもそもエリスは何故か威力が低いしな。
隕石がエーコ一人の時以上に降り注ぎ、下位悪魔達が灰になっていった。って言うか町の一部も灰燼に帰してるが良いのか?
それにもっと気になるのが……、
「……クロセリスは隕石魔法使えたのか?」
「いいえ。エーコさんに言霊を教えて貰いました」
マジか。精霊契約の言霊を事前にエーコに聞いて使ったのか。って言う事は、契約成功したのか。
やるな。こうもあっさりエーコの最強魔法を覚えてしまうなんて。
「よし! 隕石魔法で下位悪魔がいなくなった。今のうちに城に行くぞ」
そうして城に向かうが……、
「……面妖にてござるな」
ムサシの言う通りだ。城が気持ち悪い。
真っ赤な膜に覆われていた。しかも、ウネウネ動いている触手が絡み付いており、それが特に気持ち悪い。




