EP.09 ロクームとエリス (三)
ロクリス――――それは大陸を股に掛ける男女二人で構成された凄腕のトレジャーハンターとして名前を売っている。
男は、黒髪ツンツン頭で深縁の瞳。ガウンチョパンツに裸ベスト。スラっとした体付きで、身のこなしに優れた肉体をしている。元々ソロのトレジャーハンターだったので、良き身のこなしがなければ、務まらなかったのである。
ただ、ぶっちゃけチャラい。見た目もそうだが、その中身もだ。女と見れば見境いがない。
しかし、それは過去の事に起因していた。昔はもっとマシな服装で髪も伸ばしておりツンツンになんてしいなかった。
彼をこうさせたのは、ラフラカ帝国の陰謀によるものだ。
かつての恋人は、優れた魔導士だった。そんな彼女に執着し、大切にしていたが、ある日ラフラカ帝国より、偽の財宝の情報を掴まされる。
その情報を食い付き、トレジャーハントしに来た彼を罠に嵌め、暫く拘束した。その間に恋人を始末したのだ。当然抵抗したし、優秀な魔導士だったので、帝国の損害も大きかった。
それでも、パートナーの男が暫く拘束され、いなかった事により殺害が成功する。その動機だが、なんともふざけた話で、自分達以外が魔導士である事が許せないと言う独占欲から来るものだ。
それ故に、次の標的にされたのはエド城であり、ダーク達を雇い魔導士を始末させ、その後、城を陥落させた。
こう言った過去を持つ彼は、当然悲観しラフラカ帝国を恨んだ。それと同時に一人の女性に執着してしまった自分を呪った。彼女に執着しなければこんなに悲しまなかったのにと……。
結果、髪型も服装も一新し、チャラくなってしまった。そして女となれば見境いがなくなってしまう。
しかし、その根幹にあるのは、やはり魔導士の彼女なのであろう。特に熱心に口説くのは魔導士の女性と言うのは、なんとも皮肉な話である。
そんな、同情できそうで、できない男の名はロクーム=コード。自称大陸一のトレジャーハンターだ――――。
そして、ロクリスの相方の女は、 紫の瞳に艶やかな紫色の髪の女だ。
彼女もまたラフラカ帝国の犠牲者。動物に精霊の力を引き出す実験を終えた後に、人間の被験者にされ、数少ない成功例になり、魔導の力を手に入れた。
何故こんな非人道的な実験に参加し、ラフラカ帝国の言いなりになってるかと言えば、家族を人質に取られたからだ。
兄弟も実験に参加させられ、失敗し死亡。僅か六歳の彼女が逆らえば躊躇なく父親を殺された。そうなると言いなりになるしかなかったのだ。
結局彼女の残った家族は、祖父一人になってしまう。流石に最後の一人となれな、繋ぎ止めておく鎖が切れる感じ、ラフラカ帝国も手を出せないから、生き残ったと言うべきかもしれない。
年月が進み、そんな彼女は、いつもどこかで誰かに助けを求めていた哀れな少女になっていた。だが、その気持ちを抑え続けラフラカ帝国に従い続ける。
当時ラフラカ帝国の将として戦った十二歳の少女の名は、エリス=シャール。実験で生み出された哀れな人工魔導士だ――――。
このロクームとエリスが惹かれ合ったのは、必然だったのかもしれない。
方や軽薄で女と見れば見境いがないが、無意識に求めるのは魔導士。方や誰かに救いを求める哀れな人工魔導士だったのだから……。
こうして二人は精霊大戦後、パートナーとなって大陸を股に掛けるトレジャーハンターになった。それも遺跡での踏破率は100%の凄腕だ。
理由は簡単。ロクームは鍵開けやワナ解除に優れ、エリスは、ロクームがそれを行っている間、戦闘で魔物を狩ると言う役割分担が確りできているからだ。
そうしてバランスの取れたチームと言う事で、名の売れ行きは上々。ちなみに名を売ってる理由は。新たな遺跡等の情報が集まり易いからだ。
大陸に現在起きてる異常事態。島が浮き沈みし地形が勝手に変わり、突如洞窟が現れたりするとういもの異常事態。それにより、調べないといけないとこが増えたので、名を売る必要があったと言うわけだ。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「はぁぁぁっ!!」
エリスがは気合を籠めオーガを斬り裂いた。もう何体も屠っている。
二十四歳になった彼女は、気品に溢れた美しい女性になっていた。紫の瞳は、過去が壮絶だったが故に凛としており鋭くなっている。それがまたエリスを引き立てていた。
胸は決して大きくはないが、それがバランスの良い美しいプロポーションに見えた。髪は艶やかな紫色と言うのは、変わらないが背中まで伸びてストレートに流していた。
「よし! 解除できたでガンス」
其処でやっとロクームが扉の鍵を開けた。
「今行く!」
エリスは直ぐ様駆け寄った。
「開けるでガンス」
「ああ」
ロクーム達は鍵が解除した扉を開けて中に飛び込む。
「おっと。親玉のお待ちかねでガンス? 行くでガンス、エリス」
「言われなくても」
待ち構えていたのは、オーガの上位個体鬼人だ。
ロクームは鍵開けや仕掛け解除専門で戦闘には向かないのかと言われればそうでもない。
一度戦闘に入れば、素早い身のこなしで魔物を翻弄する。エリスとの連携も目を見張るものがる。
エリスが一番槍の如く突っ込み袈裟斬りを。しかし……、
プシュ―ンっと斬れたのは鬼人の腕だ。咄嗟に半身を反らしたのだ。流石に上位個体となるとそう簡単には行かない。
ロクームは、その間にワイヤーフックを天井に刺し、魔物の後ろに移動し……、
ブスブス……ザーンっ! 二本の短剣を背中に刺し、そのまま下へと斬り裂ていた。
魔物がよろめく。今がチャンス。
「これで終わりだっ!」
エリスの剣の二刀流による踊るような二段斬りが繰り出し鬼人を葬った。
鍵開けをして入った部屋は今の鬼人しかいなく何も無い。残念無念。今回も収穫は無し。最近は、収穫が無い
「ちっ! 何もねぇでガンス」
ロクームが舌打つ。
「帰るよ。ロクーム」
エリスは、そう言うとそそくさ出口に向かった。
「あっ! 待つでガンス」
ロクームがそれを追い掛けて来た。
この光景はエリスは結構気に入ってる。何故なら慌てて追い掛けて来る彼が可愛く見えるからだ。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「ただいま」
「今戻ったでガンス」
ロクーム達は帰宅し、エリス、ロクームの順に留守番をしていた者に声を掛けた。
「お帰り。エリスにロクーム君」
出迎えてくれた留守番の者はエリスの祖父ライデンだ。エリスに唯一残された家族。と、思わせて恥ずかしく言わないが、エリスには実はもう一人家族ができていたのだが……。
ライデンが唯一残った一番の理由は、科学者で精霊を使った実験を繰り返しラフラカ帝国に有用な者と判断されたからだ。そのライデンは、何かとエリスを庇ってくれたが、有用と判断されたお陰で殺されずに済んだというわけだ。
そして、ライデンは、エリスを逃がしてくれた。ライデンがいなかったらエリスはラフラカに使い潰されていただろう。
結局ラフラカ帝国に潜入する為に戻って来るのだが、その際にロクームも一緒にいてくれたと言うのはまた別の話だ。尤も当時は軽薄な軽い男として、あまり良い目で見ていなかった。
「お爺ちゃん、お腹空いただろ? 待ってろ。今、作るから」
「今日は何を作ってくれるのじゃ?」
「焼き魚だ」
「おおー!!」
ライデンのテンションが上がる。
「ふふふ……お爺ちゃんは、相変わらず焼き魚好きだな」
エリスはふっと笑い台所に向かう。
先程から、エリスは硬い喋りをしているが人工魔導士になってから軍属としてラフラカ帝国に利用され続けた。そのせいで、その時の口癖が抜けないのだ。
ロクームはライデンが腰掛けてるソファーの向かいにある椅子に腰掛けた。
「ところでロクーム君。今日はどうじゃった?」
「ダメでしたでガンス、ライデンさん。ガセでしたでしたでガンス」
「そうか。まあ遺跡なんてものは、そうそう当たるものじゃないしのぉ」
そんな会話を聞きながら、エリスは調理の下拵えをしていたら。急に胸が苦しくなった。
えっ!? 何? と、困惑し意識が朦朧とした。
バタンっと、そのまま倒れてしまう。
「エリス?」
「エリスや?」
ロクームの声を掛けながらエリスの方へ向かった。ライデンもそれに続く。
「うっ!」
エリスは、胸の苦しさが極限まで高まり、口元を抑えた。
「どうした?」
ロクームがエリスの身体を支え、背中をさする。
「はぁはぁ……ちょっと吐き気が……」
うっ! 苦しい。私は一体どうしたのだろうか? と、困惑するエリス。
「直ぐにチェンルの町の病院じゃ!」
とライデンが慌てたように叫ぶ。
「わりやしたでガンス」
ロクームはエリスを抱えて家を飛び出しチェンルに向かった……。
「おめでたです」
と医者が言う。が、何が? と、首を傾げるエリス。
病院で医者に診てもらったのは良いが思考が追い付かなかった。
「「「えっ?」」」
「ですから、おめでたです」
医者が再び同じ事を口にする。
「……何が?」
エリスが再び問う。
「赤ちゃんです」
「……ウソ?」
更に困惑してしまう。だって私とロクームは、まだ数え程しか……それに避妊してた……よね?
彼との子だから素直に喜びたい。だけどまだ早い気がする。と、エリスの頭を悩ます。
医者に安静にしていれば大丈夫だと言われ、ロクーム達は帰る事にした。そして、家の前に誰かいる事に気付いた
「家の前で誰か戦ってるでガンス」
「ほんとじゃ」
ロクームとライデンが話始める。
「加勢するでガンスか?」
「いや、大丈夫だ」
しかし、エリスは止めた。
何故ならエリスは即座に気付いた。あの動き、それにあの気迫はダーク以外考えられない、と。
彼ならあれくらい問題無い筈だ。エリスがそう思った通りロクーム達が家の目の前に着く事には片付いていた。
「………………………………」
ダークがロクーム達と目を合わせると固まってしまった。あまりロクーム達に会いたくなかったって感じだ。
「やるでガンスな、お前」
それでもお構いなく声を掛けるロクーム。
――――ってロクーム、気付いていなのか?
「……せたな」
ダークが何か小声で呟く。
「当然だろロクーム。何故なら、この者はダークだぞ」
あまり聞こえなかったので気にせずエリスがダークだと断言する。
「えっ!?」
何驚いてんだ? まったくあの動きを見れば直ぐわかるだろう。と、内心エリスは呆れ果てた。
「ちっ!」
ダークはダークでエリスに見抜かれたのが余程嫌だったようだ。
「それで、ダークが何で此処にいるでガンスか?」
とロクーム。
――――お前は馬鹿か。まずダークが生きてた事を不思議がれよ!
ダークがどこかに視線をエド城の方角へ向ける。
「ああ。ムサシに聞いて来たんだな?」
エリスは、即座に察する。
「……ああ。実は……」
ダークが此処に来た経緯を説明した。
「丁度良かったでガンス。一つ頼まれろでガンス?」
とロクーム。
「……何だ?」
あからさまに嫌そうに渋面をしだす。
「実は……」
エリスのおめでたの話をし出し、エリスが顔を赤らめた。
――――ちょ! 何で言うんだ?
「……それで、俺にお前のパートナーをしろと?」
そのまま話を続けるのか? できた事は触れずに? それはそれで哀しいぞ。と、女の心は複雑だ。
「そんな感じでガンス。ユキから手紙が来ていてな。あいつの住むエルドリアの炭鉱に怪しい模様の扉が現れたから、調べて欲しいそうでガンス。エリスには残れって言ったんだけど、久々にユキと会いたいって聞かないでガンス」
「悪かったな」
拗ねたように言うエリス。
ちなみにだが、手紙はチェンルに届いており、其処からロクーム達の家に届けられる予定だったのだが、ロクーム達がタイミング良く町にやって来たので、そのまま渡したという流れだ。
「……それで怪しい模様ってのが気になるでガンス。思い過ごしなら良いでガ……」
「断るっ!」
間髪入れずダークが即答した。
先程からロクームに対する態度が悪いダーク。
「……ん? ダークお前変わったでガンスか?」
確かに変わった。雰囲気が少し別人に思える。と、エリスも内心同意した。
「……いや、俺もこの一年で色々あったんだ」
まあ確かに治療に一年掛かったって言ってたし変わるものか。
「そうか……ところで来てくれないんでガンスか?」
「……ああ」
「で、情勢を知りたいって言ってたでガンスな?」
「……それが?」
「手伝ってくれたら教えてやるでガンス」
「……ちっ!」
それは舌打ちしたくなるぞ。少しダークが可哀想だ。ロクームはずる賢いからな。
「じゃあ来るって事で決まりで良いでガンスか?」
またあらぬ方向に視線を向ける。そっちはエルドリア。
それに気付いたエリスは……、
「来てくれるか。すまないなダーク」
と、エリスは微笑んで話を纏めた。と言うより丸め込んだ。
「……エルドリアだけだからな」
少し顔が赤い。やっぱり何かおかしい。本当にダークか? と、再び首を傾げるエリスだった。
ユキというのは、突然変異の魔物である雪だるま一族の一体。そのユキはエドと仲が良い。しかし、エドが王と知っているので、忙しいだろうと遠慮し、困るとロクームを頼っていた。
ちなみに雪だるまと言っても雪で覆われているわけではなく白い毛むくじゃらの魔物。
だが、突然変異故か人間の言葉を理解できる。中でもユキは人間の言葉を介する事も可能だ。
「……それでどうやってエルドリアに? 『Jの道』からだと、遠回りになるだろう?」
あれ? ダークは知らないのだろうか? と、首を傾げるロクーム達。
確かにエルドリアに行く前に通るイーストックスには、『Jの道』を通り、港町ニールから船で行かなくてはならない。だが、それは以前までの話。
「大丈夫でガンス。チェンルの町が復興して船が出るようになったでガンス」
「……そうか」
この日はもう遅いのでダークにロクーム達の家に泊まって貰って、明日出発する事になった。
夜、エリスがベッドで寝ていると、隣でロクーム起き上がり覆いかぶさってきた。
えっ!? と、困惑するエリス。
「ぅんっ!?」
キスされた。まあ寝る前のキスくらいいつもの事だから良いけど、何故布団に入った後に? とエリスが考えていると……、
「////////」
ロクームの舌がエリスの口の中を蹂躙して来た。
え? え? ちょ、ちょっと待ってよ。と、更に困惑し混乱しだすエリス。
「はぁはぁ……」
何欲情してるんだ? この馬鹿っ! とエリスは眉を吊り上げる。
「ダークがいるんだぞっ!」
抗議の目を向ける。
ライデンならともかく、ダークは気配察知に優れており耳も良い。それはエリスも知るところだ。
「わかってるでガンス」
わかってるって言いつつまた蹂躙するようなキス。
ほんとにわかってのか? と、思いつつもエリスもやがて頭がボーっとして来た。
ヤバイと内心焦り出す。
「……エリス、ありがとうでガンス」
え? 何が? と思っているとロクームがエリスのお腹に触れた。
「俺様の子を宿してくれてでガンス」
またキスされる。
本当に止めて。これ以上されたら何も考えられなくなる。
「はぁはぁ……」
遂には、エリスの息が荒くなった。
「大丈夫。お腹の子に負担が掛かるから最後までしないよ」
「ん~~」
お腹にあった手が上に来て登山を開始し、頂点を弄ぶ。
――――何が大丈夫だ? 私がその気になるだろ?
「イヤ……」
「そう言いつつもエリスは、その気になってるでガンスな」
「変な声出るからっ!」
馬鹿ッ! 恥ずかしい! 止めろ! と、内心ではそう思うが体はそれに反していた。
「じゃあ、おやすみ」
再びロクームが隣で寝始めた。
――――このふざけやがってっ!!
ドーンっ!
エリスは、ロクームを蹴り飛ばしベッドから突き落とす。
「いたたた……何するんだよエリス」
いい気味だと笑うエリス。
再びロクームがベッドに戻ろうとした。だが、また蹴り落とされる。
「何をそんなに怒ってるのでガンスかぁ?」
何を怒ってるかって? 先っぽを摘まんでおいて何でわからない? と、更にキレたエリスは、ベッドの横に立て掛けてあった愛用の剣を掴み抜く。
「出て行け!」
低い声でドスを効かせて言った。当然闘気も混ざってるので殺気が籠った威圧だ。
「……はい」
ロクームが肩を落として出て行った。
ざまぁ!! じゃあ今度こそおやすみ……って行くかぁぁぁっ!! と、エリスは収まり付かなくなっていた。
仕方無しに自分で慰る事に……。
翌朝、エルドリアに向けて出発したのだが、何故かダークがロクームを見て薄ら笑いをしていた。
そしてエリスとは目を合わせない。合わせると顔を赤らめる。
――――えっ!? もしかして昨日聞いていた? うわ! 恥ずかしい!!
でも、昔に仲間達と宿に宿泊してロクームに襲われた事があったけどこんな反応してなかったよな? なんか昨日からダークがダークじゃない気がしてならない。
でも、直接聞いてたかと聞くのは恥ずかし過ぎて死ぬと、内心悩み続けるエリスであった。
ロクーム達はチェンルの町から船でイーストックスを目指す。ロクリスのアジトからチェンルまで半日、船で一日過ごしイーストックスで一日宿泊し、野宿を挟み一日掛けてエルドリアに到着した。約三日半で到着するとは実にこの大陸は狭い。
「何だ? 騒がしいでガンスな」
ロクームが呟く。
「るまるまるまー!」
ユキ以外の雪だるま一族は人間を介する事ができない。それ故に何を言ってるのかわからない。
「ロクーム、来てくれたのかルマー」
雪だるま達の奥からユキがやって来た。人間の言葉を介せるので、事情がわかりそうだと、安堵するロクーム達。
「ユキ、何があった?」
エリスが訊ねた。
「魔物達が攻め来たルマー!」
確かに雪だるま一族と町民が魔物……ブラックウルフやその上位個体と戦っている。
「……なら、行くぞ!」
ダークが真っ先に駆け出した。流石はダークと言うべきか速い。次々に魔物を斬り裂いた事にエリスは目を見張る
「ユキ! この魔物達は一体どっからでガンス?」
ロクームが短剣を構えながら聞いている。
「手紙に書いた扉からだルマー」
「そうでガンスか……」
ロクームは少し考えていると……、
「ダーク、待つでガンス!」
「……ん? 何だ?」
「この魔物を相手しててもキリがなでガンス! 元を叩きに行くでガンスっ!!」
「……元?……わかった」
なるほどと、エリスは納得し、ダークも気付いた。
「じゃあエリス。雪だるま一族と此処で魔物を抑えててくれでガンスっ!」
――――はいはい。妊婦には危険なとこに連れて行けないって言うのだろ?
「わかった、ロクーム」
仕方無い。従っておくか。と、内心嘆息した。
「じゃ、任したでガンス!」
ロクームとダークがユキの案内で奥に進む。残った雪だるま一族と町民とエリスでブラックウルフを中心とした魔物の一掃を開始する。
「はぁぁぁ……っ!」
エリスを気迫の籠った声を発しブラックウルフ達を斬り裂く。
右手には青白く光輝く光の聖剣ライトオブソード、左手に黄金の輝きを放つ名将の剣インバリットクイーン。この二振りの業物がある限りは、早々簡単にやらせやしない。と思うエリス。
それに雪だるま一族や町民達も戦ている。次々に魔物倒して行き、やがて魔物は数体となった。
だが、その魔物の内一体に最上位個体のダークネスウルフがいた。そのダークネスウルフは……、
「下位火炎魔法」
魔法を唱えたのだ
ボォーン!
「うわっ!」
燃え盛る炎が町民の一人を焦がす。
「るまー」
雪だるま一族の一体が咄嗟に吹雪を出し、町民の炎を消す。だが、問題は……、
「な、何!? 失われし魔法を?」
エリスは、驚きの声を上げる。
魔法はこの大陸から消えた筈。それ故に町民達は脅え始めた。
「何故魔法を?」
エリスは、そっちに思考を回していた。しかし、考えてる暇すらも与えるつもりはないのだろう。今度は魔物達が一斉に……、
「<下位火炎魔法>」
魔法を唱えて来た。
「ならっ!!」
エリスはライトオブソードを鞘に収め、インバリットクイーンを両手で持ち空に掲げた。
「ルーンシールっ!!」
エリスが叫ぶと、シュゥゥンっ! と、魔法がインバリットクイーンに吸収されエリスの魔力に変換された。
魔力に変換されてもエリスは魔法を使えなくなったので意味はないんだけどと、自嘲気味に笑う。
黄金の輝きを持つ名将の剣インバリットクイーンは魔法を吸収する事を可能にする特殊な剣。中位魔法までしか吸収できない難点があるが。
だが、今回は幸い下位しか使てこない。
精霊大戦終結後も愛用してて良かったと、心底感じるエリスであった。
「魔法は私が引き受けた。皆は速く魔物共をっ!!」
エリスが皆に呼び掛ける。
「「「「「「わかった!」」」」」
「「「「「るまるまるまー!」」」」」
町民達と雪だるま一族が応えると一斉に魔物達に立ち向かって行った。魔物達は馬鹿の一つ覚えなのか、魔法しか使ってこない。
その度にエリスのルーンシールと叫んで吸収した。
勢いを盛り返し、やがて魔物達を一掃しロクーム達が帰って来るのを待つ事になった。