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EP.34 ファルコンに向かいました

「さて、じゃあ俺達も行くか。エーコ、ファルコンのとこに案内してくれ」


 胡春の転移を見送った後、エーコにそう声を掛けた。


「良いよー」

「って訳で(わたくし)っ娘、来い」

「……アーク様、その呼び方は、どうにかなりませんか?」


 クロセリスが引き攣った笑みを浮かべる。


「ダーク先生、フローラさん……いえ、クロセリスさんですね。二人共気を付けてください」

「ウェンディ先生も今まで黙っていて申し訳ございません」


 クロセリスがウェンディ先生に頭を下げる。


「いえ、事情が事情ですからね」

「ありがとうございます」

「また元気な顔で学園で会いましょう」

「はい!」


 ふんわり笑うクロセリス。


「相変わらず素敵ですね、ウェンディ先生。今度食事にでも行きましょう」

「行きません!」


 パシーンと相変わらず出席簿で殴られてしまう。


「それにダーク先生には大切な方が迎えに来られたでしょう? これでお別れになるかもしれませんね。今までありがとうございました」


 ウェンディ先生が頭を下げる。


「いや、また顔出しますし、お礼を言われる事ではありませんよ」

「私が言いたかったのです。それではどうか気を付けて。またお会いしましょう」

「はい」


 そうして学園を出る。


「それで(わたくし)っ娘じゃないならボクっ娘か?」

「ですから、今のわたくしはクロセリスでございます」

「フローラのが可愛かったな。は~……なんか残念過ぎる」

「アーク様、あからさまに残念そうに溜息を付かないでください」

「だって子供っぽくて可愛かったぞ」

「……それはそれで失礼でございますよ?」

「アーク、ナターシャお姉ちゃんに言うよー。さっきも他の先生を誘ってたしー」


 と、そんなくだらないやり取りをしながらファルコンに向かう。


「そうでございますわね。ナターシャ様に是非お伝えください。アーク様は毎日のようにわたくしに破廉恥な視線を送って来たと」

「おい!」

「サイテー」


 エーコに蔑みの目で見られる。正直これが一番つらい。


「う、煩い! ナターシャがいなくてオカズに飢えていたんだ」


 俺も開き直ってしまう。


「うわ~」

「これがアーク様ですよね」


 ますますエーコからきつい視線を向けられ、クロセリスからは、何でもお見通しだと言う視線を向けられる。


「王女様も大変だったねー」

「いえいえ、エーコ様。慣れましたから」

「慣れる程、えっちな視線を向けられたんだねー。それはそうと王女様、様は止めてよー」

「はい。では、エーコさんで宜しいでしょうか?」

「それでお願ーい。王女様ー」

「エーコさんも王女様と呼ばないで頂けますか? わたくし、アーク様よりエーコさんのお話をお伺いした時から仲良くしたいと思っておりましたの」

「そうなのー? じゃあクロセリス様ー?」

「いえいえ、様はいりませんわ」


 なんか俺、放置され出したな。


「クロセリス? 王女様なのに言い辛いなー」

「エドワード国王の事をエド叔父ちゃんと気安く呼んでいたではありませんか。どうぞわたくしも気安く呼んでください」

「分かったー。なら、セリスお姉ちゃん?」

「是非、それでお願い致しますわ」


 クロセリスがニッコリ笑う。


「えっ!? 冗談だよー。セリスって略してるじゃーん」


 エーコが目を丸くする。


「いえいえ。気安く呼んでくださり嬉しく存じますわ」

「じゃーセリスお姉ちゃん?」

「はい!」


 これはまた仲良くなっているのー。


「じゃあ俺も様を付けないでくれないかな? ボクっ娘」

「いえいえ、アーク様」


 微笑してるが目が笑っていないな。


「いやいや、ボクっ娘」

「いえいえ、アーク様」


 と言うか怒ってる?


「ボクっ娘って呼ぶの止めなよー」


 エーコに突っ込まれてしまう。うん、分かってたけどそう呼びたいんだよな、これが。


「クロセリス王女殿下、どうぞアークとお呼びください」


 態とらしい恭しくしてみる。


「アーク様、先程からお戯れが過ぎますが?」

「そんな俺に惚れた気になってたのは、どこのボクっ娘だったっけ?」

「えぇ。ある意味、今もお慕いしておりますわ。ですが、それとこれは別でございます」

「あ、クロセリスに戻っても認めるんだ」

「今更、取り繕っても仕方ありませんからね。エーコさんには、あまり気分の良い話ではございませんが」

「何でー? ナターシャお姉ちゃんが聞けば悲しむけどー、わたしは平気だよー」

「いや、ナターシャよりエーコの方が危機感を持った方が良いぞ」


 つい口を挟んでしまう。


「何でー?」

「クロセリスを娘みたいに思ってるから」

「………………………」


 何言ってるんだ、コイツ? って目を向けて来るなよ。


「恋人が何人もいるのはー、最低だと思うよー。でも、娘なら良いんじゃないのー?」

「俺が器用な人間に見えるか? 複数の子供を同時に愛せねぇよ」

「見えないねー。でも、わたしは娘じゃないしー」

「義娘のようなものだろうが」

「だとしてもー、愛して貰う歳でもないしー。わたしもう十三だよー」

「あ、そんな事を言うんだ」


 エーコの耳打ちするように顔を寄せ……、


「俺は、お前が巣立って行くまでナターシャと結ばれるつもりはないんだけどな。それだけ大事に想ってるのに、エーコはそんなに冷たくするの?」

「うっ!」


 エーコが言葉を詰まらせる。


「今は素直に娘みたいに甘えていろ。エーコは素直じゃないとこが玉に瑕だな。ええ子なのになー」

「……分かったよー」


 渋々納得したようだ。


「ほほ~。素直になると言ったからには、俺がいない間、どれくらい慰めていたか聞かせて貰おうか」


 嫌味ったらしく笑ってやる。


「アークがいなかったんだから、それどころじゃなかったよーっ!!」


 おっと軽くオコだ。それに対し俺は態とらしく口元を両手で抑え……、


「って事は、まさかエーコは俺をオカズに……」

「な、訳ないでしょーっ!! 気持ち悪い事を言わないでよーっ!!」

「エーコさんにも、そんな破廉恥な事ばかり言っておられるのですか?」


 クロセリスも引き始める。


「そうなんだよー。毎日えっちな事ばかり」

「ナターシャとの夜の営みに聞き耳立ててるエーコに言われたくないな~」

「勝手に聞かせてるんでしょうー?」

「それでムラムラし出すエーコでした」

「もー知らなーい」


 エーコが顔を真っ赤にし頬をプクーと膨らましそっぽ向く。久々に会えたからつい興が乗ってしまった。


「こう言うとこフローラにそっくりだよな」

「……そんな破廉恥な事を言われればそうなります」

「でも姫様モードの時は、顔を赤くするなんて自在だよな」

「感情抑制の教育を受けていましたから」

「それ凄いなー」


 エーコが尊敬な眼差しをクロセリスに向け出す。


「それはそうと、クロセリス。色々片付いたらユピテル大陸に来るよな?」

「ちょっとー」

「いいえ。わたくしは、もうフローラに戻りません」


 エーコは無理矢理連れて行かないと言ったのに、こう言い出したのでおかんむりだ。対しクロセリスは毅然としているな。


「ああ、そうなの? 手籠めにしようかと思ったのに」

「ナターシャお姉ちゃんに本当に言うよー!」

「手籠めでございますか? 結構でございます」

「代わり全部捨て去れるぞ。なのにされたくないの?」


 クロセリスに見えないように人差し指を唇に当てるとこをエーコに見せた。ちょい黙っていていね。


「……そうとは申しておりません」


 ほうほう。クロセリスに戻ってもそう言うのか。

 やはり所作や言葉遣いが変わっても同じだな。まぁ同一人物なので当然なのだが、もっと取り繕うかと思った。


「じゃあされたいんだ?」

「……アーク様、いい加減察すると言う事を覚えた方が宜しいかと」


 察してはいるよ。

 抱かれたいと思う程、はしたくないが抱かれると言う事は、それだけ自分を見てくれている。自分を見て欲しいと言いたいんだろ?

 ロア学園に向かう船でも似たやり取りをしたが、十分気付いてはいた。

 尤もコイツは俺に気がある訳ではなく、全部放り出したいだけなんだけど。


「察した上で聞くが全て放り投げてユピテル大陸……いや、俺のとこに来たいんだろ?」

「……はい」


 渋々頷く。


「だったら来い。全部捨ててしまえ」

「大変魅力的なお誘いですが、わたくしにもデビルス国王家としての矜持がございます」

「そう。安易に来るって言わなかったのは正解だな。来るって言ったら民も何も関係なくデビルスを滅ぼそうと思っていたし」

「……つまり試していたのですか?」


 睨まれてしまう。なので、俺は嫌味ったらしく笑う。


「あれ~……俺の事は何でも察してると言ってなかった~?」

「撤回させて頂きます。ここまでアーク様が意地の悪い方だとは思いませんでした」

「今更気付いたのか?」

「知っているつもりではいたのですがね。想定以上でございます」

「確かにねー。今の言い方は最低だよー」


 うわ。エーコから、めっちゃ睨まれた。エーコの前で試さない方が良かったな。


「だが、約束は守るぞ。デビルス国はどうにかする」

「はい。そこは信用しております」

「セリスお姉ちゃん、こんなアークでも信用してるんだねー」

「守って貰いましたから。エーコさんもそう言うとこは信用されているのでは?」

「……ナイショ」

「なーに顔を赤くしてそっぽ向いてるんだ?」

「さっき察する事を覚えろって言われたでしょー」


 おっとまた睨まれた。


「ほんとアーク様は、察しませんよね?」

「だよねー」


 二人で意気投合してるんじゃねー。


「それよりいい加減、様付けるな!」

「わかりました、アーク」

「次、様付けしたら、強引に全てを捨てさせてユピテル大陸に拉致するぞ」

「それはそれで魅力的でございますね」


 やば! 魅力的って言われてしまったよ。確かに察しないとダメだな。

 ってな訳でファルコンを停船してるとこにやって来た。つか魔改造し過ぎじゃね?

 最初は板張の甲板だったのに金属っぽいぞ。宇宙戦艦ヤ〇トっぽくなってる。マジで魔改造し過ぎだろ。

 そんなファルコンの甲板に乗り込むと真っ先にムサシが出迎えてくれた。


「久しぶりにてござる。アーク殿、無事だったにてござるな」

「ああ。態々来てくれて感謝する」

「なーに、二年程前の借りを返したかっただけにてござるよ」

「よぉー! ダー……」

「これは初めまして。ストラトスだな?」


 遮ってやる。ダークって言わせないよ? ムサシは知らないんだし。


「何言ってやがるんだ? ダー……」

「俺はアーク。エドから聞いた。態々飛空船を出してくれてありがとうございます」


 笑顔で牽制。


「あー、今はアークってなってるんだったな。しゃーねぇから助けに来てやったぞ」

「何の話にてござる?」


 どうやらストラトスに此方の意図が伝わったようだ。ムサシは、そんな俺達のやり取りを見て訝しがる。


「俺を迎えに来てくれたに悪いが、もうちょっと付き合ってくれないか?」

「ああん? まぁてめぇには二度も代わりに弔い合戦して貰ったしな。良いぜ」

「それは助かる。ムサシも付き合ってくれないか?」

「それは構わぬにてござるが、そちらの御仁は何方にてござる?」


 ムサシはクロセリスを見て問う。


「申し遅れました。デビルス国、第二王女クロセリス=リリム=デビルスと申します」


 スカートの端を摘まみお辞儀をする。ほんと、所作がすげー見違えるよな。ボクっ娘の時と大違いだ。


「アーク、失礼な事を考えておりませんか?」

「ソンナコトナイヨー」

「アークは、直ぐ顔に出るからねー」


 エーコにまで言われてしまう。マジで? 俺って直ぐ顔に出るのか?


「これはこれは王女様にてござるか。申し遅れてすまぬにてござる。拙者はユピテル大陸のエド城にて国務大臣を拝命しておる、ムサシ=ガーランドと申すにて候」

「エド城? エドワード国王の国はフィックスと記憶しておりますが?」


 クロセリスが首を傾げる。そうだよね。ややこしよな。


「エド殿と同じ名故、紛らわしいにてござるが、フィックスとはまた別の国にてござる」

「まぁ……そうなんですか」


 クロセリスが目を丸くする。


「でだ、このクロセリスの国であるデビルスが世界を破壊するかもしれないものを生み出したっぽいんだよ」

「なんとー!」

「っぽいって何だ? 確信はねぇのか?」


 ムサシは驚くがストラトスは訝しがる。


「精霊がそう言ってただけで、実際に見た訳ではないからな。ただ……」


 俺はリックロア国を指差す。


「あそこに面妖なものが現れたにてござるな」

「あれは分身体のようなもので、本体がデビルスにいるらしい」

「なるほどにてござる」

「で、あれは良いのかよ?」


 ムサシは得心は言ったようだが、ストラトスはリックロア国の異形の化物はどうにかしないのかと追及して来た。


「あそこにはルティナに言って貰った」

「で、俺たちゃデビルスってとこに行けば良いのか?」

「そう。クロセリスを帰還させデビルスにいると言う本体を叩く」

「しゃーねぇな! 此処まで来たんだ。付き合ってやるぜ」

「拙者も及ばずながら力になるにて候」

「感謝する。って訳で、今夜はファルコンで休み、明日の夕刻にデビルスに向かう」

「宜しくお願い致します」


 クロセリスも頭を下げた。


「はぁ!? 何で今直ぐじゃねぇーんだ?」


 にしても姫様相手でも粗暴だなストラトスは。


「実はエドにはカルラ国ってとこを陥としに行って貰っている。そこを攻めるのは明日の手筈だ。だから同時に攻めたい」

「なるほどなー」

「承知したにてござる」


 って訳でフォルコンで一日休む事になった。

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