EP.33 カルラ城奪還
「フルーレティを動けなくしたくらいでクロセリスより下にしないで貰いたいな」
そう言ってアマイモンが鉄槌をスーリヤに振り下ろす。
カーンっ!
槍の柄で防ぐが、鍔迫り合いをせずスーリヤは即座に下がる。
「まだ昔のトラウマが残ってるようだな」
アマイモンが距離を詰め、横薙ぎに鉄槌を振るい槍を弾き飛ばす。
「スーリヤ王女っ!」
「アベリオテス王子の相手は私だ」
アドラメレクがスーリヤのフォローに入ろうとしたアベリオテスの邪魔をするように剣を振るう。
アマインモンは、スーリヤに鉄槌を振るう。なんとか避けるが牽制も出来ない。
「昔に鍔迫り合いをした時に自分の剣で自分を傷付けた事をトラウマにしているスーリヤ王女に勝ち目はない」
「くっ!」
スーリヤがバックステップで距離を取ろうとするが、直ぐに詰められる。
「<下位稲妻魔法>」
「下位程度では無駄だ」
下位稲妻魔法を放つが鉄槌をぶち当ててかき消されしまう。
一方アベリオテスは鍔迫り合いをしており、魔法剣は使う隙がない。
「<下位稲妻魔法、下位稲妻魔法、下位稲妻魔法、下位稲妻魔法……>」
「無駄だと言っておろう!」
スーリヤが下位稲妻魔法を連発し、その悉くをアマイモンの鉄槌で弾く。
無駄だと断じるが無駄ではない。十分牽制になっていた。
ブスっ!
「な、に!?」
アマイモンが驚愕の顔をし、自分の胸を見下ろす。スーリヤが45cm程の短槍を突き刺していた。
牽制し、ほんの数秒稼いだ時間でエドワードが渡した槍を取り出したのだ。
普段は三つ折りで畳んでおり15cm程しかない。ドレスを着る女性がなかなか武器を隠して持てない王侯貴族のパーティー等に持っていける武器に向いている一品だ。
それ故に前日に、エドワードは点検しスーリヤにあげた。今後も役に立つだろうと思い。
これもフィックスの科学力で作っており、三つ仕掛けがある。まずは三つ折りから自動展開し短槍化。
「ふん」
アマイモンが槍を左手で掴み、抜きくと下がる。
ブスっ!
しかし槍が追い掛けるように迫って来て右肩に刺さった。二つ目の仕掛け。最大4mまで伸びる。
「下がるなんて愚かですわね。それに次の手がないと決めつけるのも愚か。クロセリス王女も二の手、三の手を考えておりますわ。まだ貴方とクロセリス王女の差が分かりませんか?」
スーリヤが嘲笑うかのように挑発する。
「黙れっ!」
クロセリスの名を出されまんまと挑発に乗り、鉄槌を大きく振り上げた。
「<ヴァーユ!>」
そして最後の仕掛け。『ヴァーユ』と言う呪文で突風を起こす。
「ぬあぁぁぁっ!」
それによりアマイモンが吹き飛ばされた。
「あ、兄上!」
「其方の相手は私ではなかったのか?」
アドラメレクが慌てて駆け寄ろうとするが、アベリオテスがそれを邪魔するように斬り付け、それを防ぐように再び鍔迫り合いが始まる。先程と逆だ。
「アマイモン王子! 我等も行くぞ!」
「「「「はっ!」」」」
デビルス王家の者が劣勢だと悟り護衛の者達が動き出す。
「地雷旋!」
ズッドーンっっ!!
護衛達の前に転が落ちて来て、斧で地面をえぐる。
「姉御達の戦いっす。邪魔するならオイラが相手するっす」
「くっ! 裏切り者の勇者が」
「裏切り者? デビルスが仕えるに値しない酷い国だっただけっす。オイラは生涯仕えたい方に出会ったっす」
「素晴らしいですわ、テンさん。あとでご褒美に頭を撫でて差し上げますわ」
「マジっすか。姉御、オイラ感激っす」
スーリヤに褒められ舞い上がる転。
「<下位氷結魔法>」
「ちぃぃ!」
続けてスーリヤはアドラメレクに向かって、下位氷結魔法唱え氷の飛ばす。が、アドラメレクがそれを躱してしまう。
「ふん」
その氷をアベリオテスの剣が受け魔法剣にし出す。
他人の魔法を自分の魔法剣した事にエドワードは目を見張る。
他人の魔法だと魔力の質の違いや使用魔力が分からず御すのが、自分で魔法を出すより困難なのだ。それに確りした連携が出来ていないと出来ない荒業。
「はっ!」
そのままアドラメレクに斬り掛かる。
ピキピキ……。
剣で受けるが腕ごと凍り付いてしまう。
「<雷獅よ、我が魔力を……>」
「アイス・アウステル」
そこでようやく雷系の痺れが解けたのかフルーレティが立ち上がり魔法の詠唱を行おうとするが、それより早くアベリオテスが魔法剣の斬撃飛ばしを行った。
「キャー!」
フルーレティが倒れ伏す事でなんとか回避。だが、詠唱は中断される。
アベリオテスは、そのままスーリヤの元に駆け付け彼女を守るようにスーリヤの前で剣を構えた。
「<氷馬よ、我が魔力を喰らいて……>」
スーリヤが魔法の詠唱をし出す。
「上位ですって!? <下位稲妻魔法>」
フルーレティが上位と気付き慌てて下位稲妻魔法で牽制。
「はっ!」
それをアベリオテスが斬り咲く。
「<……我に力を与え賜え……>」
「させない」
アマイモンがいつに間にか突き刺された胸と肩を回復し、突進してきた。
「<下位火炎魔法>」
アベリオテスが炎の魔法剣で応戦。
「ちぃぃ!」
「はっ!」
上段から振り下ろしてきた鉄槌を弾き、横薙ぎに斬る。アマイモンの体がボォォと燃え出す。
「<今、顕現せよ……>」
「フレイム・アウステル」
続けてアベリオテスが下位火炎魔法で剣と腕の氷を溶かし迫って来ていたアドラメレクに魔法剣の斬撃を飛ばした。
「くっそー!」
アドラメレクが燃え盛る。
「<上位氷結魔法っ!!>」
ここでスーリヤの詠唱が完成。スーリヤの掌から氷の白い馬が飛び出す。それも羽根が生えている。
幻想的で美しいと感じるエドワード。
それと同時に何かの書物に書いてあったなの思い出しペガサスだと気付く。
ユピテル大陸では、上位氷結魔法は広範囲の吹雪だが、この大陸では氷のペガサスが駆けるのだ。
氷のペガサスは謁見の間を駆け回りアマイモン、アドラメレク、フルーレティを順々に凍り付けにして行った。
しかも顔以外だけと言う器用な使い方をスーリヤはした。
「ふ~……まさか最近契約した上位を使うとは」
スーリヤが大きく息を吐く。最近契約した割には制御が上手いなと、エドワードは感じる。
またスーリヤが上位氷結魔法を使うのが分かっていたから、アベリオテスは炎系の魔法剣にし、燃やした事に気付く。
スーリヤが直ぐに炎を消化させ焼死させる事はないのだから。息の合った連携だった。
「さて、クロセリス王女の実力が少しは、分かって頂けましたか?」
「……上位を使えるとは聞いておりませんわ。大会では使っておりませんでしたのに」
フルーレティが苦々しく答える。
「あら、クロセリス王女は様々な上位を習得されておられるでしょう? わたくし程度では氷系が精一杯でしたわ」
「其方らが我等より上なのは分かったが、我等が妹に劣る等、侮辱だ」
アドラメレクが吐き捨てるように言う。
「まだご理解頂けないようですね。私達二人がかりでもクロセリス王女には敵わないのです。それなのにどうして其方ら程度がクロセリス王女に勝るのでしょうか?」
アベリオテスがそう言い肩を竦める。
「なん……だと?」
三人は驚愕の顔をし出す。
「そのクロセリス王女と、わたくし達を指導してくださったダーク先生がデビルス国に向かったのです。貴方方はもう終わりでございますわ」
スーリヤが言うと三人は、ただただ項垂れた。
「さて、そろそろダーク先生の方も終わった頃かしら?」
「いや、いくらアークでも、まだだろ」
時刻的にエドワード達が城に突入したくらいにアーク達も攻め込んだであろうと予測しているが、まだ決してはいないとエドワードは思った。
「チョビーゲ先生を瞬殺する先生ですからね。終わってるかもしれません」
「ふふふ……そうですわね」
アベリオテスがそう言うとスーリヤが柔らかく微笑む。
「今のスーリヤの微笑みは天上の美だな」
「エドワード国王は何を仰ってるのでございますか?」
「姉御はいつだって天上の美を兼ね備えているっす」
「貴方もお黙りなさいまし!」
「はいっす」
転も項垂れてしまう。
「だが、柔らかくなられた。憑き物が取れたようだぞ」
「そう……ですわね。七年掛かりましたが、やっとわたくしの城を取り返せましたから」
そう言って再び微笑む。
「これもダーク先生のお陰ですね」
「そうですわね」
アベリオテスが言いスーリヤが同意した。
――――さてこっちは終わったぞ、アーク。そっちはどうなっている? まぁお前の事だ。大丈夫だろうと思うけどな……。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
アークは傷だらけで夥しい血を流し倒れ伏していた。
「クソが! 魔法も封じられ、あいつは空に逃げやがって……。さて、ここからどうしたものか。このままだとエーコとクロセリスがヤバいな」
スーリヤ=リブ=カルラ
これ全部インド神話から持って来た名前です
そしてヴァーユはインド神話で風神




