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EP.28 戦場を俯瞰

 そして、遂にカルラ国の奪還戦が始まった。両軍向かい合い構え、睨み合っている。何せ今回は総戦力戦になるので、ゼフィラク側の人数が今までの比ではない。デビルス側も警戒し迂闊に動けないでした。

 尚、戦場はカルラ国王都の城下町の目の前。当然だが、城下町で戦なんてしたら、余計な犠牲者が出てしまう。

 ちなみにだが学園の生徒達は、制服での参加ではない。白い軍服が支給された。女性陣は当然スカートとかではなくパンツスタイルだ。

 ただアベリオテスとスーリヤは王族なので、少し豪奢で金色の刺繍がされており、それぞれゼフィラク国、カルラ国の紋章が描かれていた。

 またアベリオテスと転は金属の鎧、スーリヤと胡春は金属の胸当てが上に着込んでいる。アンナとルドリスは速度が落ちるので鎧はない。

 ナターシャも金属の胸当てを借りて装備していた。エドワードは自前のロングコートがあるのでそのままだ。


 ――――戦争はお互いに疲弊するし、戦後処理も面倒。よくもまぁ好き好んでやるよな。


 と、エドワードは肩を竦め……、


挿絵(By みてみん)


「では、予定通り行こうか」


 自分の部隊に声を掛けた。全部隊がそれを待つと言う作戦なので、エドワードの部隊が動かないと始まらない。


「<雷帝よ、我に力を貸し賜え……中位稲妻魔法(デプス・チャージ)>」


 まずはスーリヤが中位稲妻魔法(デプス・チャージ)をナターシャに放つ。

 この中位稲妻魔法(デプス・チャージ)は、ユピテル大陸で言う中位稲妻魔法(ギガ・サンダー)と同じものだが見た目が全然違う。

 ユピテル大陸のは空から極太の雷が落ちて来て縦横無尽に駆け回り、四方に散ると言うものだったが、こっちは掌から極太の雷を飛ばすだけ。それをナターシャが弓で受け止めた。

 ナターシャの弓は特殊で中位なら受け止められ使用者の魔力で御す事で位を一段階上げた威力の魔法の矢を放てるのだ。

 バリバリっとナターシャの弓に雷を帯びる。ちなみに雷系は本人の希望。掠っただけでも痺れて動けないので初撃に持ってこいだと言うので、エドワードは許可した。


「<炎竜よ、我が魔力喰らいて、我に力を与え賜え……今、顕現せよ!>」


 続けてアンナが長い詠唱を唱える。

 それを待っていたであろうアル、ナターシャにアンナが顔を見合わせコクリと首を縦に振る。


「<オォォォラバスタァァァっ!!>」

「デプス・チャージ・エレメント・ランス」

「<上位火炎魔法(フレア・バースト)>」


 アルは特大闘気技を、ナターシャは中位稲妻魔法(デプス・チャージ)を御した魔矢を、そしてアンナは上位火炎魔法(フレア・バースト)を同時に放った。

 作戦の第一段階とも言える初撃は、広域殲滅攻撃を三つ同時に放つ事。

 これで敵の大半は吹っ飛ぶし指揮も士気も悪くなる。ダジャレではないが。

 残った敵兵は運良く三つの広域殲滅攻撃から逃れた者や、闘気の扱いに長け防いだ者。もしかしたら魔法の才があり、魔力抵抗があった者もいたかもしれない。

 ともかく敵側は陣形も何もかも滅茶苦茶だ。


「全軍突撃っ! 今日こそカルラ城を奪還せよ」


 司令官であるボレアース国王が全軍に指示を出し、突撃を開始した。

 しかし、エドワードは動く気はない。

 一部動かしているが、エドワードとスーリヤとナターシャと胡春は、その場に留まっていた。あとついでに転も。


「動かないのですか? エドワード国王」


 副官であるスーリヤをにそう言われる。


「気軽にエドで良と呼んでくれと言ってるではないか」

「いえ、そう言う訳には参りません」

「気軽にそう呼ばれ麗しきスーリヤと、お近付きになり、この戦いの後にでもお茶をしたいと思っているのだがね」

「……こんな時にふざけれておられるのですか?」


 堅のある声音だ。まぁこれが初陣だから仕方ないとエドワードは思うのだが。


「私は真面目だよ。初陣とは言えスーリヤは、もっと気軽に構えた方が良い。疲れるからな」

「……ですから、そうは参りません。あれはわたくしの城ですよ」

「ふむ……では聞くが少数の利点と欠点は?」

「こんな時に何を?」

「こんな時だからだよ。それらも学んで貰う為に副官にしたのだから」

「……自由に動ける事でしょうか?」


 渋々スーリヤは答えた。


「そうだね。では、欠点は?」

「何をすれば良いか見失う事でしょうか?」

「それもあるね。他に交代要員がいない事。つまり肩肘張っていてた疲れるって事だ」

「はぁ……」


 いまいち理解していないスーリア。学園の授業で兵法を学ぶが、一学年ではまだ少数部隊の内容はやっていないのだ。


「大部隊なら状況によって後衛部隊と交代出来るのではないか?」

「そう言う事ですか」


 得心が行ったように頷く。


「だが、我々が少数故にそれが出来ない」

「それは分かりますが……それと今、戦わずしていつ戦うのですか? 広域攻撃をしましたのでチャンスではないでしょうか?」

「気付いてたかな? その広域攻撃の範囲にいたのに無傷な者がいた事に」

「それは……」

「敵の中には闘気の扱いに長け、防いだ者もいる。もしかしたら魔法が得意な者がいて耐性があったのかもしれない。少数の場合、特にそれを見極めないといけない」

「流石はダーク先生が見込んでいる方ですね。ただの軽薄な殿方と勘違いしておりました」

「ははは……レディを口説くのは礼儀だからね」


 納得してくれたようなので、利点の話もする事に。


「自由に動ける……つまり少数故に小回りが利く。ならば、どこで動くかきっちり見極める必要がある」

「そうですわね」

「ならば肩肘張っていたら意味がない。いざ、動こうとした時に疲れていて動けないからね」

「それとお茶は関係ございません」


 また堅のある言い方だ。


「それくらい余裕を持って戦場を俯瞰する事も大事と言う事だ」

「では、アルフォード様とそれに付けたアンナさんを自由にしているのは?」


 ――――アルフォード様って……。一応王弟だが、そのように硬く呼ばれているのは等しく聞いていないな。


 内心苦笑していますエドワード。


「アルは、私を支える為に鍛える事を重点においていたから問題ない。問題はアンナだが、いざとなればコハルに回収して貰う」

「そこは任せるとええ」


 胡春が快く請け負ってくれる。


「それもあるのですが、先程戦場全体を俯瞰すると仰ってましたが、アルフォード様にはそれは難しいのではないでしょうか? 現在も戦っておられますし」

「それは問題ない。アルは戦場全体を把握する術を持っている。闘気の応用でね。アンナがどこまで模倣出来るか分からないが」

「……応用も色々あるのですね」

「ぷっ!」


 突然エドワードが吹き出す。


「一体如何なさいましたの!?」

「どうしたんだい?」

「なんや?」


 スーリア、ナターシャ、胡春が訝しげに聞く。


「いや、すまない。読唇術で遠くでのやり取りを見ていたのだがね。アルとアイナのやり取りに吹いてしまった」

「はぁ……」

「読唇術かい? 流石国王だねぇ」

「そらごっついなぁ」


 スーリアだけは気の無い返事だ。まだまだ肩筋を張ってるの仕方無いが。

 ちなみにだが、エドワードは方眼鏡(モノクル)を右目に装着している。これにより遠くを見れるし、射撃の命中率も上げてくれる。


「話を戻すがアークにも戦場全体を把握する事は出来るぞ。まぁあっちは気配察知だから、戦場全体の気配を感じるものだ。全体を把握するアルの下位互換ではあるがな」

「しきりにアンナさんに会わせたいって言ってたのが良く分かります」

「アークはんの気配察知もごっついからなぁ。ウチも空間把握を使えるけど、まだまだアークはんより劣るんや」


 スーリヤが神妙に頷き、胡春はデビルス北の迷宮での事を思い出す。


「そう言う訳だから、厳しそうな部隊のとこに勝手に加勢行く。それに闘気が強き者は、覇気として滲み出るものだからな。その強い者のとこに勝手に行くだろう」

「わたくしにも闘気を扱えるでしょうか?」

「もう使っているぞ」

「えっ!?」


 スーリヤが目を丸くし出す。


「スーリヤが突きをする時だけ闘気が出ていた」

「……気付きませんでしたわ」

「闘気は慣れ親しんだ武器、あるいは慣れ親しんだ動きに流れ易いものだからな。それを意識的に扱えるようにするには残念ながら長い鍛錬か才を持っていないと難しい」

「では、突きの時に意識すれば更に鋭い突きが……」

「それは止めた方が良い。下手に意識すれば逆に扱えなくなる。恐らくだがアークが、言わなかったのは、もっと突きの鍛錬をさせ、はっきりと闘気が流れるのを待っていたんじゃないかな」

「そう……だったのですか。ダーク先生は槍の事は分からないと言って基礎しか教えてくださらなかったのですが……」

「まぁ闘気の扱いと武器の扱いは別物だからかな。予想だがアークは、分からないと言いつつ、確り鍛錬してるとこは見ていたのじゃないか?」

「言われてみれば……」


 と、まぁ話が逸れているようだが、今は戦場全体を見ないといけない。尤もエドワードは話しながら見ている。

 伊達に王をしてる訳ではない。こっちに数人近付いて来ているのも気付いていた。

 最初に広域殲滅攻撃をしたお陰で戦列が乱れ、どう動けば良いのか迷ったのだろう。一部の兵が後方にいるエドワード達のとこまで切り込んで来ていた。


「にしてもアークが教師とはやっぱり驚きだな。足での翻弄と気配察知は誰よりも長けているが、それ以外も浅く広く習得していたお陰かな?」


 そう言いながらエドワードはナターシャに目配せをする。ナターシャは意図を直ぐに掴み、コクリと頷いて弓を構えた。


「ダーク先生はわたくし達、一人一人に合った……」

「エレメント・ランス!」

「……えっ!?」


 スーリヤが話してる最中にエドワードがマシンボーガンを構えそれを放ち、同時にナターシャも弓を射った事に、スーリヤは驚き目を大きく見開く。

 更に……、


「はっ!」


 エドワードは、マシンボーガンを真上に投げ、腰の後ろに携えてあった愛槍グングニルを引き抜く。

 この槍は短槍で短いが、使用時三倍の長さにする事が可能。

 そのグングニルを三倍の長さにすると右から左へ薙ぎ払う。それにより向かって来ていた三人のデビルス兵が吹き飛ぶ。

 そのままエドワードは、グングニルを左手だけで持ち、右手を空に掲げ落ちて来たマシンボーガンを掴むとトドメの為に射る。

 その一連の流れにスーリヤは目を見張る。だが、そのせいでスーリヤに放たれた弓矢に気付かない。


「姉御っ!」

「えっ!?」


 スーリヤを護る事だけに全神経を集中していた転が斧で庇う。


「エレメント・ランス」


 弓は簡単には連射出来ない。余程の腕があるかナターシャのような特殊な弓がない限り。それ故に隙が生まれ、ナターシャが即座に射殺す。


「テンさん、危なかったですわ。ありがとうございます」

「当然の事をしたまでっす」

「我々は戦場全体を俯瞰していないければならない。自由に動けるからこそ、臨機応変な対応が必要なのだ」

「……見事なお手並みですわ……それに比べわたくしは、まだまだですね」


 エドワードの言葉にスーリヤが俯き出す。実際この数秒に起きた事に全く反応出来なかったのだ。


「初陣なのだ。誰も責めまい。戦とはどう言うものか学んで貰う為に私の副官にしたのだ。これからこれから」

「はい!」


 レディを俯かせるなんてエドワードの矜持が許さない。故に微笑を浮かべ励ます。

 それによりスーリヤは、顔を上げ全体を見るように目を動かし出した。

 だが、また肩肘張られても困るし悩ましい事だと思うエドワード。


 ――――さてそろそろルドリスを戻って来そうだ。敵の陣形が整い出した。それに城下町から増援が出て来たしな。


 エドワードは刻々と変化する戦場を眺め次の一手はいつにすべきか思案する。

 実はルドリスには突貫していた。広域殲滅攻撃で乱れた陣形の中、突撃しかき乱すだけかき乱せ、とエドワードに言われていたのだ。

 しかし、それでもやがては態勢を整え出すのが戦の面倒なとこだ。

 その為に犠牲者も増えて行く。エドワードは、そろそろ胡春を動かすかと、視線を向ける。

 そもそも転移で消費した胡春の魔力を回復させる為に一日休み戦いに臨んだ。


「コハル、そろそろ怪我人の回収を頼む。勇者の裏切り者がいる事は、まだ隠しておきたかったが、思ったより陣形を整えるが早い」

「わーたでぇ」


 そう言って胡春が転移を開始し、怪我人を連れてき出す。

 勇者が三人味方に……うちこのカルラ国奪還戦に参加してるのが二人いる事に作戦会議で告げた時は、ボレアース国王を始め兵達が驚いていた。

 尤も一人は転移で此処まで来たと一緒に来た部隊長の先触れで知ってはいたが。

 信用出来るのかと、何度も問われた。スーリヤが、うち一人を家臣にすると宣言した事で場が落ち着いたが……。

 味方にさえ驚かれたのだ。敵側に勇者がこちらに知られれば少なからずの動揺があるだろう。その隙を突く事も一つの戦略と考えたが、どうやらその戦略は破棄した方が良いとエドワードは判断した。

 出し渋って犠牲者を出すより、胡春をさっさと戦場に送った方が士気も維持出来る。それに犠牲にする事なく負傷で済むのだから。

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