EP.27 スーリヤが副官
エドワード達は、ゼフィラク国の北の砦の作戦司令室に来ていた。
胡春の転移で砦近くまで一瞬で来たは、良いがそこから砦に行くまでが面倒だった。
なにせ突然現れたエドワード達をデビルス軍もゼフィラク&カルラ軍にも敵と認識され攻撃されたのだから。
更に胡春は、転移直後無防備になるのだから、残りの十人は守らないといけない。
まぁ胡春が北の砦に行ければ良かったのだが、胡春自信が行った事のない場所なので一発では行けない。よって空間把握をしながら、少しずつ北の砦に向かったと言う訳だ。
そんなこんな苦労したが、北の砦に到着してからはスムーズだった。
一緒にに飛んで来たゼフィラク兵は部隊長だったし、アベリオテスもいたので、直ぐに砦には通して貰えた。
その後、少し待たされたがゼフィラク兵部隊長、ゼフィロス、アベリオテス、スーリヤ、ルドリス以外は客人として一つの部屋をあてがわれた。尤もベッドルームは二つあるので、男女別に寝られる。
とは言え、エドワードはゆっくりする間もなく作戦司令室に呼ばれる。そこには当然アベリオテスとスーリヤも一緒に行く事になった。ルドリスは爵位の低さから呼ばれてはいないが。
「父上、お久しぶりです」
「おお、アベリオテス。無事で良かった」
アベリオテスが父との再会を喜ぶ。学園にずっと行っていたので、久しぶりなのだ。
アベリオテスに父と呼ばれた男は、総司令官だ。故に戦場に出ていなかった。
精悍な顔立ちで三十歳中盤。肩の辺りまである白みの強い金髪で首の後ろで結っているアベリオテスと同じ髪型だ。いや、アベリオテスが父の真似たと言ったところだろう。まぁエドワードも似たような髪型ではあるが。
「母上、お久しぶりです」
「ああ、わたくしのスーリヤ。貴女をどれほど心配していたか」
スーリヤの方も再会を喜び母と呼ばれた女と抱き合う。
スーリヤと同じくピンクの髪で上に向かって、渦巻きのように巻いている特殊な髪型で、エドワードは
この大陸の独特のものと判断した。
ちなみに副官なので、滅多に戦場に出ないが戦をやっているので、王妃らしいドレスではなく動き易いパンツスタイルだ。
歳は三じゅ……と、そこまでエドワードは考え『おっとレディの歳を考えるのは失礼であるな』と思い直しかぶりを振る。
「報告はリックロア国に向かわせた部隊長より先程聞いた。無事で何よりだ。それに良き教師に恵まれたとか」
「はい、父上」
「……それで本当に其方もカルラ国奪還戦に参加するのか?」
「無論です。デビルスをどうにかしようと先生も含めて、我がクラス一丸となっております」
父としては心配なのは当然だが、その心配を他所にアベリオテスが晴れやかに答える。
「うむ……そうか」
「それで父上、紹介します。ユピテル大陸から来られたフィックス王、エドワード=フィックスです。此度の戦乱に助力してくれるそうです」
と、そこでエドワードの名を出される。
「エドワード=フィックスだ。気軽にエドで構わない」
「ははは……これは砕けた王であるな。私はボレアース=エウロス=ゼフィラクだ。宜しく頼む」
「ああ、宜しく頼む」
ボレアースは朗らかに笑い右手を差し出し握手を交わす。
「わたくしは、スーリヤの母。ブラーフマナ=ミスラ=カルラと申しますわ。どうぞよしなに」
そう言ってスーリヤの母であるブラーフマナが綺麗なお辞儀をした。スカートではないので、カーテシーではなくお辞儀だ。
「宜しく頼むよ。レディ」
「ところで、何故ユピテル大陸だったか? 聞いた事ない大陸だが、何故態々そんな所から来られ我等に助力する?」
ボレアースがもっともな疑問を言う。
「正確には我が友アークにだがな」
「詳しく聞いても?」
「我が友アークは勇者召喚とやらに巻き込まれ、この大陸にやって来た。私はアークを迎えに来た」
胡春の転移で北の砦近くまで転移し、空間把握を駆使し北の砦に向かった際に胡春を護衛する為に残り十人で陣を組む。その転移で北の砦に向かう途中Cクラスの面々に聞いた事だ。何故アークが教師なんかをやっていたのかと。その中で勇者召喚をデビルス国をした事を知った。
勿論、Cクラスの面々はダークの体を乗っ取った日本の者だと、安易に言ってはまずいかもしれないと判断し『何故か勇者召喚に巻き込まれた』とボカして答えのだが。
「とは言え、迎えに来るのにあまりにも遠く一年以上掛かってしまったがな」
「その間、アークさんはデビルスを裏切り、ダークと名乗り私達の副担任をしてくれました」
アベリオテスが補足説明を行う。
「ダークと名乗った我が友にデビルスを潰すのに協力してくれと言われたのでな。故にこの戦に及ばずながら参戦しよう」
「そう言う事であったか。感謝する」
「わたくしからお礼を述べさせて頂きますわ」
エドワードの言葉にボレアースとブラーフマナは頭を下げる。そしてボレアースは頭を上げ……、
「では、話を進めよう。先程、リックロア国に向かわせた部隊長が明日一気に攻めるように進言して来た。デビルス本国と同時侵攻が良いとか」
「はい」
ボレアース王が話を進めアベリオテスが相槌を打つ。
「それは構わぬが何か考えがあるのか? 部隊長も自分が言うよりアベリオテスが言った方が良いと言うのでな」
「恐らくそれはエドワード国王が、その場にいらっしゃらなかったからでしょう。エドワード国王は戦に精通しているとか。ご本人がいない前で、王が助力してくれると言っても信じ難い事でしょう」
「なるほど。では、エドワード国王にお聞きしましょう。何か作戦はおありか?」
「その前に一つ確認しても宜しいか?」
「うむ」
「では、カルラ国を占拠しているデビルス兵達の生死は?」
「無論、問わない」
それを聞いたエドワードは、瞬時に戦略を組み立てる。
「では、まず私直属の部隊を作る事、その副官にスーリヤ王女を指名する」
「わたくしがですか?」
「わたくしの娘を副官というのは、どう言う事でしょう?」
スーリヤが目を丸くし、ブラーフマナが問うて来た。
「一つは彼女は槍使い。聞けば我が友アークが槍のが合ってると勧められたとか。実は私も槍使いです。アークの教え子なので、この戦でどこまで教えられるか分かりませんが、私なりに彼女に槍を指導しようと思う」
「まぁ、そのように……では、娘を宜しくお願い致します」
そう言ってブラーフマナが頭を下げる。
ちなみにだが、胡春の転移で北の砦向かう途中、胡春の護衛の際にスーリヤが槍を使っていたので、エドワードはそれに言及したところアークの勧めだと言われた。
内心、自分は全く扱えない槍を他人に、よく勧めたたなと感心する。しかもスーリヤの槍の構えや動きが様になっているので、エドワードは目を見張っていた。
「そしてもう一つ、彼女も王族。士気の問題もあるし、何より彼女には良い経験なるとかと」
「うむ。道理であるな。良かろう」
ボレアース国王が鷹揚に許可を出してくれる。
とは言え、この北の砦に来るまでの間、どう戦うか多少プランを立てていた。その中にアベリオテスを副官と言う考えもよぎっていた。
だが、総司令官がアベリオテスの父だった事から、総司令官のボレアースがアベリオテスを副官または直属の部隊に付ける可能性があるだろうと判断し、即座にその考え切り捨てた。
「そうだったのですね。てっきりわたくしを口説く為の口実かと思いましたわ」
「まぁそれも否定出来ないな」
スーリヤの言葉にエドワードは肩を竦めてしまう。そこでドっと笑いが広がった。
その後も会議は続き、エドワードは作戦の立案等を行う。他に細々としたい話し合いも行い会議は終了した。
しかし、エドワードにはまだ個人的な会議がある。
「スーリヤ王女、少し宜しいかな?」
「逢瀬のお誘いですか? それはご遠慮くださいまし」
「それも悪くないが、私の部隊での話し合いに同席を」
「分かりましたわ。わたくしは副官ですしね」
そう言う訳で、皆を待たせている一室に向かった。
「遅かったな兄貴」
真っ先に出迎えてくれたのは弟のアルフォードだ。
「あれ? アベリオテスはいないのかい?」
「総司令官の副官になったからな」
ナターシャに問われたのでそう返す。
「さて、此処にいる者達で部隊を作るようになった」
そう言って皆を見渡す。
此処にいるのはエドワード、スーリヤ、ルドリス、アンナ、胡春、転、アル、ナターシャだ。
ちなみにルドリスには、客人として用意されたエドワード達の部屋にいるように事前に言われていた。
「一つはアルによる独立部隊を作る。好きにやれ」
「応ッ!」
「副官にアンナを付ける。アルから学ぶが良い」
「はい!」
アンナが嬉々として返事をする。それだけアルフォードから学べる事に喜んでいるのだ。
まぁ問題はアルフォードに、どこまで付いて行けるかだけど。
「もう一つは私直下の部隊。副官はスーリヤ。他の皆は私の指揮下に入って貰う」
「分かりました」
「了解っす」
「わーたでぇ」
「分かったさぁ」
ルドリス、胡春、転、ナターシャが頷く。
「あ、テン」
ふと、ある事を思い出したエドワードは、転に視線を送る。
「はいっす」
「スーリヤの直属にする。基本はスーリヤの指示で動いてくれ」
「了解っす。姉御は命に代えても守るっす」
「いえ、わたくしを守りつつ必ず生き残るのですよ」
「了解っす。姉御に心配して貰えるなんて感激っす」
――――大丈夫か? 不安っす。おっと口癖が……。
と、内心思ってしまうエドワードだが、アークの威圧に抗いスーリヤの傍にいる事を表明した。
ならば、エドワードの部隊と言ったが彼の場合、通常の指揮系統と異なる方が良いだろと判断し、スーリヤの下にいた方が良い結果が出ると期待した。
その後、会議の内容や作戦も全員に伝える。
他、細々とした話し合いをした。その中心は、エドワードがスーリヤ、ルドリス、アンナ、胡春、転の能力を知らないので、詳しく聞く事にした。何が得意で何が苦手か等。
話し合いが終わりと締めの言葉をエドワードが放つ。
「では、明日カルラ国を奪還する。今日は確り休んでおくように」
「承知致しましたわ」
「分かりました」
「分かりましたわ」
「わーたでぇ」
「了解っす」
「応ッ!」
「分かったさぁ」
――――まさかアークを探して他の大陸に来て見れば戦争に巻き込まれるとはな。
と、エドワードは内心苦笑していた。
話し合いが終わるとスーリヤやルドリスが部屋を出た。そして何故かエドワードも。
「スーリヤ、もう少し宜しいかな?」
最初は『スーリヤ王女』とエドワードは、呼んでいたが先程の話し合いの中で、副官にするなら敬称は不要言われ、今は呼び捨てだ。
「では、私は部屋に戻りますね」
ルドリスは苦笑いを浮かべつつその場を去っていた。逃げたとも言えるが。
「今度は何ですの?」
スーリヤはげんなりと疲れを滲ませた様子で答える。なにせ話し合いの中で、なにかと口説き文句が飛んで来たのだから。アークが学べるが疲れると言われていたが、実際その通りだと実感していた。
ルドリスもその様子を見ていたから苦笑いだったと言う訳である。
「アークが教えたと言う槍を少し見せて頂きたい」
「ダーク先生は槍を勧めてくだり基礎を教えてくだっただけですわ。その後は他の先生が教えてくださりました。まぁダーク先生も戦闘訓練はしてくださいましたが」
「それは失礼。それでも明日に備え、スーリヤの槍の実力は見ておきたい。尤も早く体を休ませた方が良いので、軽く流す程度だがな」
「承知しましたわ」
そうして二人は訓練等にも使われる広い部屋に向かった。そこで両者槍を構え軽い模擬戦を開始する。
「では、始めよう。軽く流すだけでも、スーリヤの美しさが十分に伝わって来ると思うが」
「結局それですの、ね!」
真っ先にスーリヤが突き込む。それをエドワードが槍の細い柄に当てて少し右にズラす事で左に反らしてしまう。見事な往なしだとスーリヤは歯噛みしつつ槍を真上に斬り上げるが……、
「くっ!」
スーリヤが苦悶の声を漏らす。なにせ両手で振り上げた槍は片手で持つエドワードの槍に簡単に止められたのだから。
それも十分に接近した鍔迫り合い。スーリヤが最も嫌うものだ。故にパっと離れ仕切り直す。
それから数合やり合う。それもエドワードは往なすだけ。反撃しないのは分かるとしてスーリヤの槍を止める事も避ける事もせず全て往なしたのだ。
それはつまり一度エドワードは槍で弾いているか攻撃を反らしてると言う事。受け止めるだけなら『止める』に入るのだが、そうではなく受け止めた後、直ぐに力を反らしてる訳だ。尤も最初の一回だけは止めたが、その後は鍔迫り合い避ける為にスーリヤが踏み込まなくなったと言うのもある。
スーリヤは軽く流していたが、段々悔しくなり徐々に徐々に本気なって行くが全てを往なす。
「もう良いだろ」
全力の七割くらいまで力を出した頃にエドワードは、制止の言葉を掛けた。
「スーリヤが、槍を勧められたのはいつだい? そもそもアークが教師になって直ぐなのか?」
「えぇ。ダーク先生が赴任されたのは十二月の頭ですわ。その際にまずクラス全員で模擬戦をする事になり、その時に槍の方が良いと感じられたようです。そして、次の日に槍を使えと言われたました」
「なるほど」
そう答えるとエドワードは、少し考え込みだす。
現在は六月の終わり。つまりスーリヤは、七ヶ月間弱しか槍を使っていない事になる。
「ちなみにアークは、理由の一つとして鍔迫り合いを嫌うから槍を勧めたのではないか?」
「………………やはり分かってしまわれるのですね」
自嘲気味に呟く。なにせ軽く流すって程度で始めたもので気付かれたのだから。
「何を落ち込んでいるのか分からぬが、その弱点が武器になるのではないか? アークもそれくらいの事は気付いていたと思うがな」
そんなスーリヤを見て肩を竦めるエドワード。
「え?」
「最も危険になる接近をせず、相手の射程外から突ける槍を使っているのだ。それに鍔迫り合いを嫌うのではあれば、相手の接近に敏感になれる」
「なるほど。あれ? そう言えば……」
アークがクラス対抗武術大会で転との組み合わせをした時の事を思い出す。その際に射程外から突けると言っていた。それはすなわちエドワードと同じ考えを持っているのではないかと思い当たった。
「まったくあの先生は、それならそうと仰って欲しかったですわ」
呆れ混りに微笑を浮かべてしまう。
「それはアークが教える等、初めての経験だったからではないか? もしくはなんらかの方針で態と教えていなかったか」
「そうでしたか」
「にしてもスーリヤ」
「何ですの?」
首を傾げ桃色ツインテールを揺らす。
「微笑まれた方が美しい。この後、もっと親交を深める為にお茶でもしないかい?」
「結局それですの? 感心したのにガッカリですわ!?」
「ははは……レディを口説くのは礼儀だからね」
スーリヤは目を剥くが、エドワードは朗らかに笑う。
「それにしてもたった七ヶ月弱で、これだけの腕前。槍の才を見抜いたアークも流石だが、それだけの期間で、これだけモノにしているスーリヤは素晴らしく、目を離し難い程に美しい」
「今の軽い模擬戦で、最初の一回以外は、全て往なされましたがね。正直躱すのではなく受け止めるのではなく、全てを往なすなんて悔しかったですわ」
「年季の差だよ。これから何年も修練を積めば私など直ぐに追い付けるさ。特に突きには目を見張るものがある。アークが、槍を勧めた最大の理由はこれであろうな」
「流石ですわ。ダーク先生が優秀なお方だと、お褒めになるだけはありますわ」
スーリヤは目を見張る。
なにせアークの時は、殺す気で全力を出したの対し、エドワードとはムキになったとは言え軽く流す模擬戦だった。
アークに及ばないがエドワードにも尊敬の念を抱くが……、
「私などスーリヤの天上の美の前には霞むさ」
「………………そして、幼女から老婆まで口説く疲れるお方だとも」
その尊敬の念が一瞬で崩れたのは言うまでもない




