EP.25 嫉妬なマーク
マークの失敗の始まりは沙耶と模擬戦をし沙耶が手加減してしまった事だ。別に沙耶が悪い訳ではない。
いきなり召喚され不信に思ったので全力で相手をしなかったのは、誰も文句の言える事ではない。
結果、学校で武術系で沙耶に一度も勝った事のないマークは増長してしまう。
沙耶の腕ならマークの大剣事その鼻っ柱を叩き折れただろう。相手が魔法剣を使えようが関係ない。
沙耶にはそれだけの薙刀の基礎があったのだから。そうすればマークは大剣を使わなかったかもしれない。
同じ木製の訓練用のだったので、普通に考えれば薙刀のが細くて脆い。
しかし、もし沙耶がその気になっていれば、大剣の右側面を薙刀の刃先で殴り瞬時に、大剣の左側面を薙刀の柄で殴る。
こうする事で、両側から衝撃を加えられ、大剣が脆くなる。つまり、数度それを繰り返せば大剣を折っていたのだ。
マークの魔法剣を躱しながらでも、それをやってのける技量が沙耶にはあったのだから。
そもそもマークが、何で大剣を選んだかと言えば単純で射程が長く破壊力があると思ったからだ。
それは事実であるが、取り回しが悪く大剣で防御すると視界が悪くなり敵を見失う等の欠点がある。
自分の事で頭が一杯だった沙耶にそれを気付かせなかった事を誰が責められるであろうか。
勇者とおだてられ調子に乗った者達はともかく沙耶のように冷静に物事を考えらる者は、異世界にいきなり飛ばされて内心不安だらけになるのは当然の事だ。これが失敗の始まりである。
次に増長した後にゼフィラク兵であるアークにやられて鼻っ柱を折られてしまう。
問題だったのが一度増長した後だった事だ。そのせいで一気に自信を喪失。戦闘にビビり戦いに出れなくなってしまった。
その後、北の迷宮探索を命じられ動物なら余裕で倒せると気付きまた増長してしまう。
これで自分で食料の問題や狭いとこでは大剣の取り回しが悪い事に気付ければ、まだ良かった。
しかし、アークに指摘された事が堕ちるきっかけとなってしまう。
ゼフィラク兵のアーク、召喚されたアーク。名前が同じだけに対抗意識があったのだ。
名前が同じだけで、対抗意識を持たれ何かと突っ掛かれたアークはいい迷惑だったと言えよう。
雑魚だのオッサンと見下していたのに動物を狩り食料確保、調理ができ戦闘でも実は自分より遥かに上を行く。
しまいには自分の唯一のアイデンティティとも言える魔法剣が使えた。
ここで負けを認めれば良かったが、もう認められないとこまで来てしまっていたのだ。
もうそうなるとアークをチートと喚き散らす事でしか自己を保つ事が出来なかった。
追い打ちは沙耶が手加減して自分の相手をしていた事を知った事である。
そして学園生活。
沙耶は元々の基礎、胡春がアークと出会った事で学び二人のが強かったのだが、Sクラスに嫌気が差しCクラスに行ってしまった。
もし、彼女達がSクラスに残り、且つやる気になっていればマークが代表に選ばれなかった可能性が多いにある。
しまいにはアークは、クラス対抗武術大会で、態と同じ魔法剣の使い手をぶつけて来た。
勿論、アークはアークなりにマークの成長を考えてだ。
まあ一番は自分の仕事だから、アグリス学園長に勇者と同等かそれ以上の生徒を育てて欲しいと言われたからなのだが、多少はマークの事も考えていた。
結果、学園でも代表に選ばれ増長していたのに同じ魔法剣使いに鼻っ柱をへし折られてしまう。
それだけではない。
ダークと名乗ったアークが大剣の欠点を指摘。それもアークが言った事そのままだ。
それも当然だ。同一人物なのだから……。
しかし、マークにはそれを知る由もなく、対抗意識を燃やしたアークと同じ事を言われた事が致命的となってしまった。
マークが召喚されて約一年と三ヶ月後、腕輪をしていた左腕が熱いと感じた。何故か腕輪が過熱してると気付いた時には意識を喪失していた。
次に気付いた時に見知らぬ場所にいた。そこはリックロア国の王都なのだがマークは知る由もない。
そこでフードを被った男が接触して来た。
「私はメフィスト。ハルファス法王様の使いで来ました」
そう声を掛けて来たのだ。その後……、
「マーク様の能力が誰よりも優れているとハルファス法王様が気付かれました」
「だったら何で誰にも勝てないないんだ!? 誰よりも優れているなら、勝てるだろ!? 適当な事を言ってるなよっっ!!!!」
気付くとマークは癇癪を起した子供のように喚き散らした。事実日本では十五歳は子供なのだから当然と言えば当然だ。
マークの頭の中は負けた事ばかり思い浮かんでいた。
実際は誰にもではなく一部の者に負けただけなのだが、今のマークにそこまで頭が回っていない。
「それは能力が完全に覚醒していないからです。ハルファス法王様より完全に覚醒させるように仰せつかりました」
「……本当か? ユーにそれが出来るのか? だったらやってくれ」
「では、まず腕輪を。試験的なものなのでデータを受け取り何かあれば元に戻したいとハルファス法王様はお考えです」
「これか? だがこれは外せないぞ」
そのフードの男はあっさり腕輪を外してしまう。
それにマークは目を丸くする。
そして、マークが変化するデータをハルファスの元へ転送される機能と盗聴機能が付いた腕輪に付け替えられた。
「新しいのにしたな。じゃあさっさと覚醒させてくれ」
「では、こちらをお飲みください」
それは前に迷宮に行った時の赤い宝玉をビー玉サイズに小さくした物だった。
「これは……あの迷宮にあったものと……」
「えぇ、そうです。魔王打倒の宝玉を解析し作られた物です。まず最初に勇者の中で最も素晴らしい能力を持っているマーク様にとハルファス法王様は仰られました」
勇者の中で最も素晴らしい能力とおだてられ、またマークは増長してしまう。
――――当然だ、今まで負けたのがおかしいのだ。本当のミーはもっとやれる。
まるで子供のような戯言を考えながら、その宝玉を飲み込んでしまう。
そうしてマークは、そこで自我を失い闇堕ちしてしまった――――――。




