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EP.08 半精霊化 (三)

「んじゃ、あたしは帰るね」


 翌朝ミクは帰り支度を始めていた。


「昨日は本当にありがとう」


 とルティナ。


「お姉ちゃん。ありがとう」

「またね」

「また遊んでね」

「鳥さんとも遊ばしてね」


 子供達も続く。


「うん♪ また来るね」


 そうしてミクはチカの足を掴み飛び立とうとした。しかし、それは叶わなかった。何故なら……、


 ドーン! ドドーンっ!!


「えっ!? また?」


 地響きを鳴らし、魔物達が再び押し寄せて来たからだ。


「ちょっ! 今は厳しいってば」


 ミクが慌てる。


「どうしたの?」

「あたしって一対多数戦の時って弓使うんだけど、昨日の戦いで矢が、ほとんどないのよね」

「私も多数戦になると剣では厳しいわ」


 釣られてボヤき苦笑してしまう。


「あ~あ。こういう時にサラがいてくれたら助かるんだけどな」


 ミクがボヤいてる間にも魔物達が迫って来る。


「私も魔法が使えたらなぁ」


 また釣られてボヤいてしまう。

 ルティナはミクから剣を借り、ダークから貰った短刀も抜き二刀流にした。あまり得意ではない……と言うより、完全に門外漢。だけど数を考えるとこっちのが良いだろうと判断した。

 それに昨日の戦いで剣への恐怖はとっくに無くなった。


 ミクも槍で応戦し、二人で次々に魔物倒すが昨日と同じで数が多い。


「ルティナ、魔法使ってみない?」


 痺れを切らしたミクが問い掛けて来た。

 魔法? 無理だと思う。と内心考えてしまうルティナ。


「む、無理よ。昨日言ったでしょう? 精霊はもういないの」

「でも、サラは使えた。それに言ってたじゃん。何からしらの理由で精霊が復活してるかもしれないって」

「そ、そんな事って……」


 あり得ない。だって確かに自分達はラフラカを倒したのだから……。


「あ~もう。やる前から何で決め付けるかなぁ? 物は試しって言うでしょう?」


 ミクが呆れる。

 確かにそうかもしれない。ダメで元々。試す価値は、あるかもしれない。そう思い直したルティナは……、


「わかったわ」


 返事をすると、大きく息を吸い込み、右掌を前に突き出す。


「<下位火炎魔法(ファイヤー)>」


 ボォ……っ!


 掌から炎が発せられる。


「ごぉぉぉ……」


 その炎がコブリンに当たり燃え上がった。


「……できた」


 まだ信じられないという面持ちで呟くルティナ。右掌をまじまじと見詰める。


「ほらできた。にしても今のはファイ? こっちではファイヤーって言うだね」


 ミクが微笑む。魔法が使えた。それ即ち、理由はわからないが、ルティナの魔導の力が戻ってる。

 それならっ! と心の中でグっと力を籠める。


 シュィィィ~ン!


 中空に浮き体が光輝く。今のルティナなら……、


「はぁぁ……」


 ビリビリ……。


 ルティナの体の周りに電気みたいのが走る。そして体全体は黄緑色になり半透明になって行く。

 髪が足元までの長さまで伸び、ウェーブが掛かる。爪が10cm程伸びる。服は一新され羽衣のようなものを纏いだす。

 もう人間の姿ではない。これぞ精霊とのハーフだからこそなれる半精霊。


「ひょぇぇ~」


 ミクが腰を抜かす。


 当然よね。もう人間じゃなんだから。と、思わずにいられないルティナ。


「やったー! ママが変身したぞ」

「精霊化したママなら負けないね」


 家の中から外の様子を伺っていた子供達が騒ぎ出す。ルティナは、例えミクや他の者にバケモノと言われようが、この子達がわかってくれるなら、それで良いと思っている。

 それだけで自分は戦えるっ! それでも……、


「ミク! 援護お願い」


 バケモノだと思われても、今だけは力を貸して欲しいと思わずにはいられない。何故なら……、


「<我の中に眠りし血に命じる……>」


 魔法の詠唱を行うからだ。それもルティナだけが使える究極魔法(オリジン)


「あわわわわ……」


 ミクは驚きに目を剥き、震えつつもルティナの意図を察し、残りの矢を総動員して弓を放つ。


「<我が祈りを聞き届け、究極の光撃にて、我が手を阻むモノを滅し賜え! 我が力、最後の光とならんっ!>」


 長い詠唱が完成する。


「<ファティマっ!!>


 中空で両掌を前に突き出すと、青いドーム状のものが魔物を中心に広がる


 キュィィィ~ンっ!


 ドームの中で光の柱がいくつも迸る。あらかじめドーム状にしているので、範囲を指定でき余計なとこには被害が出ない。とは言え、魔物が大軍で来たので、かなりの広範囲だ。

 こうしてルティナは一気に魔物達を一掃した。


「あわわわ……」


 特大の魔法にミクは、目を見張りが驚きふためく。

 ルティナは地に降り、片膝をつく。


「はぁはぁ……」


 一年ぶりの半精霊化に究極魔法(オリジン)は、キツいだろうと予測し、ミクに援護を頼み完全詠唱した。精霊大戦の折、これを使う時は大抵短縮詠唱で済ませていた。

 だと言うのにルティナの魔力は枯渇寸前になっていた。短縮詠唱をしていたら、もしかしたら中途半端な発動になっていたかもしれない。

 いずれにせよ、半精霊と言う人ならざる者を見せ、更に特大魔法を見せてしまったのだ。ミクは……、


「あわわわ……あんた何者?」


 震えながら声を発する。こうなるのは当然と言えよう。


「ごめんなさい。実は私は精霊とのハーフなの」

「ひゃひゃはよぅ……ヒャーフ!?」


 もう言葉となっていない。

 ルティナは他人から見ればバケモノ(・・・・)だと言う事は自分が良くわかってる。それ故に、ついミクから目を逸らしてしまう。


「そう。私は人間と精霊の間に生まれた子なの」


 視線を外したまま語る。今は、彼女の顔を見たくな。きっと私を見て恐怖してるだろう、と。


「か……かか、か……」


 やっぱり怖がっているのでね。ごめんね。できれば知られたくなかった。と、内心思うルティナだった。が、それは杞憂だ。何故なら……、


「かっ……かっこぅいいいいいい~」

「はっ!?」


 ミクが震えていたのは、格好良いものを見たが故の興奮だったからだ。

 ルティナは、今なんて言った? と怪訝そうな顔し思わずミクを見る。

 ミクは、凄く目をキラキラさせていた。もう眩しいくらいに。


「サイン頂戴♪」

「ふやぁ」


 思わず間抜けの声が出してしまう。いつの間にか色紙とペンを差し出してる。ルティナは一気に力が抜けて、半精霊化が解けた。


「あ~あ。元に戻っちゃった。せ~っかく恰好良かったのに」


 心底残念そうな顔で見ていた。


「って、貴女ねぇーっ!!」


 気付くと色紙とペンがルティナの手に。ルティナは、つい怒鳴ってしまう。なんなのこの娘は?

 昨日から、この娘のペースに振り回されっぱなし。なんか苦手だわ、この娘


「え? なに?」


 内心ルティナは、そう思ってるのだが、まるでわかっていない


「だから……怖く……ないの? 私の事」


 声が震えてしまう。


「全然……それよりサイン」


 あっけらかんと。

 あーもう描けば良いんでしょう描けば。半分投げやりでペンを走らせた。


「私は人間じゃないのよ」

「だから?」


 またあっけらかんと。しかも真顔。


「だから、私はバケモノなのよっ!!」


 ルティナも、ムキになってしまい声を荒げてしまう。


「半分精霊ってだけでバケモノじゃないでしょう? それにバケモノだとしても悪い人じゃないじゃん」

「えっ!?」


 ルティナは固まってしまう。何でそんな割り切れるの? 何で悪い人じゃないってわかるの?


「ねぇみんなー! ママって怖い?」


 ミクが家に向かって叫んだ。


「ママは、怖くないよ」

「だってママはママだから」


 子供達が返す。

 それを聞き届けたミクが再びルティナの方に視線を向けた。


「逆に聞くけど、こんなにママママって慕われているのに何故怖がらないといけないの?」

「そうだぞ。ルティナはいつも俺達を守ってくれる。それで十分じゃないか」


 とディールの声も響く。


「そういう事♪」


 ミクがにんまり笑う。

 とても暖かくて優しい笑みに思えた。


「……ありがとう」


 ルティナの瞳から涙があふれる。例え子供達が認めてくれても、本当は内心コンプレックスだった。こんなバケモノの姿じゃ、他の人から嫌な目で見られると。それでも強がっていた。仕方ないと割り切っていた。

 だけど、昨日会ったばかりの人が悪い人じゃないから怖がる必要はないと慈愛に満ちた笑みで言われて、心の中に突き刺さっていたトゲが取れたような感覚に陥る。

 心の中で締め付けていたのが氷解して行くような感覚。そして溶け出した水が瞳から次から次へと溢れる。

 顔をくしゃくしゃにする程、凄い勢いでそれは押し寄せて来た……。


「それにさ~。ルティナはまだ良いよ。精霊って誰もが知ってる存在だし」


 ルティナが泣き止むを待ちミクの口を開く。


「あたしの大陸なんてさぁ機械人と呼ばれる機械で出来た竜に変身する人がいたんだ。目が真っ赤で……あれは怖かったなぁ。伝承でそんなのがいたって知ってたけど生き残りがいたとはねぇ~」


 この娘こがいた大陸って一体。と、首を傾げるルティナ。


「……機械人?」


 聞き返しながら、サインした色紙とペンをミクに渡した。


「ありがとう♪ いや~良いおみやげができた」


 ミクが満面な笑顔で受け取る。


「……っと、そう機械人。私の大陸にそんなのがいたの。他に草人とか剣人族とか変わったのが色々いたな。それに比べ、ルティナは精霊というわかりやすいものだし」

「……そうなんだ」


 もうなんて返して良いのやら。


「でも良かったね♪ 魔導の力が戻って」

「ううん」


 ルティナはかぶりを振り……、


「魔導の力が戻ったという事は、そうなった原因がある筈だわ。それが自然現象なら良い。でも、悪意ある誰かの仕業なら……」


 顔が強張る。それに気付いたミクも真剣な顔に変わった。


「どうするの?」

「原因を探り、場合によっては、それを叩くっ!」


 力強く発し、家の方に視線を移す。


「皆! ごめん。私また行くね」


 ディールとカタリーヌ、そして子供達に言う。


「また……戻って来るよね?」


 子供の一人が不安そうな眼差し言って来た。


「もちろん!」


 にんまり笑う。


 ――――だって、此処は私の帰るべき家で、私の居場所だから。


「わかった。いってらっしゃい」

「いってらっしゃい」

「早く帰って来てね」


 子供達が次々にそう言ってくれる。大丈夫よ。貴方達がいる限り絶対帰って来るから。


「ルティナが留守の間、子供達は俺が守るから……頑張れよ」

「頑張ってね」


 ディールとカタリーヌも応援してくれる。


「うん! ……それと此処は危険だからパラリアに行きましょう」

「うん。わかったよママ」

「ママ! わかった」

「じゃあ早速行きましょう」


 パラリアならここより安全だ。あそこなら魔物対策の警備も確りしている。ルティナが留守の間、皆には其処にいて貰おう。

 話が纏まったので再びミクに向き直した。


「ミクにお願いがあるんだけど良い?」

「んにゃ? な~に?」

「久しぶりの魔法で魔力が枯渇しそうなの。一日だけ私達の護衛をしてくれない? 勿論パラリアでの宿泊と食事は保証するわ」


 って言っても、その資金はミクがくれた鉱石を換金したものになるのだけど。と、内心呟くルティナ。


「一日? う~ん。そこって矢売ってる?」

「勿論! 普通のだけでなく、この大陸の科学力で開発した炎の矢とか他にも変わったのがあるわ」


 そうこの大陸は魔法がなくなった事により、機械技術が急激に増した。これもエドが尽力したからだ。


「ほへ~……そんなのがあるんだ。うんOK♪ 護衛くらいバッチリやるわ」


 と自分の胸を叩く。

 ルティナは、口に出して言わないけど、かなりつつましい胸だ。


「ありがとう」


 その後、魔物がちらほらと現れるがミクとチカが軽々撃退しパラリアに到着した。到着早々ミクは矢の補充を行っていた。

 そして次の日、再びミクは帰り支度を始め出す。


「やっぱり帰るの?」


 ルティナが聞く。苦手と思いつつも、やはり寂しいのだ。


「うん。あたしが言われたのはサラを無事に別の大陸に送り届ける事だからねぇ~」

「そう残念ね」


 本当に残念だ。マイペースで、人のペースを狂わす娘だったけど、良い人だった。


「ごめんね。命令には逆らえないから。それにまた遊びに来るね♪」


 ミクが微笑む。


「命令って例の女王様から?」

「ううん」


 と、ミクはかぶりを振り……、


「あたしの大陸の中心である聖王国ユグドラシルのロッカ女王からの要請が、あたしの祖国マルストに来たの。あたしは、その国の王妃に仕えてるから、その王妃からの命令。ちなみにサラは、また別の国に仕えているから其処からの命令だね」

「へ~。ミクの大陸では国通しの交流が確りしてるのね」

「ロッカ女王様が頑張ったからね。去年まで酷かったんだよ」

「そっか。そっちも色々大変だったんだ」

「まぁね。じゃあもう行くね。そっちも色々大変だろうけど頑張ってね。チカ!」


 そう言ってミクは羽ばたくチカの足に掴まった。


「うん。色々ありがとう。またね」

「んじゃばっはは~い♪」


 そうしてミクは空高く羽ばたいて行った。


 さて、今度はルティナが……。

 子供達には、出立する事は言ってある。よし! まずはエドがいるフィックス城へ。そう言えばサラも向かってるんだよなぁ。自分が先に到着していたら驚くだろうな。ふふふ……と、にやけてしまうルティナ。


 シュィィ~ンっ!!


 半精霊化を行い飛び立つ。


 ――――皆、さようなら。必ず戻ってくるから……。


 目指すはフィックス城。


 プシュ~っ!!


 一気に加速。あっという間にフィックス領が目前に迫った。しかし……、


「くっ!」


 徐々に高度が下がって行く。


「……コン…トロール……できない」


 やはり一年間半精霊化していなかったから、体がついて来なかったようだ。いや、もしかしたら完全に力が戻っていないのかもしれない……。

 そして、なんとかフィックス領に入ったのは良いが、次第に地面スレスレで飛行しだす。


「くっ!……ダメ……みんなと約束したんだから……あ…と少し……お願い……もっ…て…くっ!」


 ――――ダメ! ……このままじゃ私……。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「エ、ド……」

「むぅ? レディが私を呼んでいる」


 謁見の間の玉座に腰掛けていたエドが辺りを見回す。其処にルティナがやって来た。

 意識が飛びそうになる中、なんとか此処まで辿り着いたのだ。


「ん?」

「はぁはぁ……エ、ド」

「ルティナか? でもその姿は……」


 半精霊化してる為に目を丸くするエド。


「はぁはぁ……」


 ルティナが片膝を付き、半精霊化を解く。


「おいルティナ! 大丈夫か? どうした!?」


 倒れそうになったルティナを慌てて寄って来たエドが支える。

 意識が飛びそう。でも、これだけは伝えないと。と、力を入れるルティナ。


「ま、ほうが……はぁはぁ……よみ…がえ……った」

「魔法?……いや、それよりも今はルティナ! 確りしろっ!!」


 限界だったようだ。エドの声が徐々に小さくなり、ルティナは闇に呑まれた……。

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