EP.22 ボクの決断 side Flora
わたくしは、デビルス国、第二王女クロセリス=リリム=デビルス。
祖国は無意味な戦争をし愚を犯しておりました。もしかしたら、わたくしには分からぬ何かがあるのかと思い静観しておりました。
しかし、禁忌である勇者召喚を行い、幾人もの罪無き異世界人を殺めてしまいわたくしは、デビルス国を、父上を完全に不信に思うようになりました。
極めつけは赤い宝玉です。コハル様、サヤ様、マーク様、そしてアーク様が持ち帰った赤い宝玉から禍々しい魔力を感じました。
小さい頃から魔導教育を受けていたからこそ感じたものです。だから、こんな国いたくなくなりアーク様にお願いし逃げ出しました。
それからアーク様はわたくしにフローラと言う偽名を付けてくださいました。
お花の女神様だそうです。なんとも素敵な名前でございます。
ボクはそれが気に入り、以来フローラと名乗るようになった。
その後、アークと逃亡しシャルラルク村に身を寄せた。アークと一緒に暮らしようになる。
最初はなんだかんだ理由を付けてボクの体を狙ってるのだろうと思った。だってアークの、えちえちな視線が胸にしょっちゅう注がれるから……。
この身一つで逃げると決断したから体を捧げる覚悟は出来ていた。胸に目をやるくらいなら、いっそう好きにすれば良いとそう思った。
ただ、釈然としないのが最初に要求したのが『小太刀を持って来い』だ。体じゃなかった事。
なのに婚姻予定もない赤の他人の男女が一緒に暮らすとなったので不信に思った。最初は好ましくなかったし、はっきり言って嫌いだった。
それでも王族として、国の利となる相手に嫁ぐ事を宿命付けられているので、好ましくない相手でも平静を保っていた。スーリヤ王女みたいに相手を愛する努力するなんてボクには割り切れない。
一緒に暮らしている時も視線は胸にばかり。確かにさボクのは大きいけど見過ぎだよぉ。だけど一切ボクには手を出さなかった。
ボクが家政婦という形で一緒に住んだ後、やはり経験がなく料理とか最初は失敗ばかり。掃除も時間ばかり掛かりまともに出来なかった。
なのにアークは埃があろうが片付けをしていなかろうと何も言わなかった。料理も失敗し、はっきり言って不味いものを食べてくれた。
口では不味い、最悪、吐きそう、酷い事ばかり。だけど全部食べてくれた。
不思議に思いボクは聞いてみた。
そしたら自分の為に作ってくれたものだから例え不味くても全部食べるよ、と優しく言ってくれた。
その時からボクは、アークに懸想を抱くようになった。それが日に日に増した。
でも、アークにはナターシャさんがいる。だから、この気持ちは言わないでおこう。自分の中に封じ込めて置こう。
そう決心したのにアークに揶揄われ、うっかり言ってしまった。それでも諦めてるとはっきり告げた。
ボクは少しでも長くアークといられれば良いやと思った。
いつかは別れの時が来ると予感があったが、やっぱり自分の気持ちは封じ込めておこう。
しかし、アンナさんに自分の住んでた大陸に来ないかってアークが誘った時にボクの中に封じていたものが弾けてしまう。
「ダーク先生の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
自分でもビックリな程、叫んで泣いてしまった。自分でも分からない。何故こうなったのか。
封じ込めていたかったのに……。
アークを困らせたくなかったのに……。
そして……、
「デビルスを潰す覚悟、そしてナターシャと常に比較される覚悟はあるなら来い」
と、言われた時は惹かれてしまった。
最初に祖国を敵に回す覚悟はあるかとアークに問われた時に覚悟はあると言ったのに関わらず、惹かれてしまった。
ボクは自分で自分が分からなくなった。ボクの覚悟ってそんなものなの?
そしてクラス対抗武術大会の祝勝会では、今度は沙耶を誘っていた。
またボクはいじけてしまう。決断しないといけないのに……。
そんなボクにアークは……、
「今日一緒に寝る?」
と言い出し、寝ると答えれば……、
「正気? 同じ布団に入るだけで、しかも哀れみでだよ?」
と、言われてしまう。
哀れみ……。
それでもアークと一緒にいる事を選んだ。ボクは最低だ。自分じゃ何も決断出来ない。
その日、旅館に入り旅館専用の寝間着があったので、態と着崩し胸元を開いた。
アークはボクの胸が好きだから、きっと乗って来るだろうと言う最低の考えから、そんな行動をしてしまった。勿論、最初は自分がどう言う事をやってるのか気付いていなかったけど。
思った通りアークのアレを大きくし、ボクに見せ付けるようにして来た。
内心喜んで、気付けばアークのアレに手がそろ~りと伸びていた。しかし、その腕を突然掴まれる。
「したいんだったら姫様モードで、『したいです、触らせてください』って言えたら考えてやる」
って言われてしまい、思わず……、
「アーク様、わたくしと伽をしてくださいませ。アーク様のソレを触りたいです」
と、アークの言う通りにしてしまう。ボクは何故こうもアークを誘い、言われた通りにしたか気付かずに。
「キモっ!」
「えっ!?」
「マジでキモい」
「何故でしょうか?」
「必死過ぎなんだよ!」
一瞬頭が真っ白になった。
必死過ぎ? 何が? いや、分かってる。分かってるけど、そこから目を逸らしていた。アークはずっとそれに気付いていた。
この時のアークは、機嫌が悪かった。目を逸らしていたボクに腹を立てても当然だろう。
ボクに怒ってるんじゃないとか言ってくれたけど、たぶんアークなり必死に怒りを抑えて、ボクに気を使ってくれていたんじゃないかと思う。
ともかく、ボクはずっと目を逸らしてた本当の気持ちに気付き大泣きしてしまった。
情けなくて、みっともなくて、惨めで、浅ましくて、男の人に縋る事しか出来なくて……。
ボクは、アークを好きなんかじゃなかったんだ――――――。
ただ、ボクは自分の背負った重責から逃げる言い訳を作りたかっただけなんだ。
その為にアークを利用した。その為に自分自身を偽りアークが好きなんだと思い込んだ。
この時、初めて自分が犯した事に気付いた。ボクは逃げる言い訳をアークに決断して欲しくて、アークが好きなんだと思い込んで、浅ましい行動を取ったんだと。
自分自身ずっと気付いていなかった気持ちにアークは気付くなんて、やっぱりアークには敵わないなぁ。
だから、この日ボクは決断した。逃げずに言い訳を作らずに自分の考えで……。
ただこれで最後にしようと思い、アークに甘えて抱き着いて寝てしまったけど、もうアークには縋らないと決めた。
そしてある日、アークに尋ね人がやって来た。
「灰色髪でアークという人を知ってるかい?」
学園の下校中に奇麗な白身かかった金色で腰まである長い髪を背中の辺りで大きなリボンで結んでいるアンナさんみたいな髪型の人に声を掛けられた。
アークはダークと偽名を名乗りアークだとバレないようにしている。もしかしたらデビルスの手に者かもしれない。
だから……、
「………………知らない」
と答えた。
「ナターシャお姉ちゃん、そろそろ皆と合流した方が良いよー」
そうすると一緒にいたボクより年下くらいの女の子がそんな事を言い出した。
「そうだねぇ」
「ナターシャ?」
思わず聞き返した。
ああ、アークを迎えに来たんだ。もうお別れの日が近いんだな。
でも、もうボクは決断した。だから、アークは東に行ったと正直に答えた。
次の日、勇者達が暴れアークが帰って来て鎮圧し、アークはボクに問うて来た。
「俺はデビルスを潰すと言った。決断の時だ。どうする?」
ボクは決断した。だから答えないと……。
一度目を瞑り『わたくしは、クロセリス=リリム=デビルス』なんだと言い聞かせる。
そして目を開ける。
「アベリオテス王子、スーリヤ王女、大変申し訳ございませんでした」
わたくしは、頭を下げた。
「一体どうしたのですか? フローラさん」
「そうですわ? 如何なさいましたか?」
頭を上げ……、
「今まで黙っておりましたが、わたくしの本当の名はクロセリス=リリム=デビルス。デビルス王家から逃げ出した第二王女ですわ」
そう言うと二人は目を丸くし出す。
「勇者の方々も申し訳ございません。わたくしの力不足で貴方方を呼び出し、あまつさえ何も出来ず、このような結果になってしまいました」
勇者の人達にも頭を下げると驚きで、目を見開き何も言えずにいた。
「それがフローラ……いや、クロセリスの決断だな? それは永続的なものか?」
つまりは『ただのフローラに戻り俺の下に来たいと言い出す事はないのか?』と、問われている気がしました。
アーク様だけは、硬直せず真っ直ぐわたくしを見据えて来ます。なのでわたくしは、応えないといけません。
もうわたくしの答えは決まっておりますので、こう応えます。
「それは分かりかねます。今の状況から、わたくしがこのまま王女でいられるか、先が見えません」
とは言え、実際はもうどうするか決めております。ですが、それはこの場で言う事ではございませんし、アーク様も納得してくれないかもしれません。ですので……、
「ただ……」
「ただ?」
「アーク様に、もうあのような醜態を晒す事は、ないでしょう。わたくしはこの大陸に残り責務を全うします」
「それは本当か?」
「っ!?」
物凄い圧を感じました。
アーク様にデビルス国から、逃がしてくれと頼んだ際に感じたものと同質のものです。
あの時は、恐怖に足が竦み喉がカラッカラになったのを覚えています。
威圧と言うものですね。しかし、今感じてる圧はあの時の比ではありません。
あの時以上に強く感じます。わたくしは試されているのですね。
「……………くっ!」
口の中を噛みます。血の味が口の中に広がりました。
「は……い。で、ですから、わたくしはデビルスに戻ります。どうか潰さずに済むようにアーク様のお力をお貸しください」
「……分かった」
目を瞑り静かに答えてくれた。そうして圧も消えました。
「そう言えば、お前が俺と初めて問答した牢屋での事を覚えているか?」
「え? はい、当然でございます」
いきなり、何の話でしょう?
「今なら分かるだろ? あの時、クロセリスは圧を感じた筈だ」
「威圧……でございますね」
「そう。今だから言うが、それに抗った時点で、連れ出すと決めていたんだ。つまり、あの一連のやり取りは完全に戯れだな」
「まぁ。そうだったのですね」
わたくしは、口元を抑え驚いてしまいます。試されたのは最初の問答のみだったのですね。それ以降は、わたくしを弄んでいたと言う事でございますね。
全くこの方は、つくづく困ったお方です。




