EP.20 勇者達が隷属させられていました
ロア学園がある町の外の少し離れた場所にゼフィラク兵達の野営地を構えさせ最初に言った通り五人だけを町に入れる。
その五人の中に紅い髪の奴もいた。俺はそいつに話し掛ける。
「なぁ、俺はダークって偽名を今は名乗ってるが、あんたの弟子と同じのアークってんだ。あんたの名前を聞かせてくれる?」
礼儀としてこちらから名乗った。
「……ゼフィロスだ」
風神ですか。
前にアベリオテスの最後がゼフィラクではなくゼフィロスなら全部風神になるなと思ったがゼフィロスはゼフィロスでいて、こんな形で出会うとは……。
と、今はそんなどうでも良い事を考えている場合じゃないな。
「ゼフィロスか。ゼフィロスはユグドラシル大陸出身だろ?」
「何故知ってる?」
「弟子が下位火炎魔法を使った時に聞いたんだよ。ユグドラシル大陸の魔法を何故使うのかって、さ。そしたら師匠がユグドラシル大陸出身だって教えてくれてな」
「そうか……だが、何故ユグドラシル大陸の魔法を知ってる?」
「ユグドラシル大陸って言ってもどれくらいの広さか知らないし、ゼフィロスは知らないかもしれないけど、一応聞くがサラって言う槍使いを知ってるか?」
「……サンダーランスのか?」
こりゃビックリ。世間は狭いって言うかなんと言うか。
「そう。そのサンダーランスのサラ。彼女と一緒に戦った事があるんだよ。少しだけだけどな」
「あたいもさぁ」
「わたしもー」
何故かナターシャとエーコも話に加わり出す。って言うか君ら一緒に戦った記憶ないでしょう?
歴史改変前で、その時の記憶は俺と行動した記憶だけでしょう? まあ俺が話していたから、そう言う気分になってるのかね。
「……そうか」
「なぁ、あんたユグドラシル大陸に帰ろうと思えば帰れるか?」
「……可能だ」
なんか寡黙な奴だな。ちょいダークっぽい。
俺だって? 違う違う。本物の方。
「その際さ、ディーネ王妃に謁見は可能か?」
「イクタベーレのか?」
「そうそう」
話が早くて助かるね。
「可能だが……それを聞いてどうする?」
「今後どうなるか分からないけどディーネ王妃をこの大陸に連れて来て欲しいんだよ。えっと、ユピテル大陸のエドワード国王の要請だって言ってな」
「私がどうしたって?」
「ビックリしたぁっ!!」
いきなり現れるなよエド。
「久しぶりだなアーク」
「がはははは……元気そうじゃねぇか」
「アーク、良かった見つかって」
「ああ。エド、アル、ルティナ、心配掛けた」
「それで私がどうしたって?」
「ああ、エド。四肢を失った奴がいるんだけどフィックスの機械で、どうにかして欲しいなって」
「ん? 可能だが、ここまで運ぶのは無理だぞ。今回ストラトスに無理言ってファルコンを蘇らせて貰ったからな」
「そう言えば何で? あいつラフラカ絡みじゃないと復活させないだろ?」
よくよく考えて見れば不思議だ。
ゲーム時代の知識で、あいつが弔い合戦でしかファルコンを蘇らせないのは知っている。
「そこはナターシャの交渉のお陰だ」
「照れるじゃないかぁ」
「アークはラフラカ絡みで二度大陸を救った。『弔い合戦を代わりに二度してくれたんだから、借りを返す』て、言ってな」
なるほど。それでストラトスを動かしたのか。
「やるな、ナターシャ」
「アークも照れるじゃないかぁ」
顔を赤くしてモジモジさせてさ。
歳考えろよ……とは、口に出来ないな。
「何か失礼な事を考えていないかい?」
「ソンナコトナイヨー」
ナターシャもエスパーだった。
「って訳でゼフィロス。こちらユピテル大陸のフィックス王、エドワード=フィックスだ」
「気軽にエドで構わないよ」
「……さっきの話の流れから弟子の四肢をどうにかしてくれるのか?」
「弟子が誰か知らないが、可能ではある。たださっきも言った通り此処には二度と来れないだろう」
「そこでディーネ王妃だ」
そうディーネ王妃が協力してくれれば可能だ。
「……転移魔法か?」
「それもあるけどフィックスと国交を結んでいるから定期的に物資のやり取りをしてる」
「……そうか」
「まとめるとゼフィロスは一旦ユグドラシル大陸に帰りディーネ王妃と謁見。ディーネ王妃にエドの要請だと言って此処に来て貰い、いつでも此処に転移魔法で来れるようにする。その後、エドが機械の四肢の代わりになるものをディーネ王妃に渡し、ディーネ王妃はゼフィロスの弟子に渡すって事だな」
「……分かった。弟子の為に感謝する」
「エドも勝手に決めたけど良いかな? 金ならフィックスで何か仕事があれば稼ぐからさ」
「構わないさ。アークには助けられた事もあるしな」
よし。一つの話がまとまったぜ。
って話をしていたら学園に着いたな。だが……ん?
何か騒がしくない? 学園の中は爆音が響き悲鳴が聞こえ、建物が崩れ……どうなっている?
そして、学園の中からルドリスが走って来た。
「あ、ダーク先生!」
「どうした?」
「突然勇者の一部が暴れ出しまして皆で応戦しているのです」
「何っ!?」
「私はダーク先生に知らせるように皆に言われまして」
ルドリスが一番足が速いから他の人にそう言われたのだろう。
と言うか隷属の腕輪を発動させたのか?
「ダークってどう言う事だ?」
アルが全く関係ないどうでも良い事を聞いて来る。
「事情があって本名を名乗れなかったんだよ。適当にダークにした」
「そうか」
「って訳で、皆手伝ってくれ」
「良いに決まってるさぁ?」
「良いよー」
「構わないさ」
「応ッ!」
「私も手伝うよ」
ナターシャ、エーコ、エド、アル、ルティナが応えてくれる。頼もしい仲間達だ。
「ゼフィラク兵の皆も手伝って欲しい。今、暴れている連中の腕輪が付いている腕を斬り落とすか腕輪を破壊してくれ。隷属させられているだけで本人の意思で暴れている訳じゃないんだ」
「それもデビルスか?」
「ああ」
「なんて奴らだ! 分かった。ここは協力しよう」
「感謝する」
そうして学園に乗り込んだ。やはり勇者達が暴れている。
意識はないのか? 感情が顔に出ていない。
ただ何故か一部しか隷属されていない。隷属されていない勇者の一部は逃げ回ってる。
「何やってるんだよ? お前ら」
「正気に戻れ!」
そんな中で蓮司、剛毅、転、拓哉や他に名前の知らない一部の勇者達が勇猛果敢に応戦していた。
他にCクラスの面々が応戦している。と言うか転はスーリヤを守るように動いてるな。
ほんとスーリヤの奴隷化してるわ。デビルスの奴隷よりマシだけどさ。
俺は小太刀を二振り抜き腕輪の付いている腕を斬り咲いて行く。
「あ、ダーク先生」
「ほんまや」
フローラを皮切りに俺の存在に生徒達が気付く。
「ここまで良く頑張った。あとは逃げるか、可能なら勇者共の腕輪が付いてる腕を斬り飛ばしてくれ」
「ダーク先生? オッサンじゃねぇか」
「オッサンがダーク先生だったのか」
応戦してた蓮司達や名前の知らない勇者が俺の正体に気付く。今は仮面を被っていないからな。
「はい。オッサンですが何か?」
と、返しながら勇者の腕を次々に斬り咲いて行く。
「アベリオテス王子、ご無事ですか? 我らも加勢します」
「ああ、ゼフィラクの兵達か。宜しく頼む」
こっちこっちでアベリオテスを守るように戦っているな。
「ちっ! オッサンのくせに動きが見えない」
「俺達を騙していたのか?」
「オッサンのくせに生意気な」
で、勇者共は口々に罵詈雑言を言ってると。どうでも良いけど。
「騙すって何を?」
そう言いながら、更に他の勇者の腕を斬り飛ばす。
ちなみに俺が斬り飛ばした端からナターシャ、エーコ、ルティナ、ウェンディ先生は回復魔法を行っている。
当然腕輪を外し腕をくっつけた状態でだ。腕をくっつけた状態で回復しなければ出血が止まるだけで腕無しになってしまう。
かと言って腕輪を付けたままでは、また隷属されるからな。三人は、それを良く分かっているのだろう。
エドはマシンボーガンで牽制し他の面々が腕を斬り易くしてくれている。
アルは殴り飛ばし腕ごと腕輪を粉砕。ある意味一番痛そうだ。
「オッサンだったくせに教師なんてやっていやがって。俺達を騙していたんだろ」
なんか吠えているな。
「は? 気付かなかったのは君達だろう? そもそも俺が何で君達にアークですって名乗らないといけないの?」
「……………………それは同じ召喚された仲間だろ?」
「仲間? 意味不明。オッサンだの雑魚だの散々言っておいていざとなったら仲間、ね。流石中坊だ」
「くっ! ねちっこい奴め。オッサンだの雑魚だの、ほんの冗談だろ? 根に持ってるんじゃねぇ」
更に意味不明だな。
別に根に持ってもいなしどうでも良いと流していたんだがな。
まあそんな不毛な言い合いをしつつ隷属した勇者達を鎮圧した。
「さてと」
瞬時に蓮司のとこに移動した。
「っ!? いきなり何だ? オッサン」
何も答えず蓮司の腕輪を掴み闘気を流して握り潰し破壊した。
そうして隷属されなかった勇者達の腕輪を破壊して行く。これにはアンナとアルも手伝ってくれた。
二人は俺の行動を見て何をしてるのか察したのだろう。
それにしても地獄絵図だな。
重症を負った連中もいるし勇者達も皆に応戦されてボロボロ。
腕を斬る前に弱らせたのもあるが、腕輪の事を知らずに普通に応戦し傷付けたのかもしれない。
それに勇者達にやられた生徒。はっきり言ってナターシャ達の回復魔法じゃ追い付けない。
「これ全員回復するのしんどいな」
俺も中位回復魔法を使えるが三回くらいが限度だし。
「じゃあ私が……ティカルさん」
そう言って沙耶が癒しの精霊ティカルを顕現させる。
≪なんかな?≫
「ティカルさん、皆を癒して」
≪分かったやけん≫
博多弁で答え、一斉に癒し出す。
と言うか便利だな。精霊顕現とかめっちゃ良い能力を手に入れたよなと再認識。
「すっごーい。今のなーに?」
「だねぇ。一瞬で皆を回復したねぇ」
エーコが驚き、ナターシャがそれに同意した。
「貴女……」
そんな中、ルティナが夢うつつな如く怪しい足取りで沙耶に近付く。
「えっと、何よ?」
突然知らない人に声を掛けられて戸惑う沙耶。
そしてルティナは、そのまま沙耶に抱き着く。
「えっ!?」
当然戸惑う沙耶。あ~そっか。ルティナも半分精霊だ。
「あ、ごめんなさい。貴女を見ていたらつい」
パっとルティナが離れる。
「え? あ、はい」
めっちゃ困惑しているな。ここは助け船を出すか。
「沙耶、こちらはルティナ。半分精霊だ」
「あ~前に言っていたね。なるほど。そう言う事か」
沙耶も直ぐに納得した。
「ちょっと私が気にしてる事を何で言うの?」
ルティナはご立腹のようだ。
ルティナは精霊とのハーフだと言う事をコンプレックスに思ってるとこがある。
一部の者から人とは思えない姿からバケモノと揶揄される事があるからだ。
「ルティナ、こちらは沙耶。精霊に好かれる体質を持っている」
「え? 何それ?」
「だから思わず抱き着いたんじゃないか?」
「確かに惹かれるものがあったわ」
と、ルティナも納得したようだ。




