EP.17 我が最愛の親友よ
「カァー! 二度も代わりに弔い合戦して貰ったんだ。これで何もしないなんて出来るかバカヤロー! 良いぜ。ファルコンを蘇らせてやる」
説得出来たと嬉しくてなり、ナターシャは涙が溢した。
「ナターシャ、これを」
エドワードがそっとハンカチを貸してくれる。
――――軽薄で口説き癖があるけど女の扱いを良く分かっているのよねぇ。
「ありがとうさぁ」
「ストラトス、感謝する」
「それは良いがよぉ。ねぇーちゃんとダークってどんな関係だ?」
「ダーク……いや、今はアークと名乗ってるけど、アークはあたいの男さぁ」
「カァー! ダークの野郎えらい別嬪を捕まえたなおい!」
「では四、五日は待機となる。ストラトスもその間準備しておいてくれ」
「分かったぜ」
エドワードがそんな事を言い出しストラトスが頷く。
「直ぐに行かないのかい?」
「エーコとルティナがフィックス城に来たら、此処に来るように伝言を頼んでいてね」
「待つのかい?」
「ストラトスなら遠回りだが、安全なルートで三日くらいでファルコンを復活させられるだろう。だが、何か不慮の事故が起きたら困るからね。だから確実に復活させる為に人数を揃えて危険な正面ルートから行くって訳さ」
「ちなみに正面ルートとやらは、どれくらい掛かるのさぁ?」
「半日もいらないだろう」
――――でも、ストラトス一人なら三日で蘇らせられるのよね?
エーコとルティナを待つのに数日。それなら遠回りの三日のが早いと考えた。
「なら、あたいらも遠回りルートとやらに行けば良いんじゃないかい?」
「それは出来ない。ファルコンを作った男は天才だ。フィックスの科学力を駆使しても、まだ空を飛ぶ物を作れない程に」
「確かに天才ねぇ」
「その天才がストラトスだけは通れる設備を用意した」
「どう言う事だい?」
「理屈は分からない。だが、ストラトス意外が通ろうとすると扉が閉まる仕組みにされている」
「生体認証ってやつだってよ。俺だけはその生体認証で遠回りになる道の扉が開くって聞いたぜ」
と、ストラトスが説明してくれる。
「ついでに言うとねぇーちゃん。その生体認証でファルコンを動かせるのは俺だけだ」
え? そんな事が? と首を傾げたナターシャはエドワードの方を見た。
視線を受けるとエドワードは肯定するようにコクリと頷く。
それから四日後、エーコとルティナと合流し飛行船ファルコンが眠る場所へ向かう事になった……。
「侵入者、ハイジョハイジョ」
飛行船が眠る場所で待ち構えていたのはロボット達だった。
フィックスでも自動で動く機械を作っており、それをロボットと呼ぶのは誰もが知っていた。
しかし、此処にいるロボットは、フィックスより遥かにハイテクだ。
どれだけ飛行船を作った奴が天才だったか伺える。これを見ればラフラカとしても邪魔でさっさと排除にかかったかも良く分かる。
そう……あまりにも天才過ぎてラフラカは脅威に感じ排除したのだ。
ここのロボットはまず喋る。いや、喋ると言っても『侵入者排除』と同じ事を繰り返すだけなのだが。
そして驚くべきは二足歩行をしている。
エドワード曰く立った時のバランス調整が難しく今の技術では作れないとか。
そのロボットは顔も体も四角。目は様々な色に光る。
手足は細く短いが、手には確り武器を持っていた。それがうじゃうじゃ大量に襲って来るのだ。
「エレメント・ランス」
「<下位氷結魔法>」
「<下位稲妻魔法>」
ナターシャは弓、エーコとルティナは魔法、エドはマシンボーガンで対応する。
全て遠距離攻撃で近付いて来る前に倒せていた。ちなみにストラトスは戦えないので付いて来ているだけだ。
ただ、ナターシャは一つ気になる事があった。普通に倒せているので問題ないんだけど……、
「エド叔父ちゃん、女の子ばっかだからってー、口説きながら戦うなんてしないでねー」
「私でも状況を弁えている」
「あら? 本当なのかな?」
エーコがエドワードにそう言い、エドワードは否定するがルティナが揶揄い混りに返す。
「口説きながらだとエド叔父ちゃん強くなりそうだしねー。口説かれているこっちはメンドーだけどー」
「エーコまでそんな事を言うのか」
エドワードはげんなりしながらもマシンボーガンを放つ。
「あ~エドなら口説けばパワーアップとかありそう」
ルティナも笑いながらエドワードに追い打ちを掛け魔法でロボットを倒す。
「私は百股クソ野郎ではないぞ」
「ロクーム叔父ちゃんですら二股クソ野郎なのにエド叔父ちゃんは桁が違うねー」
「そうだね」
はっきり言って緊張感がない。
「ユキにも言われたのだが断じて違う。これでも私はレディと交際した事がないのだぞ」
「手あたり次第に口説いてるのにー?」
「そうよねぇ~」
「レディを口説くのは礼儀であって交際する為ではないよ」
「意味分かんなーい。ルティナお姉ちゃんは分かったー?」
「私も全然分かんないかな」
さっきからこの調子だ。緊張感のない会話しながらロボットを殲滅している。
倒せているから良いが、何でこの状況でくっちゃべっていられるかと、段々とナターシャはイライラして来ていた。
「何を言ってるかな? レディは綺麗だと口説けば更に綺麗になろうと更なる努力をするであろう? 逆に口説かなければ自信を喪失して卑下するようになってしまう。故にレディが自信を喪失するのは世界の損失となるので、それは避けるべきだ」
「大袈裟に言ってるけどー、それ褒めてるだけだよねー。流石は百股クソ野郎って言われるだけはあるねー」
「そうよね。褒め言葉であって口説き文句ではないよね」
「ああもう! いい加減にしないかい!」
遂にナターシャは怒りから怒鳴ってしまう。
「ナターシャお姉ちゃんどうしたのー?」
「アークが大変な時に緊張感なささ過ぎるさぁ」
「そんな怒っていると美しい顔が台無しだよ。さぁ笑って」
「煩い!」
「はい」
蛇に睨まれた蛙の如くエドワードが撃沈させられる。
「ナターシャお姉ちゃん、わたし達が心配したらアークは直ぐに帰って来れるのー?」
「それは……」
「帰って来れないよねー? それなのに肩肘張っていたらわたし達が倒れちゃうよー」
「ナターシャさん、そうなっては助けられるものも助けられないわ」
エーコとルティナに論されてしまう。
「そうね」
確かに自分が気を揉んでも仕方ないと思い直し、再び次々にロボットを倒して行く。
やがて最後のガーディアンと言うべきロボットが待ち構えていた。
まるで魔物のキラーマシンを模したような姿で丸いお腹でメタボ。手が四本ある。その全てにメイスを持っていた。
「あれは厳しいね」
ルティナが硬い声で言う。
「どう言う事だい?」
「あのロボットの周り一帯魔法封じの結界を張ってる。接近すれば魔法は使えなくなる」
「だったら……エレメント・ランス」
遠距離から攻撃すれば良いでしょう? と、ナターシャが魔矢を放つ。
しかし、キラーマシンもどきの近付くと矢が消失した。ナターシャの弓は魔力で矢を作りだす、ある意味魔法と同じだからだ。
「遠距離から飛ばしても接近した瞬間魔力が拡散し魔法が消えてしまうわ」
「なら私とルティナが接近して武器で倒すしかないね」
「そうね」
エドワードの言葉にルティナは納得し二人で前に出ようとする。
しかしそれよりも早く……、
「<重力魔法>」
エーコが重力魔法で自分の立つ地面の重力を軽くして空高くに飛んでしまう。
その際に武から貰った鉄槌を大きくしている。そのままキラーマシンの真上に行く。
ズドォォォォンっ!
重力に従って落下したエ-コが鉄槌で粉砕した。
しかし、魔法を無効化する範囲にいるので、再び重力魔法をかけて重力を軽くし着地出来なかった。
地面ではなく自分自身を軽くするって手もあったが、それだとダメージが減ると判断したのだ。
ともかく重力に従って落下した結果……、
「いったーい!」
当然着地の衝撃をもろに受けて足に大きなダメージを負う。足の骨が粉々になっていた。
緊張感無く、くっちゃべっていたエーコは実はナターシャと同じくらい、下手するとそれ以上にアークが心配だったのだ。
それでも気丈に振る舞い、それを押し隠すように緊張感無く喋っていた。
だから、逸る気持ちを抑えられず、真っ先に飛び出したのだ。
ちなみにだが、それをエドワードとルティナは察していたので、お喋りに付き合っていた。
「エド叔父ちゃん、運んでー」
「あ、ああ」
エドワードは一瞬呆けていたが、我に帰りエーコを抱きかかえた。
先に進み魔法が使える場所まで来るとエーコは自分に上位回復魔法をかけて足を回復させる。
そして遂に飛行船の下に辿り着いた。
「こいつをまたお目に掛かる時が来るとはな……。借りて行くぜ、我が最愛の親友よ!」
そう言ってストラトスがブリッジにある舵を掴む。
《生体認証…………ストラトスト確認シマシタ。起動シークエンスニハイリマス………………起動シマス》
ゴゴゴゴゴゴ……。
飛行船から声が聞こえて来たと思うと天井が大きく開き空が見えた。そして、そのまま飛行船で飛び出す。飛び出すと開いた天井は閉まって行った。
「オラ~~! 飛行船ファルコン発進だっ! まずはどこ行きやがる?」
粗暴な言葉でストラトスが告げた。
「とりあえず私の城へ向かってくれ」
そう言い出したのはエドだ。
「分かったぜ。ファルコン、行くぜぇ!」
ストラトスがそれに応えフィックス城を目指す。
速い。今では乗らなくなったが過去に乗った事があった馬なんて比べ物にならないと、ナターシャは感じた。
尤も他の面々は第一次精霊大戦の時に乗っているので、そこまで目を見張る事ではなかったが。
もっと言えばルティナなんて自分で飛んだ方が速いと思ってるくらいだ。
そうして、あっと言う間にフィックス城に到着した。
「とりあえず二週間分の食料を積み込む。ルティナも来てくれるか?」
「当然よ」
「それは有難い。ルティナがいれば距離がある程度分かるからな」
二週間分の食料が積まれ、再び飛行船ファルコンが飛び発つ。
「ルティナ、方角は?」
「真っ直ぐ北よ」
「ストラトス、頼む」
「カァー! 聞いてたよ! 全速力でかっ飛ばすぜぇ!」
そうして北へ飛び続ける。
速い事は速いが来る日も来る日も海ばかり。これでアークに会えるのだろうか? とナターシャの中で焦燥ばかり募る。
やがて飛び発ってから一週間過ぎた。
「限界だな。食料を考え一旦引き返す」
――――こんなんでアークに会えるのだろうか。
「ナターシャお姉ちゃん!」
エーコが心配してくれてナターシャの手を掴む。
エーコは自分も不安なのに気丈に振る舞いナターシャの事ばかり考える。
「ルティナ、どれくらい近付いたか分かるか?」
「たぶん1/10程度」
「やはりか……なら次の手を打つしかないな」
――――1/10? たったそれだけ。次ってどうするのさぁ?
ナターシャは愕然としてしまう。
そしてユピテル大陸に帰還した。
「エド、どうするのさぁ?」
「ファルコンを改修する。時間は掛かるが今より速く飛べるようにする。なーに元が確りしているのだ。改修なら我がフィックスにも可能さ」
キザったらしくウィンクする。エドワードなりにおどけて安心させようとしたのだ。
「その間、家に帰ると良い。居心地良い場所で心を休めるのも大事だ。アークの事で気を揉むのは分かるがだからこそ、確り休むんだ」
「……そうさねぇ」
「改修が終わる頃に使いを出す」
「宜しく頼むさぁ」
「ルティナはフィックス城に滞在するか? 子供達の護衛大変だろう? このまま帰るとまた来る時に護衛をしないといけない」
「そうね。いつも悪いわね」
「なーに、仲間だろ?」
キザったらしくまたウィンク。
キザだし何かと口説いて来るのはウザったくも感じるが気配りが出来る王だと誰もが認めていた。
「では、改修に一年以上は掛かるかもしれないが、その時に改めてアークを連れ戻しに行こう」
そう締めくくって解散となった。
ナターシャとエーコは家へと帰るとナターシャは椅子にへたり込んだ……。




