EP.16 希みはファルコン
「いや、外でいつも行く場所で、お弁当を食べていただけさぁ。突然魔法陣が現れアークはそれに巻き込まれ消えたのさぁ」
「ふむ。それで私に何を? 残念ながら私ではアークが何処に行ったか分からぬぞ」
話が早くて助かると思ってしまう。
尤も此処に来た時点で何かを頼る事は予測の付く事なのだが。
「ルティナを呼んで、魔力の残滓からアークがどこに行ったか割り出したさぁ」
「それで?」
「ただそこはかなり遠くて、この大陸じゃないのさぁ」
「なるほど。それで私を頼り、フィックスの科学力で作った最新鋭の船を貸して貰いに来たのだね?」
「そうさぁ」
やはり話が本当に早くて助かるとナターシャは思ってしまう。しかし、それも次の言葉で肩を落としてしまう。
「残念ながら難しい」
エドワードは首を横に振る。
「確かに最新鋭の船なら、そう簡単に沈みはしないし速度も出るだろう。しかし、ルティナは言ったのだろう? 『かなり遠い』と。かなりがどれくらいの距離なのかは分からないが、相当遠かった場合、食料が保たない。それにこの大陸を離れるとなると何が起きるか分からない。この大陸近辺では、あり得ない渦潮だってあるかもしれない。そうなると沈む可能性も出て来てしまう」
エドワードの言う事も尤もだ。ミイラ取りがミイラになってしまうとはこの事だ。
――――フィックスでもダメならどうすれば良いのだ? アーク……。
再びナターシャは絶望の中に陥ってしまう。
「だが、可能性は一つだけある。細い可能性だが……」
沈痛な思いで俯いていたナターシャにエドワードがそう言って来た。
「ほんとかい!? 可能性って」
ナターシャは気付くとエドワードに飛び付く勢いで迫っていた。
「…………レディに迫られるのは悪い気はしないが近くないか?」
エドワードが笑顔を引き攣らせながらそう言う。ナターシャもそれで状況が分かりパっと離れる。
「ストラトスに飛空船ファルコンを蘇らせて貰う」
「それなら可能性はあるのかい?」
「だがストラトスは、まず首を縦に振らないだろう」
「振らす事が出来れば……」
「いや、それでも難しい。これはルティナが来るまで、はっきりと分からないが、どれ程遠いのかが問題だ」
確かに細い可能性だ。
エドワードの口ぶりから簡単に首を縦に振らないだろうと即座にナターシャにも分かってしまう。
「更に問題なのは、仮に首を縦に振りファルコンを蘇らせても改修で時間が掛かるし下手すると改修が出来ないかもしれない」
だが、可能性はゼロじゃないと、ナターシャの中で希望の光が差し込む。
――――あたいの男を奪った召喚主はタダではおかないさぁ。
「では、そのストラトスのとこに行くさぁ」
「分かった。では案内しよう。……が、私もやる事がある。客室で数時間待っていてくれ」
「分かったさぁ」
国王なので、城を空けるとなれば色々ある。今後の城の方針で指示を出したりとか。
ナターシャも分からないものが、他の何かがあったりするかもしれない。なので素直に従い客室で数時間待つ。
「待たせたね。ナターシャ」
そうしてエドワードが迎えに来た。
「では、行くとしよう」
「あたいと二人だけかい? 王なんだから護衛とかいるのでは?」
「問題無い。私がこれでもそれなりに強いのは知っているだろう?」
「そうだねぇ」
「それにストラトスは気難しい。あまり多いと話も聞いてくれないと思われる」
それから一日掛けてウエストックスに向かった。途中はフィックス領で管理している砦で休んだ。
エドワードは町の中を迷わずスイスイ進み鍛冶屋で立ち止まる。
「此処がストラトスがいる工房だ。言葉は粗暴だし頑固なとこが玉に瑕でね。ナターシャは、待っていた方が良い」
「あたいも行くさぁ」
「分かった」
それだけ話すと鍛冶工房に入っていた。
カーン、カーン、カーンとハンマーで打ち付ける音が響く。
鉄臭く、まさに鍛冶工房と言う感じだ。
「ストラトス、久しぶり」
「何だ? エドか、久しぶりだな」
剣を叩いてるのかハンマーで打ち付けながらエドワードの言葉に反応し、視線をチラっと向けて来るが直ぐに剣を叩き始めた。
「少し話がしたい。良いかな?」
「あぁ!? 黙ってろっ!! 見て分からんか? 俺は今、剣と対話してるんだっ! 後で聞いてやるからあっち行ってろっ!!」
凄い怒鳴り声にナターシャの耳がキーンとしてしまう。頑固一徹と言う言葉が似合う御仁だった。
ナターシャは、再びその男を見る。鍛冶工房だけあり、熱いのか上半身は裸。
アルフォードには及ばないにしろ筋肉質で少し太っている。髪は白で、胸元まで生やされた髭も白。どう見ても確り処理していない。伸びたのをそのままにしてる感じだ。
頭もボサボサで耳にかからない程度。こっちは鍛冶の邪魔になるからなのか切っているように見えるが適当である。
目は火花が飛んで来ても良いようにゴーグルをしていた。
「分かった。休憩室で待たせて貰う。ナターシャ、行くよ」
「えぇ」
そう言って鍛冶屋の中の休憩室で暫く寛ぐ。数時間後ゴーグルをおでこの上にやったストラトスがやって来て、エドワードが座る椅子の目の前にあるソファーにドカっと座り腕組みをした。
「で、話って何だ?」
即座に切り出してきた。せっかちだと言うのが伺える。
「単刀直入に言う。飛行船を蘇らせてくれ」
「断るっ!」
即答ねと思いつつもナターシャはお茶をコトっと置いた。
「おー、ねぇーちゃん気が利くな」
そう言って一気に飲み干す。
――――えっと、熱いお茶だったのだけど? 何で一気に飲んで平気なのかなぁ?
ナターシャは首を傾げながらもう一杯注ぐ。今度は一気に飲まずチビチビ飲み始める。その後、ナターシャはエドワードの隣に並んだ椅子に座った。
「そこを頼む、ストラトス」
エドが横で頭を下げているのを見て、ナターシャも真似て頭を下げた。何せ王自ら頭を下げているのだから。
「俺はなぁエド。ファルコンは親友の形見で、親友と一緒に眠らせたいんだ。それを蘇らせろだぁ!? ふざけんな!」
ストラトスが怒鳴る。言葉も粗暴。首を縦に振る気配が全くない。ナターシャは、どこかに光明がないか必死に頭を回す。
「どうしても?」
「ああ。親友を殺したラフラカかもしくはそれに関係した奴が暴れでもしない限りな! 親友の弔い合戦以外では、蘇らせる気はねぇ。クソが!」
そう言ってナターシャが入れたお茶の急須をテーブルに叩き付けるように置く。
ここでもダメなのかとナターシャは、落ち込み出すのだが、あれ? っと首を傾げる。
世界改変前に飛行船に乗った記憶が朧げにある。あの時はラフラカに関係する者だったから蘇らせたのかと知る。
尤もその時は理由を知っていたのかもしれないが、ナターシャの中で歴史改変前の記憶は、アークに関係する事しかない。時の精霊がアークへのプレゼントとして、本来消える筈だった記憶を残してくれたのだ。
その記憶と今の言葉から導かれる結論は……、
「代わりに弔い合戦をして貰った借りを返す為に蘇らせるのはダメなのかい?」
気付けばナターシャは口を開いていた。
「どう言う事だねぇーちゃん?」
「この世界は一度歴史改変をしているのさぁ」
「何を言うかと思えば与太話か! カァー! 帰れ!」
「与太話ではない事実だ」
エドワードが擁護した。
「てめぇ! 女だからほいほい信じたんだろうが! 大馬鹿者めが!」
「最初に話してくれたのは男だったがね」
そう言って苦笑する。
「まぁ良いだろう。その与太話聞いてやるよ」
ストラトスが聞く気になったので、エドワードが知る範囲の事を話し出した。
「良く分かったぜ。だがな証拠はあるのか?」
「………」
「ねぇならやっぱ帰れ! 帰れ!」
エドワードが黙り込むとストラトスが手で払う仕草をし出す。
ナターシャはニヤリと笑ってしまう。
――――見えたさぁ! 光明が!!!
「証拠ねぇ。あたいは話せるさぁ」
「おお、ねぇーちゃん言ってみろ」
「まず聞くけど貴方はダークを知っている?」
「ああ、知ってるぜ。暗殺者で、いつも仮面被ってる薄気味悪い奴だろ?」
「もし、そのダークに子供がいたとしたら、ダークは子供に対しどう対応すると思うかい?」
「そりゃー本人に告げず、そっと見守るか知らんっぷりするんじゃねぇか?」
――――知らんっぷりって……本物ダークだってそんな事しないのになぁ。
「実は娘がいるのさぁ。それも共に戦ったエーコさぁ」
「ほ~そうか。で?」
「歴史改変前にダークが父親ってバレてしまって、この歴史では一緒に住んでるさぁ」
「ほー。それが本当なら確かに少しは証拠になるってもんだ」
「歴史改変をしたのはダーク本人で、それ故に記憶がそのまま残っている。その事をエドに話したのはダークさぁ」
正確にはアークだ。
「つまりダークは代わりに弔い合戦をしてくれたってかぁ?」
「そうさぁ」
「う~ん」
腕組みをし考え始める。もう一押と感じたナターシャは畳み掛ける。
「それと半年前にゾウ騒動があったでしょう?」
「ゾウ? 元クロード領に出現したバカでっかい魔物か?」
あの時、クロード城の者達はゾウに怯え逃げた事で、非難され糾弾され無法地帯に戻ってしまった。
民を守る為に税金を徴収していたのだから当然だ。
ちなみにクロード城から逃げた全員……一般兵や侍女から王族まで、全て全財産を没収され元クロード領の民に還元された。フィックス城とエド城が圧力を掛けたのだ。
「そう、それさぁ」
「あれがどうした?」
「あれはラフラカの細胞を採取して作られたのさぁ」
「そんな事が!?」
目を見開き驚く
「あれは普通の方法では絶対に倒せない。だけど倒せる方法を知ってた人がいたのさぁ」
「……それもダークとは言わねぇよな?」
「そう通りさぁ」
「つまりダークはラフラカに関係する奴を二度も倒してる訳か」
「そうさねぇ」
「で、借りを返すとはどう言う事だ?」
「ダークは今、奇怪な魔法陣で遠くに飛ばされたさぁ。それも普通では考えられない程に遠い場所に」
「ほ~、じゃあダークを助けに行く為にファルコンを蘇らせろと?」
「そう言う事さぁ」
そこまで話すとストラトスが考え込み出した。




