EP.14 ここまでキレたのは初めてでした
ブクマありがとうございます
「<下位氷結魔法>」
竜閃の煌めきとやらに対応する為に下位氷結魔法を唱えて両小太刀に氷を纏わせる。
「<竜閃の煌めき>」
「<ブリザー・ファング>」
左小太刀による魔法剣の斬撃を飛ばす。
奴は炎竜を操り俺のブリザー・ファングを躱す。
今だ!
「<ブリザー・スラッシュ・ファングっっ!!>」
右小太刀で右下から左上に振り上げるダークの得意な闘気剣と魔法剣の合わせ技を繰り出す。
「何っ!?」
俺のブリザー・ファングを躱したばかりなので操れずお互いの魔法剣が衝突。辺りは水蒸気で包まれる。
ますいな……。
俺はスラッシュ・ファングを放った硬直で動けない。
やがて水蒸気が晴れる。あーやっぱり。
奴の竜閃の煌めきとやらは、まだ生きている。しかも俺に向かって来ていた。
それでもブリザー・スラッシュ・ファングが当たったお陰で多少は勢いを殺す事には成功していた。
その多少が勝機になってくれたようだ。
それが俺に当たる瞬間、硬直が解け動ける。バックステップを踏みほんの少し離れた。
「<クロス・ファングっ!>」
そしてクロス・ファングをぶつける。操り躱せるような距離じゃないしな。ほとんど至近距離だ。
そこからまた泥沼の接近戦を行うべき肉薄した。
気を抜けば、あっさり斬られそうだが距離を取るよりマシだ。
あの竜閃の煌めきとやらは、俺の闘気剣、魔法剣を三回放たないと相殺出来ない。
俺専用の小刀、闇夜ノ灯と光陽ノ影がないのが悔やまれる。
だったら迷う事はない。意を決して足で翻弄し様々な所から斬り掛かるしか……。
やがて日が昇る。
「っ!?」
その日に目が眩んでしまった。奴がその隙を見逃す訳がない。両小太刀を一瞬で弾き飛ばされた。
そしてトドメと言わんばかりに斬り掛かって来る。まずいと思った瞬間には体が機械的に動いていた。
ギーンっ!
懐にあった投擲用の短剣二振りでクロスにし挟み込む形で攻撃を防ぐ。
「はぁはぁ……」
肩で息をする。きつなぁ。
そう思っていたら、第三勢力と言えるべき者達が現れた。
「何だ?」
俺はそっちに目が行ってしまう。運が良い事に奴もそっちに目が行ってくれた。
尤も剣への力を緩めておらずそのままなので気を抜けば短剣を弾き斬られるだろう。
「まだ終わってなかったのか。リックロアの兵共も大した事ないな」
「殺っちまえ~」
第三勢力は粗暴な言葉を発しながら暴れ出す。俺が気絶させたゼフィラク兵にトドメを刺す。
おい! ふざけんなよ。
って言うかあれデビルス兵じゃねぇ? 本当にリックロア国を操っていたのはデビルス?
もう一人のアークが言っていたの事実だったのか。
そう思っていたら、もう一人のアークの背中をぶっ刺した。
「ぐはっ!」
その痛みにもう一人のアークが目を覚ます。
「ひひひ……まだ生きてるのか」
そう言ってデビルス兵が右腕を斬り飛ばす。なんて奴だ。
殺すなら楽に殺してやれよ。
「……くぅぅぅ! あ、りー。ありす、アリス」
そう言ってもう一人のアークが這いずる。
「戦場で女の名を呼んでるよ」
嫌らしく笑い残りの左腕、右足、左足と四肢を斬り飛ばした。
「ア、リス……か、えるから。かなら、ず……かえ、るから」
それでももう一人のアークは、顎だけで這いずろうとする。勿論そんなんで進まないが。
俺は、頭の中で何かが弾ける音が聞こえた気がした。
頭に血が昇るのではなく、血が気引くような……怒りを通り越すと逆に頭が冷えて冷静なるあれか?
めっちゃキレているのに思考がクリアになり、冷静に周りが見えていた。
「………………一時休戦だ」
自分でも信じられない程、低くく底冷えするような声音が漏れた。
紅い髪の奴の返事も待たず、俺は走りながらもう一人のアークを甚振ってる奴に両手にあった短剣を投げた。
そして、飛ばされた小太刀を拾いに行くまでの間、次々に投擲を行いデビルス兵を殺して行く。
そう言えば能動的に人を殺したの初めてだな。全く何も感じないが。
やがて小太刀を拾いそれで次々にデビルス兵を斬り咲く。気付くと紅い髪の奴もデビルス兵を斬っていた。ゼフィラク兵も応戦している。
他のリックロア兵は何が起きたのか分からず茫然としていた。
やがて全てのデビルス兵を片付ける。人数は三十人くらいで大していなかったしな。
終わるとその足でもう一人のアークの元に向かう。
「<中位回復魔法>」
中位回復魔法で回復を行う。
はっきり言って死んで欲しくない。
俺と同じ名で親近感があるのも勿論あるが、こいつはいくら刺されようが四肢をもがれようが、大切な者の下に帰ろうとしていた。
気持ちが分かるのだ。約一年と三ヶ月、ナターシャと会っていないしずっと会いたいと恋焦がれている。
それに同じ状況になればナターシャの元に帰ろうと必死になっただろう。だから助けたい。
「……あり、す」
だが無情にも助けられない。
もう一人のアークは女の名前を呼び意識を失う。
俺は一度紅い髪の奴との戦闘で中位回復魔法を使っている。これは、俺にとっては魔力消費が激しいのだ。
中位回復魔法だけではない。他の魔法も使った。だから魔力が足らない。
それにそもそも中位回復魔法程度じゃダメだ。上位回復魔法じゃないと。
あ? 上位回復魔法? いるじゃん。使える人。
「ウェンディ先生! 上位回復魔法を」
「……すみません。もう魔力がありましせん」
申し訳ないように目尻を下げる。そんな……。
「ちっきしょぉぉぉおおおっっ!!!!!!」
気付くと俺は叫んでいた。
紅い髪の奴もいつの間にか俺の隣にいて冥福を祈るかのように目を閉じて呟く。
「……戦いに身をおけば、こうなるのも定め」
デビルスぅぅぅぅぅっッッッ!!!!! 許せねぇっ!!
俺の中で怒りが渦巻いてる時だ。
聞き覚えがあり、それでいてずっと聞きたいと思ってた声が聞こえた。
「あ、アークだー」
「やっと見付けたねぇ」
「ナターシャ? エーコ?」
何故此処に?
「大変だったんだよー」
「でも、見付けられて良かったさぁ」
いや、今はそんな事よりと俺は首を振る。
「エーコ頼む! こいつを助けてやってくれ」
「分かったよー……<上位回復魔法>」
エーコが何も聞かず上位回復魔法をかけてくれる。
お陰でもう一人のアークは回復した。しかし、四肢はない。
「ギリギリだったねー。この人から魔法をかけた魔力の残滓を感じるよー。私の前に誰か延命させたー?」
流石エーコ。魔眼の力は、そこまで分かるか。
「中位回復魔法を習得してな。俺が中位回復魔法をかけた」
「そっかー。でも、回復が遅過ぎたねー。残念だけど四肢は戻らないよー」
やっぱり、そうなのか。可哀想に……。
「……それでも弟子を助けてくれた事、感謝する」
紅い髪の奴が、俺とエーコに頭を下げる。
「それで何でナターシャとエーコがいるんだ?」
落ち着いたので、気になる事を聞いてみた。
「アークを追い掛けて来た以外にあるさぁ?」
「それは超大変だったんだよー」
そうして聞かされる。
二人がどうやってこのルシファー大陸にやって来たか……。




