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EP.12 幕間 自習

「今日は何をしましょうか? ダーク先生もいませんし」


 クラスでそう切り出したのは、ルドリスだ。


「そうですね、どうしましょうか? フローラさんはどうしたいですか?」

「ボク? ボクは模擬戦をしたいなぁ。ルドリス様と」


 アンナの問い掛けに答えたのはフローラだ。

 ルドリスはゼフィラク国の伯爵である。生徒通しなら敬称を確りするのは当然の事だ。よってフローラはルドリスを様付けで呼ぶ。

 ただ、クラスメイトと言う事もあり気安い関係なので敬語は使っていない。そして、フローラは王女だが平民に扮していた。


「私とですか?」

「私は魔法無し。ルドリス様は投擲無しでやりたいな」

「それでは、今までの結果から私が勝ってしまうかと」


 そうフローラの武器は杖。

 殺傷能力が少ない。対するルドリスは短剣で短いが当たれば杖より、殺傷能力が高い。

 それだけではない。元々ルドリスは足に自信があった。

 対するフローラは、この学園に来てダークの教えで足腰を鍛え始めたのだ。要は年季が違う。


「分かってるよぉ。だから、足の速い人と戦い実戦を積みたいんだよ」

「分かりました。では、私がお相手しましょう」


 ちなみにだが、ルドリスの方は敬語を使っているが、これが別にフローラに惚れてるからではない。

 伯爵貴族としての当然の教育によるものだ。


「それやったらウチはアンナはんとやりたいな」


 と、胡春がアンナに話を振る。


「あたしですか?」


 驚いたように言う。

 尚、アンナの場合平民なので、周りが王侯貴族ばかりで癖で全員に敬語になってしまっている。

 だが、勇者達は王侯貴族制度がない世界から来ているので、意識が薄くそのまま話してしまっていた。


「きょうびアンナはんは、ダーク先生のような気配察知みたいな事をやってるやろから、転移しても分かってしまうんやんな。やから、そないう相手ぇでも対応出来るようになりたいや」


 実はアンナはダークの知らないとこで、また進化していた。アルが得意とする索敵気法(さくてきほう)をなんとなく使えているのだ。勿論なんとなくだから、成功率は悪い。

 それとアンナがやってるのは、胡春と同じ空間把握の一種なのだが、それを胡春は知らず気配察知と似たようなものと感じていた。


「分かりました。では、胡春さんの相手をしますね」

「おおきに」

「じゃあ私はスーリヤ王女としたいよ」

「………」


 沙耶がスーリヤに振るがスーリヤは上の空だった。

 ちなみに王侯貴族制度に馴染みなのない胡春と沙耶だが、それでも王子や王女の敬称は付けて呼んでいた。尤も胡春は『王女はん』、『王子はん』と言う呼び方なのだが。


「あのスーリヤ王女?」

「えっ!? ああ、サヤさんですか。なんでございますか?」

「皆が模擬戦をやると言う話になっているので、スーリヤ王女に相手になって欲しいなって」

「えぇ。わたくしで宜しくれば喜んで。サヤさんの薙刀と言う変わった武器は槍の要素がありつつダーク先生の武器の形もしておりますので、対応を大変学ばせて頂いております」


 薙刀は小太刀より短い小刀に長い柄を付けたような武器である。

 突きは勿論、斬ると言う動作も可能。しかも柄が長いの射程が長い。

 使いこなされると、どう攻撃されるか予測できず、この世界の人間には厄介な武器なのだ。


「じゃあアベリオテス王子は、合間合間で誰かとやって貰うって事で宜しいでしょうか?」

「………」


 そうルドリスがアベリオテスに話を振った。しかし、アベリオテスも上の空だ。


「あのアベリオテス王子?」

「え? あ、何だ?」


 アベリオテスは基本的には敬語なのだが、同じゼフィラクの民であるルドリスにはタメ口にしてある。


「えっと……皆で修練場に行きませんか?」

「修練場だな。分った。行こうか」


 そうしてCクラスの面々はCクラス専用修練場に向かった。

 そして、始まるそれぞれの模擬戦。

 やがて、ルドリスの短剣でフローラの杖を弾いた。


「ありがとぉ。やっぱ強いね」

「フローラさんも見る見る素早くなりますね」

「そう? ありがとぉ」


 と、話しつつフローラは横目で違う事を見ていた。

 一つ気になる事があったのだ。フローラが負けると同時にスーリヤも槍を弾かれ負けていた。


「スーリヤ王女、如何なされたのですか?」


 流石のフローラも王族には敬語で話す。


「いえ、調子が悪かっただけですわ」

「そうは見えませんよ? 心ここに非ずって感じでした」

「私もそれ思ったよ」


 沙耶も同意する。


「分かってしまいますか」

「それとアベリオテス王子も。修練場の端でずっとボーっとしてるように見えます」

「恐らくわたくしと同じ事を考えているのでしょう」


 そう言ってアベリオテスの元に向かって行く。それにフローラ達も後を追う。

 途中から聞いていたルドリス、アンナ、胡春もだ。


「アベリオテス王子も此度の争乱について考えられているのですか? 皆さんもわたくし達が、上の空なのを気にされておりますよ」

「……スーリヤ王女。そうですか。皆さん気にされてしまいましたね」


 そう言って儚げに笑う。

 尚、同じ王族とは言え節度はある。よってお互いに王子、王女と呼んでいた。


「実はですね。この度、争乱が起きたと聞きました。それにダーク先生が沈めに向かわれ、今回自習になったとか」


 と、アベリオテスが説明をし出す。


「ダーク先生が心配……と言う訳ではありませんよね?」


 アンナが問い掛ける。


「ダーク先生なら負けないと思うので心配しておりませんが、相手がゼフィラク国ではないかと予想しているのです。東から攻めて来たので、東と言えば私の国しかありません」

「自国の兵が心配ちゅう事でっか?」


 今度は、胡春だ。


「それもありますが、わが国が何故そんな暴挙に出たか気になります」

「確かにね。普通ならアベリオテス王子とスーリヤ王女が呼び戻されてからになるよね?」


 沙耶は……いや全員が知っている。

 カルラ国がデビルス国に占領され、カルラ国の王女であるスーリヤや他の王侯貴族や民衆はゼフィラク国に避難している事を。


「そうですわね。ですが、わたくし達は何も聞いておりません。それで申し訳ございません。集中出来ておりませんでした」


 そう言って沙耶に頭を下げるスーリヤ。


「いえ、そう言う事なら仕方ないよ」

「ダーク先生に任せておけば大丈夫だよぉ。ダーク先生なら悪いようにしないよ」

「そらダーク先生が好きやから、そない思うのやか?」


 フローラはダークに信頼を寄せる言葉を言うと胡春に揶揄うように笑われる。


「そうじゃないよぁ。ボクは、もう誰かを想う資格はないって気付いたからね」


 儚げに言う。


「ですから、人を愛するのに資格などは……いえ、何でもありませんわ」


 スーリヤは、フローラの抱える問題を知らない。故に軽率に言えないと思ってしまったのだ。


「ダーク先生がボク達生徒を悲しませるような事はしない。五ヶ月一緒に住んでいたから分かるんだよねぇ」

「想う資格はないと言いつつノロケはするのね」


 沙耶が揶揄うように熱い熱いと手で顔を仰ぐ。だが、フローラはそれをスルーしてアベリオテスを見る。

 フローラは、本来王女である。それ故、感情抑制の教育も厳しく受けていた。

 普段は過剰反応するが、時と場合によってはそうしたい感情を抑える事も出来るのだ。


「だからアベリオテス王子。ダーク先生なら、たぶんなるべくゼフィラク国兵を殺さず、悪いようにはしないと思いますよ」

「そうですね、フローラさん。ありがとうございます」


 そう言って爽やかに笑うアベリオテスであった。

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