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EP.10 謎の軍を迎え撃つ事になりました

 とりあえず、俺は教室を出よう。これはルドリスとフローラの問題。俺がいるべきではない。


「持ってください。ダーク先生にも聞いてて欲しいのですが」

「俺に聞いて欲しいのだとしても、何故に公開告白? 皆にも聞いて欲しいの?」

「すみません。タイミングを考える余裕がなく、少しでも逸く気持ちを伝えないと苦しかったので」

「そう」


 で、フローラは真顔だ。最初に声を掛けられた時は、微笑をし可愛らしく小首を傾げたのに、告白を受けた瞬間真顔だ。

 照れたり、引いたりとかが全くない。何を考えているのか分からなく怖いくらいだ。


「フローラさん、良ければお返事をください」

「ありがとう、ルドリス様。凄く嬉しい。でも、ごめんねぇ。僕にはその気持ちを応える事は出来ないんだぁ」


 真顔で言ってるのが怖い。礼を言う際に微笑もせず、お詫びをする際に申し訳なさそうな顔もない。

 いや、俺はなんとなく分かるけど、きっと他の面々は分からないだろう。


「姉御! お迎えに上がったっす!」


 空気読めない奴がやって来たよ。


「しー!」

「天川はん、ちびっと静かに待っておこうか」

「良く分からいっすが、了解っす」


 沙耶と胡春が止めると大人しくなった。


「やはりダーク先生ですか?」


 ルドリスが俺に視線を向けて来る。これが理由で俺を残したのか? まさか俺との決闘でフローラを手に入れるとか言い出さないよな? めんどくさいんだけど。


「ちょっと前のボクなら、そうだったね。でも、今は違うんだぁ」

「では、何故?」

「ボクは最初から誰かを好きになったり、それこそ好きになって貰う資格はなかったんだぁ」


 寂しそうに呟く。


「資格なんて関係ありませんわ!?」


 スーリヤが思わず口を挟むと、フローラは目を瞑りかぶりを振る。


「スーリヤ王女もそうではないのですか? 自国の利となる相手しか選べない」

「確かにそうでうわ。しかし、その相手を愛するようにする努力は致しますわ」

「そうですね。すみません、意地悪な返しでした」

「いえ、それは良いのですが、如何なさったのです? ま、まさかダーク先生が良からぬ事を!?」

「最低です!」


 なんか矛先がこっちに来たぞ。しかもアンナが同調してるし。

 俺は肩を竦めるだけで何も言わない。フローラの意思を尊重する。その為に本当の気持ちを暴いて完全に突き放したのだから。


「ダーク先生は関係無いよぉ。関係無い」


 哀しそうに、そして最後は消え入りそうな声で言うフローラ。


「今の様子から、関係無いようには思えませんよ」


 アベリオテスの言う通りだな。そんな表情と声音じゃ関係有ると言ってるようなものだ。


「ただ、ダーク先生に発破を掛けられただけかなぁ。ボクにはやらないといけない事がある。ボク自身どうやってそれと向かい合えば良いか分からいんだけどぉ。でも、確かなのはボクは誰かに想って貰う資格はないって気付いたんだぁ」

「それは何でしょう? フローラさんがやらないといけない事とは?」

「ルドリス様、ごめんさい。それはまだ言えない。言って良いか分からない。ボクの中で、どうする事が正しいのか、まだ答えが出ていないからぁ」

「では、それをやり切った後、もう一度告白させて頂いても宜しいでしょうか?」

「えっ!?」


 目を丸くし、直ぐ慌ててかぶりを振る。


「それはダメだよぉ」

「何故です? それも言えないのでしょうか?」

「どうする事が正しいか分からない。だから、選択を間違えれば監獄行きかもしれなんだよぉ? まぁ今のは極端な例えだけど。でも、どうなるか分からないよぉ」

「分かりました。貴女がどんな状況でも、例え監獄にいようとも、もう一度この気持ちを伝えます」

「うん、分かったよぉ。その時は真剣に考えるよぉ」

「ありがとうございます」


 ルドリスは爽やかに笑うがフローラは寂しそうだった。なにせ『極端な例え』と言ったが、十分あり得るからな。フローラが、もしデビルスの手の者に捕まったら監獄行きの可能性もある。

 尤も俺がまだこの大陸にいるなら、絶対にそれはさせないけど。


「ルドリス、ちょっと聞きたい事があるんだけど良いかな?」

「ダーク先生、何でしょうか? 今更ながらに焦りましたか?」


 ルドリスが挑発的な笑みを浮かべる。


「それはない。ルドリスは伯爵だよな? 平民と婚姻は有りなのか? まさか遊びで付き合うとか言わないよな?」


 そう問い掛けるとアベリオテスが答えた。


「我が国では伯爵までは、平民との婚姻に問題はありません。尤も平民では反発が多少あるでしょうけど。これが侯爵なら妾以外許されないですが」

「じゃあ逆に王族とは?」

「これも反発が大きいですが、伯爵なら王族を臣籍降嫁させ娶る事が可能です。子爵なら出来ませんが」

「何それ? 融通効くと言えば聞こえは良いが、中途半端じゃね?」

「それは私も気にしてるんです」


 ボソっとルドリスが呟く。


「それと私は次男なので、家督を継げず正式な伯爵にはなれません。なので、平民が相手でも反発は少ないですね」


 フローラが体をビクっ! とさせる。そりゃそうだろ。仮に王女に返り咲いたとしたら、ルドリスに完全に芽がなくなるって事だから。

 考えるって言ったのに考える余地がなくなる状況になるかもしれないのだから、申し訳なく思うだろう。


「ルドリス、本気でフローラをものにする気なら、伯爵の爵位くらい自らの手で取った方が良いぞ」

「それはどうして?」

「先程の例で言えば投獄された場合、権力があれば減刑出来る可能性がある」

「確かに」

「俺もフローラの事情を知っているし詳しく言えないが、爵位があっても困るものじゃない」

「分かりました。出来るものなら爵位を得てみませます。フローラさん!」


 なんか最後にフローラに向かって言い放ったぞ。


「…………え? あ、うん。頑張ってね」


 戸惑ってるじゃんかよ。


「ボクっ娘、良かったじゃねぇか。ルドリスならきっと良い感じだろ。落ちちゃえよ」


 揶揄うように笑う。


「それをダーク先生が言う?」

「うん」

「そうしたら、絶対ダーク先生はボクを軽蔑するよぉ」

「それもボクっ娘の選択だ。まあ同じ理由でルドリスに行くなら軽蔑するかもね。本気なら応援するよ」

「ほらぁ!」

「同じ理由とは何でしょう?」


 アンナが聞いて来た。


「フローラが抱えている問題に関わる事だから俺からは言えない」

「そうですか」

「さて、もう良いだろ? 解散解散」


 そう言って、俺は手をパンパン叩く。フローラの事情をこれ以上詮索される訳にはいかない。


「そうですわね。ではテンさん、お持たせ致しました。行きましょう」

「了解っす、姉御。姉御の神聖なカバンをお持ちするっす」


 あ、そう言えばいたんだ。

 俺も教室出て、職員室に向かう。それを沙耶と胡春が追い掛けて来た。


「ダーク先生、何したのよ?」

「何が?」

「フローラはんの態度が変や」


 沙耶に問われて聞き返すと胡春が答える。


「そうか?」

「『ボクっ娘って言うな!』って言わなかったじゃないのよ」

「それにイジられて絶叫せぇへんかった」

「ルドリスで頭が一杯だったんだろ」

「違うよ」

「今日一日や」


 目聡い二人だな。


「お前らも察しろよ」

「だからダーク先生が、無理矢理迫って落ち込んでるじゃないの?」

「ウチはそないは思いまへんけど、初めてが想像と違っておったとか」

「お前ら最悪だ。俺がナターシャを裏切るような事をするか! 特に胡春、言ってる事が今朝と違うぞ」

「相手ぇから攻めて来よったから拒まなかったのかって」


 は~~~と溜息が出てしまう。


「あいつの事情を考えろよ。俺は確り向き合うように仕向けただけだ」

「本当に?」

「ほんまに?」


 ジトーっと俺を見て来た。イラッ!!


「なんか段々胡春を犯したくなって来た。あ、沙耶はマジいらね。こんなぺったんこ触る価値もない」

「煩いよ! 触らす訳ないでしょうよっっ!!」

「何でやっ!?」


 二人揃って目を剥き出す。


「ベッドでストレートを拝むのも悪くないって思って来た」

「ほんまストレートが好きやな」

「いや、『胡春のストレート』だ。コレがストレートにしても。ふ~~~んって感じだ」

「コレとか言わないでよ!」

「アンはん口が上手いなぁ」


 胡春がほんのり赤らめる。


「って訳で、胡春は今晩俺のとこに来い」

「嫌に決まっておるやろ!」

「はいはい。生娘の幻想ね。そんなものゴミ箱に捨ててしまえ」

「他人に幻想ってか、ゆわれたくあらへんわ!」

「大丈夫。ヤってしまえば幻想と分かる程に堕ちるから」

「あんたサイテーよ」

「………………もう嫌や。この教師」


 二人してげんなりし出す。


「だったらふざけた事を言うな」

「分かったよ」

「カンニンな」

「それからお前らだけに話しておくけど、明日俺いないから。戻って来れないかも?」

「え?」

「なんでや?」

「学園長命令」

「まさかクビ?」

「ウチは、まだアンはんに教わりたいんや」


 すがり付くように俺に迫って来た。


「両側から、『ダーク先生、大好き。ベッドの事も含めまだまだ色々教えて』て言って、抱き着いて来たら考えてやる」

「真面目に答えなさいよっ!」

「じゃかましーわ! いらん事はゆうなや!」

「いや、ただの予感なんだけど戻って来れないかもしれないんだよな。外れてくれるに越した事はないけど。戻ってこれたら、ベッドの上の講座してやる」

「いらないよ! アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよっ!!」

「じゃかましーわ! ワレは、いらん一言が多いんやっ!!」


 二人に怒鳴られてしまう。

 まあこんなやり取りも、もしかしたら最後かもしれない。なんかそんな不安があるんだよな。

 俺は今日の昼食時に学園長に呼び出された時の事を思い出す。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 昼食の時間、アグリス学園長に呼ばれたので、学園長室に向かった。


「お呼びですか? アグリス学園長」

「すまないが明日、日が昇る前に東に行って欲しいのじゃ」


 そう言って地図を見せながら、このバッテンのとこへ行けと学園長は言う。


挿絵(By みてみん)


「特別実習か何かですか?」

「生徒達は自習にさせるのじゃ」


 学園長の様子がおかしい。少し疲れた顔をしている?


「何かあったのですか?」

「何者かの軍隊が東の関所を無理矢理突破して来たのじゃ」

「それはどこが?」


 無理矢理? ならデビルス? だが、あそこは北だ。


「分からぬ」

「それで何故俺に? 普通国が動きませんか?」

「そのリックロア国の要請なのじゃ。進軍の準備が整うまでロア学園の教員が迎え打て、と」

「分かりました。ですが、やはり何者かの軍となると殺す前提で戦いますか?」

「儂としては教員にそんな事はさせたくないのじゃ」

「では、無力化の方向で動きます」

「頼むのじゃ。軍がこのまま進軍すればリックロア国の前にロア学園が襲われる可能性があるのじゃ」

「生徒達が危ないですね」

「そうじゃ。故に教員達の中で一番実力があると思っておるダーク先生を中心に頼むのじゃ。絶対ロア学園には踏み込ませないでくれ」

「分かりました」


 そうして俺は謎の軍を迎え打つ場所に次の日の早朝に向かう事になった……。

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