EP.08 胡春にリボンは似合ってました
学園祭の次の日は片付け、その後は二日間休息日だ。
とは言え、教師には少しやる事がある。売上の集計などだな。
まあそんなものは直ぐに終わるので、ほとんど休みだ。
そうして休み明け、Cクラスの教室に向かっている途中、沙耶と胡春と出会った。
「あ、ダーク先生。おはようございます」
「おはようさん」
「おっは~」
「古いよ」
「ウチらが産まれ前のネタやん」
朝から笑われてしまう。
「二人は仲良いね。今更ながらに聞くけど日本にいる時から親友だったとか?」
「そうよ」
「そうや」
「へ~」
そして、俺は胡春に視線を向ける。それをどんどん下におろして行く。
胡春は、俺の視線を察して態と三つ編みツインテールの右側を前に持って来てくれる。
「朝から最低よ」
ん? 何故か沙耶が蔑みの目を向けて来た。
「何が?」
「今、胡春の何処を見ようとしたのよ? 下の方を見ようとしたでしょう?」
「どエロやな」
「そやな」
俺の言葉に胡春が同調。
「何でよ!? 胡春は見られようとしてたんだよ?」
「ねぇねぇ。沙耶ちゃん、下の方って具体的に何処? ねぇ何処?」
嫌らしく笑い問い掛ける。
「うっ!」
見る見る顔を赤くして行った。
「ほら、変な事を考えていたでしょう? 沙耶はどエロやん」
「煩いよ! アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよ!」
「ほんま沙耶はんをイジるとおもろいなぁ」
「胡春まで酷いよ」
「いや、事実だろ。今も俺に迫って来てさ。キスしたいの?」
パッと離れる沙耶。
「な訳ないでしょう。それで何処見られてたのか分かる? 胡春」
「何処見てたか分かっとるけど、ウチからゆうんは恥ずいやんけ」
と、ほんのり顔を赤くする。まあこう言うのは自分から言いたくないよね。俺だって恥ずかしくて言えない。
あ、エーコの場合だったら言えるかも。
「ほら、絶対嫌らしいとこよ」
「と、またえちえちな事を考える沙耶でした」
「煩いよ!」
「そもそもさ、下見て何が楽しいの?」
「知らないわよ」
「下は服に隠れていて何も見えないんだよ? 脱いでいればガン見するけどね」
「うわ~」
「アカン教師や」
二人してドン引きに顔を引き攣らせる。ただ……、
「胡春、こう言うネタの時って後退ってたよね? だから沙耶のがイジり易くて面白かったんだけど」
「煩いよ!」
「そやな、ダーク先生が一線引いておってるの知ったからかな」
「どう言う事?」
「口でぇは、どエロな事を言うても、絶対なあんもしてけぇへんのがわーったってゆうか」
「それは信頼が上がったようで何より」
「いや、どエロのアカン教師ってのが一段と強くなってんけど」
「そうかい」
そう言って二人でクスクス笑う。すると沙耶が目をぱちくりさせだす。
「何よ? 二人揃って何なのよ?」
「沙耶の知らないとこで、厚ーーーーい絆が出来たって事だ」
「出来ておらへん!」
そう言いながらも……、
「顔赤くしてるよ?」
「じゃかましーわ!!」
「で、沙耶。さっきの話だけど」
「何よ?」
「下は見ても面白くないけど、上は膨らみがあるから、多少は面白みがあるって事だ。分かったかね?」
「どっちにしろサイテーよ」
「ほんまどエロやな」
沙耶は胸を隠すようにし、胡春は苦笑いをするだけだった。
「あ、大丈夫! ぺったんこに見る価値ないから」
「だから煩いよ!!」
「生で見たのを思い出しても、全くオカズにならんし」
「思い出すんじゃないよ! アンタほんとサイテーよっ!!」
「その点、胡春のならオカズになりそう」
「ワレなんかに見せへんよ! アホんだら!」
「え?」
沙耶は胡春を見て目を丸くする。
「なんや?」
「いや、胡春がここまで言うの珍しいなって。それも別に嫌っている相手でもないのに。本当に何があったのよ?」
「何もあらへん。せやから詮索せぇへんでぇ」
ほんのり顔を赤くさせる胡春。
「もう何なのよ!!」
「それより胡春、ちょっと回ってみてくれない? あ、ゆっくりね。速いとスカートが捲れて中見えるから。それはそれで良いけど」
ニヒっと揶揄うように笑うと親指と人差し指で回れと言うジェスチャーをした。
「やから、いらん一言があんねん。ワレは」
そう言いつつも回ってくれる。
「良いね! 一割増で」
「ほんでも一割なんやな」
「いや、胡春の場合は、ストレートのが似合うから」
「さよか」
「ほんとさっきから何なのよ? 回ったりして。教えてよ」
沙耶が俺と胡春を交互に見ながら言う。
「親友とか言いつつ、胡春の変化に気付かないのか?」
「それは、さっきから言動とか……」
「違うわ! 見た目だよ。十五歳でまだまだ自分から言えないお年頃なんだから察してやれよ」
「やから、いらん一言あんねんっ!!」
「え? 見た目?」
沙耶はジーっと胡春を下から上まで見る。胡春は居心地悪そうにしていた。
「あ! リボン」
「やっと気付いたか。それで親友気取るなよ」
そう胡春は三つ編みツインテールの先に俺が上げたリボンを蝶々結びで付けていた。
「煩いよ!」
「ダーク先生、言い過ぎや」
「親友ネタをイジるのは流石に胡春も嫌か」
「そやな。ウチにとっても大事な親友や」
そう言って歯を見せ太陽を思わせる眩しい笑みを浮かべた。
「胡春、そのリボン凄く良いよ」
「おおきに」
沙耶に言われて照れくさそうに言う。
「もしかしてダーク先生が上げたんだ?」
ジトーっと俺を見て来る沙耶。
「何? 焼きもち?」
「違うわよ! アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよっ!!」
「そんな欲しいなら、今度なんかプレゼントしようか?」
「いらないわよ!」
「沙耶に合いそうなのは…………パットだな。偽乳で多少は………………」
「黙りなさいよっ!!」
遮りように背中から薙刀を抜き突き付ける。
「ほんま沙耶はんはイジり甲斐あるなぁ」
そう言って胡春がクスクス笑う。
「胡春まで酷いよ~」
「そういや沙耶って、その尻尾はいつもヘアゴムだけでなん?」
「尻尾言わないでよ! そうよ。何か文句ある?」
「勝手なイメージだけど、着物着て白の襷掛けして、白のリボンを頭に付けたら似合いそうだなって」
「……………………」
「ダーク先生、ごっついなぁ」
沙耶がポカーンとし、胡春が何故か称賛してくれた?
「え? 何が?」
「観察眼ごっついな。沙耶はんは、日本に居た頃、今ゆうた格好でぇ薙刀振り回しとったから。まぁリボンはなかったんやけど」
「へえ~」
「な、な、な……」
「落ち着けって。沙耶、何でそんな泡食ってるんだ?」
す~は~と沙耶が深呼吸し……、
「何で知ってるのよ!? 見てたの? ストーカーじゃないのよっっ!!!」
「勝手なイメージって言ってるんだけど? 何でストーカー扱いされないといけない?」
「そうね。ごめんさい。あまりに的確に当てるからよ」
「リボンなかったんだろ? 的確じゃないだろ」
「そうよね」
「ところで、沙耶ってモテそうだよな。そんな恰好で薙刀を流麗に振り回していたら、告白が絶えないだろ」
「そやな。隠れファンもいたでぇ」
「何よ? 急に」
沙耶がほんのり赤らめる。
「で、どうなんだ? 告白とかあったのか?」
「それは少しあったけど……」
俺は胡春に顔を寄せ口元に手を当て、丸で内緒話をするかのように……、
「ちょっと胡春さん、聞きました? 沙耶さんは親友を差し置いて告白されまくってたんですって」
「聞こえてるわよ」
声量は落としてないしね。
「何でぇ井戸端会議をやるおばちゃんみたいにゆうんや? 確かに裏切り者やな」
「沙耶って見た目も上物だと思うでしょう? 胡春的にどうよ?」
「せやな。確かに上物やな。クラスでぇ一位二位を争うくらい。ほんで着物が似合うって嫌味かって。羨ましいでんがな」
「今日の胡春は何よ? 何でそんなダーク先生に同調してるのよ!?」
沙耶が目を剥く。
「なんとなくや」
「なんとなくで、そんな事言わないでよ~~。酷いよ~」
薙刀を背負い直すと、泣き付くように胡春の肩に顔を伏せる。
「よしよし。カンニンな。冗談やから」
胡春が沙耶の頭を撫でた。
「よしよし」
「触らないでよっ!!!」
俺も撫でた瞬間、右手で弾かれる。
「胡春って、昔からその髪型なの?」
「中学入ってからやな。その前は三つ編みの一本やったし、 もっと短かったんや」
「それはそれで見たいかも」
「見せへんや」
「あっそ。でもさ、赤縁眼鏡にして腰まで伸ばせば更に二割増で良くなると思うぞ」
「さよか?」
首を傾げツインテールが揺れる。リボンが目立ってるので、前より良い感じだ。ちなみに今は黒縁眼鏡。
「赤縁眼鏡で腰まで髪があってストレートなら、更に更に二割増になりそうだな」
「ほんまにストレートが好きやな。もしかしてやけど、彼女はんもストレートってか?」
揶揄うように笑って来た。
「いや、胡春だから似合うと思っただけだ。ナターシャの髪はアベリオテスのような色で、髪型はまんまアイナだな」
「そうなんや」
「まあストレートは、どうでも良いけど、髪伸ばして赤縁眼鏡にしない?」
「考えてみるわ」
沙耶がなんかジトーっと見て来てるな。
「何? あ~……沙耶も言って欲しいのか?」
「違うわよ!」
「沙耶は、今のままで可愛い可愛い」
「おざなりに言わないでよっっ!!」
「じゃあ何だよ?」
「胡春をやたら口説いてるけど、惚れたの?」
は? 何言ってるんだ? 頭でも打った?
「その馬鹿にしたような顔止めてよ!!」
知らんがな。
「沙耶はん、そらあらへんわ」
「胡春も呆れてるじゃん」
「じゃあ何で口説いてるのよ?」
「直感で似合う似合わないを言ってるだけ。沙耶にだって白のリボンが似合いそうって言っただろ?」
「そやで。ダーク先生の観察眼ごっついやん」
「何で本当に今日は胡春、ダーク先生の味方なの?」
釈然としないって感じで問い掛ける。
「たまたまやって」
「てか、観察眼なんて大した事ないよ。見てはっきり分かったのは、沙耶が、生娘だって分かる程、綺麗な乳だったって事くらいだ。ぺったんこだけど」
「煩いよっっ! アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよっっ!!!」
顔を真っ赤にさせ薙刀を再び背中から抜く沙耶。
「どこまでぇもエロやな」
胡春は苦笑いを浮かべる。
「まあ生娘だとしても……」
「だから煩いよっっ!!」
薙刀を振るってきたので、右手でそれを止め、そのまま続ける。
「……胡春と違って変な幻想を抱いていなさそうだよな」
「じゃかましーわっ!! ウチのも食らえっっ!!」
胡春も背中から弓を下ろし、至近距離で矢を射ったが、左手で掴む。
「平然と受け止めて、ほんま腹立つわっ!!」
「そうよ! アンタのそう言うとこ、ほんとムカ付くよっ!!」
「流石親友同士。息ピッタリな事で」
その後も攻撃を受けるが、ははは……と笑い適当に躱し教室へ向かった。




