EP.07 太陽のような笑みでした
申し訳ございません
バルバトスの名前をハルファスに変更させて頂きました
「ひゃっ!」
胡春はリンゴのように真っ赤にした顔を背ける。まあ今の太郎は裸だしな。
「『ひゃっ!』って、可愛いですなぁ。胡春ちゃん」
「止めい! 恥ずいやけん」
「だったら、転移してタオルか何かを持って来い」
「あ!」
今、気付いたと言わんばかりに転移してタオルを持って来た。
それを目を背けながら俺に渡す。俺はそれを太郎の腰に巻く。
「まあ大きな外傷はないが一応……<下位回復魔法>」
「これどないする?」
「直ぐに目覚めなかったら、胡春の転移で懲罰を受けた生徒の独房に飛ばせば良いよ」
「そやな」
「にしても胡春ちゃ~ん」
嫌らしい笑みで呼び掛ける。
「なんや? キショいねん!!」
「生娘だったんだね」
「うっ!」
見る見る顔を再び赤くした。
「そう言えば学園の中では一番俺に初物を上げたいって言ってたな」
「ちゃう! いっちゃんマシってゆうたんや!」
「まあどっちにしろ、自分から生娘宣言したのはビックリだったな」
「え?」
「『ウチの初もんは』どうたらって」
「そやったーーーーー!!!」
頭を抱えて叫んだ。
「胡春なら経験ありそうと思ってから意外だな」
「さよか?」
「モテそうだから」
「やからモテへんって」
「いや、大人しい内気なタイプにモテる感じがしたんだよね」
「さっきもゆうてたな。何でぇや」
「ズゲズゲ言うから」
「何でや!?」
胡春が目を剥く。
「それも分け隔てなく。内気な奴にもさ」
「確かにそやけど」
「そうすると、内気な奴は自分にも話してくれたって、舞い上がって段々憧れを持つようになるんだよ。たぶん」
「そうなんや」
「下手すると、『あ、これ俺に惚れてるかも』って勘違いする」
「何でや!?」
「思春期男子ってそんなもんだし」
「嫌やなぁそら」
は~~と溜息を付く。まあそんなつもりはなく普通に話してただけなんだろうけど。
と、話してると太郎が、身じろぎをし出す。もう起きるかな。
「ぅん? ここは……」
「よう。起きたか。お前、今まで何してたか覚えているか」
「今まで………………あ!」
思い出したようだ。
「………………てください」
「あ?」
「殺してください」
「何で?」
「胡春ちゃん……いや、春小川さんに僕の……僕の気持ちが………………」
顔真っ赤にしちゃって。流石は思春期男子。ただまぁあんな状態だったんだ。死にたいわな。
「そらアカンわ」
「え?」
そう言って胡春が太郎の手を握る。握った瞬間目を丸くするが、直ぐに目をトロ~ンとし出す。
「ウチは気にしやんし、怒らんから」
「………………はい」
「やから普通にしてや」
「………………はい」
「あ、ただウチの変な妄想は止めてなぁ。話やったらなんぼでするからさ」
そう言ってニコっと笑い掛ける。俺の言った事分かってねぇ~~~。
「………………」
完全に夢うつつの如くポワンポワンしてるぞ
「って訳でぇ、もう行きな。いつまでも裸は良くあらへんやろ」
「はい!」
そうして去って行った。
「完全に落ちたな」
「へ?」
「さっき『あ、これ俺に惚れてるかも』って勘違いするって言っただろ。完全にその状態だ」
「あ!」
「妄想は止めてって無理だろ。あれ絶対今晩、胡春をオカズに最低十回はやるだろうな」
「そなアホな!」
「思春期男子をナメ過ぎ。ぶっかける妄想を………………」
「ゆうやないん! アホんだらー!! うぎゃ~~~~~!!!!!!!」
俺に言葉を遮るように叫び、しまいには髪をかき乱しながら絶叫した。
「はぁはぁ……」
「落ち着いたか?」
「アンはんのせいやろ!!!」
「忠告したのにあんな良い笑顔向けるから」
「やからって具体的にゆう事は……うわ~~また思い出して来よった~~!!」
「まぁまぁせっかく可愛くセットした髪が乱れる」
そう言って俺は手櫛で胡春の髪を整える。
「かわえぇって、ただのストレートやへん」
「それでもだ。今日の胡春は記憶に焼き付けときたいくらい可愛いんだから」
「大袈裟や」
「まあ胡春が毎日ストレートにしてくれたら大袈裟かもね」
「邪魔や」
「だったら、今くらい俺の目の保養をさせてくれ」
「しゃーないな」
そう言ってやっと笑う。苦笑だけど。
「てか、行かせたの失敗だったな。事情行くべきだった」
「せやったな。カンニンな」
「まあアグリス学園長に報告はするけど」
「頼むなぁ」
「あ! 時間。もう講堂で何か見る時間ないな」
「ほんまに。休憩になってへんな」
「じゃあせめて他のクラスが外でやってる露店を少し見ない?」
そう言って右手を差す出す。
「そらええけど、そらぁ何や?」
俺の右手を見て首を傾げる。
「手をニギニギしたい」
「………………せやから言い方が嫌や」
「では、胡春様をエスコートさせてください」
「しゃーないな」
苦笑いをしつつ俺の手を掴む。
「じゃあ転移して」
「それが目的か!? 人使い荒いちゅうねん!!」
目を剥きそう言いつつも露店が並んでるとこに飛んだ。その後、少しの間だけ胡春と露店を見て回る。
「そう言えば、今更ながらに胡春と二人っきりってないよな」
「せやな」
「たまには胡春とデートも悪くないな」
「………………そない言われるとウチは嫌になるな」
ボソっと呟く。
「ひどっ!」
「ウチの彼氏になるにーちゃん以外にその単語を使って欲しくあらへんわ」
「あ~生娘のありがちな幻想ね」
「生娘ゆうな! 幻想でぇ悪るかったやねん!」
「あ! これください」
露店で買い物を行う。
「って、聞いておらへんし」
「胡春これ」
「え?」
胡春が目を丸くする。
「デートのお礼」
「やから、その単語を使うんやあらへん」
そう言いつつも俺から手を離し、買った物が入った包みを開ける。
「リボン?」
中には厚さ2cm、長さ30cmくらいの赤いリボンが入ってる。綺麗な金の刺繍してあった。それが二本だ。
「そう。胡春ってさ、三つ編みツインテールで、しかも背中まである長い髪で、かなりお洒落なのに、もう一塩足らないんだよな。ただのヘアゴムで留めてるだけだし。だからリボンを付けたらもっと良い感じになると思うぞ。まあ好みじゃなかったら捨てても良いけどな」
「……………アークはんも口が上手いでんがな」
顔を赤くして俯く。
あれ? ここまでの反応されるとは思わなかったな。そんな気に入るもんだったのかな?
って言うか、アークって呼んじゃってるし。
やがて顔を上げ……、
「おおきに」
歯を見せて眩しいくらいの満面な笑みをしたので、左手を伸ばし頭を撫でる。
「なして頭撫でるんや?」
「いや、良い笑顔だと思ったらついな」
「そやの?」
「胡春のその笑みって、なんか太陽を連想させるんだよな」
「え?」
目を丸くし出す。
「だから、その刺繍」
「あ、太陽のような刺繡やな」
「デートも悪くないだろ?」
「せやな。彼氏以外のにーちゃんとのデートも悪かないな」
「チョロい」
「やからワレは、いらん一言があんねん!!」
また『ワレ』って言われしもうたわ。
「そこが良いとこなんじゃん」
「何でやねん!?」
「褒めるとこは褒めるけど、その気にさせないように一線を引いてる」
「そやけど自分でゆうやない!」
「はーい」
「せやけど、アークはんとおって飽きまへんな」
やれやれと肩を竦めつつそんな事を言う胡春だった……。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「マーク殿に実験を施す前段階で、適当に選んだタロウ殿がやられました」
「学園祭が滅茶苦茶になれば、儲け物と思っていたあれだな? ハルファスよ」
「はい、王よ」
「して、誰にやられた?」
「コハル殿です」
「タロウは、コハルにご執心と報告があったな。して他には?」
「いえ、一人です。会話内容からすると、もう一人教師がいましたが、手を出さずに見守っていました」
「何っ!? それは真か?」
「はい」
「コハルは、戦を一日で断念する軟弱者であったであろう?」
「能力が素晴らしいではありませんか」
「転移か? だが、そこまでのものか?」
「王よ、気付いておられぬのですか?」
「何をだ?」
「転移は、一軍隊を一気に他の場所に飛ばす力があります」
「何っ!? 何故それならそれを直ぐに使わせない?」
「真に覚醒していない状態ですと人数に制限があり、もしかすると距離にも影響があるかと」
「うぅむ」
「また転移は、相手の死角に一気に周り込めるものです」
「それならタロウを打ち破ったのは納得か」
「いえ、問題はそこではございません」
「何が問題だ?」
「転移の能力無しで、変異前のタロウ殿と戦いました」
「それで勝ったのか」
「はい。あの防御の能力を弓程度で破壊したのです」
「真に覚醒したのではないか? なら、早く隷属してしまえ」
「出来ませんでした」
「何っ!?」
「コハル殿に渡した隷属の腕輪が欠陥だったのかもしれません」
「此度は生産系の能力がある勇者がいなかったのが痛手になっておる」
「はい。昔に召喚した勇者が能力で作った隷属の腕輪がギリギリの数で、改良型の盗聴等を可能にした腕輪が二つしかありませんでしたからな」
「まぁ良い! それなら、今までの計画をそのまま進めよ。次はマークであったな」
「はは! 仰せのままに」
「それとタロウの始末は?」
「完了しております」
胡春ターンに3話も使ってしまいました(汗)
所詮勇者召喚編にしか活躍がないキャラでしたのに……。
まぁ沙耶は一人称視点回もあるのですけど
ちなみに時折ディーネの名を出しますが、胡春はこのキャラとちょっとした共通点を作りたくて『太陽のような笑み』をするという設定にしました
ディーネは天空の女神ディオネから名前を取って来たものですから




