EP.05 学園祭が始まりました
それから六月の中旬になり、学園祭が始まった。
「そらお好み焼きが絶品や! ウチの一押しやで」
胡春の声が響く。
「知らへんのは人生の損や。いっぺん食うてみぃ。後悔はせえへん」
「ほな、お好み焼きにローブティーやな? ぼちぼちお待ちぃ」
「お好み焼きとローブティー入ったんや」
またお好み焼きをごり押したな。
俺は絶賛裏でお好み焼きを次々に焼いている。『王族喫茶時々関西人』で自分に接客させるなら、お好み焼きとタコ焼きをメニューに入れろと言われたからな。
まあタコ焼きは、専用の鉄板がないから却下したけど。
そしたら、胡春が接客する毎にお好み焼きを勧めまくり、俺が休む暇もなく焼いてる訳だな。
ああ、一応調理担当の、ウェンディ先生、ルドリス、アンナも焼けるようにしたけど。沙耶は当然最初から焼けてた。
「ルシファー鳥の香草焼きとローブティーですの? 少々お待ちくださいまし」
「ルシファー鳥の香草焼きとローブティーをお願いするわ」
次はスーリヤの声が響く。スーリヤの場合、調理担当に注文を伝える場合、手を叩いてから伝える。侍女に指示を伝える時にやっている事だとか。
てか、ルシファー鳥の香草焼きって重くないのかな? ここ喫茶店だよね? 軽食が普通じゃね?
ちなみにローブティーとは、リックロア国では定番のお茶らしい。決してローズティーではない。
「キャーーー!! 王子様~~~!! 結婚してください」
なんか煩い客が来たな。アベリオテス目当てか。
「えぇ、良いですよ」
良いんかい!!
「一日五時間睡眠で、それ以外の時間を王妃教育をみっちり受けて三年頑張れましたら考えます」
「え~~~」
テンション落ちたな。
と言うかあしらい方が上手いな。そんな教育を三年も頑張れわな。
「では我が城で、お気に召したのを言ってください」
テンション落ちてる奴に注文の催促までしてるし。
「ミルクローブティーですね。分かりました」
「あ、バトラー。聞いていたね? ミルクローブティーを頼むよ」
バトラーなんていない。王子らしい設定でそう言ってるだけだ。しかも調理係は調理係で大変なので、お客との会話を聞いていない場合もある。
つまり、『あ、バトラー。聞いていたね?』は、ただの王族らしい演技だ。
三人はそれぞれ、自分のキャラにあった接客している。あと一人だが……、
「うふふふ……嫌ですわ。またご冗談を。でも、そんな甘いものがお好きなのでしたら、こちらのパフェなんて如何ですか? 我が城の料理人が考案したここだけのものですわ」
「まぁ……ありがとうございます。それでは少々お待ちくださいね」
「あ、料理人にパフェを作るように伝えてくれるかしら?」
はいこれも演技です。調理担当であって料理人ではない。ついでに調理場に聞こえるような大きな声で言ってるので、伝えるも何も聞こえて来てる。
ちなみにパフェを料理人が考案したのは事実だ。喫茶店ならパフェがなければおかしいと沙耶が言い出した。ただ値段が高い。
と言うかね、上手い。会話運びが上手過ぎるんだよね。客を楽しませ、高いものを注文させるとかをやりまくってる。ぶっちゃけ稼ぎ頭だ。
まあその分、一人の客に時間が取られるんだけど。
「あらあら……わたくしとした事がお飲み物を忘れておりましたわ。このパフェなんですが、ロイヤルハーブサンダーティーと、とっても合うんですよ?」
「えぇ、本当ですって。この第二王女フローラ=C=ロア学園の名において告げますわ。わたくしにとって、この組み合わせが最高なんですよ」
自分の名において『わたくしにとって、この組み合わせが最高なんですよ』とか、せこい言い方だよな。
まあ『必ずや合います』とか言って合わなかったら、問題になるしね。飲食物なんて千差万別。合う合わないは人それぞれだし。
「あ、料理人にロイヤルハーブサンダーティーも追加と伝えてくださるかしら」
お茶まで一番高いの勧めやがったよ。名前は変だけど。
「よし! 注文受けたお好み焼きは全部終わった。次、何やる?」
「じゃあダーク先生、ティー関係をお願いします。伝票そこにありますので」
ウェンディ先生にそう言われる。ちなみにだが接客担当は調理担当に口頭で伝えているが、確り伝票にも記している。
「了解です」
「それが終わりましたら、コハルさんと休憩入ってください」
「分かりました」
って訳で、ローブティー二つにミルクローブティーにロイヤルハーブサンダーティーね。俺はそれぞれ用意した。
さて、休憩か。
「胡春、それ終わったら休憩だ」
「了解や」
擦れ違いに耳打ちし、喫茶店にしている教室から出る。
少し待つと胡春も出て来た。
「なんや? ダーク先生、待っとったのか」
「一緒に回らない?」
「別にええけど変な事せん?」
ジトーっと見られる。
「変な事って?」
「ダーク先生って、どエロやん」
「だとしても、そっち方面で胡春をイジったのあまりないやろ」
「確かにそやな。沙耶はんが哀れなくらいイジられておったんやな」
と、思い出し笑いをし出す。
にしても混んでる。学園祭ってこんな混むものなのかな? リックロア国って祭りがないのかも?
そんな事を思いながら、胡春と歩いてると、ふとある事を思い出した。
「胡春、ちょっとこっち来て」
「なんや?」
空き教室に招き入れる事に。
「こないなぁとこで二人っきりなって、やっぱ変な事すんねんか?」
顔を引き攣らせ後退る。
「髪解いて」
「はい?」
「だから、髪解いて」
「何でや!?」
「前に言えば解いたとこ見せてくれるって言ってたじゃん」
「覚えとったのか? 仕方あらへん」
そう言って、三つ編みツインテールを解く。それにしても長いよな……背中まであるし。
「おお~」
パチパチと拍手する。
「そないな感動するとこでっか?」
「ちょっとイジって良い?」
「そない変な髪型にしやへんのやったらな、好きにしぃ」
「櫛持ってる?」
「あるんや」
そうして胡春を適当な椅子に座らせ、櫛で梳かし始める。三つ編みの跡があるからな。
「こんな長いとセット大変だろうな」
「そやから余計なお世話や」
だって長い髪を三つ編みして、それもツインテールなので二本あるし。
「髪サラサラだね。この世界のって石鹸だからゴワゴワにならない?」
「シャンプーをウチが作っておるんや」
「良いな。レシピ頂戴」
「ええでぇ」
「サンクス」
「大した事あらへん」
「にしても英語が通じるのは感動だな」
「ああ、こっちの世界の人、たまに通じへん言葉あるんや」
ほんと、ほんと。
たまに通じなくて言い直すの面倒な時があるんだよな。
「ところで、ギャク要員はどう?」
「ギャグ要員ゆうな! 普通に接客担当ってゆえや」
「で、どう?」
「それなりに楽しんどるわ」
「お好み焼きばかりを勧めてるけど?」
「こっちの料理ってか分かへんし、勧め易いんや」
「なるほどね。あ、終わった」
って訳で櫛を返すと、胡春は手鏡を出し自分の姿を見た。
「なんや。普通のストレートやない」
「でも、似合ってるぞ」
「そらおおきに」
「普段からストレートでも良いかもね。二割増しで似合うよ」
「そら普段の髪型が似合いまへんって事か?」
「それはそれで良い」
サムズアップ。
「そのまま一緒に回らない?」
「ええよ」
「あ、失敗したな。休憩終わったらどうするの? 直すの時間掛かるやろ」
「普通のツインテールにするから、問題あらへん」
「それは良かった。ついでにちょっと眼鏡を外してみてよ」
「注文多いな」
そう言いつつ外してくれた。
「………………」
「何か言えや!」
「あ、うん。眼鏡掛けて良いぞ」
胡春が眼鏡を掛ける。
「眼鏡してる胡春、最高に可愛いぞ」
「外しとると可愛くあらへんって聞こえるわ!」
「うん」
「………………もう嫌や。この教師」
げんなりと肩を落とした。
「それより胡春殿下」
「殿下ってなんやねん!?」
「いや、王族喫茶の接客担当だし」
「ウチは、時々関西人の方や!」
「では、胡春西人」
「もう意味不明やねん!!!」
胡春は、快活なツッコミが来るからおもろいな。
「ともかく、胡春様。どうか俺に胡春様をエスコートする栄誉を」
そう言って跪き右手を差し出す。
「まぁええやろ」
そう言って俺の手の上に手を重ねてくれた。俺は胡春の手を握ると歩き出す。
「これちびっと恥ずいやんけな」
「顔赤くした胡春を初めて見た。それも可愛いな」
「ダーク先生は、いらん一言が多いやねん!」
そう言いつつも手を離さない。
「まあ人が多しこれで歩くけど良いか?」
「ええよ」
「で、どこ行く?」
「そやな……講堂がええんやない? 何か出しもんやってるでっしゃろ」
「了解」
そうして講堂に向けて歩き出す。
「そういやさ、眼鏡外すと全然見えない?」
「そやな。この距離やないと相手ぇの顔が見えへん」
「でも、今なら普通に歩けそうだよね?」
「空間把握があるからな。せやけど、あれ常時発動しとると、しんどいんやな。精神的に」
「呼吸するように使えるようにしておいた方が今後色々役に立つぞ」
「そやの?」
「俺は気配察知を常時発動してるんだけど、この状態のお陰で不意打ち、闇討ちを全部撃退して来たからな」
「そらごっついな」
言ってる側から何か来てるよ。俺は胡春を抱き寄せる。すると胡春は目を丸くしていた。
「なんやねん!?」
「うわぁぁぁぁぁ……っ!!」
胡春がいたとこを何者かが走り抜ける。手にはナイフを……。




