EP.06 サラとミク (三)
ブクマありがとうございます
「次っ!」
とルティナは、気合を込めて魔物を斬り裂いていた。ダークから貰った短剣で次々と屠って行くが、数が多い
一体どれくらい倒しただろうか……?
だけどまだまだいける! と己を鼓舞する。
それでも魔物は一向に減る気配がない。それどころか増える一方。コブリン、オーク、ダークネスウルフ、一角兎……種類を数えるのも馬鹿らしい。
「……キリがない」
げんなりしながらそう呟いた瞬間。
「ぐぁぁぁぁぁぁ~~!!!」
一体の魔物……ウインドバードが突風を起こしていた。
えっ!? と、ルティナは吹き飛ばされないように必死に身構える。
しかし、その突風でルティナの家が吹き飛び、ディールや子供達が剥き出しに……。
幸い怪我はないがまずい。
「このっ!」
飛び上がり突風を起こした魔物を直ぐ様斬るが、その隙に別の魔物……ハイオーガが子供達の方へ……。
「「「「「「「「「「ママー」」」」」」」」」」
叫ぶ子供達。
「ふぇ~んっ!」
それに泣き叫ぶディールとカタリーヌの子供。
「しまったっ!!」
どうすれば? 魔法が使えれば、遠距離から攻撃ができるのに……
「子供達とカタリーヌは俺が守るっ!」
ディールが子供達とカタリーヌを自分の後ろに隠れさせる。とても隠れられる人数ではない。それにディールが前に出たからと言って彼が危険なだけだ。
「よしよし! ルティナとパパがいるから大丈夫よ」
抱いてる子をあやすカタリーヌ
一体の魔物がディールに迫る。今からでは間に合わない。そのハイオーガが持った棍棒を振り上げる。
このままでは……このままでは……。
ルティナにはどうする事もできない。ただ固唾を呑んで、届かない手を伸ばす事しかできないでいた。
「止めてぇぇーっ!!」
そして、叫ぶ。叫んだからどうにかなるわけではない。ハイオーガが棍棒を振り下ろす。
終わったと思った。その瞬間がスローモーションに見えた。今までずっと平穏が続いていたのに、こうも簡単に……。
ディールは大切な家族。それを失いたくないと思う。でも、何もできない自分が悔しい。魔法が使えれば……。
様々な事が、走馬灯にように頭に過ぎり、全てが終わったと思ったその刹那……、
ビューンっ! ブスゥゥゥゥっ!
空から風切り音が聞こえ、何かがハイオーガに突き刺さった。
「ぐぁぁぁ…」
ハイオーガの断末魔の叫びを起こす。
ルティナは、自分の目を疑った。もうダメかと思ったその時、救いの槍が天から飛来し、ハイオーガに真っ直ぐ槍が突き刺さったのだ。
「……間一髪だな」
今度は人が飛来して来て、その槍を引き抜く。背中まで伸びる緋色の美しい髪を揺らす。
整った顔立ちで本当に美しい女性。赤を基調とした動き易い服装をしている。歳は20代中盤あたりだろうか……。
天より飛来し、夕日に照らされて髪が輝いて見えた事により女神が降臨したのかと錯覚させる。
そして、その女性は私の方を向く。
「私の名はサラ! 事情は知らぬがお主を援護する」
「えっ!?」
凛とした声音で朗々と言われ困惑した。
「ここにいる者達は私が指一本触れさせぬ。お主は存分に暴れるが良い」
サラと名乗る者が再び叫ぶ。
「え? ええ。ありがとうございます」
咄嗟に頭を垂れてしまう。本来なら、そんな余裕はない。
この事態に困惑し、周りの気配の動きを感じる事を怠ってしまっていた。
「ママーっ!」
「ママ、後ろっ!」
「ママ、危ないっ!」
子供達が叫ぶ。し、しまった。
しかし、そう思った瞬間には、後ろから襲い掛かって来ていた魔物は倒れていた。
数本の矢が刺さっている。
「えっ!?」
再び困惑。今、何が起きたの? あのサラって人は、あの場から動かずに宣言通り子供達を守るように槍を振るっている。そう槍だ。、弓ではない。
「やっほ~♪」
と、気の抜けるような声が空から聞こえて来た。咄嗟に見上げる。
「なっ!?」
なんと上空では大きな鳥の足に肩を掴まれ、弓を構える女性と言うには、少女に見える歳の頃の者が浮いていた。
青色の髪で、肩に当たるくらいの長さのを二つに分けて束ねているにしてる。水色を基調とした身軽そうな服装。スカートは短く、下にはスパッツを穿いていた。
そんな彼女は、此方に手を振っている。一体あれは何? 鳥型の魔物? 人が二人は乗れそうな大きさだ。
だが、魔物なら何故人間を掴んで浮かせている? 人間の方も、なんであんな平然としていのだ? ルティナは困惑気味に様々な事を考えてしまっていた。
「ほらほら、何ボーッとしてるの? また襲われるよ? あたしも空から援護するから、ちゃっちゃ終わらそう♪」
だか、答えが見つかる前に再び声を掛けらえた。お気楽な感じの言葉に更に戸惑う。だけどそんな場合じゃないのも十分承知している。
「あ……あ、うん、わかった。ありがとう」
そういちいち驚いてなんていられない。と思った瞬間……、
ヒューンヒューンヒューンヒューン……ブスブスブスブスッ!!
上空より飛来した大量の矢に魔物達が射抜かれていた。何この人? 凄い。一気に魔物を倒して行ってる。
でも、一発や二発で倒れない魔物もいる。
そんな魔物達を私はダークから貰った短剣で斬り裂く。
プシュップシュプシュプシューンっ!!
「次っ!」
「わ~お。やる~♪」
また気が抜ける声が上から……。ほんとあの声音は力が抜けると、ルティナは肩をガクっと落ちとしてしまう。
それに凄いのは貴女の方よ。魔物みたいな大きな鳥を従わせ、あんな連射なんて早々できない。
それにあのサラって人も凄い。言葉通りディール達に指一本触れさせていない。巧みな槍捌き。
それに基本に囚われず、槍を地面に刺し、その槍を起点に遠心力を利用した回し蹴り。一体こに人達は何者なの!?
「それにしてもキリがないぞ」
暫く戦い続けた頃、サラが叫ぶ。
「ええ。こんなに魔物が群れているなんて初めて」
ルティナが答える。
「ま、まも……のだと? そんなものが実在しているのかっ?」
グサっ! と、意味のわからない事で、サラが驚きつつも魔物を突き刺す。
「は? 何言ってるの、よっ!」
プシュプシュプシューンっ!
返答しながら、次々に斬り裂く。どういう事? この人達は魔物を知らないの?
「あちゃ~もう矢が少ない。ごめ~ん。援護難しいかも」
ガクっ! と、肩が落ちる。人が考え込んでいたら、また空にいる者が、気が抜ける声音を発する。
「ねぇ貴女? 剣と槍も使えるの?」
プシュプシュプシューンっ!
応戦しつつ空に向かって叫ぶ。
「一応」
「なら、その剣貸して? 槍も使えるなら貴女は槍でお願い」
「良いよ~♪」
また気が抜ける声を……。
正直剣はまだ怖い。だから護身刀だと思い込めるようにダークは短剣をくれたのだろう。
でも! 今はそんな事を言ってる場合じゃない。
「チカ!」
彼女が何かを呟くと大きな鳥型の魔物が彼女の肩を離した。チカというのはおそらくあの大きな鳥型の魔物の名前だろう。今のは足を離せという合図だったのかな?
「とおっ!」
グサっ!
落下して来た彼女の手には、いつの間にか槍を持っており、そのまま魔物を突き刺した。
「槍はあんまり得意じゃないんだよねぇ~」
ブスっ!
と、言いつつもサラ程ではないが巧みに振り回して魔物を倒して行く。
特記すべきはあの槍。三股の槍である。
三叉槍と言う名前だっただろうか? 彼女はそれを振り回すだけではなく時に三股に魔物が持つ武器を絡めて奪い、無力化してから倒している。まあ武器と言っても棍棒のようなものが大半だけど。
「ピーィ」
え? いつの間に?
大きな鳥型の魔物が私の目の前にいた。その口には剣が銜えられている、ご丁寧に刀身を銜え、私の方に柄を差し出してる。この鳥型の魔物は人間の言葉わかるのだろうか……?
ルティナとミクの会話を全てを理解していた? 雪だるまのユキと同じで突然変異? と、様々疑問が振って沸いて来る。しかし、考えている余裕はない。
それよりも何にしても有難い。と、感じルティナは微笑む。
「ありがとう」
一言礼を述べ、剣を掴み取る。すると直ぐにチカとやらは空に舞い上がった。
剣を持つ手が震える。
「す~~~は~~~」
ルティナは、目を瞑り深呼吸した。大丈夫!
子供達の前にはサラが立ちはだかって、子供達を守ってくれている。
ルティナが子供達を傷付ける事は絶対無い。だから大丈夫だと自分に言い聞かせる。
カっ! と目を見開いた。
「はぁぁ……っ!」
ザン! ザン! ザザン! ザンザンザンザンザンっ! プシュプシュプシューンっ!
短剣から剣に持ち替えた私は一気に魔物を殲滅して行く。
「お~~やる~♪」
ガクっ! だから力が抜けるって。
「私の得意武器はこっちだから」
とりあえずそう答えておく。
「ふ~ん……でも震えてるよ?」
鋭い。何この娘? 気の抜けるような事ばかり発してるけど、見てるとこは確り見てる。
まあ当然か。先程まで弓で良い援護してくれていたから洞察力あるのだろう。
確かに少し震える。額から汗が流れる。正直怖い。
「ええ。剣を持つのは一年ぶりだからね」
そう言って誤魔化す。半分本当だけど。
「なるほどねぇ~」
あ~も~気が抜けるってっ! ルティナは、またガクっと肩が落ちる。
それでも、即座に集中し、魔物を斬り裂く。
「ところで私はルティナ。貴女は?」
「ミクだよ。で、あっちがチカだよ~」
空で、ウインドバードやテンガラス等の空を飛ぶ魔物を鋭い鍵爪で殲滅している鳥型の魔物を指差す。やっぱりあの鳥型の魔物はチカという名だったのだね。
「ありがとうね。こんな数、私一人じゃ大変だったよ」
「通りがかりのついでだよ~。それにぃ~その言葉は全部片付けてから聞かせて♪」
「ええ」
プシュプシュプシューンっ!
それにしても本当にキリがない。
「あれれれ~、親玉登場ですか~?」
ミクと名乗った娘がまた気が抜ける声音を発する。
ドーン! ドーンっ!
ミクが見てる方角に視線を向けると地響きを鳴らしながら全長四mはある巨大な魔物が見えた。
なっ!? そんな……。 あれは……。 でも、何故!?
巨大な魔物が大きな棍棒を持ち目の前まで迫った。
「なんでトロールがこんなとこに?」
トロールの生息地は此処じゃないのに。そもそも大型の魔物は被害が大きくなるって事で。精霊大戦の時に殲滅して回った筈。どうしよう……。
あんな魔物、魔導の力がないと私には倒せない。
「えい!」
ミクが突き刺す。が、カツ! と気が抜けた音が漏れ三叉槍が弾かれる。
「無駄よ!」
「うわ~硬いよ~♪」
間の抜けた声を上げてる場合じゃないって。
「危ないっ!」
トロールが棍棒を持つ手を豪快に振り上げている。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンっ!!
物凄い風切り音が響く。風圧で吹っ飛びそうになる。ミクが殺られた?
「ふ~……危ない危ない」
でもなかった。彼女の声が上からする。いつの間に?
気付くとミクの肩がチカに掴まれ空中にいた。間一髪でチカが救出したのだろう。
「あれ、何なの~?」
上から声が響く。
「トロールよ。物理耐性が異常な程高いの」
さてどうする? 魔導の力無い今、トロールに対抗する手段は無い。となればやる事は一つ。
「みん……」
「サラぁ! こっちの状況見てる~?」
皆、逃げるわよと叫ぼうとしたらと先にミクが叫んで遮られる。
「ああ、見ておるぞ」
「どうする~? あたしがこのまま倒す?」
「いや、お主が全力を出すと被害が大きくなる。私がやろう」
「了解」
ちょ! えっ? えっ? 何するの?
話をどんどん進めないで。って言うか、サラがやるって子供達はどうするの? ルティナは困惑しオロオロしてしまった。