EP.03 祝勝会を行いました その②
「いや、夜のあれこれは伏せられたよ。何で見せてくれないんだよー!! って、半ギレにはなったけど」
「そこで見せろって発想が、もう軽蔑しますわ!」
「いや、実在の人物とは思ってなかったんだよ。あくまで俺は別の人生を疑似体験してただけで……」
何で俺、こんな必死に弁解してるんだ?
「釈然としませんわ」
「もしかしてダーク先生が、お強いのはその本来の体の持ち主がお強いからですか?」
「それもあるな、アベリオテス。だけど、疑似体験してる中で、俺はこの体の動かし方ある程度理解し、自らを鍛えていたのもある。まあそれでも乗っ取った時に完全にこの体を使いこなせなくて、最初は苦労したけどな」
苦笑を浮かべ肩を竦める。
「なるほど」
「話が前後したけど、ダークは五歳の時に捨てられたんだ。で、生きて行く為に盗みや殺し何でもやった。まあそんなガキが生きて行くにはそれしかなかったしな。そして、両親の家にやっとの思いで帰って来たら、新しい子供はいるし、両親はダークを忘れていると言う始末」
「……………それは何とも言えない人生ですね」
「壮絶です」
ルドリス、アンナが苦い顔で言う。
「それからだろうな。ダークが狂ったのは。子供殺し、父親を殺し、母親を瀕死にしたり。その後、師とも言える奴に拾われ、暗殺者稼業に手を染める事になるんだ。でも、その師とも言える相棒となった奴が殺され、それでも妻となる女と出会い一時期の平穏を得た。娘のエーコも生まれたしな」
「それも一時期なんですね。奥さんは殺される事になる」
「ほんま悲惨やな」
アベリオテスが沈痛な声音で呟き、胡春が続く。
「ああ、毒殺される。それでも一年は頑張ったけど息絶える。それでエーコを捨てて完全に復讐鬼となった。しかも相棒を殺した奴とは違うが、元凶は同じだった。だから復讐だけの為に生き、約十年掛けてやり遂げた」
そこまで話すと誰もが口を開けなくなった。ちょっと重い話をしてしまったか。
「悪い。祝勝会なのにこんな重い話をしてしまって」
「ねぇ、アーク」
沙耶が言い辛そうに声を掛ける。しかもアーク呼びだ。
「ん?」
「何で?」
「えっ!?」
沙耶が泣き始めた。
「何で? 何で?」
うわ言のように繰り返す。
「何が?」
「何でぇ、己事のように語るんやかて言いたいんやない?」
胡春が変わりに言うと沙耶がコクリ頷き口を再び開く。
「ダークって他人でしょう? なのに何でアークは自分の事のように語るの?」
「そりゃ半生を見ていたからな。感情移入もするし、星々に勝手にこの体に俺の魂を放り込まれたしな。もう自分の一部だ。ダークのその後の人生として生きてるのもある」
「凄いね。私には出来ないよ」
「そうか? 俺はそれなりに楽しんでるよ。エーコって可愛い娘みたいな女もいるし」
何故かフローラが俯いた。
「フローラも娘みたいだよ」
「……………嬉しいけど、違うよぉぉ」
覇気がないな。やっぱ重過ぎたか。
「だって絶対に俺の女にする気はないし。てか、やっぱ胸以外どうでも良いや」
「酷いよぉぉぉぉっっ!!」
涙目でいつもの絶叫が始まった。
「よしよしよーし。フローラはそうじゃないと」
頭を撫でてやると顔を赤くしだす。
「撫でるなぁぁぁ!」
それで空気は一辺し皆、笑い出す。
「それで本来のダーク先生はどんな感じでしたの?」
空気が一辺した事で、アンナがそう問い掛けて来る。
「え? 日本にいた頃?」
「はい」
「ロクでなし」
「え?」
「ロクでなしのクズで、どうしようもない奴だったな。最終的に引き籠って家から出なくなったし」
「……………そうなんですね」
顔を引き攣らせるアンナ。
「と言うか話を戻そうぜ。俺が闘気技をどれくらいの月日の鍛錬で出せるようになったか。景品いるか? 欲しいのがあったら考えてみるよ」
「全財産くれまっしゃろか」
「良いぞ」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
胡春の要求に許可したら、めっちゃ驚かれた。
「では、フローラさんをください」
「良いぞ」
「何でよぉぉぉ!?」
ルドリスのボケに付き合ったらフローラに突っ込まれた。
「では、ダーク先生の小太刀を。業物と見ました」
「良いけど、ただのミスリル製だし、ルドリスならともかくアベリオテスが使うのか?」
「いえ、なんとなく言ってみました」
「ちなみに俺の一番得意な武器って小刀なんだよな」
「なのに小太刀?」
アンナに問われる。
「だって優秀そうなの見掛けないから。ここに召喚される前、全武装置いて来たのが痛手となってるよ」
俺は肩を竦めてしまう。
「では、デビルスを滅ぼして頂けますか?」
「良いぞ」
「え?」
スーリヤの要求に応えるとフローラがオロオロし出した。
それを見た沙耶と胡春が俺を睨む。
「そこまで言われるとは、余程の自信があるのですね」
「まぁね」
アベリオテスの言葉に肯定する。
「では、十年」
「五年ですわ」
「三年」
「最初に言った通り二年で」
「一年半やないか?」
「私も一年半」
「ボクも一年半にしておく」
胡春と沙耶は、前に一年じゃダメだったって言ってあったし、そんな半端な年数にしたのかな?
たぶんフローラは、それに乗っかったのだろう。
「ウェンディ先生は?」
「いえ、私は特に欲しいものはありませんので」
「ウェンディ先生の持ち帰り」
「されません!」
パシーンと、料亭のメニュー表で殴られた。
「じゃあ正解は無理だった」
「「「「「「「「はいっ!?」」」」」」」」
「どなゆう事や?」
「意味分からないよ」
「俺は言ったな? 鍛錬の月日はって。鍛錬では習得出来なかった。これが答えだ」
「では、どうやって?」
アンナが問い掛けて来る。
「死に掛けて」
「意味分からないですよ」
アベリオテスがそう言うので一から説明するか。
「皆に聞くが生命力もしくは生命エネルギーって分かるか」
「……生きようとする力ですわね」
スーリヤが答える。
「そう。人間死にそうになると生命力が活性化して思いもよらぬ事が起きる。例えば痛みを感じなくなったり」
「聞いた事があります」
ルドリスがそう言う。
しかし、胡春と沙耶は首を傾げる。
「胡春、沙耶、別の理屈があるのは分かるが、ここは異世界だ。その理屈を説明しても皆、分からないだろう」
「そやろうな」
「そうね」
俺がそう言うと納得してくれた。
「で、死に掛けると痛みがなくなったり、且つ諦めなければ何かしらの活路が生まれたりする。さっき言ったが、俺は大陸を守れって押し付けられたせいで死にそうになったんだ。その時に闘気の扱い方をやっと理解した。それまでの鍛錬では全く扱えなかったのに」
「その答えはずるいですね」
まぁアンナが唇を尖らす。
「まあともかく修羅場をぐぐって来た奴は、一筋縄では行かない。これは皆も覚えておいた方が良い。もしかしたら、そんな相手と戦わないといけない時が来るかもしれない」
皆は神妙な顔で頷く。
「で、話を戻すと死に掛けてもいない、見せただけで詳しく教えていない。なのにアンナは闘気技を出せた。だから二年後には俺を越えていてもおかしくないって訳だ」
「アンナはんはごっついな」
胡春を皮切りにアンナに称賛の目が向けられる。
アンナは再び居心地悪そうにしていた。
「まあ俺より強いのなんて沢山いるよ。例えばアンナに会わせたいって思った奴。絶対に勝てる気がしない」
「仰ってましたね。攻撃を受ける部分が瞬時に分かる技術を持ってるとか」
「そう。スーリヤが言った通りだ。そんな事されたらいくらこっちが速く動こうが攻撃が効かない」
「やはりダーク先生のいた大陸には、凄い人が沢山いるのですか?」
ルドリスにそう聞かれる。
「いるぞ。宙を蹴って空を縦横無尽に駆けられる奴とか」
「まさかそんなのが……」
アベリオテスがいやいやと顔を振っている。
「まああれは見ても自分の目が信じられなくなる荒業だな。理屈は分かるが絶対無理だと思うよ。他にはさっき名前が出たエーコだな」
「確か十三歳でしたね」
「そう。今は十三歳だな。誕生日祝えなくて残念だよ」
スーリヤにそう言い、俺は肩を竦める。
「エーコは、俺が知る限り九歳の頃から大陸で一番の魔力保持者。条件付きで二番目になってしまうが、ユピテル大陸で一番強い魔導士だったんだよ。神童とも呼ばれた大天才だな。よくもまあ俺……って言うかダークの血から、そんな子が産まれたよ」
「九歳で……」
アンナがなんとも言えない顔をしていた。
同じく天才と俺に言われるようになってるから思うとこでもあったのかな?
ちなみに一番の魔力保持者は、本当はユキなんだが、人間じゃないしまあ良いだろ。
「フローラと良い魔法対決が出来るのではないか?」
「会ってみたいなぁ」
「俺は会わせたくないけどな」
「なんでぇぇぇ!?」
「理由は分かってるだろ?」
「そりゃあ……まぁ」
「先程条件付きと言ってましたが、状況によってはもっと凄い魔導士がいるのですか?」
ルドリスにそう聞かれる。
「いるぞ。これは生まれがヤバい」
「それはどんな?」
アベリオテスが問い掛けて来る。
「精霊が父親だ。だから半精霊化なんて荒業が出来る。そうなるとエーコでも勝てない」
「それが本当なら……とんでもございませんね」
スーリヤは予想が付いたのだろう。
「他にもユピテル大陸と交易してるユグドラシル大陸ってのがあってな、たぶんそこにも凄い奴はいる。例えば胡春の使う転移を極めている人とか」
「言うておったんやな。ディーネ王妃はんやったな」
「そう。ああ、そうだ。ユグドラシル大陸で忘れてはいけない人がいる。スーリヤ」
「何でしょう?」
「俺が槍を教えようと思ったのは、ユグドラシル大陸に槍の達人がいたからだ。俺はそいつの動きを見た事あるから。まあユピテル大陸にも達人がいるけど、それより上だと思う。でも、自分で扱える訳じゃないから、基本的な事だけしか教えられなかったがな」
そう言って肩を竦めてしまう。
「そのお方はさぞお強いのでしょうね」
「俺が知る槍使いでは最強じゃねぇか? 機会があれば会えるかも?」
「本当ですの?」
スーリヤがパーっと明るくなる。ちょい興奮気味だ。
最初は渋々だったのに今ではすっかり槍にハマってるな。
「実はなゼフィラク国にユグドラシル大陸の奴がいる」
「そうなのですか?」
自国の王子だけあってアベリオテスが真っ先に反応した。
「そいつがユグドラシル大陸への帰り方を知っていれば会える可能性はある」
となると……、
「沙耶、ユピテル大陸に行ける希望が一つ有ったぞ」
「何よ?」
「もし今言った奴がユグドラシル大陸に帰れる方法を知っていればディーネ王妃に会える」
「そないすれば転移して貰えますな」
胡春が引き継ぐ。
「そう。ユピテル大陸に帰れる」
「え?」
やば! ここで言うべきではなかったかもな。
皆の視線はフローラに向かってる。哀れみの視線は強いな。
「……どう言う事?」
「えっ!?」
「サヤさんがユピテル大陸に行くって」
あ、そっち。てっきり俺が帰る芽が出た事で声を上げたのかと思った。
「ユピテル大陸の時の精霊に会えば日本に帰れるかもしれない。で、沙耶は精霊に好かれる能力を持った勇者だ」
「またボク以外を連れて行くんだね」
泣きそうだな。
「まだアンナが来るとは決まってないぞ」
「でも、誘ったじゃん。ボクは誘ってくれないのに」
「じゃあ来るか?」
「良いの?」
「住む場所は俺のとこ以外にしろよ」
「意味ないじゃんっ!」
って言われても困る。
「仮に沙耶とアンナがユピテル大陸に来ても俺とは住まないぞ」
「でもぉ……」
「フローラさん、覚悟を示さないといけないのではないのですか?」
スーリヤが助け船を出してくれる。有難い。
「…………………そうだね」
まずいな祝勝会なのにフローラだけ楽しんでない。




