EP.02 祝勝会を行いました
それにしてもCクラスはレアな人達が集まったものだ。
魔法剣をいきなり使える者、時空魔導士の素養がある者、精霊を顕現させられる者、複数の上位魔法を使いこなす魔導士。
中でも天才はアンナだ。まさか四ヶ月で闘気技を使えるとは思わなかった。
卒業までの課題にするつもりだったのに、これから何を教えれば良いのやら。
あとはルドリスとスーリヤだが、凡人だが実直に鍛錬しているので、他に引けを取らないだろう。
着実に皆育ってる。
目下の問題は俺だな。帰れる見込みがないし、もう此処で生きて行こうかと思ってしまう。
何よりも俺も男だ。溜まるもんは溜まる。あんなにもフローラに想って貰ってるのだ。
ぶっちゃけ手を出したくなる。が、半端にしたくないな。どこかでケジメを付けたいと思う。
そして、俺が召喚され約一年と一ヶ月。学園に来て五ヶ月弱の月日が流れた。
四月二十日に支給された給料を見てビックリしたな。俺の給料はフローラの授業料で3割減。なので21000Gなのだが6万Gあった。
え? 何かの間違い? と思ってしまったものだ。
チョビヒーゲの9割減の半分とクラス対抗武術大会を優勝に導いたボーナスでこの金額なのだ。ちなみに普通に生活する分には2万Gあれば十分なくらいだ。切り詰めれば1万Gでも問題ない。なにせ教員寮暮らしなのだから。なので、1万Gはフローラの小遣いにしている。
聞いてないが、これならウェンディ先生なら担任だし7万G以上ありそうだな。
そんな訳で、生徒を連れ料亭に訪れていた。
「今更ながらクラス対抗武術大会優勝おめでとう。チョビヒーゲ先生から奪った金で騒ごう」
と音頭を取った。
「チョビーゲ先生ですよ、ダーク先生」
お決まりのツッコミを行うのはウェンディ先生だ。
「今日は食べて、飲んで、叫んで、女を抱いて大いに盛り上がろう」
「最後の余計ぇぇぇ!」
フローラに突っ込まれた。
「じゃあ俺はフローラを抱くか」
「えっ!?」
「な~~~んて。まずそうだから遠慮しておこう」
「またなのぉぉぉ!?」
「それと奪ったとは言葉が美しくございませんね」
「ではスーリヤは、なんと言う言葉を使うのかな? 姫様の美しい言葉を是非下々にご教授を」
「ぶん取って差し上げたお金でございますね」
シーン。
全員で白い目で見始めた。
「おほほほ……ほんの戯れでございますわ。真剣勝負で勝ち取ったと言うべきですかね?」
「真剣? 俺めっちゃ手を抜いていたぞ」
「……ダーク先生の底が見えませんわね」
「そもそも、本物の強者なら一瞬で終わらないよ。チョビヒーゲ先生は、あんまり強くなかったし」
「ドラゴンを単独討伐されるダーク先生より、お強い方なんていらっしゃるのですか?」
「う~~ん。二年後のアンナとか?」
「「「「「えっ?」」」」」
全員がアンナに視線が行く。アンナは居心地悪そうにしていた。
「冗談ですよね?」
「前にも言ったけど、アンナなら十分可能性はあるよ。ちなみに俺が闘気技出す為に鍛錬して出せるようになった月日はどれくらいだと思う?」
「四ヶ月のあたしにビックリされていましたから、二年くらいでしょうか?」
「他に月日を当ててやるって意気込む人はいるか? 賭博しようぜ」
「それはご法度ですわ」
スーリヤからお叱りを受けてしまった。
「じゃあ特別レッスンをしようか?」
「それは良いですね」
「それは是非ともお願いしたいですわ」
「私もお願いしたいです」
「あたしも、もっと強くなりたいです」
「そらええな」
「私もお願いしたいね」
口々に言って来るが一人無言の者がいる。
「どうしたフローラ? 何で黙ってるんだ?」
「ダーク先生の特別レッスンでしょう? どうせくだらない事だよぉ」
「良く分かっているな」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
「ベッドの上の……」
「もう良いよぉぉぉ!」
遮られた。
「でも、フローラはレッスンして欲しいだろ?」
「……そ、そんな事はないよ」
顔を赤くし目が泳いでるし。
「顔赤いぞ? して欲しいんだろ?」
「そんな事無いってばぁぁぁ!」
「じゃあいらないの?」
「………………………………欲しい」
「チョロい」
「酷いよぉぉぉ!」
フローラは、相変わらず面白い。
だがなぁまだ娘みたいな感じでしか見れないんだよな。
溜まるもんは溜まるし、手を出したくはなるが、娘みたいなって以上の感情が沸いて来ない。
ギリ行っても娘以上恋人未満……やっぱり意味不明だな。
「ダーク先生、フローラさんのお気持ちを分かっていながら、弄び過ぎではございませんか?」
スーリヤを筆頭に女性陣の目が怖い。
「分かっていないな。こうやって突き放してるんだよ」
「それを本人の前で言ってしまえば意味無いと思いますよ」
アンナからそう言われる。
「大丈夫だよぉ。言われなくてもダーク先生の考えてる事は察せられるから」
「まぁ以心伝心ですわね」
ポっとスーリヤが顔を赤らめる。
「以心伝心って……俺、全然分からないよ」
「まぁダーク先生ですし」
アベリオテスにそう言われ、皆が肯定してるように首を縦に振り出す。
解せん。
「じゃあこれだけは言っておくか。言うのは最初で最後だフローラ」
「何ぃ?」
「覚悟を示せ。そしたら俺に着いて来る事を考える」
とは言うがフローラの本心は予想ではアレなんだよな。本人気付いていないのかな?
つか俺もクズだよな。誰も俺の女にするとは言っていない。
仮にユピテル大陸に帰れたとしても家政婦として家に置く程度だろう。ほんと俺ってクズだ。
だってナターシャとエーコを一番に考えてしまう。それだけは譲れない。
「うん」
「それと俺が一番に考えるのはナターシャとエーコだ。それも理解した上で答えを見つけろよ?」
「分かったよ」
神妙に頷く。
「覚悟って何ですの?」
スーリヤから問い掛けが来るがフローラは口をパクパクさせ何も言わない。
恐らく言いたくても言えないのだろう。自国を占領している姫ですなんて。
「詳しくは言えないがフローラにはやらなきゃいけない事がある。それを捨て去る覚悟、もしくは解決出来ないなら俺のとこへ来るなと言っているんだよ」
「厳しい事ですの」
「ダーク先生は二人の恋人がいるのでしょか?」
「はい?」
ルドリス君は何を言ってるんだ?
「今、ナターシャとエーコと、二人の名前が挙がりました」
「あ~言ってなかったか。ナターシャは俺の女で、エーコは娘」
「「「「「えっ!?」」」」」
「お子様もいらしゃったのですね」
アンナがそう言う。
「と言っても娘の母親は、エーコを生んで一年くらいで亡くなったけどな」
「つまりナターシャさんと言う方は、ダーク先生の前の奥様との娘さんと一緒に暮らしているのですの? 不和を生まないでしょうか?」
スーリヤの疑問はもっともだな。
「それはないな。ナターシャは薬師なんだが、エーコが弟子入りし、ナターシャの家に転がり込んだんだよ。で、俺は後からそこに暮らすようになった。つまり俺との関係が出来る前から二人には信頼関係があったって訳だ」
って、さっきから俺は何で自分の身の上話をしてるんだよ。
「良い関係を築いてるのですね」
アベリオテスを筆頭に納得してくれた。
「娘さんおいつくなのですか?」
「十三だな」
アンナに聞かれたので、答えると続けて嫌な質問をされた。
「娘さんまだお若いのに、何でダーク先生と一緒に暮らしてなかったんですか?」
どうしよう。でも、いつか矛盾に気付き突っ込まれそうだな。確り話しておくべきか。
「一歳の時に捨てた」
「何ですって!?」
スーリヤが真っ先に目くじらを立てる。皆も蔑むような視線を送って来る。
「前にダーク先生が暗殺者と仰ってた事と関係あるのですか?」
唯一ウェンディ先生が助け船を出してくれる。
「それもありますね。エーコの母親は殺されたんですよね。それから復讐の為に生きて来ました」
「……………復讐」
ボソリとアンナが呟き全員何を想像したのか考え込み出す。しかしスーリヤがおかしな点に気付く。
「先程から、奥様の事を『娘の母親』と仰ってますけど、ダーク先生の奥様ではないのでしょうか?」
まあ普通は『昔の家内』とか『元妻』とか言うからな。俺はそんな言い方はしていない。
「前に暗殺者とかの話を聞きたいなら、また今度なって言ったけど、聞きたいか? それにも関係しているんだ」
「聞かせて頂けるのなら」
「わたくしも聞きたいですわ」
アベリオテスとスーリヤが返事をし、他の全員も頷く。
「ウェンディ先生も?」
「聞かせて頂けるなら嬉しいですね」
「そうですか。沙耶には少し話したし胡春は沙耶から聞いて知ってるだろう。この話は信じ難いものだ。勇者召喚とかそんな不可思議な事が霞むくらいな。それでも聞くか?」
全員神妙に頷く。
「まず前提として言っておく。この体は俺自身のものじゃない。体を乗っ取った感じだ」
「「「「「「はいっ!?」」」」」」
フローラも驚いているな。あれ? 話してなかったっけ?
「どどどどどど、どう言う事ですの?」
「落ち着け、スーリヤ」
「落ち着けませんわ? また戯れているのですか?」
「事実だ。この前提が信用出来ないなら、何も話せない」
「す~~~は~~~。分かりましたわ。お聞かせくださいまし」
スーリヤが深呼吸をし落ち着いて再度問うて来た。
「全員も本当に聞くか?」
全員コクリと頷き固唾を呑む。
「どこから話そうかな……。俺の生まれは沙耶達勇者と同じ日本。これは話したと思う。そこは此処とは違い娯楽に溢れている。例えば物語の中の事を疑似体験出来る」
「疑似体験とは?」
アンナが首を傾げる。
「例えばアンナは王女の暮らしに憧れがあるだろ?」
「はい」
「それが気軽に体験出来るんだよ」
「まぁそれは素敵ですね」
アンナが手を合わせて花が咲いたかのように笑う。
「沙耶と胡春にはこう言った方が良いな。VRMMO」
「なるほどね」
「ゲームやね」
「そう。それで俺は物語と思い込み、このダークの半生を体験したんだよ」
「ちょっと待ってくださいまし! そうなるとダーク先生の本当のお名前は違うのですか?」
スーリヤに問われる。
「そうなるな。日本での名前。こっちに来てからの名前が二つがある。こっちに来てからの名前は、アークだ。ナターシャに付けて貰った」
「アークですか?」
ルドリスが首を傾げる。
「まあ今は気にするな。勇者達にバレないように名前を、この体の本来の持ち主のものを名乗ってるだけだ。ついでに言うとダークも偽名。暗殺者になる時にそう名乗るようになった」
「なるほど」
「話を戻すと、俺はダークの半生を体験する事になったのだが、それは星々の罠だったんだ」
「罠ですか?」
今度はアベリオテスに問われる。
「実際に実在する世界、実在する人物の体験をさせられたんだぞ。俺は娯楽の為に別人の人生を楽しんでいたのにさ。アベリオテスは他人に自分の人生を見られたいか?」
「見られたくありませんね」
「だろう?」
「何の為にそんな罠を仕掛けたのよ?」
沙耶がそう問う。
「ダークは、全ての復讐を遂げると空っぽになって自分の命を投げ出したんだ。でも、そのせいでユピテル大陸が滅びる事が確定したんだ。つまり、大陸を守れって俺に押し付けたって訳だな」
「そんな事が……」
ウェンディ先生がそう呟き全員、再び何かを考えるように黙り込む。
「つまり、奥様はダークさん本人の奥様であってダーク先生は、結ばれるとこを見ていたと言う事ですの?」
「そう言う事だ」
「軽蔑しますわ!! それって営みも覗かれたって事ですの!?」
スーリヤは、桃色ツインテールの右側を払い除ける。ヤバい! キレた仕草だ。




