EP.35 普通の授業をしました
「じゃあまあ皆、武術大会お疲れ様。では、ここで一番頑張ってた人を発表しましょう」
皆、固唾を呑んで俺を見る。まあ沙耶ろ胡春は興味なさそうだけど。
「それは…………ダララララララ、ダンっ! 俺でした~~~~」
もったいぶって口でドラムドールを行い俺だと言い放つ。
「なんでだよぉぉぉ!」
「そこは生徒を言うとこではないのでしょうか?」
「ダーク先生は、お戯れが過ぎますわ」
「ふざけるのお好きですよね」
「あたしも頑張りましたよ」
「アカン教師やねん」
「やっぱりあんたサイテーよ!」
口々に散々言われっちった。
「だってさぁ、チョビヒーゲ先生をしゅ……」
「どうしたんですか?」
俺が途中で止めたから、アベリオテスが訝しげに尋ねて来る。
「いや、張り合いがなくて。『ですからチョビーゲ先生です』とか言ってくれる人がいたじゃん」
「「「「「「「あ~」」」」」」」
呆れた様子でシラ~と俺を見て来た。
「まあ良いや。俺はチョビヒーゲ先生を……」
「ですからチョビーゲ先生です!」
「ありがとう、アンナちゃん。君、最高だよ」
「言い過ぎです」
アンナが仕方無しに突っ込んでくれた。
「ともかくアレを瞬殺したからな。俺が一番だ」
「それでも生徒を言いなよぉぉぉ!」
「確かにあれは見えませんでしたね」
「わたくし達にも出来るようになるのでしょうか?」
「私もやってみたいですね」
「あたしも出来るようになりたいですね」
「あり得へん動きやったな」
「ドラゴンを倒せるくらいだしね」
「「「「「えっ!?」」」」」
沙耶が最後に爆弾発言をしてしまった。
別にそれは自慢するつもりはないので流そう。そうしよう。
「では生徒の中ではアンナだ!」
「あたしですか!?」
「素晴らしいツッコミだった。お持ち帰りしたくなるくらい」
「…………………それ大会に関係ありませんよね? それに持ち帰らないでください!」
軽く睨まれてしまう。なので、ゴッホンと咳払いで誤魔化し……、
「では、真面目に。こないだも言ったけど、俺もう教える事ないくらいの活躍だったよ。それだけの事をしてのけちゃったんだし」
アルなら教えられるだろうけど。
「ボク、フィスト・ファングには笑ってしまったな」
「触れただけで吹っ飛ばしたのは驚きました」
「魔法も上位を使えるのに使わず倒しておりましたわね」
「素晴らしかったです」
「私も早くあそこまで闘気を使いたいよ」
「豪山はんの気道拳を殴って消しとったんは驚きよったわ」
「も~~止めてくだいよ~~」
口々に称賛されアンナが照れたように、それでいて嬉しそうに笑っていた。
「次にダメだった人は、胡春」
「ウチか。そないなダメな試合やったかな?」
「いや、俺の心情的に悲しかった。試合は素晴らしかったよ」
「そらなんや?」
「だってアグリス学園長に良い笑顔で礼を言ってたのに、俺にはあんな笑顔向けてくれなかったから」
態とシュンと落ち込んだフリをする。
「アホくさっ!」
「子供ですか?」
「なんだかんだ言ってダーク先生も子供じゃないのよ!?」
胡春が吐き捨てるように言い、スーリヤと沙耶の視線が冷たくなる。他の面々もシラ~っとしてるし。
「ダーク先生」
「なんや!?」
そんな中、胡春に落ち着いた声音で呼ばれたので、過剰に反応してしまった。
「毎度色々指導してくれておおきになぁ」
アグリス学園長に向けた笑顔より更に良い笑顔だ。あの時のは歯を見せた眩しい笑顔だったが、今回は目も細めた満面の笑みだ。
俺の態とらしいボケに本心から返してくれたってのを感じる。
「胡春って実は良い女?」
「なんや? 今頃気付きおったんか?」
「うん」
「…………………………もう嫌や。この教師」
そう胡春が溢した瞬間、教室の中で笑いが広がった。
そうして一限目が終了した。何故かする事になった性教育に時間取られたからな。
さて、二限目はどうしたものか。まあ俺に普通の授業は難しいので雑談から入るか。
「スーリヤってさ、やっぱ王女だし、寮も広いの?」
「いきなり何ですか? 授業は?」
「まずは雑談から入ろうかと」
「だとしても、何故わたくしの事を聞くのです?」
「王女だよ? せっかくクラスに王女が一人いるんだから興味出るって。アンナはそう思わない?」
正確には二人いるんだけど。なんかもう一人は目が泳いでるし。
「そうですね。正直に言えば興味あります」
「と言う事でスーリヤ。少しくらい話してくれても良いじゃん」
「分かりましたわ。寮でしたね? 他の方と変わりませんわ」
「え? 侍女とか沢山いるんでしょう? 部屋入れないじゃん」
「おりませんわ。いたのは王宮暮らしの時くらいです」
どうやら真面目に雑談に付き合ってくれるみたいだ。
「やっぱあれか? 風呂とかで勝手洗ってくれたり、服も勝手に着替えさせてくれるのか?」
「パーティーの時はありますが、基本的に侍女がやってくれるのは御髪を整えるくらいでしょうか」
「羨ましいね。是非ともお風呂とかで洗ってあげたい」
「貴方、殿方でしょう!?」
スーリヤが目を剥く。
「やっぱり子供よ」
「アカン教師や」
沙耶と胡春がボソっと何か言ってる。他もシラ~っとしていた。
「それでパーティーとか、やっぱ侍女にやりたい放題洗われて、エステとかで揉まれてまくって、化粧とかもペタペタしてくれるの?」
「言い方が酷いですわ。まぁでもそうなりますわね」
溜息混り言う。
「アンナ、憧れるか?」
「はい。素敵です」
「だが、苦行だぞ?」
「そう……なのですか?」
アンナが首を傾げる。
「だろ? スーリヤ」
「そうですわね。何時間も動けません。全てをお任せする事になりますわ」
「って事だ」
「それでも憧れます」
アンナが何かときめいてるな。
「その点、アベリオテスはそんなのないのだろ?」
「そうですね。幼少の頃は侍女に色々やって貰っていましたが、今はないですね」
「今あったら違う意味で大変だもんな」
嫌らしく笑ってやる。
「……えぇまぁ」
「流石王子様。顔に出さないんだな。澄まし顔で言うとは王族教育が確りしてるな」
「そうやな。王子はん、ごっついなぁ」
「そうね。どっかの仮面教師より大人よ」
沙耶と胡春が褒める。てか、仮面教師って酷くね?
「いや、そんな褒められる事でもありませんよ」
「流石に今のは照れたか」
「ダーク先生、先程から失礼ですよ」
「はーい。じゃあ話を戻そう。スーリヤ、ちなみにそれっていつの時代からの風習なの?」
「そうですわね……○○歴534年の第24代目国王が『高貴なる者は、身の回りを他の者にさせるべし』と、言い始めたのがきっかけですわ」
「あれ? その時ってさ、奴隷解放とかの制度が出来たよな?」
「そうですわね。24代目国王がそのような制度を作りましたわ」
そらんじるように語る。流石は自国の事だし良く理解しているな。
「でも、それがきっかけで内乱が起きる」
「はい。25代目国王の時に抑圧されてた、元奴隷達が一斉に暴動が起こしました。それを26代目国王が自治を認め、その自治区が今のゼフィラク国になったと言われていますわ」
「はい。ここテストに出るから頭に入れておくように」
そう言うと全員目を丸くした。
「何? どうしたの?」
「雑談ではございませんでしたの?」
「雑談から入るって言ったんだよ?」
「そうでしたわね」
「それに一番詳しそうな人に語って貰う方が良い。より詳しく知れる事になる」
「なるほど」
ルドリスが頷く。
「それにさ、教師がダラダラ語ってるのを聞いてるより、こうやって雑談混りに話してる方が頭に入らない?」
「そらあるな」
胡春も頷く。
「これが俺のやり様。アベリオテス、分かった?」
「はい。御見それしました。そう言うやり方もあるのですね」
そうして授業を恙なく進めて行く。まあ俺の手元にも教科書があるので、それを読めば済むんだけどね。
それでも詳しそうな人に振った方が、頭への入りが良いだろうと思った。
「…………………………って訳で、王侯貴族制度って色々大変だよな。沙耶や胡春もそう思わない?」
「そうね。日本の事を考えると、ね」
「そやね」
「勇者の故郷は違うのでしょうか?」
アンナがそれに反応する。
「国よってはまだ王侯貴族制度があるな。だけど、腐敗したりとか理由は様々だが、大半の国に革命が起きて共和国となったんだよ。それを源流とし、日本は現在民主主義制度ってのが確立した」
「共和国……ですの?」
スーリヤが首を傾げ桃色ツインテールを揺らす。
「端的に言えば、主権が君主以外にある政体だな」
「具体的にはどんなものなのですか?」
アベリオテスが挙手し質問した。
「あのさ、王子様でしょう? 腐敗とか革命とか悪夢じゃないの? それで共和国を知りたいとかどうなの?」
「確かにそうですが、国家の一つと知っておきたいと思いまして」
「ふむ。同じ王族のスーリヤの意見は?」
「わたくしも興味がありますわ」
フローラに視線を向けるとコクリと頷く。フローラも気になるようだ。
「分かった。二限目が終わるし、三限目は共和国について話すか。とは言え俺も詳しくないんだよな。沙耶と胡春は分かるか?」
「多少は」
「ウチもや」
「なら、三人で語るか。三人いれば、たぶん大体の概要は教えられるっしょ」
「分かったよ」
「わーたでぇ」
そんな訳で、三限目は共和国について話した。




