EP.25 アベリオテスは辛勝しました
二時間後、決勝戦が遂に始まる。勇者達を徹底的に叩くこの時が。
俺自身は特に勇者達に含むとこはない。異世界ライフを満喫したいなら勝手にすれば良い。
だが学園に雇われた以上、教え子には勝って貰わないとな。
それにフローラ……いや、クロセリスだ。五ヶ月も一緒に暮らし学園生活も入れれば九ヶ月の付き合いになる。
情も沸く。娘のようにも感じる。そのクロセリス王女が勇者や国の事で心痛めているなら、どうにかした。
って訳で先鋒はアベリオテスだ。相手はマーク。大剣のままなので大丈夫だろう。
はっきり言って馬鹿だ。燃費悪いって教えたのに……。
「では、先鋒戦始め!」
開始のコングが鳴る。俺は観客席から眺めていた。
「紅蓮の刃」
出た、中二病技。開始早々炎の魔法剣。
「速攻終わらせるぜ」
その炎の大剣に纏わせ斬撃を飛ばす。
「<下位氷結魔法>」
アベリオテスは、冷静に下位氷結魔法を剣に纏わせる。そして反属性の魔法剣で相手の魔法剣の斬撃を斬り咲く。
「な、何!? ユーも魔法剣を?」
馬鹿が。驚いてる暇があったら次の行動をしろよ。
<下位火炎魔法>
今度はこっちの番だと言わんばかりに下位火炎魔法を自分の目の前に出す。
それを剣で振り被って打つ。第一試合で見せた野球殺法だ。
マークに下位火炎魔法が飛んで行く。
「くっ!」
大剣で防ぐが火の粉が飛び多少ダメージを受けたようだ。驚いてるからそんな事になるんだよ。
「氷結の牙」
今度はマークが氷を大剣に纏わせる。その名前はブリザー・ファングと被ってるから止めて欲しい。
マークが斬ろうと大剣を振り上げるが、もうアベリオテスは移動してていない。
「何? どこへ行った?」
大剣なんて大きなもので防ぐから視界が塞がれ、見失うんだ。
<下位火炎魔法>
アベリオテスは剣に下位火炎魔法を纏わせながら右から周り込み斬り込む。
「ユーもチート野郎か!」
必死に大剣で防ぐ。
反属性なのでダメージ事態は通らず相殺されお互いの魔法剣は消える。
だが、そんな事はアベリオテスは百も承知。なので次々に斬撃を叩き込む。
それを大剣で防ぐが視界を塞がれ気付くとアベリオテスはいなくなっていた。
「ちっ! 今度はどこに行った?」
後ろだよ。
ザンっ!
クリーンヒット。マークの背中が斬れる。
しかし勇者は身体能力も上がっている。それはタフ差もだ。
故にその程度のダメージをもろともしない。そもそも刃引きしているし。
にしても身体能力が上がるってのには、どんどん違和感を感じる。沙耶と胡春を指導していたから尚更だ。
俺が思うに成長率が高いってだけではなかろうか?
「雷光の撃」
次は雷を大剣に纏わせたか。
だが無詠唱が可能なのに、いちいち言うからアベリオテスには丸分かりだ。
よってバックステップで下がりつつ……、
「<下位稲妻魔法>」
同じ属性である下位稲妻魔法を剣に纏わせる。
「食らえ!」
雷の魔法剣の斬撃を飛ばす。
「はっ!」
アベリオテスは同属性の魔法剣を振り下ろし相殺させた。
その際に白煙が上がり、視界が遮られる。
「紅蓮の刃」
炎を大剣に纏わせて飛ばす。
しかし、もう既に白煙の向こうにアベリオテスはいない。
「またいない。ちょこまかと……」
そうではない。
視界を遮られるのを利用してるだけだ。
何故それに気付ない? アベリオテスは左から大きく周り込み斬り込む。
また大剣で防がれる。防ぐだけなら大きいので可能であろう。が、視界が遮られるのが問題なんだよ。
それに気付いていないのか、もうそこにいないのに横一文字に斬るが空が斬れてしまうだけだ。
その時に出来た隙に後ろに周り同じとこを斬った。
「同じとこを狙い卑怯だぞ」
どこまで馬鹿なんだ? 実戦で卑怯も何もないだろ。
「この……紅蓮の刃」
そう言った瞬間アベリオテスはバックステップで下がる。
言っちゃうから悟られる。
「<下位氷結魔法>」
反属性の下位氷結魔法を剣に纏わせせ構える。
しかし今度はマークは斬撃を飛ばさない。斬り掛かって来る。
アベリオテスはそれを防ぐ。その時、マークは無言で魔法剣の属性を変えた。
やっと気付いたみたいだ。炎だったのが雷になった。
その雷の大剣で斬り掛かれたので氷では防げず、逆に氷に雷が通りアベリオテスにダメージが入る。
「くっ!」
バックステップを繰り返し距離を取る。
アベリオテスは回復系を覚えられなかった。こうなって来ると厳しいだろうな。
特に剣を持っていた雷が通った腕が真っ先に痺れているだろう。
「紅蓮の刃、紅蓮の刃、紅蓮の刃、紅蓮の刃、紅蓮の刃……」
好機と見たのか炎を纏わせた魔法剣の斬撃を連続で飛ばす。
甘い。甘過ぎる。実戦経験が足らな過ぎる。
アベリオテスは腕が痺れているので剣を持ってるがやっとだろう。
だが足は動く。それにより逃げ回る。
「ユーには逃げ回るのがお似合いだ。紅蓮の刃、紅蓮の刃、紅蓮の刃……」
こいつ前に俺が言った事をまるで理解していない。
アベリオテスは、ひたすら走る。
「はぁはぁ……ちょこまかと……」
マークは息切れを始めた。
その辺りでアベリオテスの腕の痺れが解けて……いや、もしかしてもっと前に解けていたのかもしれない。
マークが息切れをし出すのを待ってたかのように……、
「<下位氷結魔法>」
下位氷結魔法を剣に纏わせマークに突っ込む。
「このっ!」
炎の魔法剣で受けて相殺。水蒸気が立ち込める。
視界が塞がれたとこでアベリオテスが後ろに回る。
<下位火炎魔法>
その際に下位火炎魔法を剣に纏わせる。
「同じ事が何度も通じるか」
そう言って振り返る。
いや、そもそもフレイムって唱えた時点で相手に場所を教える気だったのだろう。
それに気付かない時点でマークはダメだ。
「氷結の牙……何? 氷結の牙……何故出ない?」
好機だと思って焦って紅蓮の刃を連続で使うからだよ。
それに大剣だから余計に魔力を使っている。
「はぁぁぁ……っ!」
今まで以上に魔力を振り絞っているのだろうか。アベリオテスの剣に纏った炎が一層激しく燃える。
その揺らめく炎の光に照らされ、アベリオテスの金色の髪が輝く。
そして、マークが振り返って来ていたとこで、アベリオテスが炎を纏わせた魔法剣で真正面から斬る。
相殺は出来ない。大剣が砕け散り且つクリーンヒット。
「ぐっ! くそー」
マークが崩れ落ちる。そりゃそうだろ。
紅蓮の刃を飛ばしまくったって事は闘気を使いまくったって事だ。
立つのも厳しくなる。前に俺が教えた事を丸で理解していない。
こうして先鋒はアベリオテスが勝利した……。




