EP.14 フローラの正体をバラしました
「あ、ウェンディ先生。ちょっと良いですか?」
「どうしましたか? ダーク先生」
ある日、休み時間にウェンディ先生に声を掛けた。
「Sクラスの笹山さんにコレ渡してくれますか?」
「手紙ですか?」
「はい」
「まさか他所のクラスの生徒を呼び出してサイズを測るのですか?」
「ウェンディ先生もいつまで、そのネタを引っ張るのですか?」
「冗談です」
ふふ……と、微笑む。
「まあ変な誤解されても困ると思って封筒に入れてないですよ。読んでも構いませんよ」
「そうですか?」
そう二つ折りにしただけの手紙だ。
その内容は……、
『例のを話を聞きたいのなら、次の休みに〇〇の喫茶店にて話そう。
勿論、胡春を連れて来ても構わない。
何か問題があるようなら、ウェンディ先生を通すように
ダーク』
と、書かれている。
「何故私を通すのです?」
「実は俺、勇者と顔見知りなんですよ。だから、学園で教師をやらせるなら仮面を被ると学園長に言ったんですよね」
「そう言う理由だったのですね」
「だから、まだ勇者達とあまり接触したくないんですよ」
「それならササヤマさんは?」
「バレました。彼女は色々優秀なので」
「分かりました。では、渡しておきますね」
「ありがとうございます」
さてと、次はもう一人。こっちは放課後に声を掛けるか。
「フローラ、ちょっと付き合え」
そう言って裏庭に連れ出す。中庭でも良かったのだが、裏庭のが人気がないからな。
「何ぃ?」
「次の休み、デートしようか?」
「え?」
「だからデート」
「急にどうしたの?」
見る見る顔を赤くして行く。ほんと分かり易いな。そこが困ったとこでもあるけど。
「嬉しそうだね?」
「そ、そんな事ないよぉ!?」
「嬉しくないの? じゃあ止めるか。じゃ」
そそくさと帰ろうした。
「ま、待ってぇぇ! 嬉しい嬉しいよぉぉぉ!!」
「最初からそう言え」
「で、で、で、ど、何処行くのぉぉ?」
めちゃくちゃ目を輝かせるな。
「ホテル」
「は?」
一気にテンション落ちたな。ウケる。真っ赤な顔が速攻素面に戻った。
「ホテル」
「何でぇ!?」
「男女でデートって言ったらホテル以外にある?」
「段階飛ばし過ぎだよぉぉぉ!!!」
「じゃあ止める? 最近可愛がってなかったから、たまにはフローラを可愛がりたかったんだけど残念」
大袈裟に肩を落とす。
「行く! あ、いや……アークがどうしてもって言うなら、ほらえっとしょうがないから行って上げる」
再び顔を真っ赤にさせてまくし立てる。いや、さっきよりも赤いな。湯気が出るんじゃないか?
「行く訳ねーだろ! バーカ!! 期待し過ぎ」
「馬鹿はどっちだぁぁぁぁぁ~~~~!!!!」
久々に見たな。フローラの涙目になりながらの絶叫。
「たまには良いだろ? 面白いし」
「面白いのはアークだけだぁぁぁ!!! もう良い!!」
今度はフローラが踵を返す。ちょっとイジメ過ぎたか。仕方無いので後ろから抱きしめ頭を撫でる。
「ごめんごめん。久々に可愛いフローラを見たかったんだよ」
「そ、そんな事やっても許さないからぁぁ!!」
その割には固まって俺の腕から逃れようとしないじゃんかよ。
「そうかそうか。よしよしよしよしよし……」
顎の下を撫で回す。
「……猫じゃないよぉぉ」
消え入りそうな声だ。
「じゃあ止める?」
「……止めないで良い」
ボソっと呟く。
「チョロい」
「もぉぉぉぉ!! またそうやって揶揄う」
俺の腕を振り払い、振り返って涙目で俺を睨み付けた。
「ともかく機嫌が直ったね」
「これのどこが直ったのぉぉぉぉ!!!???」
「え? どっか行こうとしてたのに戻って来たじゃん」
「そんなにボクを揶揄って楽しい?」
「うん」
「もう良い」
再び踵を返す。
「で、次の休みなんだけど」
「だから、もう良いって」
振り返りもせず言われる。
「良いから付き合えって」
「………………………………」
「おーい」
顔を赤くしながら、振り返りモジモジさせる。どこまでチョロいんだ?
「本当に……で、デートするの?」
「相変わらず可愛いな。おいで、頭撫でてあげる」
「撫でなくて良いよぉぉぉ!」
「あっそ。デートは冗談なんだけどね」
「やっぱ揶揄ってる」
「いや、真面目に付き合え」
「どこ行くの?」
「会わせたい人がいる。それに付き合え」
「誰ぇ?」
「内緒」
そうして次の休みの日にフローラと出掛けた。
ちなみに学園は週に一度しか休息日がない。夏休みとか春休みとかないのだ。あとは年末年始くらいだろう休みは。
いずれにしろ教師の取ってもめんどくさいよな。日本の学校なら夏休みとかあっただろうに。とは言え俺が赴任したのは十二月なので、夏休みがあってもとっくに過ぎてるけど。
「それで誰に会わせるの?」
「フローラを奴隷として買ってくれる人」
「………………………………」
「ウソウソ。そんなに睨むなよ。奴隷になるなら俺のものになりたいって言ってたもんな」
「勝手にアークが言ってただけでしょぉぉぉ!!」
「まあそれより相手が来るまで、旗揚げゲームならぬ顔色変えゲームしようか」
「意味分からないよぉぉぉ!!」
「はい、顔赤くして」
「………」
「ほら早く」
急かすと顔をほんのり赤くし出す。ほんと良く出来るよな。
「顔青くして」
「出来るかぁぁぁ!!!」
「あ、やっぱり」
「ボクで遊ぶなぁぁぁ!!」
「だって可愛いんだから、しょうがないじゃん」
そう言って頭を撫でる。
「あ、今のは素で赤くなったね」
「煩い!」
俺の手を払い除ける。
「あ、来たみたいだ。俺に気付いた。一旦裏路地に入るぞ」
「え? 何?」
無理矢理手を引き裏路地に入って行き、途中で止まる。
やがて沙耶と胡春が走ってやって来た。
「何でいきなり逃げるのよ!?」
「それにその娘は誰や?」
フローラは、どう言う事って感じの視線を送って来た。
「フローラ、二人に自己紹介」
「え? えっと、Cクラスのフローラ……」
「そっちじゃない」
「えっ!?」
やっと意図が通じたのか目を潰る。
次に目を開けると雰囲気がガラリと変わった。
「サラ様にコハル様、お久しぶりでございますわ。デビルス国、第二王女クロセリス=リリム=デビルスでございます」
そう言ってスカートの端を掴み優雅にお辞儀。こんなとこを他の人に見られたらまずいので、裏路地に入ったのだけど。
てか、いつ見ても切り替え凄いな。普段は子供っぽいのにいきなり大人びて見えるよ。
「ダーク先生、何か失礼な事を考えておりませんか?」
「いえいえ、ボクっ娘」
相変わらずエスパーですか。
「今は、フローラではございませんよ?」
「なら、私っ娘でございますね」
「それは普通なのではないでしょうか?」
「そうですね、姫殿下。大変失礼を」
そう言って仰々しく腰を折る。
「ふふふ……ダーク先生は、お戯れが過ぎますよ? 程々にしませんと」
目が怖い、目が怖い。てか、沙耶と胡春が固まってるし。
ややあって胡春が再起動し出し……、
「どないなってんのやっ!?」
と叫んだ。
「どうなってるのよ? アーク」
沙耶も問い掛けて来た。
「今の俺はダーク。こっちはフローラ。誰に聞かれるか分からないから、名前間違えないように。フローラ、もうお姫様モード終了して良いよ」
「うん、分かったよぉ」
「じゃあ続きは喫茶店で話そうか。いつまでも裏路地いるのもなんだし」
「分かったよ」
沙耶が頷く。
「ちょい待ちぃ。ダーク先生、コレ外してくれへんか?」
そう言って胡春が、左手に嵌っている腕輪を示す。どうやら沙耶に聞いたらしい。
「此処で外すと変な捜索とか掛かるかもな。町中だし」
学園なら勇者が沢山いるので、誰のが外されたか分からない。
しかし、この町中にもし沙耶と胡春しかいなかったら危険だ。
「胡春、郊外まで飛べる? そこで外して戻って来て欲しい」
「わーたでぇ」
って訳で、郊外に胡春の転移で出て腕輪を破壊し、レプリカと交換した。
その後、喫茶店に入る。
「端的に言えば、これ俺の家政婦」
「「はぁ!?」」
「端的に言い過ぎっ! それにはしょり過ぎだよぉぉぉ!」
と言う事で、今までの経緯を説明した。
「お姫はんを家政婦するとは、ええご身分やなぁ」
「は~……ダーク先生が姫さんと同棲していたとは」
「え? 問題にするとこそこ?」
「ダーク先生が最初に家政婦とか言うからでしょぉぉぉ!?」
「それに破天荒な姫はんやな」
「破天荒と言うかわがまま」
「なんでよぉぉぉ!?」
「普通牢屋に入ってる人間に連れ出せって言うか?」
「そうだけどぉ!」
「仲良いね」
「息ピッタリやな」
顔が引き攣ってるぞ。
「おい二人が引いてるぞ」
「ダーク先生のせいでしょうがぁぁぁっ!」
「でも、姫さんの素って凄まじいね」
「そやな」
「ボクが変な目で見られるー」
「ボクって言ってる時点でアウトだろ」
「そうだけどぉぉぉっ!」
「って言うか話進まないからフローラ、静かにして」
「誰のせいだぁぁぁ!?」
「そうそう。隷属の腕輪の事だけど、文句ならフローラに言って」
「ボクが作ったのじゃないよぉぉぉ!」
フローラが絶叫上げたから、喫茶店内で目立ってしまったじゃないか。
「誰のせいだよぉぉ!」
何か聞こえたような気がした。




