EP.09 個人鍛錬をしました
次の日。
「ウェンディ先生、今日は個別指導したいので一人連れて行って良いですか? それで残りはウェンディ先生に見て貰いたいのですが」
「えぇ、分かりました」
「と言う訳で、スーリヤ」
まさか自分が呼ばれると思っていなかったのかスーリヤが目を丸くする。
「あの……自己紹介した順番から言ってアベリオテス王子ではないのでしょうか?」
「アベリオテスは、剣をそのまま伸ばすように言ってある。個別指導の必要あるか?」
「はぁ……ですが、個別と言いながら、わたくしの胸のサイズを測るのが目的ではないのですか?」
まだ言ってるよ。
「じゃあルドリス」
「はい」
「お目付け役で来てくれ」
「え? あ、はい。構いません」
「これで良いか?」
「……分かりました」
渋々スーリヤが納得しました。
「すみませんウェンディ先生。二人連れて行きます」
「分かりました。では、残った皆さんは通常授業です。フローラさんは入学したばかりで皆さんより遅れておりますのでこちらのプリントを……」
と、ウェンディ先生がサクサク進めている。
って訳で俺は、ルドリスとスーリヤを連れてCクラス用訓練場に行く。
「まず、聞くがスーリヤは男嫌いか?」
「いえ、ダーク先生のような女性の胸部を見る破廉恥な殿方が好ましくないだけです」
あっそ。
フローラのせいで、ずいぶんこのネタを引っ張られるな。
「ではなく、剣での揉み合いの時に直ぐ離れただろ?」
「あ、はい。その……力負けが怖くて反射的に……」
言い辛そうに語る。
「う~ん。そんな感じじゃなかったな。なんか嫌悪感みたいのを感じてるような……」
「そこまで分かってしまうのですね」
だが、はっきり言おうとしない。
「言いたくないか?」
「……はい。あまり人に聞かせる事ではないので」
「分かった。なら聞かない。まあともかく今日は、これを使え」
そう言って槍を渡す。
「槍?」
「突き込みは目が見張るものがあったと言っただろ? 槍の基本は突きだ。そして剣より射程があるから揉み合う事もない」
「……そうですわね」
「まずは、それを使って俺と戦ってみろ」
「分かりました。試してみます」
そうして始まった、剣ではなく槍による俺との模擬戦。
まあ模擬戦とは言うが前回も今回も模擬剣ではないので、普通に斬れる。
やはりスーリヤは突きが鋭い。槍になって脅威が増したように思えた。そして終了の合図をする。
「そこまで」
「はぁはぁ……」
剣より重いせいか息切れを起こしてるな。
「どうだった?」
「正直疲れましたわ」
「剣よりも重いもんな」
「はい」
「だが、突きが剣の時より格段に脅威だったぞ」
「全て避けられてましたけどね」
昨日と同じように自嘲気味だ。
「いや、脅威だったし避けたくなるよ」
「えっと……それは、ありがとうございます?」
何故首を傾げる?
「で、問題の嫌悪感は?」
「……剣の時よりはマシかと」
この話題は言い辛いのだろう。消え入りそうな声音だ。
「じゃあこれから自己鍛錬は槍による突き込み千本だ」
「せ、千っ!?」
数に尻込みしたか。
「槍の基本は突きだ。それにその重さにも慣れて貰いたい」
「はい」
「仮に槍が自分に合わなくても、それで鍛えれば剣がより鋭く振れるだろう」
「そうですわね」
「それに、他の武器を使った経験があると言う事は人に教えたり、相手がその武器を使ってる時に対応し易い」
「そこまで考えていらっしゃったのですね。分かりました。頑張りますわ」
最後は目を見開きはっきり言った。
「じゃあ残りの授業時間は突き込み」
「はい」
「って訳で。時間も余ったし、ついでにルドリスの個別指導を行うか」
「本当ですか? それは嬉しいです。ただのお目付け役だったので暇だったのですよね」
そう、ずっとルドリスは突っ立って俺を見ていただけだ。
「でも、やはり私も武器を変えるのですか?」
「いいや。ルドリスは左手で短剣を振れるようになって貰う」
「えっ!?」
それ驚くよな。利き手を封じるのだから。
「じゃあ左手だけで、俺と模擬戦。勿論俺も左手のみだ。それと投げるの禁止」
「分かりました」
俺も左手のみとは言ったが右手と同じように振れるんだけど。
そうして暫く続けたが、ルドリスがダウンした。
「はぁはぁ……」
「やっぱり利き手を封じるときついか?」
「そう……ですね。はぁはぁ……」
「今日から左手での振り込みと左手での投擲を個人鍛錬で行うように。最悪右手の鍛錬は暫くなくても良い」
「えっ!? 投げるのもですか?」
「ルドリスの強みは目が良い事だ。投擲も確り目で捉えて投げていたな?」
「はい」
「投げた後も俺の動きを注視しながら拾いに行っていた」
「確り見てくださったのですね」
凄い感心の目で見られた。
教師と言うのは、この感覚は良いものだな。
すっかりルドリスからは尊敬の眼差しで見られるようになったぜ。
「その目があれば左手でも的に当てられるようになる」
「はい」
「で、今学年の最終目標は基本は右手で応戦。左手も使いつつ投擲は全て左手。こうすると利点は何か分かるか?」
「常に武器を持っている」
「そうだ。投擲の難点は武器が手元からなくなる事だ。だから片手を投擲用にすれば良い」
「なるほど」
「それと何故ルドリスは武器を一つしか持っていなかった? 投げる度に拾うのは効率悪いだろ?」
「実戦ならいくつか仕込んでいたかもしれませんが、模擬戦でしたので一本にしました」
そう言う事か。
「そうか。で、話を戻すが卒業までの理想は両手で応戦も投擲も行う。つまり投げた瞬間には次の武器を手にしてる事だ」
「そんな事が……」
「出来ないと思うか?」
「はい」
「じゃあ俺がちょっと実演してみよう」
そう言っていくつもの短剣やナイフを仕込み。
演舞のように小太刀二刀流を振りまくりながら時折短剣やナイフを投擲を行い用意した的を全て貫いた。
「基本的に小太刀を振るい、それを一瞬で鞘に納め、投擲後に即座に抜く。ダーク先生の手並み素晴らしいです」
いや~良いね。羨望の眼差し最高。
「うむ。俺の基本武器は小太刀だから、これだけは絶対に投げない」
「そこまで出来れば素晴らしいですね」
「ルドリスの戦闘スタイルは俺に似ているんだよ。だから言っただろ? 鍛え甲斐があると」
「確かに言われました」
「じゃあ繰り返すが今学年の最終目標は右手では常に応戦。左手は応戦しつつ投擲を行う」
「はい」
「じゃあその為には?」
「暫く右手を封じて左手のみで鍛錬を行います」
「宜しい」
「でだ、何でそこ手が止まっている? 疲れたのか?」
途中から突き込みをしていたスーリヤの手が止まっていた。
「え!? あ、申し訳ございません。余りにも素晴らしいお手並みだったので、見惚れていましたわ。わたくしとした事が」
「突き込みをしながらでも見れたと思うがな」
「うっ! 仰る通りです」
顔を赤くし項垂れる。
そう言う訳で、個別指導は終わった。俺の予想が正しければこの二人は、もっと強くなれるだろう……。
「ダーク先生は、慧眼の持ち主だったのですね。ただの破廉恥な殿方かと思いましたわ」
クラスに戻る途中スーリヤに失礼な事を言われた。
「惚れるなよ」
「有り得ませんわっ!」
「まあ、慧眼だからこそサイズを測れるじゃねぇのか?」
ニヒっと悪い笑みをしてしまう。
「そう言うとこが破廉恥なんですよ」
「いや~照れるな~~」
「褒めておりませんわっ!!」
とまぁテンプレもこなしておこう。
更に次の日。
「また個別指導で連れて行って良いですか? ウェンディ先生」
「分かりました」
「じゃあ……」
アンナと呼ぶ前に既に立っていた。
「あたしですね?」
「そう。今日はアンナちゃんのサイズ測定だ」
パっと両腕で胸を隠す。
「おい! フローラのせいで生徒に変な誤解されているだろ?」
「今のはダークの責任でしょぉぉぉ!」
「ダークせ・ん・せ・いだろ? ボクっ娘」
「ボクっ娘は関係ないでしょぉぉぉ! ダーク先生」
「あの……早く行きませんか?」
ふざけていたのでアンナに急かされてしまう。
「そんなに早く測って貰いたいのか? スーリヤもこれくらい積極的じゃないとな」
「……違うと思いますわ。それにわたくしを引き合いに出さないでくださいまし」
ドン引きされながら言われた。
って訳でまたまたやって参りました。Cクラス専用修練場……ではなかった。
「あの……ダーク先生。どこへ行かれるのですか?」
「外」
「外? どうして学園を出るのですか?」
「アンナの事で気になる事があってな」
「胸ですか」
パっと両腕で胸を隠す。
「そう胸。……じゃなくて胸なら学園の中でもじっくり見れるだろ?」
「じゃあ他のところを?」
「それも学園の中でも見れるだろ?」
「……そうですね」
「と言うかさ、いつまでそのネタ引っ張るの?」
「ダーク先生が信用に値するまでです」
「あっそ。そもそもサイズ測るだけって何が楽しいんだろうね」
呆れながら思った事を呟いてしまった。
「知りませんよ」
「だってどう考えても触った方が楽しいだろ」
そう言った瞬間、パっと俺から5m離れるアンナ。
やがて学園の外に出る。そして、とある場所に来た。
事前に確認していた。コレがある場所を。
「着いた」
「ここで何をするのですか?」
「コレ壊して」
「こんな大岩壊せませんよ!」
アンナが驚く。
そりゃ自分の身長よりもでかい岩じゃ尻込みするだろう。
「試しにやって。あ、ちなみに素手でね」
「素手っ!? ダーク先生、ふざけてるのですか?」
ですよね~。普通はそう思うよな。




