EP.06 どんどんチョロインになって行きました
現在港町ロアッソに向かって出航した船の甲板にいた。
アグリス学園長は、船内に入っていて、ここにはいない。
「あ~あ。フローラとのイチャイチャ生活が終わちゃったな」
「イチャイチャなんてしてないよぉ」
「うん? こないだ押し倒した時、めっちゃ期待で瞳に熱を帯びていたぞ」
「ぅぅぅ……アークって何でそんな恥ずかしい事ばかり思い出すのぉ?」
そんなの決まってるじゃん。
「その涙目と真っ赤な顔が可愛いからに決まってるじゃん」
「その言い方じゃ可愛いって言われて喜ぶ訳ないでしょぉぉぉ!!」
「って言いながら、嬉しくて耳まで赤くしてるフローラでした」
「煩い!」
「ああ、そうだ。寂しいからって、女子寮抜け出して俺の暮らす事になる寮に来るなよ」
「行かないよぉぉ!」
「寂しいくせに」
「寂しくないよぉぉ!」
「あ、そうなんだ。俺はフローラがいなくてめっちゃ寂しいな~。でもフローラはそう思ってくれてないのか~」
「……うっ! 本当は寂しいよ」
「チョロい」
ぷっと笑ってしまう。
「また揶揄ったぁぁぁ!」
「って言うかさ、今から王女戻れって言われて戻れるの? 所作とか思い出せる?」
「え? それはたぶん可能だよ?」
「そう? じゃあさ『ふろぉらじゅっちゃいでちゅ』って言ってみ?」
「意味分からないよぉぉ」
「誰もが信じそうだと思ってな」
「……子供っぽいって言いたい訳?」
「うん。ボクっ娘になってから子供っぽくなったな~って」
パッシーンっ!
頭を叩かれた。暴力に訴えたぞこいつ。
「いたっ!」
「子供っぽくて悪かったね!」
「いや、良いと思うぞ。お陰で今日まで貞操守れただろ?」
「……胸ばかり見てたくせに?」
めっちゃ底冷えする視線だ。
「それはそれ。これはこれ」
「誤魔化すなぁぁぁ!」
「ははは……フローラは面白いな」
「ボクは面白くない!」
「え? つまんない女。必要以上に話し掛けないでって言われた方が嬉しい?」
「……ダークって実はボクに惚れてるでしょう?」
なんか嫌味ったらしく笑い出したぞ。
「何で?」
「男の人って好きな女の子をイジメたがるものでしょう?」
「うんまあ。ガキはそうだね」
「ダークも十分子供だと思うな。で、どうなの? ボクに惚れてるんでしょう?」
ニマニマしやがって。
「おー好きだぞ」
「え?」
まさか本当にそう言われると思ってなかったのか鳩が豆鉄砲を食ったよう顔し出した。
「……って『そう言えば嬉しいだろ?』とか言う気でしょう?」
「言わないよ?」
「じゃあ……本当に?」
まあそれも面白いとは思ったけど。
おーおー、顔が赤くになって来てるぞ。
「なんか娘みたいな感じで好きだぞ」
「どっちも酷いよぉぉぉ!」
「え? 相当優しいと思うけどな」
「どこがだよぉぉ!?」
「例えばこないだの押し倒した時に最後まで行って、終わった後にナターシャのが良かったなってしみじみ言われたらどうよ?」
「うっ!」
「いや、むしろ致してる最中にナターシャの名を言われまくられたらどうよ?」
「……最悪」
「だろ?」
「そんな発想がきるダークが最悪なんだよぉぁぉっ!!!」
「え?」
めっちゃ睨まれた。しかもマジギレしそうな勢いだ。
って訳で話題を変えよう。うん、そうするべきだ。俺の中で危険と警報がなってる。
「馬鹿話はここまでにして」
「誤魔化すなぁぁぁ!」
「馬鹿の相手は此処までにして」
「馬鹿はダークだぁぁぁ!」
「それより真面目な話がある。何の為にアグリス学園長から離れて甲板に出たと思ってる?」
「そうだね。分かったよ」
よし! 誤魔化せた。
「今、よし! 誤魔化せたとか思ったよねぇ?」
「ソンナコトナイヨー」
「は~。で、真面目な話って何?」
「俺がロア学園で求められている内容は聞いたよな?」
「うん。勇者と同等かそれ以上になるように生徒を教育して欲しい、と」
そう。よって俺が取るべき事は……、
「だから、俺は自重しない」
「うん」
「つまり、フローラも自重しないでくれ」
「え? 魔法を使えと?」
「そうだ」
「でも、クロセリスとバレちゃうよ?」
「魔法の契約は?」
「あ、ダークも出来る」
そう、俺はやり方を知っている。いや、俺だけじゃない。
「フローラもやり方を知ってるだろ?」
「うん、まあ」
「だったら俺の担当するクラスは精霊契約の儀式をやってしまう」
「でも、それは……」
「王家の秘密だから出来ないか?」
「うん」
「厳しい事を言うが、フローラの……いや、デビルス王女の覚悟ってそんなものか?」
「………」
フローラが押し黙る。
「所詮娼婦になる覚悟しかなかったのか? だったら今からでも……」
「………………………………………」
無言で睨まれた。真面目な話ばかりじゃ肩凝ると思って。ちょっと茶化したのがまずかったか。
俺はオッホンと咳払いをして誤魔化す。
「王家の秘密にされたのには、それなりの理由があるのだろう。だが、それでも広めて且つデビルスを引っ張って行く気概がないでどうする?」
「そうですわね。ダーク様の仰る通りですわ」
え? いきなり目付きが変わったぞ。キリっとしてるし、所作も美しくなった。何? 切り替え凄くない?
「ボクっ娘帰ってこーい!」
「ダーク様、お戯れは止してください」
「あ、はい」
凄いな。一瞬でボクっ娘に戻ると思ったのに戻らなかったぞ。
「それで契約の儀式を広めるだけでございますか? そもそも契約が出来ても強力な魔法を使える者は極一部でございますよ?」
「それで良いんだよ。クラス全員が下位クラスを一属性でも使えれば御の字」
「え? どう言う事でしょうか?」
「全員魔法が下位とは言え使えると言う事は、極一部は上位まで使えてもおかしくないだろ?」
「……それがわたくしと言う事ですね?」
「そう言う事だ。これならバレるリスクが減るだろ?」
「うふふふ……流石はダーク様ですね」
口元を右手で隠し優雅に笑う。と言うか、そろそろ疲れる。
「マジでもうボクっ娘帰って来て。お姫様モードと話してると疲れる」
「も~。ダークが子供っぽいって言うからでしょぉぉぉ」
「あ~癒される~。こっちこっち。俺のフローラはこっちだ」
「ダークのじゃないよぉぉぉ!」
「え? 俺のにならないの?」
「……なる」
ボソっと呟く。
「する訳ないだろ? バーカ」
「馬鹿はダークだぁぁぁ!」
「あと問題なのは……」
「流すな~」
揶揄い甲斐があるな。
「あ、お姫様モードで思い出した。ちょっと顔赤くしてみて?」
「いや、意味分からないんだけどぉ」
「出来るでしょう? 態と照れたように見せかけたりとか」
「うん……と言うか気付いていたんだね。クロセリスでいる期間はそんな多くなかったのに」
「逃げる馬車でね。じゃあちょっと赤くしてみて」
「うん……これで良い?」
すげー! ほのかに顔が赤くなったよ。
「戻して」
「………」
あ、戻った。
「赤くして」
「………」
あ、赤くなった。
「戻して」
「………」
「白くして」
「……遊んでない? そもそも白って何?」
「いや、良く即座に切り替えられるなって感心してるんだよ」
「まあそれなりの教育受けてたからね」
フフンと鼻息を荒くし豊満な胸を張りだす。
「揉んで欲しいの?」
「違うよぉぉぉ!」
「揉んで欲しくないの?」
「違うよぉぉぉ!」
「どっちだよ?」
「……察してよ、バカぁぁ!」
ボソっと言われてしまった。
「って言うか、その教育受けてたのにボクっ娘?」
「それはもう良いよぉぉぉ!」
「で、そのボクっ娘の兄二人と姉一人なんだけど」
「ボクっ娘言うなぁぁぁ! で、兄上や姉上が何?」
う~~~ん。
「どうしたの? 渋い顔して」
「いや、ボクっ娘口調で兄上とか姉上とか違和感半端ないなって」
「余計なお世話だよぉぉぉ!」
「その兄上達にバレない?」
「暫く会ってないし、学年も違うから早々会わないし、たぶん大丈夫だよ」
「そう。なら平気か」
「それに今のボクは平民に扮してるしね」
それに髪は黄色で耳が隠れるくらいのショートになったしな。
「そう言えばお前何で学園通ってなかったんだ? 本来なら俺等が召喚される前に学園に行ってただろ?」
「戦争してたからね。あの学園にはゼフィラクの者やカルラの者がいるから、危ないって判断されたんだ」
「その実、勇者の奴隷にする為だったのか」
「うっ! 嫌な事を思い出させるね」
「まあ奴隷なら、俺のにしてやるよ」
キリっ! ちょっと決め顔言ってみた。言ってる事は最低最悪だけど。
「ならないよ」
「俺ならOKって思ってくせに」
「思う訳ないでしょぉぉぉ!!! バカーーー!!!」
叫んでズカズカ歩き船内に入って行きやがった。
あれはどうしたものか。態と突き放そうと最低発言してるのに気持ちが揺れてるのが丸分かりだ。
は~と白い息を吐き出す。
「にしても寒っ!」
十二月だもんな。こんな時期に甲板にいたら体が凍えるわな。




