EP.21 どエロ扱いされました
次の日、再び迷宮探索を開始した。そうして次の階層への道を見つける。
次の階層は洞窟と言う感じではなく、人工的に作られた感じだ。
ブロックを積み上げられ作られた感じである。
マークも通常の剣に変えたお陰で取り回しが良くサクサク魔法剣で魔物を倒して行く。
とは言っても、魔物も最初の階層より強力になっており、一撃二撃で終わるような感じではない。
だが、そこはすかさず沙耶がフォローに入る。沙耶の身のこなしは目を見張るものがあった。
召喚された勇者は身体能力も上がるからか、別の理由なのか、基本が確りしてると他と一線を画すようだ。羨ましいぜ。
ちなみに俺と胡春は何もしてないのは内緒だ。
ただオークとかオーガとか人型が出て来た時は、少し躊躇いが出ていたがまあ仕方無い。数体倒した後から普通に倒せるようになったし問題もないな。
「あれ次の階層への道ちゃう?」
次への階層への道を見つけたのか。
流石は胡春。空間把握の能力を得ただけはある。
毎回胡春が次のへの階層の道を見つけてくれた。
あれ? 何もやってないの俺だけ? うん、気のせいだ。
俺にはいざって時にみんなフォローって大事な役目がある。
そう自分に言い聞かそう。でないと悲しくなる。
じゃあそう言う役目があると再確認したとこで胡春が差す方へでは行ってみるか。
そこにはハシゴがあった。
「アークは最後ね」
「そやね」
「なんでやねん」
つい関西弁で返してしまった。
「だってアークは、えっちだし」
「アークはんは、どエロやし」
息ピッタリだなおい。
「ウソウソ。でもアークは、そう言うの気を使えるでしょう? だから黙ってても最後に降りて来るよね?」
「そやね」
二人がニヤリと笑う。
態とだよね? 態とそう言うふうに言って無理矢理気を利かせるように仕向けてるよね?
確かに二人ともスカートだけどさ。
まあ良い。中学生のパンツなんて覗くつもりはないし、大人しく最後に降りよう。
と言う訳で胡春、沙耶、マーク、俺の順番でハシゴを降りた。
次の階層は変わらずブロック作りだな。
ただ気になるのは今まで別れ道が多く迷わせるような感じだったのに、ここは真っ直ぐだ。
何かありそうだなと思いながら歩いていたのだが……、
「ちょ待ってほしいんやけど。なんか来る」
やはりと言うかなんと言うか胡春の空間把握に何か引っかかったようだ。
少し間、立ち止まるとゴロゴロと言う音が響く。
これはまた古典的なのが来たのでは?
「岩が転がって来てる!」
マークが騒ぐ。
やっぱり岩だよ。真っ直ぐの通路と言えば岩が転がるとかテンプレも良いとこ。
さて闘気技で破壊するか?
「逃げるぞ」
真っ先にマークが駆けだそうとする。
「まちぃ」
胡春が止めるが聞かず走り出す
「しゃあない。沙耶はん、アークはん、確り捕まっておって」
言うや否や俺達の手を掴む。
その瞬間景色が変わる。岩の反対側のようだ。どうやらこれが胡春の転移か。羨ましい能力持ってやがるぜ。
「マークはんを連れ直す。二人は待っててほしいんやけど」
そう言うと今度は胡春だけが消えた。
どうやらマークを追い掛けたようだ。まったくあいついらねぇな。
「ところで沙耶?」
せっかく沙耶と二人になれたので確認しておきたい事があった。
「何よ?」
「やはりまだ能力は分からないのか?」
「そうね。ただ、アークに助けて貰った辺りから声が聞こえるのよ」
「声?」
「そうよ。たまになんだけど。でも、周りを見ても誰が話し掛けて来てるのか分からないのよ」
「例えばどんな事を言って来るんだ?」
「魔物に対して右から攻撃とか。宝箱があっちにあるとか。アドバイス的な事ね」
ふむ。
そう言えば宝箱の部屋に行く直前、沙耶が道を選んでいる節があったな。
それに魔物に対しての立ち回りは基本が確りしてるだけでなく声のお陰でもあるのか。
声を聞く能力? なんじゃそりゃ?
まてよ? 俺が助けた後から?
これはもしかして……。
と、思考してる間に胡春がマークを連れて戻って来た。
「待たせたなぁ」
「悪い」
「悪いじゃねぇ。胡春が『まちぃ』って言っただろ?」
「だから悪いって言ってるだろ?」
「いいや、今回だけじゃない。リーダーは胡春なんだぞ。従えないなら帰れ」
「アークはんもうええって」
「いや、ここではっきりさせておかないと今後も問題になる。気付いてるだろ? 魔物が徐々に強くなってる事に」
「そやけど……」
「ああもう、雑魚がさっきから煩い。ユーだって何もしていないだろ?」
逆ギレですか?
しかも子供にありがちな話題転換で別のとこでキレだすアレですか。
「なら、俺が前に出ようか? 前衛は俺。それで良いか?」
「ああ。雑魚にそれが出来るならな」
「本当に良いんだな?」
「何だ? ユーはビビってるのか?」
「お前、気付いていないのか?」
「何が?」
「は~」
そりゃ溜息も出るわ。
こいつマジで気付いていない。
「お前さ、無意識なのか魔物の強さに応じて出力調整が出来るようになってるし、剣の扱いも上手くなっている。良い実戦経験をしてる訳だ。つまり俺が前衛になるとお前の経験を奪う事になるんだぞ」
「アーク、凄いね。そこまで見ていたんだ」
「アークはん、ごっつやるなぁ」
「はん! 適当な事を言ってビビってるだけだろ? 雑魚なんだから。良いよ。今まで通りミーが前衛をやってやるよ」
素直に経験を積ませろと言えよ。
「はいはい。じゃあそう言う事で。今度はリーダーの指示に従えよ」
「分かってるよ。ユーはしつこい!」
こうしてマークと言う不安を抱えたまま迷宮を更に進む事になった……。
暫く歩き休憩を取る事にした。
「食料は心許なくなってきよった」
休憩をしながら食料の確認をしていた胡春がそう言い出した。
「アークはんが狩った動物のお陰で結構保った方やけど」
「なら、引き返すのね?」
「それがええな」
「ちょっと待て。胡春ってデビルス城まで転移出来るのではないか?」
沙耶と話していたが、気になり訊ねて見た。
「ああ、そない言えば出来るやろな」
「なら食料ギリギリまで探索しようぜ」
「やったら、休憩もデビルス国で行って、また此処に戻ってきて、探索の続きした方がええやろ?」
「それは良い。ユーに賛成だ」
「それは止めた方が良い」
「何でだよ!?」
またマークが突っ掛かって来た。
今度は掴み掛かりかねない距離に迫って来て。
「なんでやねん?」
「屋外から屋内に転移すると失敗した時に壁にめり込む事になる」
「なるほどね」
「胡春の空間把握の距離がデビルス国からここまであるなら話は別だけど」
「そらない。せいぜい200mや」
200mでも十分凄いけどな。
「……ディーネ王妃に聞ければもっと詳しく転移魔法について分かるんだけどな」
「ディーネ王妃って前に言ってたアークの会った事がある王妃様?」
ボソっと呟いたのを沙耶に拾われ聞き返された。
「え? そう。時空魔導士なんだ」
「時空魔導士?」
「時間と空間を操る魔法を得意とする魔導士」
「そら、ウチもあやかりたいわ」
胡春も話に加わって来た。
まあ確かに胡春がディーネ王妃の元で研鑽を積めばかなりの成長が出来るだろうな。
「それで食料ギリギリまで迷宮探索って方針で良いのか?」
「ほんでええわ」
とは言ったものの、あと三日が限度だろう。
現在、迷宮に入ってから四日経っている。
動物を狩ったので一日凌げたが、一週間分の食料しか持って来なかったなのだ。
食料が減り荷物が軽くなったと思いきや迷宮で手に入れた武具で重い。一部装備してる者もいるが。
たぶんミスリルで出来た剣を持ってるのがマーク。鉄の剣よりマシだな。
魔法剣の魔力を帯びさせるのに鉄の剣では効率が悪いがミスリルは良いんだよな。
他にミスリルの弓は胡春に。残念ながら薙刀はないので沙耶はそのまま。
俺は武器替えるのも面倒だし、やる気もないし夜盗から奪った短剣のままだ。
ちなみに鉄製なので魔法剣の効率が悪い。
とまあ食料の話や、ディーネ王妃の話をしながら休憩を終わらせる。
次の階層への道の前で休憩していたので、そのまま次の階層へ向かう。
次の階層は一言で言えば広い。ただっ広い岩道。歩きにくい。
それに天井まで200mくらいあるのではないか? 胡春の空間把握出来る最大の距離だ。
まずいな。ここでは正面や後方からではなく空からもバード系の魔物が来る。
全方位に意識を向けないといけない。現に俺の気配察知に引っかかる魔物が何体か……。
此処では残念ながらマークと沙耶は役に立たないな。
逆に胡春は空間把握でどれくらいの魔物がいて、それぞれの個体の位置まで把握してるだろう。
事実、胡春は先程装備したミスリルの弓を構え、弦を引き絞る。
そして放つ。が…………外す。
「ぬぅぅ」
悔しそうだ。
まあ此処まで胡春には実戦経験がなかったのだから仕方ない。
じゃあ胡春が感覚を掴むまで俺がやるか。そう言う訳でナイフを投擲する。
ブスっ! と、命中。一体を灰に変えた。
「アークはんだけぇずっこいやがな」
イジけたように言う胡春。
「経験の差。此処で胡春も経験を積めば良いよ。ちなみに俺には弓は扱えないよ」
弓を扱えるのはナターシャだ。
くっ! また思い出してしまった。
会いたいな。
「どうしたのアーク?」
おっと沙耶に気付かれたようだ。
俺は首を左右に振り余計な考えを頭の奥に押し込める。
「いや……なんでもない」
そう言って投擲。命中。
「それにしてもアーク、凄いね」
「投擲に武器を無駄にしてるから、あまりしたくないんだけど。あ、手頃な武器があったら頂戴」
「分かったよ」
そう言って沙耶は荷物をあさり始める。
「くぅぅぅ」
胡春はまだ命中させられないようだ。
「はん! 武器の無駄消費しやがって」
またマークが悪態を付いて来るよ。
「じゃあマークがやって」
「ああ。アークに目に物見せてやるよ……氷結の牙」
氷属性の魔法剣を展開し、それ飛ばす。
……………………………………………………………………スカっ!
「ぷっ!」
思わず吹き出してしまった。
うわ! めっちゃ睨んでる。
「雑魚に目に物見せてやるだっけ?」
「このー!」
「アーク、確かにちょっと笑ちゃったけど煽らないの」
「はーい」
沙耶に諫められてしまう。
胡春は弓に集中していてこっちには気が回ってないようだ。
「<下位火炎魔法>」
投擲では武器を無駄諸費するので魔法も混ぜる。
「おい! 酸欠がどうのってユーが言ってたのだろ?」
またかよマーク。
「こんなだたっ広い空間で、どこに酸欠する要素がある? 余計な事をくっちゃべってないで自分に出来る事を考えろ」
「くっ!」
マークが苦虫を嚙み潰したよう顔をし出す。
それにしても何でこいつは、こんなに俺に突っかかって来るんだ?
「<下位氷結魔法>、<下位稲妻魔法>」
無駄に下位火炎魔法、下位氷結魔法、下位稲妻魔法の三属性を使ってしまう。
まあ全部命中させ灰に変えてるんだけどね。
こうやって戦闘で毎回多属性を使いたがるんだよな、エーコは。
くっ! また俺は余計な事を考えてしまった。
「アーク? やっぱり様子がおかしいよ」
沙耶が気に掛けてくれる。
「いや、何でもない」
そうして暫く俺が一人で倒してると徐々に胡春が矢を命中させるようになって来た。
やがて全矢命中もしだし俺の役目は終わった。




