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EP.17 北の迷宮に行く事になりました

「沙耶? クソ! 沙耶をやりやがって」

「あん?」


 微弱だが気配はある。

 まだ助けられる可能性があるが、こいつをまずどうにかしないと。

 そう考え灰色髪の奴に斬り掛かった。


 ギーンっ!


 こいつ不得意な剣とは言え、俺の全力を防ぎやがった。

 やるな。

 さっさと始末して沙耶の容態を見ないといけないと言うのに、こいつはそこそこ強い。

 今回ばかりは小刀じゃない事が呪われる。


「撤退だーっ!」

「お前の顔、覚えたからな」


 だが、ゼフィラク兵側で撤退の合図が掛かり引いてくれた。有難い。

 最後に何か言っていたが、どうでも良い。


「おい、沙耶」


 俺は直ぐ様、沙耶に駆け寄った。


「その方は、もう助かりません」


 デビルス兵が何か言ってるが無視だ。


「<下位回復魔法(リカバリー)>」

「勇者様、今何をしました?」


 下位回復魔法(リカバリー)をかける。それにより意識が一瞬だけ戻った。

 またデビルス兵が何か言ってるが無視だ。


「アーク、やられちゃ……ごふっ!」


 沙耶が吐血を起こす。


「喋るな!」


 とは言ったが、意識を取り戻したのは一瞬で直ぐに気を失う。

 やっぱり下位じゃ無理だ。かと言って俺には中位は使えない。じゃあどうする?

 どうする……って決まってるだろうが! 中位を習得すれば良いんだろが!

 今まで中位を習得しようとした事は何度もある。だが、毎回失敗した。

 それでもやれるだけやってやる。

 そう思い、俺は剣で地面に五芒星の魔法陣を描き出した。


「ですから、何をしてるのですか?」

「煩い! ちょっと黙ってろ!!」


 魔法陣を描き終えると中心に立った。

 魔法習得に必要なのは精霊との契約。契約に必要なのは、言霊と魔法陣。

 魔法陣は、精霊と契約する為の媒体。

 言霊は精霊と交信するんだ、と自分の意識を精霊に向ける為に言語化されたもの。

 故に俺は言霊を唱える。


「<我、契約を結ばん……癒しと変化を(もたら)す汝の力を示せ……>」


 って、長々こんな事を言ってられるかー!


「ええ~い! まどろっこしい! 俺に応えやがれ!」


 実際のとこ言霊は必要ない。

 精霊に意識を向ける為に効率良く言語化されたものに過ぎないのだから。

 極論を言えば、精霊と交信する意識が強ければ無言だって精霊に気に入られれば契約出来る。

 尤も、それだけ強く意識するのは難しいのだが……。


≪やれやれ。しょんなかな。そんニンゲンに死なれたら、ウチも困る(おおじょうする)。ちゅう訳で今回だけたい≫


 バッフ~~~ンっ!! と、魔法陣から上昇気流が上がる。これは契約出来たと言う事だ。


「何だ? 一体何が起きたのです勇者様?」


 またデビルス兵が何か言ってるな。

 それより今までずっと契約できなかったのに、やっと出来た。

 今、頭に何か声みたいなのが響いて来たが……気のせいかな?

 いやそれより、せっかく中位を習得できたのだ。あとは沙耶に使うだけ。

 ただ問題は、魔法習得だけで魔力を持って行かれる。

 それに加え、下位より多く魔力を使う中位を使わないといけない。

 元々、俺は魔力が少ない。まともに発動するかどうか……。

 いや考えてる場合じゃない。


「<中位回復魔法(ギガ・リカバリー)>」


 中位回復魔法(ギガ・リカバリー)を沙耶に唱えた。

 最初は順調に俺の魔力が回復魔法に変換され放出されていたが……、


「くっ!」


 やはり魔力が保たない。

 契約直後な上に元々少ない俺の魔力じゃ、やはり足りない。

 クソ! ナターシャかエーコいてくれたら、助けられたのに……。

 ごめんな、沙耶。


≪どこまで世話焼かすんやニンゲン? そんニンゲンに死なれたらウチもおおじょうするちゅうたやろ≫

「えっ!?」


 また頭の中に声が響いたと思ったら俺の中の魔力が全回復した。

 何が起きた? 声は気のせいじゃなかったのか? いや、今はそれどころじゃない。


「<中位回復魔法(ギガ・リカバリー)>」


 再び中位回復魔法(ギガ・リカバリー)を唱えた。


「ごふ! げほげほ」


 沙耶が咳き込みながら意識を取り戻す。


「良かった」

「……私は確か斬られた筈」


 斬られた胸の辺りを触り目を白黒させる。


「今、回復魔法をかけた」

「……そうなんだ」


 そう言った沙耶は、徐々に顔が青ざめていく。


「私……私、人を……」


 殺したんだな?

 横で倒れている女は、薙刀で突かれた傷をしてる事から察せられる。


「人を……」

「言うな! 今は考えるな」


 俺もこんな事しか言えない。

 こう言う時、なんて言えば良いのか……。


「私、わたし……ぅううう……」


 沙耶が泣き始める。

 参った。こう言う時、どうすれば良いんだ?

 引き篭もりになってゲーム三昧だったがギャルゲーはやらなかった。

 ギャルゲーをやっていれば慰め方とかが分かったかもな。


「アーク、アーク……ぅうあああ……」


 俺の服にしがみつく。

 どうすれば沙耶の涙を止められる?

 分かんねぇ。分かんないけど、どうにかしたい。そう思い、抱きしめた。


「アーク、アーク……」


 俺の胸の泣く、まだ年端も行かない少女。

 その涙が止まるように、ただひたすら頭をそっと撫でる事しか出来なかった……。

 泣き続けた沙耶が、やがて俺から離れる。


「ごめんなさいね。情けないとけ見せてちゃったよね」

「……情けなくなんかねぇ」

「え?」

「人殺しを忌避して何が悪い? 俺も戦争の経験はあるが、戦いながら吐き続けたぞ」


 勿論、記憶がない時だ。


「ありがとうね」

「気の利いた事言えないけど、慣れた方が良いぞ。仮に帰れたとしても今日明日じゃないだろうからな」


 下手すればずっと帰れないかもしれない。

 まあそれはこの場で言う事じゃないな。


「そうね」

「それといい加減隠せ」


 視線を少し下に向ける。


「アークのえっち!」


 両腕で胸を隠し背中を向ける。

 左肩から腹にかけてバッサリ斬られたのだ。ぶっちゃけ丸見えだ。


「本当にえっちだったら、何もいわずじっくり見るっつーの」


 そう言って上着を脱ぎ沙耶に放り投げる。

 と言うか、それ一枚しか着てなかったから、今の俺は上半身裸だ。


「あ、ありがとうね……っぅぅ!」


 礼を言って服を着ようとするが痛みからなのか、着替える手が止まる。


「無理するな。俺程度の回復魔法じゃ完全回復しない。たぶん一週間は完治しないだろうな」

「そう……」

「あの、そろそろ先程の事を説明してくれませんか?」


 所在なさげにいたデビルス兵がそう言って来た。

 あ、いたの?


「教えてやるから、まず女兵士を連れて来い。この状況で気付かないのか?」

「あ……失礼しました」


 そう言ってデビルス兵が走って行く。


「えっちと言うのはな、アレの事を言うのだぞ」

「へ?」


 沙耶が訝しげに首だけ此方に振り返って来た。


「あいつ、ずっと視線が胸に行ってたぞ」

「ぅ~~」


 沙耶の顔がカーっと赤くなった。


「しかも、俺が抱きしめたせいで見えなくなって、若干イラ付いていたしな」

「も~……言ってよ」


 拗ねたように返された。


「それどころじゃなかっただろ」

「そうだけど……」

「中学生のものに見どころあるとは思えないんだけどな。それに小さい……」


 視線がきつくなった。

 やば! 俺もつい余計な事を……。

 ナターシャがいたら矯正、ペッシーンコースだっただろうな。


「アークって時々酷い事を言うよね」

「ん? 小さい方が好みだし、めっちゃ見たいって言われたいの?」


 うわ! また余計な事を。

 沙耶の目が凄く蔑みのものになってるぞ。


「……そうじゃないけど、余計な事を言い過ぎなのよ」

「ゥオッホン! まあともかく少しは落ち着いたな」

「……うん、少しは」


 咳払いをして誤魔化し話題を変える。

 まだ気分は沈んでる感じだな。まあ当然だろう。


「傷を理由にもう戦いに参加し続けないって方法もあるな」

「アークって意外に悪知恵が働くのね」

「意外? 悪知恵? 沙耶は意外に悪態付く奴なのだな」


 意趣返しだ。


「うっ! ごめんなさい」


 こうして話してるうちに女兵士がやって来て沙耶に服を着せていた。

 それから沙耶は傷が理由なのか、デビルス側の判断なのか不明だが、戦いに参加しなくなった。

 まあこれで良い。普通の日本人の感性では戦争とかに関与するべきじゃない。

 じゃあ俺はって? だって俺は暗殺者だし。


 それから半月、俺は戦い続けた。

 っと言ってもゼフィラク兵の攻撃を往なし続けただけだけどな。

 で、毎度お馴染みでおいしいとこをデビルス兵が持って行くかのようにゼフィラク兵を倒して行く。タチが悪すぎるぞ。

 そして、沙耶を斬った灰色髪の男と戦場で再会した。

 沙耶は無事だったので、俺に含むとこはなく、他のゼフィラク兵と同じように適当に相手してやった。

 それが気に食わないのか激高しだす。

 その事が原因なのか注意力散漫になり、デビルス兵に囲まれ一斉に斬り掛かれていた。


 本来のこいつなら気付くだろうに……。

 デビルス兵もこいつが、それなりの実力者と言う事を知ってるのか、肌で感じたのか、いつものように俺が往なした隙に横やりを入れるのではなく、仲間を集めていた。

 そして、ある程度集まったとこで一斉に斬り掛かったと言う訳だ。


「うわ! やり方がえぐいなぁ」


 と、零れてしまう。マジでえぐいって。一体何人がかりだよ。八人で囲んでいたぞ。

 もう一度言おう。うわ! やり方がえぐいなぁ。それに尽きる。

 それにしろも興味深い事を言っていたな。まず名前。俺と同じアークだ。

 まあ俺はナターシャが付けてくれた、星々の(スターライト)世界での名だけどな。

 それに同じ色の髪。少し親近感が沸くな。

 何より下位火炎魔法(ファイ)を使っていた事だ。あれはユグドラシル大陸の魔法。

 気になり聞いてみたら師匠とやらが、ユグドラシル大陸出身だとか。

 つまりここは、星々の(スターライト)世界と言う事だ。これは収穫だな。

 どうにかして海を渡ればユピテル大陸に帰れる。


 ちなみに、もう一人のアークを数人がかりで斬ったデビルス兵達はゼフィラク兵が数人やって来ると逃げやがった。

 しかも俺に足止めさせて逃げやがったし。どこまでクズなんだ?

 ゼフィラク兵の何人かが俺の相手をしてる間にもう一人アークを抱え戦線離脱する。

 連れ帰ったなら、運が良ければ生き残るだろうな。

 そのアークとの戦いの直ぐ後、デビルス国への帰還を命じられる。

 馬車で半月もかかる距離を戻るのはダルいが、今の所属はデビルス国だ。大人しく従っておこう。


「アークよ、半月もご苦労であった」


 帰還するな王と謁見する事になり、そう言われる。移動も入れる一月半だけどな。


「で、聞けばアーク殿はゼフィラク兵を一人も殺さなかったそうだな。やはり人殺しを忌避しておるのか」

「はい」


 デビルスを完全に信用ていないからだよと、思っていても口に出来ないな。


「ならば北の迷宮に行ってくれないか」

「迷宮、ですか?」


 首を傾げてしまう。


「うむ。我が祖先が残した強力な秘宝があるのだ」

「それを何故俺に?」

「其方だけではなく、マーク殿、サヤ殿、コハル殿で行って貰いたらい。この迷宮は魔物がいるのだ。人は殺せなくても魔物は殺せるだろ?」

「まあ」


 コハルって誰だ? それに魔物?

 この大陸では魔物が出現するのか。やはりルーツは動物か?


「魔物を倒し実戦経験を積んで貰いたいのだ。ついでに可能なら秘宝を取って来ると言う感じだな」


 なるほど。使えない俺達に秘宝を取りに行かせると言う訳か。で、手に入れたらラッキーってとこだな。


「分かりました」


 こうして俺はマーク、沙耶、コハル? と北の迷宮に向かう事になった……。


挿絵(By みてみん)

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