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EP.16 沙耶がやられました

 ある日、多久島 拓哉(たくじま たくや)に模擬戦を申し込まれた。

 こいつも弱い(と思い込んでる)相手に勝って、自分の強さを誇示したいのかね。

 断る理由もないし受けてやる事にした。まあ適当にやって負けてやるか。


「何で当たらないんだよ? お前どんなズルをした?」


 だが、結果はこれだ。ズルって……適当に相手しただけだぞ。

 拓哉の能力は投擲らしい。狙えば百発百中。なので木短剣を投げ始めた。


「何故当たらない? 僕の投擲は百発百中だぞ」


 それ『動かない的には』だろ?

 俺は全て木剣の腹で投げられた木短剣を防いでいた。そして何十本と持っていた木短剣を全て投げ切ってしまう。そして、ズルだと騒ぎ出したのだ。


「まあまあ、相手は受ける事しかできなかったんだよ」


 他の女子中学生が諫めている。

 でもな、受ける事しかやらなかった(・・・・・・)の間違いだけどな。


「それに訓練用の木短剣ではなく、本物の短剣なら貫いていたって」


 他の女子中学生もそう言う。

 こいつら現実が見えていないのか?

 本物の短剣を使うなら、俺も本物の剣を使うから結果は変わらんぞ。そもそも防ぐ必要もない。

 飛んで来た短剣を掴み、投げ返せば終わっていた。それが出来る程のぬるい投擲だったし。実戦を舐め過ぎだ。


「それもそうだな」


 拓哉が落ち着きを取り戻す。と言うかそもそも問題は……、


「何で、自分で振るう武器まで投げた?」


 そこが一番問題だ。

 俺も投擲を行う。だが自分で使うメインウエポンは絶対に投げない。投擲用の武器をいくつも持つようにしている。

 それに長期戦になり、投擲用の武器を使い切ると思ったなら投げた武器を拾って再利用も考える。

 この中坊共は、マジで能力を活かしきれていない。


「当たり前だろ! 手に持たないと投げられないのだから」

「だったら投擲用とメインウエポンを瞬時に切り替える力を身に付ければ良いだろ?」

「煩い! オッサンにだって出来ないくせに生意気な事を言うな」


 出来ますが?


「そうよ。オッサンのくせに出来ない事言ってるんじゃないよ」

「クスクス……口だけってこの事よね」


 他の女子中学生まで、そんな事を言い出す。

 ダメだ。こいつら俺がアドバイスしても聞く耳を持たない。

 どいつこいつも能力を活かしきれていなかったり、能力と武器が合っていなかったりしてるのに。


「まあ良い。今回は引き分けにしてやる」


 何で? 武器を最後まで持ってるの俺だぞ?


「そっちは武器ないのに?」

「オッサン、僕の投擲をたまたま全部防いだからって調子乗るな。オッサン程度、素手で十分だ。それはオッサンが一番分かってるだろ?」


 分かってませんが?

 そんなに自分の負けを認めたくないのかね。

 そして、拓哉は、言いたい事だけ言って去って行く。

 負けを認めたくない奴程、言いたい放題言って去って行くんだよなぁ。俺も昔、経験した事だから分かるよ。

 そんな訳で、こんな茶番は終わりを迎える。適当に相手して負ける予定が、適当な相手すらできない奴だったとはな……。

 その晩、沙耶が俺の部屋を訪ねて来た。


「話をしたいんだけど、良いかな?」

「分かった」


 そう言って来た沙耶は何か焦りのようのものがある。

 俺は了承し、外に出て中庭に向かいベンチに腰掛けた。


「それで話って?」

「多久島君にアドバイスしていたよね? アークって他の人の欠点とか良く分かってるのよね?」

「ある程度はね」

「じゃあ私は?」

「いや、沙耶って自分の能力分かってないでしょう?」

「そうね」

「それは教えようがないでしょう」


 沙耶の能力は一体何だろうな。

 隠してるようには見えないし。


「でも、薙刀は? アークなら何かアドバイスがあったりしないの?」

「無理」

「え?」

「まず俺は薙刀を使えない。次に使えたとしても基本が出来てる沙耶に下手に教えると逆に扱いがおかしくなる」

「流石アーク、良く分かってるのね。ちなみにアークの得意な武器って何よ?」

「小刀と小太刀かな」

「なのに剣?」


 確かに俺が選んだのは普通の剣だ。


「やる気がないから」

「ははは……アークは面白いね」


 笑える要素あったか?


「と言うか何で今更そんな事を聞く?」

「うん。明日からゼフィラク国に攻めるよね? 生き残りたいの。帰りたいしね」

「大丈夫だろ? 勇者は身体能力も向上している。羨ましい限りだ。沙耶の基本が確りした薙刀術があれば、早々遅れは取られない」

「あれ? アークは身体能力も向上していないの?」

「元々のこの体は、身体能力がずば抜けているからな。頭打ちなんじゃないか?」


 俺は肩を竦めてしまう。

 沙耶に焦燥のようなものがあったのは、出陣の件だったのかな?

 にしても身体能力の向上って少し疑問があるんだけどな。確かに中坊共は訓練を重ねる毎に身体能力が上がっている。が、最初から上がっていた訳ではない。

 どうも身体能力が上がる能力には思えないんだよね。


「そうなのね」


 沙耶の様子が先程から浮かないな。やっぱり焦りから来るものだろうか。


「どうした? 自分の腕に自信がないってだけじゃないだろ?」

「うん……戦となれば死体を見ないといけないよね。それに自分も……」


 ああ。それが焦燥の正体か。

 俺も記憶がない時は人殺しした時は吐きまくったな。


「なら、殺さず制圧しないとな」

「知ってる? 殺さず制圧するには、相手の五倍の技量がいるのよ」


 それでアドバイスを求めた訳か。


「それは知ってるが……悪い。気の利いた事を俺も言えない」


 気持ちは分かっても俺には気の利いた事は言えない。

 俺の場合はリアルなVRMMOで散々人を殺して、死体にも慣れてしまっていた。

 だから、異世界転移した時もゲーム感覚でいたので、特に忌避しなかったんだよな。


「そうよね。ごめんなさいね。こんな話して。あ~あ、いっそう逃げたいな」

「残念だけど、それは無理だと思う」

「どうして?」

「これ」


 王がくれた腕輪を見せる。


「沙耶も気付いてるだろ?」

「それ外せないよね?」

「ああ。恐らく位置探知されてる。ま、見知らぬ人がくれたものをほいほい付けるべきではなかったな」

「それはアークもでしょう?」

「まあ俺はいざとなればぶっ壊せるし」


 闘気を籠めて握り潰せば済む事だ。


「えっ!? じゃあ私のを外してよ」


 沙耶が目を丸くしてそう言う。


「止めた方が良い。外したのがバレたら追手が掛かる」

「……そうなるよね」

「まあ沙耶なら、よっぽどの相手がいないければ殺さずに済むし、殺られないと思うよ」

「ほんと? それなら嬉しいよ」


 実際沙耶は最初から綺麗な型をしていた。それに訓練を重ねる毎に更に動きが洗練されて来た気がする。

 身体能力が向上する能力とは思えないが、似た何かを感じる。


「それに沙耶が傍にいて、ヤバいようなら守るよ」

「それ、口説いてるよね?」


 沙耶が悪戯な笑みを浮かべる。


「残念ながら守備範囲外だ」


 そう言って視線を少し落とす。


「アークのえっち」


 沙耶は胸を両腕で隠し、ベーと舌を出して来た。


「どうやら少しは肩の力が抜けたようだな」

「うん。ありがとうね」


 こうして俺達はゼフィラク国と戦をする為にカルラ城に行く事になった。

 にしても馬車で半月とか遠いぞ。ユピテル大陸に住んでた俺としてはげんなりしてしまう。

 ユピテル大陸なら、例えば魔導士の村からルティナの家と言う端から端まで徒歩と船で一週間くらいだったにさ……。

 到着後、ゼフィラク国との戦争に参戦した。

 正直ここが魔王復活を目論んでるとは信じ難い。感でしかないが、ここの兵達も普通の人間だからだ。

 かと言って、デビルス国を裏切る理由もない。勝手に召喚してふざけるなとは思っているが、敵対する程のものではないしな。

 結果、俺は完全にやる気がなかった……。


「このー!」


 カーンっ!


 ゼフィラク兵が斬り掛かって来るが全て、手に持つ剣で弾いた。

 だが、やり返さない。

 ゼフィラク兵を斬り伏せる理由も、デビルス国に加担する理由もないんだからな。

 だがな……、


「今だー!」


 プッシューンっ!


 これは見てて気分の良いものではない。

 俺がゼフィラク兵の攻撃を防ぐと、その隙を付いて斬るデビルス兵。

 完全に俺は囮じゃねぇか。腹立つなー。

 さっきからずっと俺に攻撃して来るゼフィラク兵を躱し、防ぎ、往なして相手をしないでいると横からデビルス兵が、そのゼフィロス兵を斬る。この繰り返しだ。

 戦果を挙げる気はないが、手柄を全部奪われている気分だ。それにゼフィラク兵も、これじゃあ浮かばれないだろうに。

 そうして何時間か戦いが続き同じ事が繰り返される。


 ちなみに俺はゼフィラク兵の攻撃をただ防いでいた訳ではない。いや、そっちに注力していたのは三割ってとこか。

 では、残りの七割は何に注力していたかと言えば沙耶だ。守るって言ったしな。

 戦闘中ずっと沙耶の気配だけは見失わず感じ取っていた。正直動きが悪い。

 鍛錬の時の足捌きとか流石は薙刀術を嗜んでるだけあるなと思っていたが、実戦となればやはり違うのだろう。

 そもそも殺すのを嫌がってた。それに俺と同じように横からデビルス兵がゼフィラク兵を倒していたら気分も悪いだろう。

 それでも動いけてるうち良い。そう思って、戦闘中ずっと気配を感じ続けていた。

 まあ三割の注力で相手出来る程度の奴らで助かったとも言うべきかもしれないが。

 だが、気付くと沙耶の足が完全に止まった。ん? 何かあったのか?

 俺は気になり沙耶の方へ向かった。


 プッシューンっ!


 そして、沙耶が俺と同じ灰色髪の男に斬られるとこが目に入った。

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