EP.15 召喚された理由が分かりました
王との謁見を行った。
その際に王女を景品としてやるとか、ほざいた時には耳を疑ったな。
娘を娶らせてやると言うのなら分かる。
魔王を倒した勇者となれば、このデビルス国にも拍が付く。しかし奴隷とは何だ? まったくふざけた話だ。いや、それとも何か裏があるのか?
いずれにしろ所詮は中学男子共だ。姫をくれると言われ、盛り上がりまくりやがって。
まあ俺もナターシャがいなければ、少しは期待したかもしれないが裏があるとか考えろよ。なので冷めた目で全体を俯瞰してしまった。
「ねぇ、アーク。貴方もあのお姫様は良いと思った?」
王間から出た後、沙耶に水を向けられる。
「まあ可愛くて気品があるんじゃないか?」
首を傾げてしまう。
「何か含みのある言い方だね」
「うーん……あの娘より少し年上のとある王妃と女王に会った事あるんだけどさ」
ユグドラシル大陸のロッカ女王とディーネ王妃の事だ。同じ王族で、同じ髪色していたので二人を思い出した。
「そっちのが可愛かったのね?」
「それも少なからずあるけど、なんて言うか凄みが違うって言うか、醸し出すオーラが違うって感じかな」
まああの二人はそれだけの修羅場をくぐり抜けたのだろうけど。
「なるほどね」
「なーにオッサンが語ってくれてんの?」
「どうせ内心鼻の下伸ばしてるんでしょう? オッサンがキモいっつーの」
沙耶との話を聞いていた女子中学生が、いきなり会話に入って来た。一人は、特に特徴はない。
可愛いって程でもなく、逆にブスと言う訳もなく、ただただ普通。所謂モブだな。
もう一人はケバい。一言で言えばマジでケバい。髪は茶色かかっている。染めてるな。
それはともかく中学生の言う事だ。気にしないでおこう。
「ああ、そうだね。そう言う事にしておいて」
「おいオッサン。へっぽこな動きしかできなかったくせに調子乗るって感じぃ。アーシも舐めない方が良いぞ」
アーシって何? コギャル? まあ化粧もケバいしな。
「まあまあ……同じ召喚された仲だし、喧嘩はよしなよ」
沙耶が諫めている。
うーん。喧嘩になってないけどな。俺は相手する気ないし。
「沙耶は何でこんなオッサンの相手してるのさぁ」
「まさにそんな感じぃ」
「ただの世間話だって」
「そんな事言ってると襲われるよ。男なんてそんなもんさぁ」
「マジ引くわぁ」
「……そうなの?」
沙耶が俺に直接聞いて来る。
と言うか体目的な奴が、正直にはいそうですなんて言うか? まあ俺は正直だけど。
「あ、俺は巨乳が好みだから。具体的にはFカップ」
ナターシャの大きさだな。しかも俺が揉みまくったせいかワンカップ上がった。
沙耶がドン引きした目でこちらを見ながら両腕で胸を隠す。
今更遅いぞ。Aカップくらいだろうと予想はついている。
今は十四、五歳だろうけど、この年でそのサイズだと将来性はないだろうな。
十二歳だと言うのにエーコの一つ上だ。
「うわぁ、サイテー」
「マジ引くわぁ。アーシに近付かないでよ」
誰もこちらからは近づかんわ。
確かにこのコギャルはDくらいありそうなので将来性はありそうだが、ケバいのは好みじゃない。
「それで、アークの知ってる王妃と女王も大きいのかな?」
沙耶が蔑みの目で見ながら更に問うて来た。
「いや、じっくり見てないから知らん。それと俺には娘みいたな子がいるから、そっちのがその王族の100倍は可愛いと思っている」
勿論エーコの事だ。
ナターシャにエーコは今頃何してるかな?
ああ、会話しながら思い出しちゃったから会いたくなっちゃった。気分が沈む。
「娘みたいな子? あははははは……」
「オッサンのくせに、そんなのいる訳ないじゃんって感じぃ。どうせお金を渡してパパやってるんっしょ」
援交ですか。久々にその言葉を思い出したな。星々の世界にそんな概念あるのかね。まあどうでも良いけど。
「娘みたいな子、ね。やっぱり会いたいよね?」
沙耶だけが普通に話してくれる。未だに両腕で無い胸を隠してるけど……。
「だね。だから魔王なんて知ったこっちゃないから帰りたいわ」
「あははははは……オッサン、弱いからビビってるんの?」
「って言うか、マジでへっぽこって感じだったしねぇ」
にしても煩いなこの二人。
「沙耶、そんなのほっといて行こうよ」
「え? でも……」
沙耶が此方をチラチラ見る。
「行きな。こんなオッサンと話してると沙耶も何言われるか分からんぞ」
「うん……ごめんね」
「オッサンが生意気に沙耶を名前で呼ぶな」
「アーシも思ったしぃ」
ほんと煩いな二人。
「あーあー、それはすいませんね。笹山さん、行きな」
「態度がムカつく~」
「アーシもマジでムカつくって感じぃ」
どないしろって言うんだ。
その後、三人と別れて町に出た。
王がくれた腕輪のお陰で食うに困らないようだな。腹も満たしたし、とりあえず貸し与えられた城の一室でのんびりする事にした。
夜を迎えた頃、部屋にノックが響く。
「はーい」
扉を開けると、そこには少し薄い青のネグリジェを着て、上にピンクのカーディガンを羽織った沙耶がいた。
そんな薄いネグリジェ着てるなら男の部屋に気軽に来るものじゃないぞ。少し下着が透けてるし。
と言うか、どこでそれ手に入れた。っと思ったが、腕輪か。
服も買うべきだったか。失敗したな。
「こんばんわ、アーク」
「こんばんわ、沙耶」
「ちょっと入れて貰って良いかな? 話がしたいのよ」
「ダメ」
「えっ!?」
沙耶がまさかダメと言われると思っていなかったのか鳩が豆鉄砲を食ったよう顔した。
「自分の恰好を見ろ」
「はい?」
「そんな薄い恰好で男の部屋来るな。俺も出る。外で話そう」
「あ、うん」
俺の言葉に理解が追いついていないのか、反射的に返事をした感じだ。
「ははははは……」
しかし、理解が追いついたのか、俺が外に出た瞬間大笑いされた。
「アークって、そう言うの気を使うのね」
「そう言うのって?」
「いや、女性の扱いを分かってると言うか、ね」
「残念ながら違う」
話しながら歩き出す。二人で話せそうな場所へ。
「どう言う事?」
「俺も男だぞ。そんな薄い恰好されて絶対に理性飛ばさないって自信はない」
「正直ね。でも、それが気を使ってくれてるって事じゃない?」
「だから、そこが間違ってる」
「どう言う事なのよ?」
「俺が気を使っているのは沙耶じゃないって事だよ」
「私じゃない?」
「裏切りたくない女がいる」
「へ~、アークって彼女いるんだぁ」
うわ。なんか嫌味ったらしい笑みを向けられた。
「意外か?」
「うん。ごめん、いないと思ってた。あ! もしかして……」
「何だ?」
「娘みたいな子って彼女の連れ子ね?」
どうだ、正解だろって顔してるな。残念ながら違う。
「ハズレ」
「なーんだ」
ちょっとガッカリした顔してるな。
まあ言って困る事じゃないから教えてやるか。
「娘みたいな子とは言ったが血の繋がりで言えば娘そのものだけどな」
「じゃあ何でそんな言い方をしてるのよ?」
「俺は、とある理由から、この体を乗っ取る事になってしまった。つまり肉体と精神が別物なんだよ」
「そんな事が……」
「信じられないか?」
「……そうね」
「でも、勇者召喚って不可思議な事に巻き込まれただろ?」
「そうね」
「それと同じだよ。俺は勇者召喚に巻き込まれる前に、不可思議な事象が起き、この体を奪った。まあ信じなくても良いけどな」
そう言って肩を竦める。
「……じゃあもしかして肉体と中身の年齢が一致していないのね?」
「そうなるな」
「本当の歳はいくつなの?」
「二十二かな」
「私達とそんな変わらないね」
「そうか? 日本にいれば大学生と中学生で、大きな差だぞ」
「それは……確かにそうね」
話してるうちに中庭のベンチのとこに到着した。それに俺が座り、隣に座るように促す。
「それで話とは? 実は誘いに来た? 残念ながらぺったんこには興味は無い」
「なっ!?」
さっき大笑いされた意趣返しで嫌味ったらしく笑ってやると顔を見る見る赤くさせた。
「な訳無いでしょう!! と言うか、ぺったんことか言わないでよ!!」
「あ、ごめん。気にしてた? なんか女って大きさに拘るよな」
「煩いよ! 謝ろうと思って来たのに馬鹿らしくなったよ」
「は? 謝る?」
俺は目を丸くしてしまう。何かされたかな?
「謁見の後に絡んで来た二人よ」
「ああ……気にしていないし、そもそも沙耶は悪くないだろ」
「かもしれないけど、アークには悪い事したかなって思ったのよ」
「気にするな。それよりも、他の奴らがいる時は、あまり俺に近付くな」
「どうしてよ?」
「顔見知り何だろ? 大事にしろ」
「確かに、みんな亜玖阿中学の同級生だけどさ」
「ちょっと待て」
今、何中学って?
「今、亜玖阿中学って言ったか?」
「え? えぇ」
「ちなみに三年全員こっちに呼ばれたっぽいんだよな?」
「そうね」
「……そう言う事か」
俺が呼ばれた理由が分かり、頭を抱えてしまう。
「どうしたのよ?」
「……実は俺も亜玖阿中学三年に在籍してる」
「えっ!? 二十二歳なのよね? おかしくない?」
「俺が十七の時に違う世界のこの体を乗っ取る事になった。それまで二年引き篭もりをしていた」
「それが?」
「つまり中学は義務教育だ。たぶん退学させられていない。中学を卒業できずそのまま在籍してる筈だ」
「七年も? それに十七歳から異世界に行ったなら、行方不明扱いで直ぐに死亡扱いになるのでは?」
まあ正確には五年だろうな。時間遡行や時間逆行のお陰で、たぶん他の人より約二年多く異世界で過ごしている筈だ。細かい事だけど。
にしても、だから制服に見覚えがあったのか。俺も袖を通してた制服だしな。
「異世界って時間の流れが違うんだよ。だからまだ日本では俺は行方不明扱いのままなんだと思う」
「なるほどね。亜玖阿中学在学中の三年全てが勇者召喚に巻き込まれ、時間の流れと良く分からないけど、それでアークも呼ばれたって訳ね」
「そう言う事だ」
「ところで、話は変わるけど、帰れると思う?」
「………」
「やっぱ難しいよね?」
考えろ。呼び出されたって事は帰還出来る筈だ。俺も帰りたい。
ナターシャとエーコがいる場所に……。その為にはどうすれば良いのだ?
「<下位火炎魔法>」
下位火炎魔法を唱えて掌から炎を出す。
「え? 何? いきなり炎なんて出してどうしたのよ? あ! それがアークの能力? 蓮司君と一緒?」
「……違う」
「どう言う事よ?」
「これは元々のこの肉体の持ち主の能力。つまり、元々の肉体の持ち主が出来た事は全て出来る」
「そうなの? それで、何で炎を出したの?」
これは確かめる為だ。
「今、俺は炎の魔法を使った。と言う事は、俺が一つ前にいた世界と同じ法則がこの世界にも成り立ってると言う事だ?」
「意味が分からないよ」
沙耶が頭痛を堪えるかのようにおでこを抑える。
「最初の日本では、魔法なんてものは架空のもので使えなかっただろ?」
「そうね」
「だが、俺がこの肉体を乗っ取った星々の世界では魔法が使えた。つまり世界の法則で魔法が使えるようになっていた……ここまで良いか?」
「なんとなくだけどね」
「此処でも魔法が使えると言う事は、星々の世界と同じ世界、あるいは同じ法則がある世界と言う事だ」
「それで?」
「俺が使った魔法は精霊の力を借りて行使したものだ」
「精霊?……魔法だの精霊だの頭がついて行かないよ」
沙耶が更に頭を抱え出す。まあ無理もない。
「で、時の精霊と言うのが存在する筈だ。そいつとどうにかしてコンタクトを取れば帰還の可能性はある」
前に元の世界に帰しても良いって言われたしな。
「ほんと?」
沙耶の顔がパーっと明るくなった。
「問題はどうやってコンタクトを取るかだ。それをこれから考えてみるよ」
「そっか。直ぐには無理なのね」
一気に沙耶のテンションが落ちる。忙しい奴め。
「だが、まだ不可能って決まった訳ではない。俺も帰りたいし、色々考えるよ」
「分かったよ。アークお願いね」
「ああ」
話しは終わったので部屋に戻り、体を休めた。
沙耶も色々聞かされたから、整理する時間が欲しいだろう。俺もナターシャとエーコのとこへ帰る為に考えないとな。




