EP.14 強欲な蓮司
デビルス国に帰還後、更なる鍛錬を行った。竜閃の煌めき……奴が使った技。ムカつく程、格好良い。
だが同じ炎なら、自分にも似たような事ができる筈だ。
と言うか、そもそも勇者である、この俺が二度も敗北なんて許される筈がない。絶対潰してやる。
灰色髪の奴も、紅い長髪の奴も。
勇者でもない奴がチートな能力を持って良い筈がない。
いや、奴らも勇者なのかもしれないが関係ねぇ。俺こそが一番でなくてはならない。俺が負ける事なんて断じて認めてたまるか。ふざけるな!
絶対超えてやる。俺こそ最強だと知らしめてやる。チート能力を持って良いのは俺だけだ。
と、子供の癇癪を起こし瞳を陰らせ昼間は、鍛錬に励んだ。昼間だけって時点で舐めているのだが、瞳を曇らせている蓮司は、それで十分と思っていた。いや、正確には夜は快楽を優先した。
「いらっしゃいませ、レンジ様」
店の女が頭を下げる。
「俺を誰だと思っている? 勇者様だぞ。いらっしゃいとは何だ? 毎日此処に寝泊まりしてるのだから、お帰りなさいだろうが!」
「し、失礼しました。お帰りなさいませ、レンジ様」
「今日はお前で良いや。とりあえず床間に案内しろ。楽しませてやる」
「は、はい、分かりました」
「あん? 俺は勇者だぞ。何だその態度は? 嫌なのか?」
「いえ、そんな事は……」
「だったら勇者に抱かれる事を光栄に思え」
「はい、ありがとうございます」
この有様だ。憂さを晴らすように、その女を犯す。
「レンジ様、申し訳ございません。もう少し優しくお願い致します。その乱暴で、その……痛みが……」
「あん? 俺は勇者だぞ。乱暴でも抱かれてるんだから喜べや」
「失礼しました」
そうして終わらすと、そいつは動けなくなっていた。つかえねぇなと、内心辟易する。やりたい放題やっても蓮司は満たせられないでいた。
もしかしたらスクールカースト上位にいた弊害かもしれない。
こんな自由が出来ない場所で、リーダーシップを発揮できる環境なら、今までの経験が活きてたかもしれないと言うのに。
欲望を貪らせておけば人を上手く扱えると思っていた王家の落ち度だ。今までの環境を考慮出来ない無能とも言える。
「おい、メシだ。お前、宴会場に案内しろ」
気に食わなかったので、蓮司は別の女に声を掛けた。
「かしこまりました。しかし、その前にお召し物を……」
現在蓮司はパンツ一丁だ。
「どうせ後で脱ぐんだから、このままで良いだろ?」
「……ですが、他にお客様がいらっしゃいますので」
「俺は勇者様だぞ。この国では勇者様は尊いと思っていたんだがな。俺の勘違いだったか?」
「いえ、滅相もございません。では、ご案内します」
もはや遊郭で遊び場でなく完全に八つ当たりの場所になっていた。
しかも従順で最高だな。気に入らない奴は次々に首を切れる。この国じゃ、俺に逆らえる奴はいない。
どうせなら、あの二人をも倒して、この世界全部そうしても良いかもな。魔王とやらを倒せば出来るかもな。それに第二王女のクロセリスちゃんも思いのままだ。
と、もう黒い笑みしか見せなくなっていた。
十日、王宮に呼び出され、謁見の間でベルフェコール王と謁見した……。
「レンジ殿、ゴウキ殿、テン殿、タクヤ殿。この十日間の休日は如何でしたかな?」
「悪くねぇ」
王に問われ、蓮司が代表で答える。
「それは良かった。ところで残念な事に、これからも戦い続けても良いと気概がある者は、其方ら四人となってしまった」
「はっ! 軟弱だな」
「蓮司さんの言う通りだな」
「そうっすね」
「僕もそう思う」
「そこで四人には、南のインペルーク国に行って貰いたい」
そう言って王は兵に用意させた地図を見せて来た。
「何でまた?」
「うむ。勇者方にいきなり戦場に出て貰うのは時期尚早だったと痛感している。それはレンジ殿も同じ。最近は訓練に熱を入れているとか」
「まぁ確かに自分の能力を使いこなせていなかったかもな」
「そこでインペルーク国よりも更に南のロア学園に入学してもらいたのだ」
「学園?」
「左様。そこで戦闘訓練を行いゼフィラク国に備えて貰いたい。正直なところレンジ殿達も自分達だけでの訓練に限界を感じていたのではないか?」
「確かに……だが、それとインペルーク国とどう関係あるんだ?」
「ロア学園まで行くとなると、この国が邪魔をするからだ」
「なるほど。それを俺達に排除させ、勇者達全員でロア学園とやらに通い戦闘訓練を行えば良いんだな?」
「話が早くて助かる。それとな、非常に言い辛いのだが……」
ベルフェコール王が言い淀む。
「どうした?」
「クロセリスが攫われた」
「何? クロセリスちゃんが?」
あれは俺の女だぞ。と、もう既に自分のモノだと思っていた蓮司。
「攫ったのは、同じ勇者のアークだ」
――――オッサンが? 雑魚のくせに舐めた事を……。
沸々怒りを燃やす。
「情報によると彼奴はインペルーク国に向かったとか。可能なら救出を頼みたい」
「勿論だぜ」
――――俺の女だしな。
「港町ルークにいる可能性も否定できない。そこで城を陥とすのはテン殿、タクヤ殿。港町ルークを制圧するのはレンジ殿、ゴウキ殿という事で如何かな?」
「分かったぜ」
「承知した」
「了解っす」
「僕も頑張ります」
こうしてデビルス国はインペルーク国への侵攻が決定した。
「蓮司さん、今回俺一人に任せてくれませんか?」
港町ルークに向かう途中剛毅がこんな事を言い出した。
「はぁ!? 一人で平気なのかよ?」
「元々インペルーク国は軍事力に優れていないと聞きます。その国の港町くらい軽く制圧してみせますよ」
確かに軍事力の優れていない国の港町くらい軽く制圧出来ないようでは、話にならないかもな。と、考える蓮司。
何せ蓮司の標的は、灰色髪のゼフィラク兵と紅い長髪の男なのだから。
「分かった」
「ありがとうございます、蓮司さん」
「おい、聞いたか? 剛毅が一人でやるとさ。お前らは手を出すなよ?」
「はっ! 勇者様がやってくださるなら、有難いです」
デビルス兵も納得したので剛毅一人が暴れる事になった。
「気道拳!」
到着して早々剛毅の能力である拳二つ分くらいの大きさの気弾を兵の詰め所らしき場所に飛ばす。
「何だ何だ?」
「何が起きた?」
詰め所が破壊されて慌てて兵達が飛び出て来た。
「貴様らかー?」
いや、貴様らと言うか剛毅一人なのだが。
兵達が一斉に剣を抜き始める。そして、信号弾らしきものを上げた。恐らく仲間を呼んだのだろう。
「じゃあちょっと遊んで貰おうか」
槍を抜き構えた剛毅が前で出る。
「貴様一人がか?」
「そうだが?」
「俺達を馬鹿にしてるのか?」
「ああ、してるが? お前ら程度、俺一人で十分」
「ぬぅぅぅ! ここまでコケにしてくたのだ。相応の代償を払って貰おう。全員囲め!」
「「「「はっ!」」」」」
「させると思う? 気道列波」
槍から離した左手を前に突き出し気道拳を連続で放つ。
剛毅が鍛錬で身に付けたのは、連続で放つ気道拳だ。勿論他にもあるが。
「ぬわ!」
「クソ!」
「ぐは!」
剛毅の出した気道列波で次々に兵達が倒れる。
だが、中には避けながら進み剛毅と接敵した者もいた。
「覚悟ー!」
「遅い!」
ブスっ!
しかし、剣を振り上げ斬り掛かろうとしたとこを、先に剛毅の持つ槍に突き刺された。
お腹の辺りなので、暫くは死ぬような痛みは続くが死にはしないだろう。
剛毅も俺も日本生まれのせいで殺しを忌避している。
「ほらほら、もっと行くぞ。気道拳」
そうして最初に破壊した詰め所から出て来た兵達は全滅させる。
剛毅もやるようになったな。と、蓮司は感心して見ていた。
最初は、気道拳を飛ばし過ぎると体が動かなくなっていたのに、今じゃ連発してもケロっとしてる。
勇者は、鍛えれば鍛える程、簡単に伸びる。それが勇者……転移者の本質。
断じて身体能力向上の能力を得ている訳でも、ましてや腕輪の効果ではない。
「おい、何があった?」
「これはどう言う事だ?」
「皆、死んでるのか?」
ここで救援者が三人やって来た。さっきの信号弾で来たというとこだろう。
「先手必勝! 気道列波」
気道拳三連発。増援で来た三人を襲う。
「ぐはっ!」
「ぐふっ!」
あっさり二人撃沈。だが、一人は軽々と避けた。
「なかなかの闘気の使い手のようだな」
「闘気? 何言ってるんだこつは?」
蓮司がボソリ呟く。
「もっとぶち込むぜ! 気道列波」
今度は五連発。
その全てが避けた兵を狙う。
「ふん! はっ! とりゃー!」
全て手に持った剣で斬るインペルーク兵。
「今度はこちらから。斬空剣!」
そう言って横一文字に振るった剣から斬撃が飛ぶ。
「斬撃を飛ばせるのは灰色髪の奴と紅い長髪の奴だけじゃないようだな。いや、あの二人は炎属性が付いていたから、あっちのが上か。たぶんだが」
蓮司は一人勝手に納得しながら観戦する。
「気道列波」
気道拳三漣発。その全てを斬撃に当てる。
相殺しようとした。が、それらを斬り咲き剛毅に斬撃が吸い込まれる。
「くっ!」
それを槍を拾い防ぐが真っ二つに折れ、そのまま直撃してしまう。
「どうやらお前の闘気で、だいぶ相殺されたようだな。だが次は、その槍がなくて防げるかな?」
「上等だ! コノヤロー!!」
「あ、キレた」
蓮司が呟いた通り剛毅のキレた。
言葉が悪くなり、目付きがどぎつくなる。周囲から剛毅と言う名前から『殺意に目覚めた』とか揶揄されている。
剛毅は、槍がなくなり両手が空いた事で、両手の手根を合わせる。手根とは手首から少し指の方へ向かったとこにある部位だ。
そして指の方を開き敵兵に向ける。丸でかめ〇め波を撃つような構えだ。
「気道破弾っ!!」
そう言って発せられたのは通常の気道拳より四倍は大きい、そうだなバスケットボールくらいの大きさがある気弾が飛ばされる。
「くっ! 闘気の扱いがここまでとは……ぐはぁぁぁ!」
お腹に直撃し、敵兵が倒れる。
当然剣で斬ろうとしたが、逆に剣が折れてしまう。
「だから闘気って何だよ!!?? 意味分かんねぇ事言ってんじゃねぇぇよっ!!!」
そう叫んだ瞬間剛毅は片膝を付く。
「はぁはぁ……悪い。限界だ。あと頼む」
そうしてどっしりその場に座り込む。
まぁそれでも初期に比べれば数撃てるし、特大のも撃てるようになった。かなりの進歩だ。と、ウンウンと唸る蓮司。
実際初期は確か、気道拳を六発くらい撃つと動けなくなってた。
「ゴウキ様、十分です。邪魔な兵は一掃されました」
「確かに一掃されたね」
蓮司が皮肉を聞こえないように呟く。
剛毅が殺さないように倒したのを態々デビルス兵がトドメ刺して回っていた。
このデビルスの連中はこれだけが気に食わない。ゼフィラク国との戦いでも、横から現れてトドメだけは貰って行きやがって。だが、殺しを良しとしていなく、自分で手を汚せない俺が言って良いものではないだろう。
そう判断し、業腹だが蓮司は直接言わないでいた。だからと言って腹を立てない訳ではない。内心かなりイライラしていた。
自分達が弱らせトドメを刺すのではなく、勇者達が相手をして弱らせたのを、もしくは相手をしてる横からトドメを刺すとかすれば当然の話だろう。
「と言うわ訳で、兵のいない港町ルークを制圧するなど雑作もありません。あとは我々が」
そう言ってデビルス兵達が港町ルークを制圧した。
そして家を一軒一軒調べ……いや、正確には荒らていた。もう我が物顔で。
荒らしまくりクロセリスを探すが見つからない。船で移動したのではないかと思った蓮司は……、
「船で何処かへ行った可能性があるんじゃねぇ? 追い掛けるぞ」
「いえ、船で渡った先まで逃げおうせていたら姿を変えてる可能性があります。それだけの時間的猶予を与えてしまったという事ですから。それにもし渡った先を虱潰しに探すなら兵を大量投入しないといけません」
「すれば良いだろ?」
「船での旅は危険なのです。よって大量に乗せられません。それにクロセリス姫殿下ばかりに兵を割いてる余裕は、我々にはないのです」
「ちっ! そうかよ」
蓮司は舌打ちした。
――――俺の女だぞ。クソが! あのオッサン、俺の女を奪いやがって。次会ったらぶっ潰してやるからな。
その後、蓮司達は予定通りロア学園に入学し戦い方を学んで行く事になった。
基礎からってのも面倒だが、オッサン、灰色髪の奴と紅い長髪の奴を倒す為だと蓮司は自分を納得させる。
それと同時に基礎から学ばんでも瞬殺できる程、オッサンは雑魚だけどな。と、ほくそ笑むのだった……。