EP.13 傲慢な蓮司
デビルス国の要請によりカルラ城を目指す。
勇者い掛かれば楽勝だろうと。実戦も経験した事もないのにもう勝った気でいた。
ただ、行きが長い事にげんなりする。日本じゃ電車で一日も掛からなかっただろうが、この世界では馬車で半月も掛かってしまった。
そして到着したカルラ城でも準備を整える。
訓練用の木剣とかではなく、確りしたのは渡され、防具もないよりはマシって程度のレザーアーマーを渡された。
そして、いざ初陣と意気込んだは良いが、戦場まで徒歩で一日。それにもげんなりしてしまう。
戦場目前にして班分けをするのだが、蓮司はそれについて少々物申したくなっていた。
剛毅がいない。代わりにいたのはマークだ。
まぁいつものメンバーじゃないと勝てないのかって言われると癪なので、結局黙っていたのだが。
「オラオラ……どうした? どうした?」
「流石蓮司さんっす」
「僕も蓮司さんに負けてられないな」
「ユーは飛ばし過ぎではないか? 途中でバテないでくれよ」
そうして戦闘を開始してみれば、思った通り楽勝だぜと、笑みが浮かぶ。
殺すまでもなく、蓮司の能力である炎で燃やすだけで戦意を喪失しれくれる。そんな蓮司を見てマークは飛ばし過ぎるなと言う。
蓮司も転も拓哉もお前が言うなと心の底から思っているのだが。
マーク…マーク=マルティネスは、親が外人だけはあり金髪で目に掛からない程度にの長さで、そのまま垂らしている。
得た能力は魔法剣。
そして選んだ武器が大剣。その大剣を振り回してる方がよっぽどバテやすいだろと誰もが思っているが本人は気付いていない。
「ははは……ゼフィラク兵も大した事ないな」
「だな」
お前らデビルズ兵が大した事ないだろうが。と、一番腹を立ててるのはデビルス兵だったりもする。
蓮司が殺す程でもないと服を燃やす程度で戦意を喪失させている――日本人故に正確には殺す覚悟が出来ていない――のに、そいつにトドメを刺し殺していた。
胸に剣を突き立てると、そこから血が噴き出し血溜まりを作る。首を飛ばせば、絶望的な顔をした生首がこちらに飛んで来た。兵によっては、腕を飛ばし足を飛ばし無駄に苦しめる。
吐き気がする。と、蓮司達は顔をしかめる。自分達の手柄を奪い、残虐に殺して、これが戦争だってのかとうんざりしたが、腕輪で散々遊んだ身なので文句言わず、戦いを続ける。
「ふん!」
やがて血に見慣れたのか、拓哉の投擲が次々にゼフィラク兵の足を貫いて行く。
最初は戦場にビビり、手足をプルプル震わせ一切命中させていなくデビルス兵は、ガッカリしていたが今は違う。デビルス兵達は拓哉に一番期待し始めた。
蓮司は、マークにああ言われたが、ある程度温存している。しかし拓哉の能力は蓮司の炎と違い出せなくなると言うものではないのだから。
しかも遠距離から一方的に短剣を足に突き刺しデビルス兵としてこれ以上楽にゼフィラク兵を処理出来る事はないと内心ほくそ笑む。何せ足を潰せば逃げる事も出来ないし。
拓哉もナイフや短剣等の投擲武器が切れればデビルス兵が勝手に持って来てくれて恭しい渡して来るので、余計に調子に乗ってゼフィラク兵の足を貫いて行った。
「次はお前だ女。ははは……服を燃やしてやるよ」
蓮司が女性兵を見付け厭らしい笑みを浮かべる。
蓮司の炎は、どうやら意思次第で服だけを燃やせるようだ。温存する中で気付いた。服を燃やすだけなら消耗も少なく相手を辱め楽しめるとか思い始めていた。
最初は肉体にもそれなり火傷を負わせたが、慣れて来れば服に限定させる事も出来るようになった。
オタク連中に言わせればクッ殺って奴だなと蓮司が考えていると……、
「クッ殺っすね! クッ殺っす! 蓮司さん良いっすね」
転がはしゃぎ出していた。
「待て! 俺が相手になってやるよ」
しかし、燃やす前に灰色髪をした二十歳くらいの奴が邪魔に入った。
最初は勇者気取りかよと蓮司達は笑ってやったが、もしかしてこいつは本当に勇者なのか?
しかも蓮司と同じ炎を操る力と、マークの魔法剣の両方を使えるチート勇者か?
蓮司達の初陣は、こんなチート野郎に敗北したと、苦渋を舐めさせられる事になる。情けないが、蓮司達はカルラ城に引き返す事になる。
それから蓮司は、暫く戦闘に参加せずにカルラ城で訓練を行った。
灰色髪のゼフィラク兵は自分の炎よりも二回りも大きなのを出せたのだ。なら自分にもできる筈だ。と意気込む蓮司。
そんな俺に付き合い、剛毅、転、拓哉の取り巻き三人も戦闘に参加せず訓練を開始した。
ちなみにマークだけは、ビビって戦えないと言い出してデビルス国に帰った。まぁそれはマークだけではなく大半がその状態だ。何せ少し前までクラスメイトだった連中の何人かが、この初陣で死んでしまったのだから。
そもそもの話をしよう。
蓮司達は、灰色髪のゼフィラク兵アークに敗退したが、それ以外の連中を圧倒していた。殺さず制圧するのは、一般的に相手の力量の五倍は必要と言われている。
が、それを可能にした。それは何故か……。
転移者は身体能力も上がるからか?
能力アップすると言われ渡され嵌めた腕輪の力か?
両方否だ。
もしその理由、また転移者とはどう言うものなのかを根本的に知っていれれば、勇者の大半とデビルス王家の今後は変わったかもしれない。
身体能力が上がった勇者達は、腕輪の効果と思った者は、まだマシだが己の力を過信した。
デビルス王家は、勇者だから当たり前と考えを巡らせずに思考停止した。それがお互いの失敗だ。
―――――閑話休題。
そして一週間が過ぎた。
「どうだ?」
「流石っす。蓮司さんやるっすね」
「そういう転だって自らの体が埋まるくらい能力を使いこなせるようになったじゃねぇか」
「それほどでもないっす」
「今まで数撃てなかった俺も結構撃てるようになりました」
「剛毅のも特大になったよな。しかし剛毅の場合何故か体まで動けなくなるのは難点だな」
「そうですね。使い過ぎると何故か体が言う事を聞いてくれません」
「そして拓哉は八本もの短剣を同時で飛ばして全部命中させるとかやるじゃねぇか」
「ははは……なんとかできるようになりました」
「しかも、お前の場合体力次第で限度がない」
「まぁそうですね」
こうして蓮司達は強くなった。
たった一週間で、かなり能力がアップし、流石は勇者だと改めて実感する。
しかし戦場に戻ると、あの敗北を味わせてくれた灰色髪の男がいなかった。
リベンジしたかったと肩透かしを食らう。
戦場となってる場所は広い。数百、数千人規模がぶつかり合いなので、出くわさない事もあるだろう
それから数日間戦ったが結局現れず、代わりにもっとヤバいのを相手にする事になる……。
その日は転と組まされていた。勇者の人数も半分以下になったので、組む人数も減っていた。
「何だ? あのすかした野郎は?」
「そうっすね。髪は紅いし長髪っすね」
蓮司の言葉に転が同意する。
紅い髪で背中まである長髪。だというに縛りもせず、そのまま垂らしてる。邪魔にならないのかと言いたくなる風貌だ。
それに普通のゼフィラク兵と雰囲気が違う……と言うより恰好がだ。一般の兵は同じ鎧を着込んでいるが、この男は動き易さ重視なのか軽装の服だ。
それに恐ろしく強い。デビルス兵を次々斬って行ってる。中には勇者もいたが、あっさり斬られていた。
「なら不意打ちだ。我が炎に抱かれて死ねや」
相手が背を向けているのを良い事に蓮司は炎を飛ばす。ただ不意打ちなら、黙って攻撃しろとツッコミを入れたくなる所業だ。
声に出したからのか、はたまた他の要因なのか振り向きざまに斬られる。
「なにぃぃぃぃぃ?」
蓮司は目を剥く。
灰色髪のゼフィラク兵は同じ炎で相殺したり魔法剣らしきものを使っていたが、この男はそのまま斬りったからだ。
あの剣に秘密があるのか? と目を凝らし紅い長髪の男の剣を見る。血で染めたような紅い剣。
しかし、それより問題にしないといけない事があると気付く。それは……、
「あいつ後ろに目があるのかよ!?」
と、蓮司は叫んだが、それ以前に不意打ちになっていない不意打ちをしたのが問題なのだが、人間自分の事に気付かないものだ。
「げ! こっちに向かって来たっす」
転が慌て出す。
「はっ!」
蓮司が前に出て剣を振るう。
カーンっ! と、あっさり弾かれ飛ばしまう。
蓮司が目を瞬かせる。見えなかったのだ。
ただ紅い長髪の男は剣を振り切った構えをしてる事から剣を振ったのだろうという事は分かる、全く見えず剣が弾かれた。
まずい。返しの刃で斬られる。と、蓮司が焦る。
「オーラっす!」
が、転が空高く飛んでいた。
紅い長髪の男がそっちに気を取られる。
転の能力は筋力アップだと思っていたが、訓練した事で違うものだと判明した。その神髄は重力操作。
今は転が立つ地面を軽くし高く舞い上がったのだ。そして落下の際に地面の重力を上げて一気に落下。
ズッドーンっっ!!!!!
けたたましい音を立てて落ちて来たが紅い長髪の男に紙一重で躱されてしまう。
しかも転は地面に埋まってしまう。なんとも不完全な能力……いや、不完全な使い方だ。
ちなみに肉体も強化されているので、地面に落下した程度では大きなダメージにはならない。
「避けられたっす~」
転が情けない声を上げる。
しかも地面に埋まってるから直ぐに逃げられない。それは男も分かっているだろう。
紅い長髪の男は転に狙いを定める。
「特大の炎だ」
あまり使いたくないと思っていた特大の炎を蓮司が繰り出す。あの灰色髪ゼフィラク兵が使った炎と同じくらいか以上の大きさだ。
これは使い過ぎると炎が暫く全く出せなくなるので、蓮司としては使いたくなかった。
「フッ…」
紅い長髪の男が微笑を浮かべ紙一重で躱す。
さっきも紙一重だったが、もしかしたら無駄な動きをしないで、ギリギリで躱していたのかも?
だとしたら、思っていた以上に危険な相手だ。と、タラリと冷や汗を流す。
「我が炎よ、食らい尽くせ」
蓮司は追尾させる訓練も行った。
特大の炎は方向転換して紅い長髪の男に向かって行く。
しかも紅い長髪の男は避けたと思って、炎に目もくれていない。チャンスだ。と、内心ガッズボーズ。
が、紅い長髪の男はサイドステップを踏む。蓮司はそれを見てギリっと奥歯を噛む。
「<下位火炎魔法>」
紅い長髪の男が炎を出し剣に纏わり付かせる。
ファイと言えば、あの灰色髪のゼフィラク兵も使っていた。となると火炎斬とやらだと予想を付ける。
だが、火炎斬とやらでは、蓮司の特大の炎を相殺させる事は出来ないだろう。試していないが、それだけこの炎に蓮司は自信があった。
「<竜閃の煌めき>」
だと言うのに別物を繰り出して来た。
蓮司は硬直してしまう。火炎斬ではないのか? と。
紅い長髪の男の剣先から炎の竜が現れる。それが特大の炎を喰らい尽くす。
――――喰ったのは奴の方じゃねぇか! しかも竜かよ。 ムカ付くが格好良いじゃねぇか。
しかも、それだけじゃ終わらない。炎の竜はウネウネ動き、蓮司の方へ方向転換して来た。
「まずい!」
火炎斬なんかより遥かに強力だと悟る。なので蓮司は切り札を切る事にした。
「炎よ舞い上がれ!」
蓮司を中心に火炎流が舞い上がる。最も炎を出せる回数を少なくさせる技。暫く炎を出せないだろうとは思っていたが、出し渋っていては殺られると判断した。
だが、これは何者も寄せ付けない炎の盾と呼べるものだ。
「これなら……」
しかし俺の火炎流が喰われる。火炎流より火炎竜のが上手だった。
ちなみにギャグではないのだが。
「ぐわぁぁぁ!」
そして多少は相殺できただろうが、火炎竜に蓮司は呑まれてしまう。
「蓮司さん!」
いつの間にか地面から這い出た転が蓮司を抱え飛ぶ。
蓮司の立つ地面を軽くしたのだろう。そうして戦線を離脱。
「っちきっしょがあああああああああ!!!!!」
クソ! また負けた。灰色髪の奴にリベンジするどころか、もっとヤバイ奴に負けてしまった。いつも こいつも何故俺より強いんだ? 俺は勇者だぞ。ふざけんな! チートして良いのは俺だけだ。
中坊らしい幼稚な事を考えながら、転の腕の中で絶叫し続けた……。
戦線離脱後、カルラ城に戻り治療を行うと、指揮官らしき者が蓮司達に新たな指示を出す。
「勇者様方、デビルス国にお戻りください」
「それは俺達が負けたからか? 役立たずはいらないと?」
「そうではありません。勇者様方は自分に足りないものを考え、鍛錬し勇猛果敢に戦われました」
「じゃあ何でだよっ!?」
「蓮司さん落ち着くっす」
八つ当たり気味に言い返すが転に諫められてしまう。
「王のご指示です。レンジ様、ゴウキ様、テン様、タクヤ様は他の勇者様方より遥かに勇猛果敢に戦われていました。故に少し休暇を与えるとの事です」
「だが、俺達がいないとこの戦線はどうする?」
「どうにかします。それにレンジ様達の事です。必ずや更に鍛錬し、より強くなって戻って来られると信じております」
「……分かった。そこまで言うなら一度デビルス国に戻り、更に鍛錬し強くなってやる」
「ありがとうございます」
そうして俺達はデビルス国に戻る事になった。だが、馬車で半月の距離だ。帰るのも面倒過ぎるとは思っていたが。