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EP.11 リックロア国へ行くしいかない -side Arc-

「お疲れ様です」


 リハビリを終え病室に戻るとアリスが迎えてくれる。

 リハビリが開始できるようになった時点でアリスのお役目御免なのだが、それでも来てくれた。

 それが精神的な支えにもなり助かっている。

 やはりリハビリ等、苦痛でしかないし帰りを待ってくれる者がいると言うだけで有難みを感じていた。


「ただいま。アリス」


 ベッドの縁に座りながら応える。


「汗拭きますね」

「もうそう言うのは大丈夫と言ってるんだがな」

「私がやりたいだけです」

「いつもすまない」

「どうしたのですかアーク?」


 アリスが目を丸くする。

 最近は改まって礼等言わないからな。


「なぁアリス。俺は騎士団に入ってもう五年になるんだ」

「えぇ。存じています」


 この八ヵ月間色々話したしな。


「それでまとまった金も出来た事だし、そろそろ家を買おうかと思っているんだ」

「それは良いですね。良ければ物件探しをお手伝いしますよ」

「あー、それもなんだが……」

「……はい?」

「俺の買う家に来ないか?」

「えっ!?」


 俺の体を拭く手が止まる。

 そしてアリスの顔が徐々に赤くなり耳まで真っ赤になった。


「それって……」


 両手で頬を抑えながらモジモジし始める。

 こう言うとこが、まだ初々しくて良いなと思ってしまう。


「すまない。期待させて悪いのだが、そう言う意味ではない」

「では、どう言う意味ですか?」


 急に真顔になり、睨まれてしまう。

 期待させてしまったかな? いや、期待ってなんだよ?

 ただ俺の世話をしてくれているだけだろ。俺も勘違いするな。

 こう言う事を言うの初めてだし、緊張してしまう。それに落胆したくない。

 だから、期待せず冷静を装って慎重に言おう。


「知っての通りデビルズと戦争している」

「えぇ、そうですね」

「それでこう言う言い方をすると怒るかもしれないが、いつ死ぬか分からない」

「正直怒りたいですが……はい。そうですね」


 いや、目が怒ってるって怖い怖い。


「それでも家にアリスがいてくれると思えば次もきっちり帰って来たい、そう思えると思うんだ」

「それで家にいろと? 都合の良い女として?」


 更に目がきつくなる。もっと慎重に言わないと……。


「いや、そうじゃない。最初はそうだな……家政婦みたいなのでいてくれないか? リハビリが完了すれば命令を受け、ほとんど帰れなくなるが、今と同じように世話をしてくれないか?」

「……最初は?」


 アリスが訝しげに首を傾げる。


「えっと、だから戦争が終わったら一緒になってくれ!」


 冷静を装ってとか考えながら、最後は勢い任せに言ってしまった。

 しかも恥ずかし過ぎてアリスの顔を見れず目を閉じてしまう。

 それから数秒過ぎただろうか……。

 何分にも何十分に感じられる。長く感じる時間きつく目を閉じていた。


「……ちゅ!」


 触れるだけの口付け。

 あーそう言えばアリスからされたの初めてだな。

 そもそも決してそんなつもりはないが、都合の良い女にしてるような疚しさを感じて俺からも、あまりした事ないな。

 と、そんな場違いな感想を抱きつつ、暫く固まってしまう。


「……………………え?」

「…………………………………………今のが答えではダメですか?」


 耳まで真っ赤にし、そっぽ向かれる。

 その顔に触れ、此方に向かせ俺からも唇を奪う。


「ただ一つ約束してください」

「何だ?」

「絶対死なないでくださいね? 例え四肢がもげようが必ず帰って来てください」

「……怖い事言うなよ」


 怖っ! マジ怖っ!


「ふふふ……そうですね」


 アリスがフワリと微笑む。

 あー思えば最初に惹かれたのは、この顔なんだよな。

 アリスの笑顔は控えめに言って最高だ。


「アリスがいるって分かってるのに死ねるかよ」

「それともう一つ約束してください」

「え? 他にも怖い事を? お手柔らかにお願いします」

「いえ、次の命令が下る前に物件を見に行きましょう。アークが帰って来るまでに家を整えておきますね」


 そう言って笑い、俺の腕に絡みついて来る。

 今までの俺は失ってばかりだったが、今度こそ失いたくないと強く思ってしまう


 その後、リハビリを行い、剣術訓練を行い約三ヶ月続けたある日、新たな命が下った。


「リックロアに向かってくれ」


 騎士団長に呼び出されそう言われる。


「リックロア……ですか? カルラ城は宜しいのですか? 聞けば膠着状態が続いてるとか」

「ふむ。実はなリックロアで問題が起きてるかもしれないのだ」

「と、言いますと?」

「知っての通り、ロア学園に我が国の王子が入学しているのだが、連絡が取れなくなったのだ?」

「はい?」


 それはどう言う事だ?


「恐らくだが、関所で情報が止められている。従って場合によっては関所を突破しリックロアの様子を見て行って欲しいのだ」

「それは気になりますね……了解しました」

「では、出発は五日後だ。宜しく頼む」

「はっ!」


 右手を握り拳にし、左胸を二回打ち付けるゼフィラク騎士団の敬礼を行った。


 西にあるリックロア国。

 そこには大陸一の教育機関、ロア学園がある。

 それぞれの国でそれぞれの教育機関を作れば良いのではないか、と思う者もいるだろう。

 いや、正確にはあるにはあるのだがロア学園程、優れた教育を施せるようにしていない。

 何故一つの国に最大の教育機関を作ったのかと言えば、国と国の強く結び付ける為に嫁ぎ先を見繕う、いわゆる政略結婚の相手見つける場に持ってこいだった。


 他にも王族、貴族、平民が関係なく通える場所のなので立場による横暴さを出せば下は着いて来ない。

 よって王族は貴族と平民、貴族は平民と上手に付き合う事も学べると言う事もあり、大陸中から入学者が集まる。

 そう言った意味では、この国は中立なのだ。今までに戦争があったが、この国だけは関与しなかった。

 こう言った事情は学園の理念であり、それに反するから関与しないのだ。


 この学園にはゼフィラク国王子も通っており、王子は現在ロア学園寮に住んでいる。

 更に言えば戦争の為、中立の此処に逃がす為にカルラ国の王女もいる。

 カルラ国の王侯貴族、国民は基本的にはゼフィラク国に避難しているが、ゼフィラク国もいつ戦火に巻き込まれるか分からない。

 従って、王女だけでなく何人もの子供がロア学園入学した。

 そんなロア学園だが、ゼフィラク国の将来を担う王子が通っているのだ。

 また王は一人 の親としても心配であり、定期的に手紙のやり取りをしていたのだが、ある時を境に手紙が帰って来なくなった。

 気になり使者を向かわせようとしたが、関所で通せないと言われてしまう。


 このルシファー大陸は、中央に北から南に掛けて登山が難解な大きなルシファー山脈が走っている。

 最短でリックロアに向かうには、西に行き関所を越え、馬車で合計約二十日間を要する。

 しかし関所を越えられないとなると北から大きく回り込む必要がありその場合、馬車で二ヶ月以上掛かってします。

 問題はそれだけではない。北と言えばデビルス国がある。そう現在戦争をしているデビルス国だ。

 その国の前を堂々と通る等、蛮勇か愚者の行いと言って良いだろう。

 従って俺は、西へと最短でリックロア国に行くように命じられたのだ。

 メンバーは師匠と同僚が三人の合計五人だ。関所をどうしても通してくれないなら、強行突破をする事になる。

 とは言え、五人でそのままリックロア国に行くのは危険が伴う。

 今まで普通に通れた関所が通して貰えなくなったのだ、リックロア国で何かが起きている可能性ある。

 故に関所を突破したら、関所にそのまま逗留し、騎士団の面々が到着するのを待ち一気に攻め込むと言う手筈となった。


挿絵(By みてみん)


 そのリックロア国に向けて旅立つのは五日後。

 時間が余りない。なので、現在アリスと家の物件を探していた。


「此処、良いですね」


 アリスが家の外観を見てそう言う。

 その外観は美しい。何が美しいかと言えば新築に近いのだ。

 王都の外れで立地は悪いが、新築に近く、そして広い。部屋は5DK。

 実に悪くない。


「ああ、悪くない」

「此処にしませんか?」


 ちなみに此処で五件目だ。


「アリスが良いなら……ただ、本当にアリスが整えてくれるのか?」

「ふふふ……任せてください」


 腕まくりをしプニプニの腕を見せる。


「立地的に大変だろ?」

「お金も無駄には出来ませんからね」

「そうだな。じゃあ此処にするか」

「じゃあ決まりです」


 そう言って俺の腕に絡みついて来た。

 あれからアリスは前以上に笑うようになった。俺と一緒になる事を快く思っているのかもな。

 いや、俺がいつ戦死してもおかしくないので、不安に思っての行動かもしれない。

 いずれにしろちゃんと帰って来たいものだ。

 残りの日数は、剣の鍛錬以外はアリスと過ごす。今まで生きて来た中で最高のものだ。

 たった五日間だったが、俺にそう思わせる。


「いかんな」


 俺はかぶりを振り余計な考えを頭の奥に押し込める。


「どうしたました?」

「いや、何でもない」


 こんな日々はこれからも続くのだ。この五日間は、とか縁起でもねぇ。


「では、行って来る」

「はい。お帰りをお待ちしております」


 そっと抱きしめお互いの熱を感じると名残惜しいと思いつつも離れる。

 そして俺は、リックロア国に向けて旅立った……。

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