EP.10 アリス・シーンセス -side Arc-
ふと目が覚める。
ここはどこだろうか? くっ! 体中が痛くて動かない。
俺は確か同じ名のアークと言う奴と戦っていたら余計な横槍が入り、やられた筈。
と言うか俺は生きていたのか?
「お目覚めになられたのですね。二週間は目を覚まさなかったのですよ」
声が聞こえる。
体が動かず、そちらを向けない。
視線だけを動かし声の主を捉える。黄色が強い金髪で腰まである長さ。
見覚えがある。今回は首の後ろ辺りで結いでいた。
名前は確か……、
「覚えておいでですか? アーク様。アリス・シーンセスでございます」
そうそうアリスだ。
「何で君が?」
「いやですね。アーク様ですよ? お礼は体で払えと言ったのは」
何がおかしいのか口元を手で隠し笑いだす。
確かに言ったが……、
「それは、国の為に働いてくれって意味だぞ?」
そしてその収入の一部が税金となって俺の給料となる。
巡り巡って、それが礼になると言う意味だった。
「えぇ。でも、それではアーク様個人へのお礼にはなりませんよね? なので、今回アーク様のお世話への志願をしたのです」
「お世話って……俺は老人か」
「アーク様は、もう動けるのですか? それなら私はお払い箱ですが、直ぐに動ける傷ではないと思いますが?」
「うっ……確かにそうだな」
「ですからお世話させてください」
お世話って分かってるのか?
「あのさ。確かに俺は腕一本挙がらない状態だ。だが、そうなると尿の世話すると言う事だぞ?」
「……はい。経験はございませんが、誠心誠意させて頂きます」
顔を赤くしながらソワソワしそう言う。
まぁそこまで分かってるなら良いか。
「なら一つ条件がある。そのアーク様ってのを止めてくれ」
「騎士様?」
「余計止めい! 普通にアークと呼べんのか?」
「いえいえ、助けて頂いて身で呼び捨て等……」
「シーンセスだったな? 家名があるって事は貴族だろ? 平民にへりくだるな」
「確かに男爵の生まれですが没落してますので」
あ、そう。
没落したのか。まぁ貴族が夜一人 で出歩いてる訳ないか。
「まぁどっちにしろ呼び捨ても出来ない奴に世話されたくない。帰った帰った」
手が動けば、しっしっと手を振っていたとこだな。
「それでは助けて頂いたお礼ができません。分かりました。では、アークと呼ばせて頂きます」
「ついでにもっと言葉崩して良いぞ」
「はい。努力します」
まぁ貴族育ちだ。
簡単に言葉遣いを変えられないか。
「で、此処は何処だ?」
「ゼフィラク国王都の騎士様専用病棟です。アークは、運良く味方に助けられ、此処まで運ばれて来たのです」
「そうか」
北の砦で治療で一日、そこから怪我人なので慎重で運んだだろうし五日。
そして、この王都で八日間眠っていたのか。まぁ単純に日数計算しただけだから、正確な日数は分からないが。
「では、私はアークが目覚めたとお医者様に報告しに行きますね」
そう言ってアリスは部屋を出て行った。
さて、これからどうしようかね。現状全く体が動かない。
再起不能だったら話にならないが、動くようになるとしたら半年かそれ以上だろう。
そこから一、二ヶ月はリハビリだろうな。騎士団復帰は当分先だな。そう考えると気が滅入る。
それから毎日アリスは世話を焼いてくれた。
体を吹き、包帯を巻き直し、掃除を行い、そして恥ずかしいが尿の世話までしてくれた。
「アークは何故騎士団に入られたのですか?」
何よりこうして話し相手になってくれている事が一番世話になっている。
その間だけ気が滅入る事を考えずに済んでいた。
「そうだな……アリスみたいな娘を作らない為、かな?」
うわ! 俺も何を歯の浮く事を言ってるのだ?
確かにそれも理由の一つになったが、最初は復讐だっただろ。
だけど、バカ正直に復讐と言うと気分を害す気がした。
せっかく世話をしてくれているのに、こんな復讐をしたがって奴の世話していたのか、と。
「まーお上手ですね」
「いやいや。事実君が捕まった時にデビルスが許せないと思ったよ」
「まぁそう言う事にしておきますよ」
「そう言えばあの時にいた女達はどうなったか知ってるか? 精神を壊されていてもおかしくない状態だったけど」
「大丈夫ですよ。あれから少しずつですが心を取り戻して来ています」
「それは良かった」
「む~。先程アリスみたいな娘を作らない為、とか言いながら他の女性の話ですか?」
アリスが頬を膨らます。
おいおい。まぁそう言う事にしておきますよ、とかあっさり流していただろ。
「……やっぱり卑猥な意味での体で礼をして貰おうか?」
「……ごめんなさい。冗談です」
どんよりした空気にさせてしまった。
襲われそうになったのだ。それを思い出したのだろう。
もう少し言葉を選ぶべきだったかな。
「悪い。俺も冗談だ。だがなアリスだけの為に騎士団に入った訳じゃないんだぞ」
「分かってますよ。ふふふ……本当に冗談ですから、真剣に考えないでください」
そう言ってふわりと笑う。
やれやれ。どこまで言って良いのか分からんな。
そうして一ヵ月が経つ。
いつものように尿の世話をして貰っていた。
ただなぁ……、
「………」
アリスが固まってるよ。それはそうだろ。勃ってしまってるのだから。
リースが亡くなり処理してくれる人もいない。
それなのにアリスが、それを掴み尿の処理をしてくれているのだから。
女に掴まれるだけで、いきり勃つものだし、今まで我慢してた自分を褒めたいくらいだ。
「……悪い。今日からもう世話しなくて良いから」
「それはどう言う意味ですか?」
「あんな事があっただろ? それなのにそんなの見たくないだろ? 本当は今まで尿の世話もしたくなかっただろうに悪かったな」
犯されそうになったのだ。本当は嫌だっただろうに。
「どうすれば良いですか?」
「は?」
「ですから、私はその経験がなくて……どうすれば良いのですか?」
まくし立てるように言う。
耳まで真っ赤だ。
「いや無理に……」
「無理じゃありません!」
遮るように言われた。
しかもアリスが喋る度に強く握られ、それだけで我慢できなくなる。
「あのさ、こう言うのって一度されるとまたして欲しいって思うようになるんだよ?」
「えっと……たまになら良いですよ」
「いや毎日して欲しくなるし、それ以上も」
「毎日……それ以上?」
ややあってうんと決心を固めた表情で此方を見て来る。
「構いません。どうすれば良いか教えてください」
マジで言ってるの?
分からん。襲われたんだぞ? 怖くないのかよ。
でも、俺もアリスが喋る度にニギニギされて我慢の限界。
理性が飛んでしまたった。
それから手による処理のお世話もしてくれるようになった……。
重症を負い八ヵ月が過ぎてやっと医者よりリハビリの許可が下りた。
寝たきりだったので、歩くのも辛く最初は苦労した。ただ体力だけはあり、負荷の掛かるリハビリも行えたのは幸いだ。
それも一重にアリスのお陰と言える。
流石に手だけで処理して貰うだけでは我慢できず遂に手を出してしまう。
襲われそうになったと言う事もあり、トラウマを刺激するだろうと自重していたのだが半年も過ぎると無理だった。
それでもアリスは受け入れてくれてお陰で体力だけはついたと言う訳だ。