EP.09 もう一人のアーク -side Arc-
俺が北の砦に戻って来るとカルラ城奪還の作戦が開始しようとしていた。
それまでは小競り合いが続いていたが、次こそは取り返すらしい。
その丁度良いタイミングで俺が帰った来たのだ。
作戦としては単純で陽動部隊が派手に暴れている間に少数精鋭でカルラ城に乗り込むらしい。
俺は陽動部隊の方へ配属される。そして作戦を聞いた翌日、俺は陽動部隊として出撃した。
そこで再び奴と出会ってしまった。師匠と同じ威圧感を感じ、俺と同じ灰色髪の男に……。
俺は真っ先にそいつに飛び掛かった。恐らくこいつは強い。だから俺が抑える。
その間にカルラ城を奪還してくれよ……。
「よー。また会ったな」
最初の一合の剣を合わせて語り掛けた。
「沙耶をやった奴か」
仲間が殺られたと言うのに淡々と言いやがる。まるでつまらなそうに……。
感情抑制の訓練でもしているのだろうか?
まぁどっちにしろやる事は同じ。二撃目を繰り出す為に剣を引き……一閃!
「おっと」
俺の横一文字……とは言え曲線を描いているので真っ直ぐと言う訳ではない。
それをギリギリ防いできた。剣の腕はさほどでもないようだな。
なら、連続で繰り出すだけ。
師匠のように全て曲線をで繰り出す事はできなくても、スピードで早々遅れを取られる事はない。
上段から繰り出す三撃目……。
スっ!
半歩下がられギリギリのとこで躱された。俺は踏み込みつつ返しの刃で下段から攻撃。
今度は左に半歩移動し躱される。こいつ速い。
剣の腕は大した事ないが足捌きが尋常じゃない。恐らくまだ全力じゃない。
なら……、
「<下位火炎魔法>」
下位火炎魔法で剣を燃やす。
相手が驚きに目を見開く。
仮に躱されたとしても火花が飛び、多少のダメージが通るだろう……。
恐らくそれを相手も感じ取ったのだろう。
「<下位氷結魔法>」
何っ!?
相手の剣が氷を纏う。
フリージングとは何か知らないが、恐らく下位氷結魔法と同等の魔法だろう……。
こいつも魔法剣が使えるのか。それでこいつ驚いたのか。
俺と同じように、こいつも魔法剣を使えるのか、と。
「はっ!」
剣を打ち合う。
ジュ~。
炎と氷がぶつかり水蒸気が少し上がる。俺はバックステップを踏み、様子を伺う。
良い足が持ってるし突っ込んで来るか?
え? 来ない? 氷を纏った剣を構えているだけだ。
何故だ? 足の速さで翻弄して来ないのか?
何かを狙っているのか?
「俺はアーク。お前の名前を聞かせてくれ」
俺が名を聞くと、奴が驚き目を見開き、一瞬ポカーンとし出す。
「な、に?」
「どうした?」
「いや、俺もアークだ」
そうか。
こいつもアークと言うのか。それは驚くな。俺も驚いていた。
俺ともう一人 のアークが、少し離れて睨み合う。いや、睨んでるのは俺だけか。
奴は、つまらなそうにしていた。それがまた癪に障る。
そして、お互いに魔法剣を展開していた。奴は氷、俺は炎だ。
さて魔法剣による斬撃は通じるか?
「<火炎斬っ!>」
「<フリージング・ファング!>」
奴も魔法剣の斬撃を飛ばしやがった。
薄気味悪い。俺もこいつも灰色髪。剣と足の違いはあるがお互いスピード主体。
名前も同じ。そして、極めつけは、お互い魔法剣を使う。同じ過ぎる。
ジュ~~~~~~~っ!
やがて炎の斬撃と氷の斬撃がぶつかり、辺りに霧が立ち込める。
俺は一気に距離を詰める。霧が張っていようが気配で分かるからな。
「はぁぁぁ!」
上段からの一閃。完璧に決まった。
そう確信した一撃だったのに手応えがない。
それどころか気配が消えた。どこに行った? 後ろか?
気配が後ろに感じたと思った時点で遅かった……。
「ぐはっ!」
後ろに気配が行ったと感じた瞬間には背中を蹴られていたのだ。
俺は前に吹き飛び転ぶが、直ぐに立ち上がり振り返る。
何故追撃しなかった? こいつは何故先程から隙を突かない?
「一つ聞きたいんだが良いか?」
「何だ?」
もう一人 のアークに問われる。
俺は油断無く剣を構えながら応えた。
「さっき下位火炎魔法を使ったが、あれはユグドラシル大陸の魔法じゃないのか?」
こいつユグドラシル大陸を知っている?
「ああ。師匠がユグドラシル大陸出身なんでね」
「……そうか。では、ここも星々の世界なんだな」
星々の世界とは何だ?
「何の話だ?」
「いや、気にしなくて良い。此処が何処かなのか知りたかっただけだ」
どこってルシファー大陸なんだが、何を言ってるのだ?
まぁ良い。俺は余計な事を考えないようにかぶりを振る。
「俺からも聞いて良いか?」
「何だ?」
「さっき後ろに回った時に蹴りをしたが、何故斬らなかった? それで終いだったろ?」
「あ~……なんと言うか、やる気ないから?」
そう言って首を傾げる。
なん……だと?
「ふざけるな! 戦争だぞ。やる気がないとはどう言う事だ? デビルスは好き勝手やってるくせに一体何なんだ?」
つい激高してしまった。
「って、言われてもな……俺は勇者召喚とか意味の分からないもので呼び出されて、どう対応すれば良いのか分からないんだよ」
俺が激高したのに気にした風もなくサラリと答える。
勇者召喚? こいつも勇者?
だが、それにしては初めて会った時から師匠並みの威圧感を感じた。
勇者は初期は大した事ない筈なのに……。
「何にしろデビルスは全て敵だ。お前も殺す」
そう言って突っ込んだ。次々に剣戟を繰り出す。
しかし、その全てを躱される。
何なんだ? こいつは?
俺を往なす態度が気に入らねぇ。
「このぉぉぉーー!」
「俺はデビルス国の所属になるんだろうが……召喚されてから誰一人殺してないぞ?」
「知るかーーっ!」
ついカッカしてしまい、俺は気付かなかった。デビルス兵が囲んで来ている事に……。
そして、一斉に斬り掛かられた。当然捌ききれず。
斬られまくってしまう。
「うわ! やり方がえぐいなぁ」
最後にもう一人 のアークの声を聞きながら意識をなくしてしまった……。