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EP.07 激しい憤りしか感じない -side Arc-

 同僚の何人かは倒れており、亡くなってしまっていた。

 顔を知っている程度の奴らだが俺は黙祷(もくとう)を捧げた。

 しかし、長い時間そうもしていられない。次のデビルス兵を相手をしないとな。

 そこでふと不安が過った。あいつは無事か?

 ここに倒れている同僚を見ていたらリースが気になった。

 不穏な事を言ってたし。少し様子を見に行くか。確かあっちの方にいる班だったな。

 そう思い俺は駆け出した……。


「なっ!」


 リースは血の海に倒れていた。

 その傍にグレイブのような武器を持つ肩の下まである髪を後ろで束ねている女が、蒼白な顔で歯をカチカチさせながら立ち竦していた。

 殺してしまった事への罪悪感か?

 そんなものは関係ない。リースを殺った落とし前を付けてやる。ボー立ちなのは都合が良い。サクっと蹴りを付けてやるよ。


 プッシューンっ!


 袈裟斬りで左肩から腹まで一気に斬ってやった。

 その後、リースを見る。奇跡的に生きているかもしれないし。

 だが、そんな願いも空しく息を引き取っていた。

 またなのかよ。俺は、俺は、俺は……。

 故郷を、幼馴染を、友を、互いに慰め合う者を……。

 次々に俺から大切なものを奪っていきやがる。

 リースの瞼にそっと手をそえて目を瞑らせる。


「うあぁぁぁぁぁ……ッッ!!!!!!!!」


 そしてまたしても絶叫してしまった。

 クソ! クソ! クソ! 何でなんだよ!!!!

 どうしてみんな死んで行くんだよ。


「沙耶? クソ! 沙耶をやりやがって」

「あん?」


 俺と同じ灰色髪の奴が、物凄い殺気を飛ばして来る。

 何だ? こいつは? 相対しただけで分かった。こいつは格が違う。

 師匠と同じような威圧感を感じる。ヤバイ。俺の中で警報がなる。

 そしてそいつは真っ直ぐ俺に突っ込んで来た。

 速い。一瞬で間合いを詰められた。


 ギーンっ!


 奴の持つ剣をなんとか防いだ。ギリギリだった。

 しかも重い。これは骨が折れそうだ。だが、やるしかない。

 そう己を奮い立たせが…、


「撤退だーっ!」


 何? 撤退……だと?

 クソ! 上層部の指示だ。従わないとな。


「お前の顔、覚えたからな!!」


 そう捨て台詞を吐き、俺はその場から離れた。

 どうやら今回の戦いは劣勢だったようだ。

 勇者達を肉壁にし、デビルス兵が此方を叩き三割の損害が出ていた……。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 俺の剣があっさり弾かれ、首元に剣先を当てられた。首にスーっと生暖かいものが流れる。

 その真横で俺が手放してしまった剣がボスっと音を立てて地面に刺さった。


「……話にならない」


 静かに、それでいて底冷えするような声音でそう言われる。

 勇者達のとの戦いの翌朝、師匠に呼ばれ鍛錬を行っていたのだが……。

 いや、鍛錬にすらなってない。一合打ち合うどころか初撃で剣を弾かれてしまったのだから。


「申し訳ございません、ゼフィロスさん。もう一本お願いします」


 しかし、師匠は剣を鞘に納め踵を返す。


「心ここに非ずで、鍛錬になるか」


 そう言って去って行ってしまった。

 心ここに非ずか。そうかもな。

 俺の中で激しい憤りを感じる。

 故郷を、幼馴染を、友を、互いに慰め合う者を失い。俺だけがみっともなく生き恥を晒している。


「ははは……」


 乾いた笑みが木霊する。自嘲気味の笑いが零れた。

 もっと強くならなきゃと思うのに何故自分は生きてるんだと責めてしまう。

 相反する気持ちが剣にも出てしまってる。このままでは故郷を取り返せず、何も成せず果ててしまうな。


 その後、北の砦とカルラ城との間で小競り合いが続く。勇者達とも度々遭遇するが、仕留めきれない。

 剣を上手く扱えない。倒さなきゃと焦るばかりで戦果がまったく挙げられなくなっていった。

 師匠もあれから、稽古を付けてくれない。俺が役に立たなくなり見限られたのだろう。


 あれから四日経ち司令室に呼ばれた。


「休暇をやる」


 司令官に開口一番に言われたのは、この言葉だ。


「は? え?」


 頭が付いて来ない。休暇? 何故?

 いや、分かっている。役立たずはいらないと見限られたのだ。


「王都に戻り、ゆっくり休め」

「……つまり、もう戻って来るなと言う訳ですね」


 自嘲気味に笑ってしまう。


「そうではない」

「え?」

「ゆっくり休んだら、戻って来い。最近戦い詰めで張り詰めていたのだろう。そこまで気を回せなかった俺のミスだ」

「いえ……私がもっとお役に立てれば良かったのです。申し訳ございません」

「そう自分を責めるな。メーストルもリースもお前が悪い訳ではない」

「……はい」


 二人を思うと余計項垂れしまう。


「そう言う訳で、英気を養った後、また戻って来て戦果を挙げる事を期待する」

「はっ!」


 右手を拳にし左胸を二回打ち付ける。ゼフィラク騎士団の敬礼だ。


「下がって宜しい」

「はっ!」


 そう言って俺は司令官が出て、帰路の準備をしゼフィラク国に向かった……。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「また俺は俺は……俺は失ってばかりだ」

「またその話か? 気持ちは分からんでもないが、戦争やってるんだ、切り替えて行こうぜ」

「分かってるよ。分かってるけど……今回外されちまったんだよ」


 俺は今、絶賛飲んだくれ中。

 同期の同僚で友でもあるカインを酒場に付き合わせている。紫髪で耳が隠れるくらいの長さだ。

 カインは、このゼフィラク国の守護を任されており北の砦、及びカルラ城奪還の作戦には参加していない。


「少し休めと言われただけだろ? さっさと切り替えて戦線に復帰すれば良いだろ?」


 カインが肩を竦める。


「なぁカイン?」

「何だ?」

「お前もいなくなったりしないよな?」


 どんどん取り残されるのも最悪だ。

 同期で友になったのは何人かいたが残ったのは、このカインだけ。


「俺はこの王都の守護だぜ? 俺が死ぬ時は前線に出た連中が死んだ時だ。つまり、この王都が戦場になるかどうかはお前に掛かってるんだ。アーク」

「だが、俺は失ってばかりだ」

「それ何度目だ? もう飲み過ぎなんだよ。そろそろお暇しようぜ」

「そうだな……明日も付き合え」

「はいはい。だが、さっさと戦線に復帰しろよ?」

「ああ」

「じゃあ行くべ……マスター会計を頼む」


 そうして俺達は深夜の町を騎士団の宿舎に向かって歩き出す。

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